強迫性パーソナリティ障害の治療と周囲の人の接し方

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック

細かい取り決めや秩序、規則などにとらわれ、それらを完璧に追求しようとするあまりかえって本筋を見失ってしまう強迫性パーソナリティ障害。

秩序や規則に忠実な真面目さは本来長所と言えるはずですが、それが極度となり、生活や精神状態に支障がおよんでいるとなると問題となります。

そのような場合には、強迫性パーソナリティ障害という1つの疾患として病院での治療対象となります。

強迫性パーソナリティ障害では、どのような治療が行われるのでしょうか。また、周囲の方はどのようにして接すればいいのでしょうか。

ここでは、強迫性パーソナリティ障害の治療と周囲の方の接し方のポイントについてみていきたいと思います。

 

1.強迫性パーソナリティ障害の症状

強迫性パーソナリティ障害とは、外の決まり事や自分内部の決まり事に強くこだわってしまい、融通をきかせることができない病気です。

はじめに、強迫性パーソナリティ障害の症状を簡単に見てみましょう。

  • 細かなことにこだわり、本来の目的が達成できない
  • 手順や方式どおりに沿おうとするあまり、肝心の作業が進まない
  • 臨機応変な行動ができずトラブルがおきやすい
  • 法律、道徳観念が強固で、そこから少しでもはみ出すことが許せない
  • 自分のやり方を貫きたいあまり、すべてを1人で抱え込んで人に任せることができない。
  • 決まりからはみ出している人を見ると、強くイライラしてストレスがたまる
  • 必要以上に将来が不安になり、お金を使えずストレスがたまる
  • 不必要なものでも捨てられずにため込んで、生活を圧迫してしまう

強迫性パーソナリティ障害では、外の決まり事(法律、規則、道徳規範など)や、自分内部の決まり事(仕事のやり方、予定、手順など)に強くこだわり、そのため生活上の行動が非常に不自由となったり、仕事や日常の作業がなかなか進まないということがおこります。

決まり事や順序というのは、物事を円満に運びやすくするためのものですが、強迫性パーソナリティの方の場合は枝葉の方に強くこだわり、本来の目的が達成できない本末転倒の状態となります。

 

2.強迫性パーソナリティ障害の治療

強迫性パーソナリティ自体は、向社会的な性格です。ですがそれが極端になって、本人に苦しみがあったり生活に支障があると、強迫性パーソナリティ障害として治療が必要になります。

「強迫」とは、何かに強くこだわる状態です。

決まり事に厳しく、自分のやり方にこだわり、作業に完璧さを求める、そんな強迫傾向を持った性格の方はそうめずらしくありません。とくに、日本男性には多いタイプです。本来それは悪い性格ではなく、日本人の仕事の正確さやマナーの良さは世界的にも高い評価を受けています。

強迫性パーソナリティ障害の方の基礎には、真面目、完璧主義、硬い、慎重、物事に忠実などの性格傾向がありますが、それ自体には問題がないのです。それらの傾向が極端になり、かえって仕事や生活に支障がおよぶ状態になると、強迫性パーソナリティ障害として治療対象となります。

症状が表面に目立っていないとしても、強迫的な傾向があるために強い苦痛を感じる場合にも治療がすすめられます。患者さん本人ばかりではなく、周囲の方に被害がおよんでいる場合も同様です。

そのような状態が長く続いていると、本人の心身の疲労も大きくなり、うつ状態や身体的な病気も引き起こしやすくなってしまいますので、何らかの支障や苦痛を感じている場合は、早い段階での治療が望ましいでしょう。

 

3.強迫性パーソナリティ障害の治療目標

強迫性パーソナリティ障害の治療は、精神療法が中心になります。長所は残しながらも、少しずつ柔軟に考えられるようにしていきます。

強迫性パーソナリティ障害の治療では、症状によっておきている心身の苦痛が強い場合には、まず薬を使ってそれらを緩和させることが行われます。しかし薬は、対症療法に過ぎません。

一時的なうつ状態や不安障害などと異なり、強迫性パーソナリティ障害の方の場合は、根本にある性格や幼い頃から植え付けられた考え方などが原因となっているケースが多いので、薬だけで解決をするのは困難です。

