呉茱萸湯【31番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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脈拍のリズムに一致して痛みが起こる偏頭痛は、いまだ、原因がはっきりとわかっていないものが多くあります。気圧や気候の変化によって起こるもの、女性では月経前に起こりがちなもの、音や光に過敏になるもの、痛む前兆を伴うものなど、一人一人症状はさまざまです。

痛みがひどいと、吐き気や嘔吐を伴うこともあります。症状が重い人では、偏頭痛が起こるたびに日常生活に支障をきたすほどになります。

呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、おもに吐き気を伴う偏頭痛や肩こりからくる緊張型頭痛に使用されます。痛みを和らげるだけでなく、長期的な服用によって頭痛を起こりにくくする効果のある漢方薬です。

頓服、体質改善の両方に使うことができ、効果の早さや頭痛が起こる回数の減少を実感されている方も少なくありません。科学的なエビデンスは蓄積されていませんが、経験的に効果があることが分かっており、日本頭痛学会でもエビデンスレベルBとされています。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、呉茱萸湯は「ツムラの31番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される呉茱萸湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.呉茱萸湯【31番】の生薬成分の効能

呉茱萸湯の4つの生薬は、すべてに体をあたためる効能があります。冷えが原因で頭痛が生じている場合、血行不良を改善して効果が期待できます。呉茱萸・人参は鎮痛作用を持ち、痛みそのものも緩和します。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

呉茱萸湯は、4つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 呉茱萸(3.0g):保温作用・鎮痛作用・中枢神経興奮作用・利尿作用
  • 人参(2.0g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
  • 大棗(4.0g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用
  • 生姜(1.5g): 発汗作用・制吐作用・健胃作用・鎮咳作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

呉茱萸湯に使われる生薬は、4つがすべて、基本的に「体をあたためる効果」「胃腸をよくする効果」をもちます。呉茱萸湯は、体の冷えが根本の原因となる頭痛に適しており、体をあたためる効果については、即効性が期待できます。

呉茱萸・人参の鎮痛作用が頭痛そのものを緩和し、生姜が吐き気を抑えます。大棗には、緊張を和らげる効果があります。

また、体が冷えると体に「水」が停滞しがちになり、それもまた痛みを引き起こす原因となることがあります。呉茱萸・大棗が利尿作用を、生姜が発汗作用を持つため、水毒による症状も抑えます。人参は「気」を補うので、「水」もその影響を受け、体内を正常にめぐるようになるのです。

呉茱萸湯の生薬の由来についてまとめました。

 

2.呉茱萸湯の証

隠陽(陰証)・虚実(虚証)・寒熱(寒証)・気血水(水毒・気虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

呉茱萸湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:寒証
  • 気血水:血虚(血流不足)・水毒

呉茱萸湯は、比較的体力が低下している人に向いた漢方薬になります。

 

3.呉茱萸湯の効果と適応

  • 偏頭痛
  • 体の冷えや肩こりから起こる頭痛
  • 吐き気を伴う頭痛
  • 月経前の頭痛

呉茱萸湯は、漢時代に書かれた「傷寒論」および「金匱要略」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

呉茱萸湯は、偏頭痛にもっともよく使われます。何らかの病気による頭痛ではないものを一次性頭痛といいますが、偏頭痛は血管まわりの神経の異常だとか、脳幹部の異常などといわれていますが、その原因ははっきりとわかっていません。吐き気などを伴うことも多いです。

偏頭痛だけでなく、肩こりなどからくる緊張型頭痛に使われることもあります。また、月経前の頭痛にも効果が認められることがあります。

 

漢方では、ズキズキする頭痛は、冷えが原因で上半身の気がうまくめぐらなくなり、気・血の流れが乱れることによって起こると考えられます。

呉茱萸湯を服用することによって、体の中心であるお腹に気を充実させ、あたためて全身に気を送るようにします。これにより気・血の流れを整えて頭痛を鎮めるというのが、漢方の頭痛の治療です。胃腸の働きも整うため、吐き気も治まります。

