パニック障害で歯医者や美容院にいけない!日常生活を取り戻すには?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
パニック障害は、突然のパニック発作を繰り返してしまう病気です。急に動悸やめまい、息苦しさなどが生じてしまい、強烈な不安感や恐怖感に襲われます。
このパニック発作を恐れて、パニック障害の患者さんでは当たり前の日常生活ができなくなっていきます。多くの方が苦手としていることとして、歯医者と美容院があります。
歯医者も美容院は共通している部分があります。どちらも席にすわると、自由にそこから離れることができません。こういった状況を、パニック障害の患者さんは苦手としてしまいます。
なぜパニック障害の患者さんは歯医者や美容院が苦手になってしまうのでしょうか?
歯医者や美容院といった日常生活を取り戻すにはどうすればよいのでしょうか?
ここでは、パニック障害で歯医者や美容院にいけなくなってしまった方に、当たり前の日常生活を取り戻すためにはどうすればよいのかを考えていきたいと思います。
1.パニック障害が歯医者や美容室で起こりやすい原因
席に座ると自由がきかなくなり、逃げ場がなくなります。歯医者や美容室では、「自分がコントロールできない状況」になります。このような状況を、広場恐怖といいます。
パニック発作を想像してみてください。
心臓がバクバクして息苦しくなり、異常に汗が出てきたりします。自分で不安の抑えが効かなくなり、「このまま死んでしまうのではないか」という死の恐怖すら出てくることがあります。
このようなパニック発作を経験したら、その影におびえて生活するようになってしまうのも無理はないでしょう。いつまたパニック発作がくるのかと怯え、少しでも不安な状況になると怖くなってしまいます。
そんな状況では、自分の自由がきかない状況は不安が高まりやすくなります。
歯医者では、診察台に一度座ってしまうと抜け出せない気持ちになってしまいます。治療中ににパニックになってしまったら、削っている機械が口のなかを傷つけてしまうかもしれないと心配になるでしょう。鼻だけでしか呼吸できないと圧迫感を感じることで、息苦しさを感じてしまう人もいます。
美容院でも、席についてしまったら自由がきかなくなります。私の患者さんでは、とくにシャンプーを苦手にしている人が多かったです。目隠しのためにガーゼをかけられますが、あれが顔に張り付いている感じがして息苦しくなるとのことでした。
このようにパニック障害では、「逃げ出せない状況」や「助けが得られない状況」になることを恐れるようになります。そのひとつが歯医者や美容院なのです。
このことを、専門的には広場恐怖といいます。パニック障害の患者さんの多くは広場恐怖を伴います。「パニック発作が起きてしまったら逃げ出せない」「パニック発作が起きてしまったら誰も助けてくれない」という状況を苦手にしてしまうのです。
広場恐怖の「広場」は、ギリシャ語の「アゴラ」に由来しています。古代ギリシャでは、広場を集会の場としていました。非常に多くの人でごった返しており、当時のパニック発作がおこりやすい代表的な状況だったのです。
2.パニック障害では歯医者・美容院をどう考えるか
パニック障害を克服していくためには、歯医者や美容院を練習していく場と考えた方がよいです。
歯医者も美容院も、パニック障害になる前は当たり前に行けていたと思います。どちらも命にかかわるようなことではありませんが、どちらも自分で行うことはなかなかできないことです。
歯の治療は、ときには放っておけないこともあります。本当は歯をきれいに保ちたいと思っているのに、歯医者が怖くてメンテナンスできないのは残念なことです。
美容院でも、カラーをしたり、パーマをかけたいと思っていてもできないこともあります。時間が短いからという理由で1000円カットにしているという患者さんもいらっしゃいました。
パニック障害の治療を考えても、かつてのように当たり前に歯医者や美容院に行けることが望ましいです。何とかしのいだり避けたりすることはできなくはありませんが、根底にある広場恐怖から目をそらしていることになります。
恐怖から逃げていたら、いつまでたってもよくなりません。そればかりか、苦手なことから逃げれば逃げるほど、パニック障害は悪循環していきます。苦手なことから逃げてしまうと、苦手意識はますます強まります。
ですから、「歯医者や美容院にいかない」という行動をとるとパニック発作はおきませんが、症状は一向によくなりません。パニック障害を克服していくためには、歯医者や美容院で練習していくほうがよいのです。
3.パニック障害のことを歯医者・美容院に伝える
パニック障害のことを予約の時に必ず伝えましょう。歯医者も美容院も、配慮してくれるところがほとんどです。
