統合失調症の再発を防ぐためのデイケアや作業所の大切な役割

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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統合失調症をどうにか薬を使わずに治すことはできないでしょうか?

患者さん本人や家族の方が、薬に抵抗をお持ちの方も多いです。そのお気持ちはよくわかるのですが、統合失調症に限っては薬の治療は必須です。

ですが、統合失調症の治療は薬がすべてではありません。症状を安定させるのには、デイケアなどでの作業療法などが非常に重要です。

作業療法を行っていれば、症状の悪化に早く気付くことができます。薬の飲み忘れなどに気づくこともあります。そして何より、患者さんが社会と関わりをもつことで病状が安定します。

ここではそんな統合失調症の、薬を使わないアプローチであるデイケアや作業所の役割をご紹介していきます。

 

1.統合失調症はお薬だけが治療ではない

家族教育と社会技能訓練は再発を防ぎます。なにより家族のサポートが重要です。

統合失調症の治療による再発率の違いです。

統合失調症の幻聴や妄想が活発な急性期では、お薬によって症状をコントロールすることが最優先です。ですが落ち着いてくると、薬を継続して服用しながら心理的治療や社会的治療を取り入れていきます。

上のグラフは、いろいろな治療法で病気が再発するかを追ったものです。このグラフをみていただくと、薬物療法だけでは再発率が高いことが分かります。

薬物療法に何らかの心理社会的治療を併用すると、明らかに再発しにくいことがわかるかと思います。さらにわかることは、長い目でみると家族のサポートがとても重要であるということがわかります。統合失調症の治療は薬物療法だけでなく、こういった薬ではないアプローチも大切なのです。

統合失調症は、薬の進歩によって陽性症状だけでなく陰性症状にも効果が期待できるようになってきています。しかし陰性症状や認知機能の改善には薬の効果だけでは不十分ですし、患者さんの社会の中での役割や居場所をみつけていくことも大切です。

具体的には、社会技能訓練(SST)や作業療法を通して、少しずつ対人関係の改善や精神の安定を図っていきます。入院中からでも行っていきますし、退院後や外来患者さんではデイケアなどで行っていきます。また状態が安定してくると、作業所などで軽作業に従事することで認知機能の改善や社会性の向上を図っていきます。

 

2.統合失調症患者さんがデイケアや作業所で行うこと

それでは統合失調症の心理・社会的治療として、実際にはどのようなことをするのでしょうか?具体的にご紹介していきます。

 

2-1.社会技能訓練(SST)

低下した社会機能や生活能力を一つずつ学習していきます。

社会機能訓練は、ソーシャルスキルトレーニング(SST)と呼ばれることもあります。この治療法の主な目的は、低下した社会的機能・生活能力を取り戻すことです。

統合失調症の患者さんは、正常な人が日常生活で何気なく使っている能力が著しく落ちています。まずは一般的な生活能力を習得しなおし、自立した社会生活を送れるように訓練を積んでいきます。

日常生活技能(身の回りの生活で必要な技能)、疾病管理技能(病気に対する理解と服薬管理)、社会生活技能(対人関係を円滑にする技能)などを少しずつ身につけていきます。

ビデオや講義を通じて病気に関する知識を吸収し、ロールプレイを重ねる中で正しい対処法を身につけていきます。入院患者さんの場合には、少しずつ外泊しながら実践的に学習していくこともあります。施設の方針によってさまざまな方法がありますが、ビデオや講義についてはどこでも共通しているといえるでしょう。

 

2-2.作業療法

他の患者さんとの共同作業を通して、社会生活機能を回復していきます。

作業療法士の指導のもとで、社会生活機能の回復を目指します。具体的な内容としては、手芸・料理・簡単な土木作業などの軽作業が中心で、SSTと比べると趣味的な要素も大きく、楽しみながら治療していけるのが特徴です。

こういった作業を行うことで、日常に楽しみを見出すことを目的としています。入院中でも積極的に行われていて、退院後もデイケアなどでおこなっていきます。

この作業療法では、他の患者さんたちとの共同作業を通じた交流によって対人関係の改善も図ります。さらに、簡単ながらも充実感や達成感を得られる軽作業をこなしていくことで、患者さんは「自分の手で何かを成し遂げている」ことを実感でき、精神的な安定を取り戻していきます。

