うつ病への運動療法の効果とは?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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「身体を動かすと気持ちがスッキリする」

そんな感覚をみなさんも経験されたことがあると思います。運動は気分を改善する効果があると考えられ、うつ病治療に取り入れられています。国によってもガイドラインでの運動療法の位置づけは異なっていますが、軽度のうつ病では効果があるだろうと考えられています。

しかしながら、運動といっても様々な運動があります。どのように運動をしていけばよいのでしょうか?また、現実的には運動療法はどのような方が行うべきでしょうか?

ここでは、うつ病への運動療法の効果について詳しくみていきたいと思います。

 

1.うつ病への運動療法の効果

運動療法の効果については定まっていませんが、デメリットが少ないことを考えれば、うつ病治療の有効な方法のひとつといえます。

運動が気分の安定につながるというのは、患者さんも直感的に理解してくださる方が多いです。私も運動を患者さんにすすめると、運動が患者さんにとって良い方向に働くことをよく経験しています。しかしながら運動療法が本当に効果があるかどうかは、医学なので客観的に調べていく必要があります。

うつ病への運動療法の効果について、さまざまな研究が行われています。多くの研究では、軽度うつ病には効果があると考えられています。しかしながら運動の研究は難しく、質の低い研究になりがちです。

というのは、運動と一言で言っても、その種類や強度、期間などによっても異なります。運動というと汗をかきながらスポーツをするイメージですが、会社に通勤するのも家事をするのも運動ともいえます。また、運動療法は脱落してしまう方も多いです。このため正確なデータがとれないのです。

できるだけ質の高い39の研究にしぼって解析した結果、「運動療法の効果は限定的だが無効とは言えない」と結論づけられました。このため、日本ではガイドラインに組み込まれて推奨するほどにはなっていません。

しかしながら質が高いと定評のあるコクランレビューでは、運動療法は中等度の臨床効果があるとされています。その効果は、精神療法や薬物療法と同等という結果になっています。

運動療法は抗うつ剤の副作用のようなデメリットは特にないので、そのような意味では有効な治療方法のひとつといえます。

 

2.運動療法にはうつ病の予防効果はあるの?

運動療法の予防効果としては、多くの報告があります。運動によってもたらされる仲間との交流によっても、ストレスの軽減が期待できます。

それでは、運動をしているとうつ病予防に効果はあるのでしょうか?

運動のうつ病予防効果についても、さまざまな研究があります。多くの研究で、運動によってうつ病のリスクを減少させるという報告があります。アメリカでの公的な調査では、活動的な人は不活発な人よりもうつ症状の発症リスクが、15~25%低いという結果でした。

その一方で、若者では予防効果がないとする論文があったりもします。「運動」のもつ漠然さと継続の難しさから、運動療法の研究はばらつきがあるのです。

しかしながら全般的に、運動はうつ病を予防するという報告が多いです。ここでの運動は、うつ病治療での運動とは少し違います。治療として運動するときは、管理者のもとでの運動です。一方で予防としての運動は、本人の自由な運動です。そこには治療者と患者という関係ではなく、「仲間」との関係から生まれる純粋に運動だけではない効果が含まれてきます。

このような総合的な運動のもつ効果を考えると、運動の予防効果はあると考えてよいかと思います。

 

3.効果的な運動療法の方法とは?

できるだけ高強度のレジスタンス運動(+有酸素運動)を、週に3回以上で行うことが効果的といえます。まったく運動しないよりは、軽くでも運動した方がよいといわれています。

どのような運動が効果的なのでしょうか?

運動の種類としては、大きく2種類あります。

  • レジスタンス運動(ウェイトトレーニングなど)
  • 有酸素運動(ランニングなど)

実は有酸素運動だけでは効果は大きくありません。最も効果があるのは、レジスタンス運動とされています。次いで、レジスタンス運動と有酸素運動の組み合わせといわれています。

運動の強度としては、低強度よりも高強度の運動の方が抗うつ効果が高いと考えられています。これはレジスタンス運動と有酸素運動に共通します。頻度として週に3回と5回を比較した研究もありますが、頻度による効果の違いはみられませんでした。

このため、できるだけ高強度のレジスタンス運動(+有酸素運動)を、週に3回以上で行うことが効果的といえます。

しかしながら、低強度の運動が全く効果がないかというと、そんなことはありませんでした。推奨の半分以下の運動量であっても、運動をしないよりも改善効果がみられたとする報告があります。まったく運動しないよりは、軽くでも運動した方がよいということになります。

現時点では、有能な指導者による運動療法が推奨されていますが、インターネットやカウンセリングによる運動指導によって、しっかりと運動療法が行えることもあります。しかしながら、管理者がいないと運動療法の効果は乏しいという報告もあります。運動を継続していくのが難しいのです。

 

