半夏瀉心湯【14番】の効果と副作用
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
半夏瀉心湯は、悪心や嘔吐、下痢といった胃腸のトラブルによく使われる漢方薬です。このため、二日酔いにも使われることがあります。
胃腸のトラブルはよくあることなので、半夏瀉心湯は多くの患者さんに使われている漢方薬です。私自身も半夏瀉心湯を服用していたことがあります。
半夏瀉心湯には7種類の生薬が含まれていますが、どれも胃腸の働きを良くします。「瀉心」というのはみぞおちのつかえの事です。そのみぞおちのつかえ(瀉心)を取り除き、半夏を主薬としていることから「半夏瀉心湯」という名前が付けられています。
小柴胡湯とも生薬構成が似ており、漢方で小陽病期と呼ばれる亜急性期から慢性期にかけての症状改善が期待できる漢方薬です。胃腸機能を高めつつ、消炎鎮痛作用や制吐作用が期待できます。
漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、半夏瀉心湯は「ツムラの14番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される半夏瀉心湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。
1.半夏瀉心湯【14番】の生薬成分の効能
半夏瀉心湯は、主薬である半夏と黄連・黄芩によって胃腸の症状を抑え、人参・乾姜・大棗・甘草によって弱った胃腸機能を高めてくれます。
漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。
半夏瀉心湯は、7種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。
- 半夏(5.0g):制吐作用・去痰作用
- 黄芩(2.5g):解熱作用・消炎作用・止血作用
- 黄連(1.0g):解熱作用・消炎作用・健胃作用
- 人参(2.5g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
- 乾姜(2.5g):興奮作用・強壮作用・健胃作用
- 大棗(2.5g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用
- 甘草(2.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。
半夏瀉心湯は黄連と黄芩を主薬とする漢方薬で、芩連剤と呼ばれています。解熱作用・消炎鎮痛作用などが認められ、胸のつかえをとってくれる効果が期待できるので、瀉心湯類と呼ばれています。
半夏厚朴湯はこの芩連剤に、半夏を主剤として加えています。半夏には余分な水分を取り除き、吐き気や咳を鎮める作用があります。熱や炎症を抑え、胃のつかえ感をとる働きのある黄芩や黄連とあわせて、胃腸の不快な症状を取り除いてくれるのです。
これらの胃腸の症状を抑えてくれる生薬に、弱った胃腸機能を高めてくれる生薬(ニンジン・乾姜・大棗・甘草)を組み合わせたのが半夏瀉心湯になります。
人参には補気作用(滋養強壮作用)があるとともに、胃腸の働きを整えます。そして乾姜と大棗、甘草も胃腸の働きを調整してくれる生薬です。
これらの7種類の胃腸によい生薬が合わさることで、半夏瀉心湯は相乗効果がうまれます。
なお、小柴胡湯に生薬の構成が似ていて、小柴胡湯に黄連と乾姜をプラスし、柴胡と生姜をマイナスした生薬になります。
2.半夏瀉心湯の証
陰陽(中間)・虚実(中間)・寒熱(熱)・気血水(気虚・水滞)
漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。
漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。
病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。漢方の証には、「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」の4つがあります。
このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。
- 体質が強いかどうか
- 病気への反応が強いかどうか
さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。
半夏瀉心湯が合っている方は、以下のような証になります。
- 陰陽:中間証
- 虚実:中間証
- 寒熱:熱証
- 気血水:気虚・水滞
3.半夏瀉心湯の漢方的な効果と科学的な効果
半夏瀉心湯は、気の流れをよくすることで胃腸機能を整えてくれます。科学的にも、胃排出促進作用・胃粘膜障害軽減作用や下痢予防作用、口内炎予防作用などが認められています。
まずは半夏瀉心湯での、漢方の考え方による効果をお伝えしていきます。半夏瀉心湯が主に使われる胃腸症状についてみていきましょう。
漢方の世界では、口から肛門までの器官が全体として食べ物や飲み物を消化・吸収していると考えます。したがって、食道、胃、腸などとバラバラに個々の臓器ひとつひとつの働きを見ていくことはしません。
口から入った飲食物は、エネルギーである「気」によって身体の下の方まで運ばれていきます。胃や腸などでは、飲食物からそれらのエネルギーである「気」を取り出し、飲食物を身体の上から下まで降ろす「気」のもととして肺に運ばれ、肺でその「気」が作られます。
私たちの身体は、「気」が流れることによって動くと考えるのです。つまり、「飲食物を上から下まで降ろす気」と「飲食物の気を上に持ち上げる 気」という両方の「気」の上下の流れをスムーズにすることで、胃腸の働きを調節していると考えられています。
しかしこの「気」が少ないと、きちんと下まで運ばれなくなります。例えば「気」の流れが胃で止まっていたら、飲食物も胃で止まってしまい胃もたれを起こしてしまいます。また、本来上から下へ流れる「気」が下から上へ逆流してしまうと、吐き気が起こってしまうと考えるのです。
冷えたりストレスを感じるなど身体が強い圧力を受けると 「気」は正常に流れなくなり、その場に停滞してしまったり逆流してしまったりして身体の不調につながります。
半夏瀉心湯は、この身体の上下の「気」の流れをスムーズにすることで胃腸の働きをよくし、消化・吸収のバランスを整えていきます。また、「気」が少なくなっているときには、それを補う作用を持っています。
これが漢方的に見た半夏瀉心湯の胃腸症状への効果です。半夏瀉心湯は、科学的にも効果が検証されています。
- 胃排出促進作用・胃粘膜障害軽減作用による胃機能改善
