夜間・祝日の救急外来を受診して不満を感じた方へ

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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ここ最近喉が痛いし、風邪ひいたかなぁ…ということで仕事終わりに、夜間の救急外来を受診する人も多いのではないでしょうか?

夜間の救急というと、イメージが悪い方もいるかと思います。すごい待たされた、対応も冷たい、薬も数日しかもらえない…そんな不満を感じた方も多いはず。

どうしてそのように感じるのかというと、普通に日中に受診した時と同じ医療を求めてしまうからです。救急とは、「急いで救う」と書いて救急です。つまり病気を治すことに重きを置くのではなく、急いで救うほどの重症かどうかを見分けることに注意が向けられるのが救急外来なのです。

救急外来に軽症の患者さんがあふれてしまうと、重症の患者さんの治療がおくれてしまうこともあります。ここでは、救急外来を受診する時についてのアドバイスができたらと思います。

 

1.どうして救急外来で待たされてしまうのか

救急医療は、1次・2次・3次に分かれます。患者さん自ら受診するのは、1次救急か2次救急になります。2次救急の病院では、重症患者さんを優先させます。

夜間や祝日の救急業務は、実は1次・2次・3次と状態に応じて3段階に分かれています。

  • 1次救急:軽症患者(帰宅可能患者)に対する救急医療です。
  • 2次救急:中等症患者(一般病棟入院患者)に対する救急医療です。
  • 3次救急:重症患者(集中治療室入院患者)に対する救急医療です。

具体的にそれぞれどこの救急が対応するかというと、

  • 1次救急:休日夜間急患センター、その日の在宅当番になっている当番病院・診療所が対応します。
  • 2次救急:入院設備の整った病院が対応します。
  • 3次救急:救命センターといった救急科の設備が整った病院が対応します。

3次救急は、救急車が要請されて受け入れられる病院です。そのため多くの人は軽症の場合は1次救急か2次救急かを選択するのです。この時に1次救急で十分な患者さんが2次救急の病院に行くと、かなり待たされてしまいます。

中等症とはいえ入院するということは、いつ重症に移行するか分かりません。二次救急といえども、重症な例も多々あります。そのため症状が重い人を優先してみていくため、症状が軽い人はどうしても後回しになってしまうのが現状です。救急車がきてしまえば、外来患者さんよりも優先して対応しなくてはいけません。その合間をぬって、救急外来診察をしていきます。

 

2.救急業務をしてる医師ってどんな医師?

多くはその病院で交代で勤務することが多いです。

病院によって実情は様々ですが、内科系であれば内科、外科系であれば外科の医師がそれぞれ順番に回していきます。夜の救急担当をすることを当直といいますが、人が少ない場合は当直をバイト医師に任せる病院が多いです。

内科といっても実はかなり細分化されています。

  • 消化器内科
  • 循環器内科
  • 内分泌糖尿病内科
  • 腎臓内科
  • 呼吸器内科
  • 血液内科
  • 神経内科
  • リウマチ内科

の8科をまとめて内科と呼びます。つまり当直している先生も、得意分野もあれば苦手分野もあるのです。具体的にそれぞれの科がどういった疾患をみているかは「内科の種類にはどんなものがあるのか」をお読みください。

また、一緒に研修医が当直することが多いです。研修医とは新米の医師です。詳しくは「臨床研修制度と新内科専門医制度を踏まえて、内科医はどう経験を積んでいくのか」をお読みください。

昼間は医師の数も多いので研修医の出番も少ないですが、当直になると人手も少なくなることから、ここを臨床のトレーニングの場として勉強していきます。研修医だから駄目だということは決してありません。確かに臨床経験は少ないですが、知識が豊富でしっかり勉強している研修医の先生もたくさんいます。

さらに研修医をバックアップするように厚生労働省から通達が来ているので、基本的に研修医の判断だけで診断や治療をすることはないです。研修医の考えを指導医が聞いて指示を出しています。研修医だから駄目だということは決してないので、安心して受診してください。

当直している医師は、多くが連続勤務になります。つまり昼に普通に働き、夜当直したら昼にまた働くのです。つまり24時間勤務どころか、下手をすると40時間くらい連続勤務になります。労働基準法もびっくりの状態で働くのです。このため夜間救急では時間を盗んでは寝るような形になります。

医師にはよく体力が必要と言われるのは、この当直を乗り切るためです。睡魔に打ち勝つ忍耐力が必要になります。

 

3.救急外来での医師がすべきこととは?