そのため、極度になっている強迫的な物事の考え方にアプローチする精神療法を積み重ねていくことが大切になります。さまざまな方法がありますが、認知行動療法などが行われることが多いです。

心理的なアプローチには、長い時間と地道な積み重ねが必要です。長年培ってきた性格傾向や考え方のクセを変えるのは容易なことではありません。

強迫性パーソナリティ障害の方の場合、患者さん自身に苦痛の自覚があるため治療には比較的積極的です。ただ、「自分の性格傾向が極端である」と認識するのは難しく、そこがしっかり理解できるかどうかが治療のポイントとなります。考え方が硬いので、そのことを納得するまでに時間がかかる場合があります。

しかし医師や心理士以外の周囲の方が、患者さん本人の行動や性格傾向について否定するような、問題点を強く指摘するような表現をすることは好ましくありません。

基本にある真面目で決まり事に忠実、慎重で倹約家などの性格自体を変える必要はないのです。むしろそれが長所として生かせるように、適度な柔軟性を身に着けていくことが目標となります。

 

4.強迫性パーソナリティ障害の薬物治療

強迫性パーソナリティ障害の治療では、薬物療法は症状を緩和させるために行っていきます。

強迫性パーソナリティ障害の治療では、薬は補助的な対症療法として使われます。

強迫性パーソナリティ障害の方の場合は、毎日がかなりストレスフルな状態になっていることが多いので、うつ状態、不眠などの傾向が目立ちます。そのようなときには、心身を休ませ落ち着いて問題と向き合うために、それらを緩和する薬を使います。

また、パーソナリティ障害から二次的に病的な不安症状が出ている場合、強迫的な傾向があまりに強固になり過ぎているときにも、それらを緩和させる薬が用いられるときがあります。

治療でカウンセリングを受ける場合でも、まずは薬を使って困っている症状を落ち着けます。不眠やうつ状態、強すぎる不安や興奮などがあると、心の余裕がなくなります。心に余裕がなければ柔軟な考え方はできませんし、自分の内面と向き合うエネルギーが足りなくなります。

強迫性パーソナリティ障害の人に対して使われる主な薬を簡単にまとめてみます。

①抗うつ剤

気持ちの落ち込みが長引いていたり、物事に気力や興味が出ないといった、うつ状態が見られるときに使われます。

抗うつ薬には様々な系統と種類がありますが、比較的副作用のでにくいSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などが使われることが多いです。

それで効果がみられない場合は、三環系抗うつ薬NaSSAが使われます。

②抗不安薬

抗不安薬は即効性があります。おもにベンゾジアゼピン系抗不安薬が使われています。

ただ、長期間抗不安薬を続けていると問題が生じるお薬です。心身の依存がおこったり、薬の効きが悪くなってしまったりします。このため依存してしまい、抗不安薬をなかなかやめられなくなってしまう方もいらっしゃいます。

ですから抗不安薬は、できるだけ少なく使っていくのが原則です。演技性パーソナリティ障害の患者さんでは、できれば症状が激しい時だけの頓服にしたいお薬です。

③睡眠薬

不眠が辛いときに使われます。睡眠薬にもいろいろな種類が発売されていますが、現在主流なのはベンゾジアゼピン系睡眠薬です。

抗不安薬と同じで依存のリスクがあるので、大量・長期連用にならないように注意が必要です。最近は新しいメカニズムのお薬も発売されているため、効果が期待できる方はそれらから使っていきます。

④抗精神病薬

脳内の興奮に関わるドーパミンを中心に調整する薬です。強い興奮やイライラ、不安をやわらげるときに使われます。抗精神病薬には気分安定化作用があり、効果も早く認められます。

現在では、副作用の少ない非定型抗精神病薬というタイプが中心に使われています。

⑤気分安定薬

気分の波が大きく、情緒不安定な場合に使われます。イライラしたり興奮することが多い方に使われることが多いです。デパケンなどが使われます。

 

5.強迫性パーソナリティ障害の精神療法

認知行動療法などによって、少しずつ思考パターンを変えて考え方を柔軟にしていきます。時間をかけて根気よく行っていく必要があります。

強迫性パーソナリティ障害の治療においては、自分の偏った思考パターン、それに基づく行動パターンに気づき、少しずつ合理的な考え方や行動を身につけられるように訓練をする認知行動療法を行っていくことが多いです。

