回避性パーソナリティ障害(回避性人格障害)をチェック!
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
回避性パーソナリティ障害は、「他人からの評価や恥をかくことを極端に恐れ、対人や社交の場を避けて生活に支障が生じる障害」です。
本当は積極的に人や社会と関わりたい!という望みがあるのにも関わらず、恥をかくことを非常に恐れ、人前や社交の場になかなか出ていけません。
恥を恐れて引込み思案になるのは日本人に多い性格傾向ですが、程度がひどくなってしまうと問題が生じます。
本人の苦痛や生活への支障が大きい状態で放置してしまうと、大人の年齢になっても働けないニートや、引きこもりに発展していく可能性もあります。
では、具体的にどんな症状があると、治療がすすめられる障害となるのでしょうか?ここでは、回避性パーソナリティ障害(回避性人格障害)の症状をチェックしてみましょう。
1.回避性パーソナリティ障害の症状をチェックするポイント
回避性パーソナリティ障害に多い4つの特徴をチェックしてみましょう。
ここでは、回避性パーソナリティ障害における、大まかな症状の特徴をチェックしていきます。
回避性パーソナリティ障害の症状には、主に4つの柱があり、それらに当てはまる場合、回避性パーソナリティ障害の可能性が高くなります。
- 人からの評価を常に気にして、否定されるのを極端に恐れる
- 内面に抱えた理想の自己像と現実の自分にギャップがある
- 欲求はあるのに、人前や社交の場を避けてしまう
- 結果として本人が苦痛を感じ、仕事や生活に支障が出ている
①人からの評価を常に気にして、否定されるのを極端に恐れる
人や社会からの評価を気にするのは、人間として自然な心理です。誰しも、けなされるよりはほめられた方が、バカにされるよりは尊敬された方が、嫌われるよりは好かれた方が気分はいいですよね。
とくに日本人は周囲からの評価を気にする傾向が強いと言われ、そのような性格自体は特別めずらしいものではありません。
回避性パーソナリティ障害のチェックポイントは、「常に」と「極端に」という部分になります。
人の評価にさらされるのがまったく怖くないという人は稀ですし、心身の状態が悪いときは一時的にひどく自信を失い、人を避けてしまうことは誰にでもおこり得ます。
しかし回避性パーソナリティ障害の方は、傷つきや失敗、人の評価にさらされることを「常に」「極端に」恐れるため、対人や社交の場が、とてもストレスの多い状況に感じられてしまいます。
回避性パーソナリティ障害ではない方の場合、他人の評価や失敗が怖いなと感じてはいても、それはそれとして、人と接したり自己表現を行ったりすることができます。しかし回避性パーソナリティ障害の方には、それがとても困難です。
また、通常であれば流してしまえる程度の他人の言葉に対しても過敏に反応し、精神状態に強いダメージをくらいます。
反対に、ほめられたり好意を持たれたりしたとしても、「お世辞を言っているだけ」「本当の自分を知れば離れていってしまう」のような、卑屈な受け取りをしてしまう傾向があります。
②内面に抱えた理想の自己像と現実にギャップがある
①でご紹介した評価への強い恐れは、自信の無さからおこっています。
とはいえ、「自分に対して自信満々!」という方は、そう多くはないでしょう。自分は能力も無いし容姿も優れていないしと低い自己評価をしていて、自信ありげな友人が羨ましいと感じている方もけっこういらっしゃると思います。
では、そのような方すべてが人からの評価を強く恐れて対人を避けているかというと、そんなことはありませんよね。
人からかなりキツイ言葉を言われたり笑われたりしても、意外と気にせず積極的な交遊をしていたり、失敗して落ち込んでもめげず、挑戦をくり返していたりする場合もよくあります。
同じように自信の無さを抱えているのに、なぜ行動に違いが生まれてくるのでしょうか。それは、「現実の自分に対する、自分自身による評価」の違いです。
誰しも、「こうなりたい」という憧れはありますが、多くの場合はそれが自分には無理なことを悟り、現実の自分には自分なりの良さがあることを知っています。
そのため、他人から否定的な言葉をかけられても、「まぁ仕方がないか。たしかに自分は欠点も多いけど、自分には自分の良さがある」と考えたり、「人にはわからないかもしれないけど、自分にだっていい部分がたくさんある」のように、自分をフォローすることができます。