 

2-3.家族教育

ご家族の方は一番大切な存在です。病気に対する理解があると、再発率も低下します。

統合失調症の患者さんの日常的な行動の特徴を発見し、それに応じて生活の中に治療を組み込んでいく方法があります。

これは「生活臨床」と呼ばれる日本独自の治療法で、1960年代から群馬大学を中心に研究されてきました。近年、社会での自立を大切にしていく流れの中で、再注目されています。

詳しくは、「統合失調症の家族ができること」にまとめましたので、ご参照ください。

 

3.統合失調症の患者さんが利用できる施設とは?

これらの心理社会的治療は、どのようなところで行っていくのでしょうか?実際に統合失調症の患者さんが行える施設についてみていきましょう。

 

3-1.デイケア

社会機能を取り戻すために、日中にリハビリテーションを行います。

デイケアは日中に行っていくリハビリテーションで、他人との交流を通じて社交性や対人関係の向上を目的としています。患者さんがグループ活動を通じて社会機能を取り戻し、社会復帰に向けて自分の体と心を慣らしていく場所なのです。

デイケア内での活動内容は、作業療法やSSTなどを行っていきます。患者さんたちは料理・手芸・園芸・陶芸・スポーツなどの活動を楽しみながら行い、社会生活に復帰できる状態を目指します。

さまざまな精神疾患に対して用いられる治療法ですが、とくに統合失調症の陰性症状や感情障害には、デイケアが提供する他人との交流の機会や作業をこなすことで得られる充実感が効果的であることが認められています。

デイケアは精神病院や保健所、専門リハビリ施設、保健福祉センター、精神保健福祉センターなどで受けられ、施設自体の規模やプログラムの内容などは場所によってさまざまです。一日中行うデイケアに加え、半日のみのショートケア、夜間のナイトケアといった種類があり、本人の希望や都合に合わせた治療を受けることができます。

周りとの触れ合いを通じて徐々に社会復帰への道をたどることができるデイケアは、入院治療を終えた患者さんにおすすめです。せっかく日常生活を送れるようになって退院しても、自宅に引きこもった生活をしていると、なかなか社会機能は向上しません。いきなり社会復帰することに不安がある場合には、まずはデイケアから始めて自分のペースで準備をととのえていきましょう。

 

3-2.作業所

軽作業を通して認知機能の回復を目指します。

作業所では、実際に様々な軽作業を行います。監督者がしっかりといて、サポートをしながら作業を行っていきます。この最大の目的は、作業を通じた認知機能の回復です。

患者さんやその家族の方たちの、「障害を持っていても働きたい」という思いを叶えるために1970年代から日本各地に設置されるようになりました。現在は障害者自立支援法によって、就労継続支援事業所となっているところがほとんどです。昔からの名残で、「作業所」と呼びます。

人間との交流に重点を置くデイケアと比べると、作業所での治療は作業すること自体を中心に据えています。一般の労働との違いは、病気の進行状況やその日の体調が最優先され、体調がよくないときは休養をとることができるという点です。

また作業に対して賃金も支払われます。患者さん自身が、行った労働の対価を目に見える形で受け取れるため、充実感・達成感を味わうことができます。

作業所も大きく分けて2種類があります。A型とB型といわれるもので、A型ではより就労に近い形で、雇用契約もしっかりと結びます。一方でB型では、雇用契約を結ばずに自由度が高いです。リハビリという面が強いです。

 

まとめ

家族教育と社会技能訓練は再発を防ぎます。なにより家族のサポートが重要です。

社会技能訓練(SST)では、低下した社会機能や生活能力を一つずつ学習していきます。
作業療法では、他の患者さんとの共同作業を通して、社会生活機能を回復していきます。
ご家族の方は一番大切な存在です。病気に対する理解があると、再発率も低下します。

デイケアでは、社会機能を取り戻すために、日中にリハビリテーションを行います。
作業所では、軽作業を通して認知機能の回復を目指します。

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