基本的には、緊急に治療をしなければならない疾患かどうかの診断に重きをおきます。

医療のカルテの記載の基本はSOAPと、医者になった最初に教わります。

SOAPとは以下の事を示します

  • S(Subject):主観的データです。主に患者さんからのお話の内容です。
  • O(Object):客観的データです。身体診察や・様々検査から得られた情報です。
  • A(Assessment):SとOの情報を元にした評価です。つまり診断になります。
  • P(Plan):Aを元にした計画です。つまり治療方針ということになります。

これを基本にカルテは記載されますし、医者の頭の中で考えていくことも、基本はAとPを決めるためにSとOを充実させていくことになります。

あなたがお話している時に医者が一生懸命キーボードを打っていたり、カルテを書いていたりしているのは、実はSの部分をカルテに残すためです。Sから考えられる疾患からOとしてどのような検査をするか考えていくのです。

そしてAの診断になるのですがこの時は「S/0」と「R/O」を使い分けて診断します。

  • S/O(Suspect Of):○○の病気を疑います。
  • R/O(rule out):○○の病気を除外します。

つまりSやOの情報からいくつかの病気が疑われた時にはS/Oとなり、その中で早急に治療しなければならない病気をR/Oとして示します。

実はこの救急科の仕事は、緊急に治療しなければならない疾患をR/Oする場所です。つまり見逃してはならない病気かどうかを診断するための場所であり、それ以外は基本的には日中の業務でS/Oを突き詰めていくことになります。

そのため検査も、R/Oするように最小限の検査しかできないようになっています。「日中は○○の検査ができたのにどうしてしてくれないんだ」と怒る人もいますが、R/Oするために不要な検査は夜間・休日は行いません。

 

4.救急外来では十分に治療してくれないはなぜか

症状を抑えすぎてしまうと、病状の変化を見逃してしまうことがあります。すぐに治らないならば、日中に専門の先生にみていただきたので治療は最低限になります。

治療に関しても、救急外来では最低限の対応となりがちです。患者さんとしては、症状もできるだけ楽にしてほしいし、一回で終わりにしたいと思うでしょう。しかしながら医師からすると、あまり強力なお薬も使いたくないのが現状です。すぐに治らないような症状なら、日中に専門の先生にみていただきたいのです。

例えば痛み止めなども、あまり強いものは使いたくありません。痛みというのは実は非常に大切な警報機です。あまり強力な痛み止めを使ってしまうと、警報を聞き逃す恐れがあります。そのため、夜間で使用する痛み止めはマイルドなものから入ることが多いです。

もしも痛みに変化が認められたら、本当は怖い病気が隠れているかもしれないと疑うきっかけになります。実は医療の見過ごしで多いのは、心筋梗塞とクモ膜下出血です。

心筋梗塞なんて絶対除外して欲しい疾患ですよね?しかし現場では、採血・心電図・胸部レントゲンで異常がなければ疑うことは難しいです。(循環器の先生だと心エコーがあてられるかもしれませんが、超音波検査は実はかなり難しい手技です。全ての内科医師ができるものではありません。)

こんな時に強力な痛み止めを使ってしまうと、心筋梗塞の発見が遅れてしまう可能性があります。こういった場合は、経過観察して症状の変化をみていき、強くなるか弱まるかを確認するのが一般的です。痛みが強くなってきたら改めて同じ検査をすると、採血や心電図で心筋梗塞の所見が出てくることもあります。

このように胸痛だと、心筋梗塞や狭心症などの循環器疾患の恐れがあります。循環器疾患では急変することもあるので、このように慎重に経過を見ていくことが多いです。

それ以外の疾患だと、とりあえず翌日にとなることが多いです。これらの疾患でも、よくならなければ日中の専門の先生にしっかりみていただきたいので、救急外来では最低限の治療になるのです。

 

5.夜間に病院を受診したくなったらどうしたら良いの?

夜間救急とは一般的に、17時~8時30分を指します。それぞれの時間帯で考えていきましょう。

 

5-1.17時から21時に病院を受診する場合

5時だったらまだ病院もやっているだろうと思って受診してみると、救急外来だったという患者さんをよく見受けます。そのような患者さんでも、基本的に特別扱いはしないように病院はします。

「もともとかかりつけの患者さんで、たまたま先生がいた」などという特殊事情を除けば、基本的には当直時間帯は当直医がまず診ます。そして同時に、17時から18時は病棟業務などが残ってる医師が多いため、軽症の場合はほぼ時間は割くことができません。いつ重症患者が飛び込んでくるかわからない、もしくは日中に引き継いだ患者さんが重症だったなんてこともよくあります。

この時間では、空いてるクリニックを探して受診するのが一番です。現在は夜でも診察している病院もあります。クリニックによっては21時までと、遅い時間までやっているところもあります。クリニックであれば必要なだけお薬も処方してくれますし、重症の患者さんで何時間待たされるといったストレスも少ないと思います。

こういったクリニックで重症と判断されれば、2次救急の病院へ紹介状を書いていただけます。この紹介状を持っていくと、2次救急の病院の対応はかなり変わります。

 

5-2.21時から0時に病院を受診する場合

この時間で診察をしているクリニックはほとんどないでしょう。この時間では、病院にかかるとしたら救急外来になります。

救急外来にかかるべきかで悩んだときに大切なことは、急激に発症したかどうかです。強い症状に急激に襲われた場合は、すぐに受診した方がよいです。我慢したあげくに深夜に受診するのでしたら、この時間帯に受診していただいた方が医師側にも余裕があります。