- フリーラジカル除去作用・消炎鎮痛作用・抗菌作用による口内炎の改善
- 生薬に含まれるバイカリンによる薬剤性の下痢の予防作用
こういった作用が確認されています。胃腸症状や口内炎に対して、科学的にも効果があることが少しずつわかってきています。
4.半夏瀉心湯の効果と適応
- 急性胃腸炎・慢性胃腸炎
- 下痢・軟便・便秘・消化不良
- 神経性胃炎・げっぷ・胸やけ
- 二日酔い
- 口内炎
- 心因性嘔吐などの身体化症状
半夏瀉心湯は、漢時代の「傷寒論」および「金匱要略」という古典書に紹介されています。7種類それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。
半夏瀉心湯が最もよく使われるのは、胃腸症状に対してです。胃腸の機能を改善し、消化・吸収のバランスが整うことで急性・慢性胃炎や消化不良、胸やけなどの胃症状、お腹の音(グル音)が鳴っているような下痢症状を改善します。
心下痞硬 (しんかひこう) と呼ばれる身体所見が認められる方に有効で、心下部であるみぞおち部分がつかえて硬くなっている患者さんに半夏瀉心湯は有効です。
このような効果が期待できるため、二日酔いによる胃の不快感や吐き気などの症状が改善されます。また、疲労やストレスなどからくる胃腸の不調の改善にも効果がありますので、精神科で処方される場合もあります。
口内炎についても改善効果が報告されていて、がん治療での抗がん剤による口内炎などに対して使われることがあります。
なお、添付文章に記載されている半夏瀉心湯の適応は以下のようになっています。
みぞおちがつかえ、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向のあるものの次の諸症:急・慢性胃腸カタル、醗酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症
5.半夏瀉心湯の使い方
1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。
半夏瀉心湯は、ツムラ・ジュンコウ・コタロー・クラシエ・マツウラ、三和などから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。半夏瀉心湯では、ツムラ、コタロー、三和は7.5g、ジュンコウ、クラシエ、マツウラは6.0gとなっています。
半夏瀉心湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。
漢方薬を空腹時に服用することで、麻黄や附子などの効果の強い生薬は胃酸によって効果をおだやかにし、その他の生薬は早く腸に到達して吸収がよくなります。半夏瀉心湯では、空腹時の方が吸収はよくなります。
とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。
6.半夏瀉心湯の効き目とは?
効果は2週間以上かけてゆっくりと認められることが多いです。ただし、急性胃腸炎や二日酔いなどには即効性がみとめられています。
それでは、半夏瀉心湯の効き目はどのような形でしょうか。
半夏瀉心湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで様々な身体の症状で悩まされていた方が、ビックリするくらいに穏やかになることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。
半夏瀉心湯は、一般的には効き目はゆっくりです。とくに病気で悩まされていた期間が長い患者さんほど、そのバランスを整えるには時間がかかります。 効果は2週間くらいから認められることがあります。じっくりと時間をかけて効果が認められることもあるので、焦らず使い続けていくことが大切です。
ただし、急性胃腸炎や二日酔い、胸やけで服用するときは即効性が期待できます。はっきりした効果が表れないようなときには、医師に相談してください。
漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。
7.半夏瀉心湯の副作用
半夏瀉心湯では重大な副作用は起こりにくいとされていますが、偽アルドステロン症やミオパシーに注意が必要です。
漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。
漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。
- 誤治
- アレルギー反応
- 生薬固有の副作用
漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。
誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。
また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレル ギー反応が生じることがあります。
鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み 始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。
そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。
半夏瀉心湯の生薬である甘草を過剰に摂取すると、血圧が高くなったりむくみを生じたりする偽アルドステロン症や、血中のカリウム濃度が低くなり手足に脱力感を感じるミオパシー(低カリウム血症)があらわれることがあります。
甘草はいろいろな漢方薬に使われる生薬ですので、他にも甘草の含まれた漢方薬を服用している方は注意が必要です。また、間質性肺炎や肝機能障害も報告されているので注意してください。
軽い副作用としては発疹、蕁麻疹などがあげられます。服用後にこのような症状があらわれた場合は服用を中止して、医師に相談することをお勧めします。
漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。
まとめ
半夏瀉心湯は、主薬である半夏と黄連・黄芩によって胃腸の症状を抑え、人参・乾姜・大棗・甘草によって弱った胃腸機能を高めてくれます。
陰陽(中間)・虚実(中間)・寒熱(熱)・気血水(気虚・水滞)
半夏瀉心湯は、以下のような方に使われます。
- 急性胃腸炎・慢性胃腸炎
- 下痢・軟便・便秘・消化不良
- 神経性胃炎・げっぷ・胸やけ
- 二日酔い
- 口内炎
- 心因性嘔吐などの身体化症状
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