4.うつ病の運動療法のガイドラインでの位置づけ

イギリスでは「軽度~中等度のうつ病で推奨」となっています。日本では、「確立された治療法ではない」とされています。

うつ病のガイドラインでの、運動療法の位置づけを考えていきましょう。

うつ病の運動療法の位置づけは、国によっても異なっています。イギリスのNICEのガイドラインでは、「軽症~中等度のうつ病において運動療法は推奨される」とされています。そして具体的な方法として、「有能な指導者によって構造化されたグループプログラムを、45~60分、週3回、10~14週」としています。

日本うつ病学会のガイドラインでは、以下のようになっています。

  • うつ病の運動療法に精通した担当者のもとで、実施マニュアルに基づいた運動療法が用いられることがある。
  • 運動の効果については否定的な報告もあり、まだ確立された治療法とは言えない
  • 運動の頻度については一定の見解はほとんどないが、週3回以上の運動が望まれ、強度は中程度のものと一定時間継続することが望まれる。
  • 虚血性心疾患や脳疾患、筋骨格謹啓の疾患がある場合には控えて、運動療法中はこれらの疾患に気をつける必要がある。

このように、日本では確立した治療法ではないとされていますが、うつ病治療の選択肢として運動療法が紹介されています。

 

5.どのような方に運動療法が向いているの?

  • 軽度~中等度のうつ病の方
  • 運動を自発的にしようと思える方
  • 生活習慣病のあるうつ病の方
  • 睡眠障害のあるうつ病の方
  • 復職を控えている方
  • 抗うつ剤に抵抗が強い方

運動療法は、現時点では薬物療法を補助するような位置づけになります。どのような方に向いているのか、みていきましょう。

うつ病の程度としては、軽度~中等度の方です。重度の方でも部分的に効果があったとする研究もありますが、一般的にはエネルギーが低下している状態では十分な休養が必要です。運動を行った後に極度の疲労感がある時は負荷のかけすぎです。運動をしても多少の疲れで済むような方では、運動療法が向いています。

また、運動療法は継続していくことが必要です。このため、自発的に運動を使用とする意志が必要です。運動療法が有効と思われる患者さんには、医者側から働きかけることも必要です。

そして、生活習慣病を抱えている方に向いています。冠動脈疾患(心臓疾患)のあるうつ病患者さんでは、死亡率を低下させるという報告があります。運動をすることで肥満の軽減や肝機能障害の改善なども期待できます。

不眠がみられる方にも向いています。運動をすると、睡眠時間や入眠時間の改善が認められます。体内時計のメリハリがつくようになり、夜の睡眠が深くなります。

うつ症状がある程度回復して、リハビリの過程で運動療法を行っていくと、体力の回復とともに社会生活のリハビリに繋がっていきます。現実的にはこの目的で運動療法が行われることが多いです。

最後に、どうしても抗うつ剤を飲みたくない時にはひとつの選択肢になります。運動療法は、抗うつ剤の治療よりも抵抗が低く、またお金がかかる治療でもありません。ですから、抗うつ剤にどうしても抵抗が強い時は、ある程度の休養期間をおいて少しずつ運動療法をすすめていくこともあります。

 

6.運動療法のうつ病への効果の仕組み(作用機序)

運動によってBDNF(脳由来神経栄養因子)が増加することが動物実験でわかっていますが、正確なメカニズムは判明していません。

運動療法はどうして効果があるのでしょうか?うつ病のメカニズムもはっきりとわかっていないので、運動療法のメカニズムもよくわかってはいません。以下のような様々な理由が考えられています。

  • 運動によりBDNF(脳由来神経栄養因子)が増加し、脳神経の新生が活発になる
  • 運動によりモノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン)が増加する
  • 運動により副交感神経系が活性化される
  • 運動により副腎皮質系が落ち着く
  • 運動により体内時計のリズムが整う

このなかでも、BDNFによる神経の再生が抗うつ作用に関係していると考えられています。BDNFは脳の神経細胞が正常に機能するために必要で、抑うつ症状がみられている患者さんでは血中濃度が低下しています。運動には、このBDNFを増加させる作用があることが、動物実験で確認されています。

 

まとめ

運動療法の効果については定まっていませんが、デメリットが少ないことを考えれば、うつ病治療の有効な方法のひとつといえます。

運動療法の予防効果としては、多くの報告があります。運動によってもたらされる仲間などによっても、ストレスの軽減が期待できます。

できるだけ高強度のレジスタンス運動(+有酸素運動)を、週に3回以上で行うことが効果的といえます。まったく運動しないよりは、軽くでも運動した方がよいといわれています。

イギリスでは「軽度~中等度のうつ病で推奨」となっています。日本では、「確立された治療法ではない」とされています。

運動療法が向いているのは、以下のような方です。

  • 軽度~中等度のうつ病の方
  • 運動を自発的にしようと思える方
  • 生活習慣病のあるうつ病の方
  • 睡眠障害のあるうつ病の方
  • 復職を控えている方
  • 抗うつ剤に抵抗が強い方

運動によってBDNF(脳由来神経栄養因子)が増加することが動物実験でわかっていますが、正確なメカニズムは判明していません。

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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