ときに日中時間が取れなくて受診される方もいらっしゃいますが、救急外来はコンビニではありません。「急いで救う」=救急に本当に受診すべき状況かを考えてください。日本の救急医療は、ギリギリでまわっているのです。

 

5-3.0時から6時半まで

この時間から受診するということは、たいていの人は寝てるときに何か症状が生じて我慢できなくなって受診というケースでしょう。

この時間の場合は平日ですと、基本的な検査を出したら、日勤の外来に回すパターンもあり得ます。そのため翌日の予定はキャンセルするつもりで受診する心構えが必要です。

この時間になってくると、患者さんの途切れた合間をぬって睡眠をとっています。この時間に不必要に起こされると、正直に申し上げてしんどいです。患者さんは軽症か重症化の判断ができないから病院に受診していると思いますが、あまりにも軽症だと門前払いされることもあります。

どうしても医師としても、頭で理解できていても感情的になってしまいます。あるべきことではありませんが、対応も雑になることもあります。患者さんにとってもよいことはないので、この時間帯は本当に受診する状況なのか、考えて受診していただいた方がよいです。

 

5-4.6時半から8時半まで

待てそうであれば日中の通常外来を受診した方が、各々の専門家の診察が受けられる時間帯です。救急というのはお薬は数日分しか出せません。さらに検査も最低限です。

数時間待てば十分な処方や検査が受けられます。それらを加味して待てそうか、待てなさそうかを考えてみましょう。

 

6.救急を担当する医師から患者さんに伝えたいこと

日中に受けられる医療サービスを救急医療に期待しないでください。救急医療はギリギリで回っているので、必要な人が優先されます。軽症の方は最低限になります。

日本の救急医療はギリギリでまわっています。医師たちの責任感の中で何とかなりたっているのです。労働基準法とは全くかけ離れていて、36協定など守っていたら救急医療は崩壊します。

おそらく患者さんにも言い分はあるでしょうし、限界があるのが救急医療です。夜間・祝日の救急では、人が少ない中でいかに重症な疾患を見分けるかに重きを置かれてしまいます。このため、軽症だとどうしても扱いが軽くなってしまいます。

特に昼間でも対応できるのに自分の都合で夜間や休日に受診される方を「コンビニ受診」と言い、救急の世界ではかなり嫌われる行為になります。ただ患者さん側にも色々な言い分があると思います。

一例をあげてみましょう。「夜に少しだるいような感じがしたから熱を測ったら、36.5度だった。普段平熱は35度台だから急いで自転車に乗ってきたんだ。」この一文だけ読めば、「自転車に乗れる位元気なら大丈夫でしょう。なんで夜に来たんだ?」って思うかと思います。しかし次の一文を加えるとどうでしょう。

「数か月前、同じような症状をほっといたら肺炎になって死にかけた。だから今回は同じ思いをしたくないから早く受診したんだ。」こう加えられると、何となく早く受診したい気持ちが分かります。一度それで命を落としそうになったら慌てるでしょう。

この一例のように、救急を受診した人は色んな思いや考えがあって受診します。よくインターネットを見てると、「自分の場合はコンビニ受診じゃなくて…」などと救急医療に対する不満があふれています。医師への伝え方の問題があることもあります。

コンビニ受診と呼ばれるのは、社会的理由での受診です。これだけはやめてください。

  • 「仕事が忙しくて日中受診できないから、夜に受診した」
  • 「明日の部活の試合は出たいから、夜のうちに受診した」
  • 「デートで相手の予定をずらすのも悪いから、早く治したくて受診した」

これらはコンビニ受診とみなされてしまいますので、できるだけ遅くまで診察しているクリニックを探しましょう。最近では都心部を中心に、夜遅くまで診察をしているクリニックもあります。クリニックにとっては通常業務なので、そのクリニックの普段の医療が受けられます。

最後に、夜間救急を受診する前に気を付けることをいくつか挙げたいと思います。

  1. まず病院に連絡しましょう。当直医が緊急対応して受診が無理ということもあり得ます。必ず受け入れが可能かチェックしましょう。
  2. お薬手帳を持っていきましょう。特に日中違う病院を受診したけど、この薬じゃ効かないって場合、どのお薬が効かなかったかが分からないとお薬を出すことができない場合もあります
  3. 順番が遅くても怒らずに待ちましょう。並んだ順じゃなくて重症の人から見ていくため、自分が軽視されたと怒る人もいます。しかし怒ってしまうと、怒る元気はあるんだなとみなされて余計後回しにされてしまうかもしれません。

挙げればきりがない話ですが、少しでも救急医療の実情を理解していただいて、必要な人に必要な医療が届けられたら幸いです。

 

まとめ

夜間救急は、急いで診るべき疾患かどうかに重きをおきます。そのため軽症であるとなかなか満足のいく医療が提供できないのも実情です。

どうしても社会的な事情で日中受診できない場合は、ぜひ夜やっているクリニックや夜間診療の病院を受診してみましょう。救急の病院だからといって、詳しく診てもらえるわけではありません。

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元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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