もしも他人の言葉が自分を正当に評価していないと感じれば、腹が立ったり落ち込んだりすることはありますが、自分で自分の価値を認めていれば、他人の評価がそこまで強く自分を苦しめることはありません。
親しい友人や家族に話を聞いてもらったり、否定された悔しさをモチベーションに自分を高める努力をしてみたり、他のことをしているうちに忘れてしまったり、様々な方法で自分の精神状態を保つことができます。
しかし回避性パーソナリティ障害の方は、自分自身が現実の自分を許せず、受け入れることができない心理状態にあります。
そのため、必要以上に高い目標や完璧な理想を自分に課してしまい、「そうでない自分には何の価値もない。失敗や恥をかくなんて許されない」という強い思いこみを抱いています。
自分1人の状態では理想の自分を信じ込むこともできますが、人前に出れば他人からの評価にさらされ、周囲には理想とは違う自分が見えていることを思い知らされる可能性があります。
また、何かを実際の行動に移せば自分が思ったようにはできず、失敗をして他人からは笑われてしまうということがおこり得ます。
そのときに深く傷つく自分を心の奥底では知っているため、人と接することや積極的な行動が極端に怖くなり、結果的には避けてしまいます。
もしも良い評価や好意を得られたとしても、自分自身が自分の価値を認めていないので、よっぽど強く賛辞してもらえなければ自信が持てず、卑屈にしか受け取れないということがおこります。
③欲求はあるのに人前や社交の場を避ける
②でご紹介した通り、回避性パーソナリティ障害の方にとって、他人から現実の自分がどのように見られているかを知ることや人前で失敗をすることは、耐えがたい恐怖です。
そのため人前や社交の場を避けてしまうようになり、できるだけ人との接触が少なく自己表現をしなくてすむような職業を選び、社会的な活動には参加しない、新しい人間関係は築かない、そういう傾向が強くなっていきます。
ここで重要なのは、「欲求はあるのに…」という点です。
人前や社交が苦手という方は、たくさんいらっしゃいます。誰かといるより一人静かに読書をするのが好き、自己表現が苦手で控え目にしておきたい、そのような性格は、決して悪いものではありません。
人と積極的に関わる職業よりマイペースで行える仕事を選ぶことも、限られた人とだけしか付き合わないことも、本人の希望に沿ったものならまったく問題はありません。
ですが回避性パーソナリティ障害の方の場合、「人と接したい」「積極的に様々なことにチャレンジしたい」「自己表現がしたい」という欲求自体は、並み以上に持っています。
それなのに実際には評価や失敗が恐くて前に出ていけず、やりたいと思ったことにも踏み出せず、人生の選択肢が非常に制限され、自分が本来望んでいる方向とは反対の行動をしてしまいます。
そこのギャップで強い葛藤がおこり、うつ状態になったり、無気力になって完全に引きこもったりしてしまう場合もあります。
また、仕事ができなくなったり、恋愛や友人付き合いの機会も逃してしまったり、孤立したことでますます卑屈になって悪循環におちいってしまうこともめずらしくありません。
恋愛に関しては、せっかく相手が好意を持ってくれたとしても、深い付き合いになると嫌われてしまいそうで恐い、自分の体に自信が持てずスキンシップが取れないなど、結局は相手を避けてしまうということがよくおこります。
回避性パーソナリティ障害の方は、外に向かっては礼儀正しく、真面目で大人しい態度で振る舞うことも多いので、周囲からすると、本人が強い苦しみを抱いているとはなかなか理解ができません。
パーソナリティ障害では、本人は自分の問題を自覚せず、周囲の方が巻き込まれて大変な思いをするパターンも多いです。ですが回避性パーソナリティ障害の場合は、周囲よりも本人の苦しみが強く、何とかして改善したいと願うものの治療に踏み出すこともなかなかできず、引きこもりになってしまうケースもあります。
④結果として本人が苦痛を感じ、生活に支障が出ている
③でご紹介した通り、回避性パーソナリティ障害は本人の苦痛がとても強くなり、人生の重要な選択に支障をおよぼす障害です。
そもそもパーソナリティ障害は、脳に何らかの変異がおこる病気と違い、「本人が苦痛を感じているか」「周囲が巻き込まれて辛い思いをしているか」「仕事や生活で支障が出ているか」が、障害をチェックする際の大きなポイントとなります。
性格の偏りは誰しもあり、どのような性格でも最低限の社会マナーを守り、学校や仕事、家庭生活において特別な支障がなく過ごせていて、本人がとくに苦痛を感じていなければ問題にはなりません。