一般に頭痛が起こった場合、すぐに頭痛に効く西洋薬を服用することが多いですね。たまに起こる頭痛に対してなら問題がないのですが、頻発する偏頭痛に繰り返し服用していると、同じ頭痛薬は効きづらくなります。それだけでなく、薬剤乱用性頭痛を引き起こして頭痛がひどくなる可能性もあります。

また、西洋薬の頭痛薬は胃を荒らすことが多く、服用が長期に渡ると、胃の痛み、口内炎を起こすこともあります。

呉茱萸湯は、西洋薬、とくにトリプタンやNSAIDsといった頭痛薬と併用することが多いのですが、呉茱萸湯の方に効果が見られた場合、西洋薬の服用回数を減らすことができます。

呉茱萸湯が体に合えば、消化器機能の改善や血行促進も同時に行うことができます。この効果により、飲み続けることで、偏頭痛が起こりにくい体質へと変えることができると考えられます。

なお、添付文章に記載されている呉茱萸湯の適応は、以下のようになっています。

手足の冷えやすい中等度以下の体力のものの次の諸症:習慣性偏頭痛、習慣性頭痛、嘔吐、脚気衝心

使用目標:比較的体力の低下した冷え症の人で、反復性に起こる激しい頭痛を訴える場合に用いる。

  1. 項や肩のこり、嘔吐などを伴う場合
  2. 心窩部に膨満感、痞塞感あるいは振水音を認める場合

 

4.呉茱萸湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

呉茱萸湯は、ツムラから発売されています。1日量は、ツムラは7.5gになっています。

呉茱萸湯は、習慣性の頭痛については、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。呉茱萸湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

また、頭痛が起こった時の頓服薬として、頭痛がひどくなりそうなときの予防薬としても、効果的です。

 

5.呉茱萸湯の効き目とは?

効果は比較的早く、頓服薬としては、体質が合えば30分ほどで効いてきます。習慣性頭痛の体質改善に対しても、早ければ、服用開始から2週間で効いてくる人もいます。

それでは、呉茱萸湯の効き目はどのような形でしょうか。

効果は比較的早く、とくに、冷えや肩の凝りが原因の頭痛には、体をあたためる効果が速攻であらわれるため、効きが早いようです。痛みがすっと引くように治まる人もいるようで、頭痛が起きたときのために、常備しておく人もいます。

頭痛が起きにくい体質に変わるまでも、あまり長い時間はかからないようです。痛みが出たときに飲んでいるうちに、頭痛が起こりにくくなっていくことも多く、薬が体に合う人なら、2週間ほどで効果を実感する人もいます。

逆に、呉茱萸湯を長く飲み続けても、頭痛が起こりにくくならない人もいます。その場合、薬が体に合わないか、頭痛の原因がほかにもあるかもしれません。飲んでも頭痛が治まらない場合は服用をやめ、医師に相談します。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.呉茱萸湯の副作用

呉茱萸湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

呉茱萸湯は、重い副作用が認められることは少ないです。ただ、ごくまれに肝障害が起こることがあると報告されています。発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。

また、呉茱萸湯は、体を速やかにあたためる作用があります。急激に体温が上がると、熱っぽさからだるさを感じる場合もあります。

呉茱萸湯は、妊婦の偏頭痛にも使われることあがります。しかし、呉茱萸には子宮収縮作用も認められるので、服用する場合は必ず医師に相談してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

各生薬が体をあたためて内臓に気を充実させ、気・血のめぐりを整え、頭痛を解消します。冷えをとり、肩こり、水毒を解消し、冷えや筋肉の緊張から起こる痛みをとります。頓服、体質改善のどちらにも有効で、効果も速やかにあらわれます。

陰陽(陰証)・虚実(虚証)・寒熱(寒証)・気血水(気虚・水毒)

呉茱萸湯は、以下のような方に使われます。

  • 偏頭痛
  • 体が冷えがちで、肩こりなどもある頭痛
  • 頭痛がすると吐き気を伴うもの
  • 胃腸が弱く、西洋薬の頭痛薬を飲むと胃が荒れるもの

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