十全大補湯【48番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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十全大補湯は、気・血・水などの不足を大きく補う漢方薬です。

全身の臓器の機能が落ちてしまっている気血両虚という状態によく使われる漢方薬で、10種類の生薬を組み合わせて作られています。

生命エネルギーである気が不足してしまうと疲労感や倦怠感が認められ、精神的にも気分が落ちこんで気力が出なくなってしまいます。胃腸の働きも弱ってしまうと、栄養である血が不足してしまいます。

このような状態に対して、十全大補湯は代表的な補気・補血剤として使われます。気力・体力が低下している方に対して、両方を補う漢方薬としてよく使われています。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、十全大補湯は「ツムラの48番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される十全大補湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.十全大補湯【48番】の生薬成分の効能

十全大補湯は、胃腸の働きを整えることで血の巡りをよくして栄養状態を整え、その上で気を補う漢方薬です。このようにさまざまな生薬が一緒に働いて、体力・気力を充実させる漢方薬になります。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

十全大補湯は、10種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 人参(3.0g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
  • 蒼朮・白朮(3.0g):健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用
  • 甘草(1.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 地黄(3.0g):強壮作用・利尿作用・補陰作用・補血作用
  • 芍薬(3.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・血管拡張作用
  • 川芎(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・鎮痛作用
  • 当帰(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 黄耆(3.0g):強壮作用・利尿作用
  • 桂皮(3.0g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

十全大補湯は、補気剤として代表的な四君子湯(人参・蒼朮・茯苓・甘草)と、補血剤として代表的な四物湯(地黄・芍薬・川芎・当帰)を組み合わせた漢方薬です。それに人参と合わさって気を補う黄耆、気血のめぐりをよくする桂皮を加えています。

十全大補湯は、胃腸の働きを整えることで血の巡りをよくして栄養状態を整え、その上で気を補う漢方薬といえます。このようにさまざまな生薬が一緒に働いて、体力・気力を充実させる漢方薬になります。

十全大補湯の生薬の由来についてまとめました。

※本来は白朮が使われるのですが、日本では蒼朮が代用で使われることが多いです。蒼朮と白朮は同じではなく、生薬としての作用は異なりますので注意が必要です。

 

2.十全大補湯の証

陰陽(陰証)・虚実(虚証)・寒熱(寒証)・気血水(気虚・血虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などを見極めて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

十全大補湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:寒証
  • 気血水:気虚・血虚(心身疲労・消化機能低下)

 

3.十全大補湯の効果と適応

  • 倦怠感・疲労感が強いうつ病や不安障害など様々な精神疾患
  • 手術や病気、出産などにより体力が低下し衰弱している場合
  • 慢性的に長引く風邪
  • 慢性疲労症候群

十全大補湯は、「和剤局方」という漢方の古典書に紹介されている代表的な漢方の薬です。10種類のそれぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

十全大補湯は、消化機能を意味する「脾胃」を高めることで気を補い、その働きをよくすることで慢性的な疲労感や倦怠感、気力低下を改善する漢方薬です。

このため十全大補湯が使われるのは、身体の「気」や「血」が不足している以下のような状態のときです。

  • 気分の落ち込み、不安障害、うつ状態
  • 体力低下、術後や病後の衰弱
  • 貧血、胃腸機能の減退、疲労倦怠感

精神疾患の患者さんでは心身共に消耗しているかたも多く、十全大補湯を使うことで元気になる方も多いです。

十全大補湯は術後の回復を助けたり、慢性疾患での消耗を防ぐ目的でも使われます。悪性腫瘍、いわゆるガンでの治療でも、副作用軽減と体力維持のためにつかわれることもあります。十全大補湯のうち四物湯にあたる成分がマクロファージを活性化させ、免疫を高めることでの抗腫瘍作用も報告されています。

貧血や胃腸の働きが弱っていたり、風邪が慢性的に長引いてしまう時にも使われることがあります。慢性的に疲労倦怠感や食欲不振がある場合に改善が期待できます。何らかの原因で慢性疲労感が続く慢性疲労症候群という病気があります。この病気にも、十全大補湯が効果的なことがあります。

このように十全大補湯が向いているのは、心身が衰弱している方です。胃腸の機能が低下していて気分が落ち込み、重い疲労感を持つ方に使われる漢方薬になります。

なお、添付文章に記載されている十全大補湯の適応は以下のようになっています。

病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血

 

4.十全大補湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

十全大補湯は、ツムラ、クラシエ、コタローをはじめとした多くの製薬会社から発売されています。1日量は7.5gが基本となっていて、コタローでは15gとなっています。

十全大補湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。十全大補湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.十全大補湯の効き目とは?

十全大補湯は、漢方薬の中では効果の実感が早いです。早い人では数日、2週間くらいかけて少しずつ効いてくる方もいます。

それでは、十全大補湯の効き方をみていきましょう。

まずは十全大補湯の効果についてです。十全大補湯は、漢方薬の中では効果が期待できると感じています。

十全大補湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで疲労感や倦怠感が強かったかたが、急に身体が軽くなって活動的になることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

十全大補湯は、漢方薬の中では効き目がやや早い印象があります。十全大補湯を飲み始めて3~4日して効果を実感する方もいます。多くの方は2週間ぐらいして少しずつ効果が出てきます。1ヶ月ほど使って効果の実感が乏しい方には、他の漢方薬に切り替えていきます。

効果が認められた方でも体質改善を意識していくには、すぐに十全大補湯を中止せずに半年ほどは使っていった方がよいです。疲弊していた時期が長い方では、バランスを整えるにも時間がかかります。

このような効き目なので、抗うつ剤や抗不安薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性と確実性はありません。ですから、疲れが出ないからといって栄養ドリンクのように頓服として使っても効果は期待しにくいです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.十全大補湯の副作用

十全大補湯では、配合されている生薬の「甘草」を大量に服用したときに生じる「偽アルドステロン症」と呼ばれる症状に注意が必要です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

十全大補湯は体力虚弱な人に用いるので、体力の旺盛な人に用いても効果は望めません。重い副作用はないとされていますが、配合されている生薬の「甘草」を大量に服用すると浮腫(むくみ)を生じたり血圧が上がってきたりすることがあります。

これが「偽アルドステロン症」と呼ばれる症状です。複数の漢方薬を長期間併用している時などは念のため注意をしてください。むくみなどの症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。また、まれに間質性肺炎や肝障害がみられることもあります。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

陰陽(陰証)・虚実(虚証)・寒熱(寒証)・気血水(気虚・血虚)

十全大補湯は、以下のような方に使われます。

  • 倦怠感・疲労感が強いうつ病や不安障害など様々な精神疾患
  • 手術や病気、出産などにより体力が低下し衰弱している場合
  • 慢性的に長引く風邪
  • 慢性疲労症候群

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