ですが回避性パーソナリティ障害の方の場合、本人の葛藤や緊張が強く、常に不安や欲求不満を抱えている状態になってしまうので、放置するとうつや不安障害が合併してしまうことがあります。
また、受験や就職、恋愛や結婚など、人生を左右するシーンにおいて様々なチャンスを逃し、定職につけなかったり、最終的には引きこもってしまったりという問題もおこりやすい障害です。
自分の抱えている苦しさが回避性パーソナリティ障害の症状に当てはまるかもと感じたときは、パーソナリティ障害について詳しい精神科への相談をおすすめします。
2.診断基準から回避性パーソナリティ障害の症状をチェック
回避性パーソナリティ障害の国際的な診断基準として、DSM-ⅤとICD-10の2つがあります。回避性パーソナリティ障害の診断にあたっては、これをもとにチェックしていきます。
精神科で扱う病気は内科など体の病気と違い、検査数値や外見上の変化で判断することができません。
しかし、その病気で見られる特徴的な症状や傾向というものはあります。それらをリスト化したものが国際的な診断基準として、治療の現場ではよく用いられています。
診断基準はそれだけで単純に病気を判断できるというものではなく、また絶対的なものでもなく、あくまで1つの参考です。診断基準と照らしながら医師が生身の患者さんの話を聞き、注意深く観察する中で病名は確定されていきます。
ですので専門の医師以外の一般の方が、診断基準だけで簡単に病気をチェックできるわけではありません。ですが診断基準と合わせて自分の状態をチェックすることで、問題点が見えやすくなり、精神疾患を理解するきっかけになります。
現在、診断基準として主に採用されているアメリカ精神医学会によるDSM-5と、WHO(世界保健機構)によるICD-10、それぞれの診断基準を簡単な文章でご紹介しますので、それに沿って回避性パーソナリティ障害の症状をチェックしてみましょう。
①DSM-5による回避性パーソナリティ障害の診断基準
以下のうち4つ以上の特徴が成人期早期までに始まり、日常の広い範囲にわたって見られる。
- 他者からの批判、否認、拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業を避ける
- 好かれているという確信がなければ、人と関係を持とうとしない
- 恥をかかされること、バカにされることを恐れるため、親密な関係であっても遠慮がちになる
- 社会的な状況下では、他者からの批判や拒絶に意識がとらわれている
- 自己に対する不全感があり、新しい対人関係に踏み出せない
- 自分は社会では評価されない、人間的に長所が無い、他の人より劣っていると思いこんでいる
- 恥をかいてしまうかもしれないという恐れにより、リスクのある行動や新しい活動に取りかかることに、異常なほど引っ込み思案である
②ICO-10による不安性(回避性)パーソナリティ障害の診断基準
以下を特徴とするパーソナリティ障害
- 持続的で幅広い場面における緊張と心配の感情
- 自分が社会的に不適切な存在である、人柄に魅力がない、もしくは他人から劣っているという確信
- 社会的場面で否定されたり批判されたりすることへの、過度なとらわれ
- 好かれていると確信できなければ、人と関わることに対して乗り気ではないこと
- 身体的な安全への強い欲求から、生活に制限を加えること。批判や拒絶を恐れ、対人接触のある社会活動や職業を避けること
3.回避性パーソナリティ障害と似た症状の疾患
回避性パーソナリティ障害には、社交不安障害(対人恐怖症)が合併していることが多いです。また、統合失調質パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害と紛らわしいこともあります。
精神疾患の中には、よく似た名前や特徴の疾患が多く、混乱してしまうこともあるかもしれません。
実際に専門の医師でもその判別は難しく、診断がつくまでに長い時間がかかることもあります。そのため、最終的には病院を受診しなければ確かなことはわかりませんが、回避性パーソナリティ障害と混同されやすい、合併しやすい疾患についてお伝えしていきます。
①社交不安障害(社会不安障害)
回避性パーソナリティ障害にもっとも症状が近いのが、社交不安障害(SDA)です。
社交不安障害は、社交の場において恥をかくのではないかという恐れがあり、心臓が激しくドキドキしたり、顔が赤くなったり大量の汗をかいたりという自律神経症状がおこります。
