強迫性障害(OCD)の診断基準と診断の流れ

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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強迫性障害とは、ある考えやイメージにとらわれてしまう強迫観念と、それを打ち消すために繰り返してしまう強迫行動の2つを特徴とする病気です。

強迫性障害は従来、不安障害の1つとして考えられてきました。このため、強迫神経症と呼ばれていたこともありました。最近では「とらわれ」と「繰り返し行動」を特徴とする別の病気として考えられています。

2013年に改訂されたDSM-Ⅴという国際的な診断基準では、強迫性障害は大きく変化しました。強迫関連症群として独自のカテゴリーが作られ、診断基準の内容も変わっています。

ここでは、強迫性障害の診断基準について詳しくお伝えしていきます。どのような経緯で診断基準がかわったのか、実際にはどのように診断していくのかをみていきましょう。

 

1.強迫性障害(OCD)とは?

強迫観念にとらわれてしまい、繰り返しの強迫行為をしてしまう病気です。かつては不安障害と考えられていましたが、最新の診断基準では「とらわれ」と「繰り返し行為」を特徴とする新しい概念の病気として独立しています。

強迫性障害(OCD:Obsessive-Complusive Disorder)は、かつては不安の延長線上の病気と考えられていて、つい最近までの診断基準では不安障害に分類されていました。強迫神経症と呼ばれていたこともあります。

しかしながら強迫性障害の研究がすすむにつれて、その生物学的な原因が異なっていたり、不安を伴わないケースもあったりして、その他の不安障害とは分けた方がよいのではという考え方が有力となってきました。

そのような中で、「とらわれ」と「繰り返し行為」という2つの特徴でみてみると様々な病気がつながったため、強迫スペクトラム障害という考え方が生まれてきました。これをうけて、2013年に改訂されたアメリカの診断基準であるDSM-Ⅴでは、強迫症および関連症候群(OCRD)として新しいカテゴリーが作られました。

この新しい診断基準での最大の変更点は、これまで診断基準に定められた「強迫症状を不合理で過剰なものと洞察できていること」という項目が削除されたことです。つまり、強迫症状を本人が「バカバカしいけどやめられない」という認識があるかどうかは問わないということです。

これは、強迫性障害が不安の病気とは異なることを明確にするためだと思います。後述しますが、強迫性障害の中には洞察が乏しく、特に強迫症状に対して問題意識がない方もいらっしゃいます。しかしながら今なお、強迫性障害の診断においては不合理性の認識は重要なポイントに違いありません。

もうひとつの変更点としては、チック障害との関連する強迫性障害をサブタイプとして分けたことです。チック障害を合併している強迫性障害の患者さんは、典型的な強迫観念と強迫行動をする患者さんとは少し異なります。

このように、強迫性障害の診断基準は大きく変わっています。実際の診断で重要なポイントをみていきながら、強迫性障害の診断基準をみていきたいと思います。

強迫性障害の症状について詳しく知りたい方は、「強迫観念と強迫行為とは?強迫性障害の症状」をお読みください。

 

2.強迫性障害の診断ポイント①-2つのタイプ

認知タイプと運動性タイプでは、強迫性障害の薬の効き方や治療アプローチが変わってきます。

強迫性障害は、強迫観念と強迫行為の2つの強迫症状を特徴とする病気です。強迫行為とは、ある考えやイメージにとりつかれて何度も考えてしまうことです。強迫行為とは、それを打ち消すために繰り返し行動してしまうことです。

この強迫観念と強迫行為の関わり方でみると、強迫性障害は2つのタイプに分けることができます。

  • 強迫観念→強迫行為:congnitive type(認知タイプ)
  • 強迫行為⇔強迫観念:motoric type(運動性タイプ)

強迫性障害として最も典型的なのは、強迫観念へのとらわれのために不安が高まり、それを打ち消すために強迫行為を行っていきます。

「汚染してしまって病気になってしまうのでは」「誰かを傷つけてしまって大変なことになるのでは」と いった、最悪の事態を想定してしまいます。それによって現実を誤って認識してしまって、コントロールできないまでの過度な不安に発展してしまうのです。

このようにして認知のプロセスで不安が増幅されているのが明らかなので、認知タイプといいます。

それに対して、行動から始まるタイプがあります。例えばスリッパをそろえている時に、「ピッタリとした」感覚が得られないために、何度も何度も繰り返して並べ治してしまうことがあります。「そうしないではいられない」と駆り立てられるようにして、強迫行為を行ってしまいます。

このような強迫行為は、強迫観念やそれに伴う不安によって引き起こされる行為ではありません。強迫行為が強迫観念と相互に働いて、結果的に「繰り返し行動」を行ってしまいます。このため、運動性タイプといいます。

この2つは、強迫性障害という疾患の中でも質が異なっています。それによって治療薬の反応性も異なりますし、精神療法のアプローチの方法も異なってくるのです。

 