自分がパニック障害であることを、周りに知られたくないという患者さんは少なくないです。ですが担当する歯医者さんや美容師さんが自分の病気のことを知ってくれていると、それだけで安心感があります。
もし調子が悪くなってしまったら、少し休ませてもらうようにお願いすることもできます。治療やサービスの進め方も、できる限りの配慮をしてくれることが多いと思います。
パニック障害の患者さんは、けっしてあなただけではありません。有病率は2~3%ともいわれているので、日本でも200~300万人以上の患者さんがいるのです。ですから多かれ少なかれ、歯医者さんや美容師さんはパニック障害の患者さんの治療やサービスを行ったことがあります。
歯医者さんも美容院も、どちらも競争の激しい業界です。町を歩けばあちらこちらに病院やお店を見かけるかと思います。あなたはお客さんなのですから、ちゃんと配慮してくれるところを探せばよいのです。
近くでご近所さんに会うのが心配ならば、すこし離れたところで探しましょう。予約の時に、「パニック障害で治療をしていて、閉塞感を感じると調子が悪くなってしまうことがあります。それでも大丈夫でしょうか?」とお聞きください。多くのところが、「心配ないですよ」と言ってくれると思います。
恐れることはないのでちゃんとパニック障害のことを伝えたうえで、歯医者や美容室を練習の場と考えていきましょう。
4.パニック発作を歯医者や美容院で起こさない対処法
パニック障害の治療をしっかりとうけ、パニック発作について理解することが第一歩です。その上で不安の自己暗示法を意識し、緊急事態では頓服を使っていきます。少し休ませてもらうこともできます。
パニック障害を克服していくには、歯医者や美容院はできるだけ逃げずに、練習の場として使っていく方がよいです。
できることから少しずつ挑戦していき、成功体験を積み重ねていくことで自信をつけていくことが大切です。ですから失敗しそうになったときに、パニック発作を歯医者や美容院で起こさないために対処法を持っておく必要があります。
一度上手くいったことでも、その時の体調によって失敗してしまうこともあります。3歩すすんで2歩下がるといった形で、少しずつよくなっていくものということを理解して取りくみましょう。
ここでは、パニック発作を歯医者や美容院で起こさないための対処法をまとめていきたいと思います。
①パニック障害の治療をうける
精神科のお薬に抵抗がある方もいらっしゃるかと思います。「精神科のお薬は怖い」というイメージを持たれている方も少なくありません。
しかしながらパニック障害は、お薬の効果がしっかりと期待できる病気になります。お薬によってパニック発作を落ち着かせることができれば、電車を少しずつ克服する大きなサポートになります。
お薬に副作用はつきものです。ですが現在のお薬は、安全性が高いものが中心となっています。ちゃんと出口をみすえてお薬を使っていけば、過度に心配しなくても大丈夫です。
詳しく知りたい方は、「パニック障害を完治させるには?パニック障害が治るための考え方」をお読みください。
②パニック発作を正しく理解する
パニック発作が起こっている時は、強烈な恐怖に支配されてしまいます。「このまま死んでしまうのではないか」というほどまでの恐怖が襲ってきます。
しかしながら恐怖が過ぎ去ると、身体にあらわれていたさまざまな症状はすっかりと消えてなくなります。後遺症を残すようなものでもなければ、パニック発作によって本当に死んでしまうことはありません。
このことを理解して、不安が高まってきたら「大丈夫、大丈夫」と自分に言いきかせることで不安をコントロールできることもあります。(自己教示)
③薬を使わないリラックス法を身につける
薬を使わずにリラックスする方法もいくつかあります。練習して慣れていくことで、不安をコントロールすることが上手になっていきます。大きく分けて、3つの方法があります。
リラックスする呼吸法とは、吐く時間を意識した腹式呼吸法です。呼吸を整えることで、リラックス状態をつくれるようにしていきます。
漸進的筋弛緩法とは、リラクゼーションとも呼ばれている方法です。筋肉の緊張状態を知り、それを和らげていく練習をします。不安が高まって来たら、緊張をほぐすことで気持ちを落ち着かせられます。
自律訓練法とは、リラックス状態を自己暗示で作り上げていく方法です。リラックス状態をイメージして、それを身体にしみこませていきます。
④頓服をもっておく
パニック発作に備えて、頓服をあらかじめもらっておいて携帯しておくのも一つの方法です。頓服薬は即効性のあるお薬で、パニック発作が起こりそうな時に服用すればすぐに効いてくれます。
頓服として使われるお薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が中心です。具体的には、
- ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
- ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)
- デパス(一般名:エチゾラム)
- レキソタン(一般名:ブロマゼパム)
- リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)
- リーゼ(一般名:クロチアゼパム)
このようなお薬です。ベンゾジアゼピン抗不安薬の中でも、効果の実感が大きいお薬を使っていきます。
これらの頓服薬は、お守りとしてもっているだけでも安心感につながります。急に不安におそわれた場合は、お薬は噛んで服用しても問題ありません。むしろそちらの方が早く効きます。
ワイパックスでは噛んでも甘みがありますし、噛んだ時(舌下)の吸収効率もよいといわれています。このため私は、ワイパックスを処方することが多いです。
⑤歯科医や美容師に伝えて休ませてもらう
あらかじめパニック障害のことを伝えていれば、「調子が悪いので少し休ませてください」と伝えることもできます。
不安に少しずつ慣れていきコントロールできるようにしていけるのが理想ですが、あまりにも辛い時はひと呼吸おきましょう。
4.パニック障害を歯医者や美容院で克服する工夫
理解ある人に付き添ってもらったり、予約をとる時に工夫をすることもできます。そして安心感のある歯医者さんや美容師さんをみつけて、定期的に通うようにしましょう。
パニック障害を克服していくには、少しずつ歯医者や美容院といった日常生活での恐怖をやわらげていく必要があります。
まずは少しでも安心できる状況から始めていき、少しずつ慣れていくようにしていきましょう。歯医者や美容院で安心できる方法としてどんなものがあるのか、できる工夫をお伝えしていきたいと思います。
①1人が難しければ付き添ってもらう
理解のある友人や家族が付き添ってくれれば、何かあった時に安心感がありますね。ひとりで歯医者や美容室に行くのが難しければ、付き添ってもらいましょう。
もしパニック発作が起きても助けてもらえるという安心感があれば、パニック発作も起こりにくくなります。
②すいている時間帯に予約する
歯医者や美容院が混んでいると、スタッフの方も慌ただしくしているのが伝わってきます。待合や控室でも、多くの患者さんがいると圧迫感がありますね。
このようになってくると、パニック障害の患者さんでは圧迫感を感じて不安が高まりやすくなってしまいます。調子が悪いことを言い出せる雰囲気ではなくなってしまいます。
ですからできるだけ、空いている時間帯に予約をとる方がよいでしょう。歯医者や美容院に直接問い合わせて、「いつくらいの時間帯が空いていますか?」とお聞きするのが良いかと思います。
一般的には、平日の昼間が空いていることが多いと思います。空いている時間帯であれば、気持ちの余裕をもちやすくなりますね。
③調子がいい時に当日予約をする
その日によって体調にも波があるように、心の状態にも波があります。調子がいい時に当日予約をするというのも方法です。
当日に空いていればという形にはなりますが、「今日は調子がいい」と思えていれば、「何とかなる」という気持ちを持ちやすいです。
最近ではインターネットでのさまざまなサービスがあるので、リアルタイムに予約の状況などがみれたりもします。上手く活用しながら、自分のペースで歯医者や美容院にいくのも方法です。
④安心感のある歯医者や美容師をみつける
パニック障害のことを理解してくれる歯医者さんや美容師さんを見つけるのが、何よりの安心感になるかと思います。そのような人が見つかったら、安心してこれからも任せることができますね。
このためにも、予約の時にパニック障害のことはちゃんと伝えた方がよいです。その上で、何かあっても配慮してくれるという安心感のある歯医者さんや美容師さんを見つけましょう。
そして定期的に通うことで、少しずつ広場恐怖がうすれていきます。
まとめ
席に座ると自由がきかなくなり、逃げ場がなくなります。歯医者や美容室では、「自分がコントロールできない状況」になります。このような状況を、広場恐怖といいます。
パニック障害を克服していくためには、歯医者や美容院を練習していく場と考えた方がよいです。
パニック障害のことを予約の時に必ず伝えましょう。歯医者も美容院も、配慮してくれるところがほとんどです。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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