一般的には、あがり症、赤面症などと呼ばれることもあります。
あがってしまっている自分が周囲におかしく思われるのではという不安がさらなる不安を招き、だんだん社交の場に出られなくなってしまいます。
社交不安障害自体は、急性の不安発作です。社交場面になった時に急激な恐怖とともに、様々な自律神経症状に襲われます。その一方で、普段の慣れた場所では基本的に問題なく過ごせることも多いです。
しかしながら社交不安障害がひどくなっていくと、回避性パーソナリティ障害を合併することが多いです。幅広い社交の場面で常に不安を感じてしまう全般性というタイプでは、回避傾向が性格として固まってしまい、回避性パーソナリティ障害を同時に発症している可能性が高くなります。
②対人恐怖症
対人恐怖症は、国際的な診断基準にある病名ではありません。日本で昔から使われていた病気で、診断基準に当てはめると社交不安障害に近い病気です。
社交不安障害は「他人からどのように見られているのか」という評価を気にしてしまいますが、対人恐怖症は「他人に迷惑をかけたらどうしよう」「自分の存在が周囲に不快感を与えてしまう」といった思いこみにとらわれていることが多いです。
社交不安障害によって回避傾向が強まり、それが思考や行動パターンとして固まってしまうと回避性パーソナリティ障害と診断されます。対人恐怖症も、回避性パーソナリティ障害に近い意味合いで使われることもあります。
③統合失調質(スキゾイド)パーソナリティ障害
人との接触や社会的活動をできる限り避け、引きこもりになる可能性があるという行動面だけで見ると、回避性パーソナリティ障害と共通しています。
しかし統合失調質(スキゾイド)パーソナリティ障害の方は、元々人と接することに関心を持たず、回避性パーソナリティ障害の人とは反対の性格傾向にあります。
この障害の方の場合は、積極的な社交は目指さず、自分の性格を生かせるようなライフスタイルや最低限の社会スキルを身につけることが、障害克服のカギとなります。
④自己愛性パーソナリティ障害
内面に強い自己否定感があり、そのために自分の等身大以上の高い理想を抱くという面で、回避性パーソナリティ障害の人と近い部分があります。
しかしこちらは本人にその自覚が無く、本当に自分を偉大で特別な人物と思いこみ、周囲に尊大な態度を取ったり、自分のために人を利用したりという行動が目立ち、遠慮がちな態度が主な回避性パーソナリティ障害の方とは大きく異なります。
ただ、一見すると大人しく卑屈なタイプもあり、そちらは回避性パーソナリティ障害の方と似たような行動パターンをとります。
しかし内面では自分を尊大な存在と信じており、評価をされないのは自分ではなく周囲にあると考えてしまうのが、自己愛性パーソナリティ障害の特徴です。
自己愛性パーソナリティ障害では他を責める傾向があり、回避性パーソナリティ障害では自分を責める傾向があると言われています。
まとめ
回避性パーソナリティ障害をチェックするポイントは、
- 人からの評価を常に気にして、否定されるのを極端に恐れる
- 内面に抱えた理想の自己像と現実の自分にギャップがある
- 欲求はあるのに、人前や社交の場を避けてしまう
- 結果として本人が苦痛を感じ、仕事や生活に支障が出ている
回避性パーソナリティ障害の方は、必要以上に自分を卑下してしまっているだけで、実際にはそれなりの能力や人に好かれる要素を持っている場合も多いのです。
元々は社会的な欲求の高い性格傾向なので、それを上手く生かすことができれば、人生の可能性が広がっていきます。
しかし、感じている恐怖というのはそうとうなもので、自分1人の力で克服するのはなかなか難しいと思います。治療に踏み出すのも大変かもしれませんが、苦しみや支障の強い場合は精神科に相談してみましょう。
ただ、パーソナリティ障害に関しては、医師によってかなり扱いが違います。とくに、回避性パーソナリティ障害の方は、医師の言葉にも傷つきやすいので、事前に、ホームページや本、周囲の情報、または電話での問い合わせなどで、回避性パーソナリティ障害の治療を行える病院かどうかを調べていった方が無難です。
自分が信頼できる医師や心理士さんに出会えるまで、少しかかるときもあるかもしれませんが、あきらめずに探してみてください。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
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