3.強迫性障害の診断ポイント②-チック障害との関連

チック障害を合併している患者さんでは、運動性タイプが多いです。このため、チック障害を合併しているかどうかを分けて診断することが大切です。

チック障害と強迫性障害は密接に関係していることが分かっています。そしてチック障害を合併している患者さんは、典型的な強迫性障害のタイプとならないことが多いです。このため最新の診断基準でも、チック障害の患者さんは特定することが盛り込まれています。

チック障害とは、突発的に瞬きをしたり顔をしかめたり、声を出したりといったことをしてしまう病気です。チック障害の患者さんの中には、何だかしっくりこない感覚につられて症状が生じることがあります。

この「まさにぴったり(just right)」とした感覚というのは、強迫性障害の患者さんでもよくみられる強迫観念のひとつになります。対称性や正確性にとらわれていて、自分の中のルールのようなものから強迫行為が生じてきます。先ほどの強迫性障害のタイプでいえば、運動性タイプになります。

チック障害に関連のある強迫性障害には、以下のような特徴があります。

  • 運動性タイプが多い
  • 早期に発症
  • 男性が多い
  • ADHD(注意欠陥多動性障害)の合併が多い

このタイプでは、治療も異なります。抗うつ剤は効きにくく、抗精神病薬の方が効きやすいです。精神療法も認知面でアプローチしても効果は乏しいので、行動面からのアプローチが中心になります。このため分けて診断することが重要です。

 

4.強迫性障害の診断ポイント③-不合理性の認識

強迫症状を「バカバカしい」「過剰だ」という認識があるかどうかは、精神病圏かどうかを分ける重要なポイントです。診断基準からは外れましたが、診断のときには確認が必要です。

強迫性障害は、従来は不合理性の認識を診断基準に加えていました。不合理性の認識とは、自分自身で「バカバカしい」「過剰だ」と認識しているかどうかです。

例えば、汚染恐怖にとりつかれて何度も手を洗ってしまう方では、「バカバカしい」と思いながらも手洗いをやめられないのです。冬場は手が赤くて擦り切れそうになっても止められません。「止めたくても止められない」のです。

このように自分の症状が不合理だという認識は、従来から強迫性障害の診断基準の重要なポイントとされてきました。「何とかして止めたい」と抵抗して思い悩むか、それとも強迫観念を事実だと信じ込んでしまうかは重要な臨床上のポイントです。

確信してしまって妄想的になっている場合は、精神病圏として治療アプローチも変わるためです。その強迫観念が自らの心が生み出しているものか、それとも外からやってきたものなのかを見極めて、統合失調症かを鑑別する必要もあります。

後ほど診断基準をお伝えしますが、新しい診断基準では不合理性の認識は省かれています。そのかわりに、病識(自分が病気であるという認識)の程度を評価するようになっています。しかし今なお、不合理性の認識があるかどうかは重要なポイントです。

 

5.強迫性障害の診断基準とは?

ICD-10とDSM-Ⅴの2つの診断基準があります。

強迫性障害のような心の病気の診断は、身体の病気のように検査で客観的に診断できるものではありません。

医師が自分の感覚で勝手に強迫性障害と診断してしまうと、同じ症状でも人によって診断がバラバラになってしまいます。このため、強迫性障害にも診断基準が作られていて、それに従って診断していきます。

現在では、「DSM-Ⅴ」と「ICD-10」の2つの基準があります。

DSM‐ⅤはAPA(米国精神医学会)が定めたもので、上から順番にチェックしていくと診断ができるようになっています。これに対して ICD-10はWHO(世界保健機関)による基準で、典型的な症状を文章で記述しています。

両者には若干の相違がありますが、貫かれている精神は「医師の違いによって起こる診断の差をなくすこと」に変わりはありません。いずれの診断基準も、基準に当てはまるかどうかで病名を判断するので、「操作的診断基準」と呼ばれています。

これらの基準を採用することで、これまで多かった医者による診断のばらつきが改善されました。その一方で、文字面をおって診断してしまうと過剰診断しかねない危険性もあります。実際には症状だけでなく、病気の本質的な部分もみながら診断を行っていきます。

 

6.強迫性障害の診断基準-DSM-Ⅴ

アメリカの診断基準であるDSM-Ⅴでは、強迫性障害はA~Dまでの4項目をたどっていくことで診断をつけていきます。順番にみていきましょう。

A.強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在

強迫性障害の中核症状は、強迫観念と強迫行為の2つになります。なかには運動性タイプのように、強迫観念は目立たずに強迫行為だけが外から見てわかることもあります。そのような患者さんも診断できるように、どちらかが認められることを必須としています。

強迫観念と強迫行為について、それぞれ定義が診断基準に書いてありますのでご紹介します。

強迫観念は以下の1・2によって定義される:

  1. 繰り返される持続的な思考、衝動、またはイメージで、それは障害中の一時期には侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人においてそれは強い不安や苦痛の原因となる。
  2. その人はその思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動によって中和しようと試みる。

このようにいうと難しいですね。簡単に言うと、

  • ある考えやイメージが繰り返し浮かんできている
  • どっかの時点で、勝手にやってきて嫌なものだと感じている
  • 打ち消そうと努力している

そのような観念のことを強迫観念といいます。つぎに強迫行為についてみてみましょう。

強迫行為は以下の1・2によって定義される:

  1. 繰り返しの行動や心の中の行為であり、その人は強迫観念や決まりに従って、それらの行為を行うように駆り立てられているように感じている。
  2. その行動または心の中の行為は、不安や苦痛を避けたり緩和したり、何か恐ろしい出来事や状況を避けることを目的としている。しかし中和したり予防したりしようとしていることは、現実的な意味ではつながりがなく、明らかに過剰である。

つまり、強迫行為は以下のようになります。

  • 実際の行動でも心の中の行いでもよい
  • 強迫観念やルールに従わなければという焦りがある
  • 不安や苦痛を和らげたり、回避するためのもの
  • 現実的でなく、明らかに過剰である

それを踏まえて、これらの強迫観念や強迫行為が強迫性障害の症状かどうかを見極めていきます。

B.強迫観念や強迫行為が時間を浪費させているか、臨床的に意味のある苦痛、または社会的・職業的・他の重要な機能の障害をもたらしている。

強迫症状が生活に支障を及ぼしている必要があります。診断基準では、時間の浪費の目安は1日1時間以上とされています。

誰しも、ふとした瞬間に心配になることはあります。例えば家を出てすぐに、「鍵をかけたかしら」と気になって自宅に戻って確認するようなことは多くの方が経験しているかと思います。一度確認すれば安心するかと思いますが、強迫性障害ではそれだけではすみません。

C.物質または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない

D.他の精神疾患の症状ではうまく説明できない

アルコールや薬物による影響でないことを示す必要があります。また、さまざまな精神疾患でないことも示す必要があります。この点については、後述します。

 

7.強迫性障害の診断基準―ICD-10

ICD-10では、不合理性の認識が必須となっています。

参考までにICD-10の強迫性障害の診断基準に関して、その要点をまとめたいと思います。DSM-Ⅴとの違いは、不合理性の認識の部分です。ICD10では不合理性を認識し、それに対して抵抗することを必須としています。

  • 反復する強迫思考あるいは強迫行為である。
  • 少なくとも2週間連続してほとんど毎日存在し、生活する上での苦痛か妨げの原因となっている。
  • 強迫思考や強迫行為を無意味で効果がないと認識し、繰り返し抵抗を試みるが成功しない。
  • 強迫症状は、その人自身の思考あるいは衝動として認識されている。
  • その人が依然として抵抗する思考あるいは行為が少なくとも1つ以上存在する。
  • 思考あるいは行為の遂行は、それ自体が楽しいものであってはならない。
  • 思考、表象あるいは衝動は、不快で反復性でなければならない。

 

8.強迫性障害の診断の実際

うつ病や統合失調症、発達障害でないことを確認していく必要があります。それぞれの疾患に、強迫性障害が合併することもあります。

このように見ていくと、強迫性障害の診断は簡単のように思えるかもしれません。しかしながら強迫性障害の診断は、そんなに単純ではありません。

DSM-Ⅴの診断基準の最後にありましたが、その他の精神疾患でないことを示していく必要があるのです。

うつ病では、落ちこんだ気分と一致して考え方も悲観的になります。そんな中で現実的な問題を過剰に心配してしまうことがあります。そしてそれに対して、執拗にとらわれることもあります。不合理性の認識がないことが多く、それ以外にも様々なうつ病の症状が認められます。

しかしながら、強迫性障害の患者さんがストレスからうつ病になることもあります。そのような場合も、まずはうつ病治療からはじめていきます。

強迫観念が妄想的になると、統合失調症と紛らわしいこともあります。強迫観念は自分の心の中から出てくる考えやアイデアで、統合失調症の幻聴や思考吹入のように外から入ってくるものではありません。そして統合失調症では、不合理性を認識していないことがほとんどです。

発達障害でも、自分の興味や行動に対してこだわりが認められたり、常同行為が認められます。ですが本人が不安に感じることは少なく、またコミュニケーションの障害が認められます。強迫性障害を合併することも多く、重症化しやすい傾向にあります。

 

まとめ

強迫性障害の診断基準と、診断の実際についてみてきました。

強迫性障害は非常に本人の苦しみが大きく、周りへの影響も大きな疾患です。そして強迫性障害という疾患概念も定まったものではなく、その概念も最近になって変わってきています。

強迫性障害のセルフチェックをしてみたい方は、「強迫性障害をセルフチェックする4つのステップ」を続けてお読みください。

強迫性障害の背景を見極めるには、専門家でも難渋することがあります。強迫性障害を心配される方は、ぜひ精神科や心療内科を受診するようにしてください。

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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