苦しい考え方の基礎が幼少期の厳しいしつけなどに由来している部分が大きいときには、カウンセリングによる分析的に自己内省がすすめられるケースもあります。

 

①強迫性パーソナリティ障害の認知行動療法

強迫性パーソナリティ障害の方は、自分の内部に「絶対こう」「こうするべき」「こうしなければならない」「これ以外のやり方はあり得ない」など、自分の行動を無意識に縛る様々な苦しい考え方が強固に根付いています。

周囲から見ていると、なぜそこまでそれにこだわるのか理解ができない部分がありますが、患者さん本人の中ではそれが絶対的なもので、それ以外の考え方をすることができないのです。そして自分自身では、そのようなものが自分を縛っているとはなかなか自覚ができません。

そういう苦しい思考に自らが気づき、少しずつ緩める訓練をし、合理的な行動パターンを身に着けていく方法が認知行動療法です。

自分の内部にある思考とそれに基づく行動パターンに気づき、客観的な視点で冷静に見られるようになることができると、自分自身でそれを修正することができるようになっていきます。

こうして少しずつ物事を柔軟に考えられるようにしていきます。

②認知行動療法の難しさ

このようにして認知行動療法をすすめていきますが、強迫性パーソナリティ障害の精神療法には根気が必要になります。自分の偏った思考パターンに気づくことが難しいのです。

自分にとってはそれが当たり前のものとして根付いているので、絶対的なものだと思い込んでしまっています。他人に指摘されても、なかなか聞く耳を持てません。

また、それに気づけたからと言って、そのパターンを修正していくのは容易ではありません。長年にわたって作られた思考パターンなので、その改善には時間が必要になります。

何度も何度も繰り返し、病院の治療時間だけでなく、日常生活の中でも地道な積み重ねを続けることが大切です。あまり効果が見えてこないと途中で放棄してしまいたくなりますが、継続は力なりです。

強迫性パーソナリティ障害の方は、性質上真面目に取り組むことも多いのでそれは利点です。一方で、完璧主義のためにそれを追求し、かえって精神的な疲労が大きくなったり、効果があまり出てこないと自分を責めて逆効果になる場合があります。また、やり方に強くこだわるので、そこにとらわれて本来の方向性を見失うこともあります。

そんなくり返しの中で、自分のそのような傾向がはっきり自覚できるようになってくると、確実に改善は望めます。楽な道ではありませんが、結果的に生きやすくしていくための苦労です。

強迫性パーソナリティ障害の方は、極端な部分さえ改善していくことができれば、社会では評価される特性をたくさん持っています。仕事上でも評価される方が多いです。

自分のせっかくの長所が、「障害」として足をひっぱってしまうのは非常にもったいないのです。信頼できる主治医や心理士とともに、あきらめずに地道な積み重ねを行ってください。

 

6.強迫性パーソナリティ障害の周囲の方の接し方のポイント

強迫性パーソナリティ障害の方の治療には時間がかかるため、支える家族の方や接する周囲の方も大変な部分があります。どのように接したらいいか、そのポイントをみていきましょう。

ですが、ここに書くのはあくまでも一般論です。同じ強迫性パーソナリティ障害の方と言っても状態は様々ですので、症状の程度や環境、年齢や性別などによって対応は臨機応変にしていく必要があります。

困ったことがあるとき、治療を受けている場合には、主治医と相談しながら対応を検討してください。

①否定的な指摘は避ける

強迫性パーソナリティ障害の方の行動を見ていると、「なぜそんなことにこだわるのか」「なぜもっと、効率的にできないのか」と、イライラしてしまうことがあるかもしれません。

しかし、本人はそれをどうすることもできず苦しんでいるのです。まずはそのことを理解してあげてください。

また、結局は仕事が完成させられなかったり、片付けができなかったり、反対に自分のやったことにあれこれ文句を言われると腹が立つこともあると思います。

ですがそこで否定的な言葉で相手の問題点を指摘してしまうと、よけいにこだわりが強くなってしまいます。そして悪循環になってしまう恐れがあります。基本的には口出しをせず、見守るスタンスでいてあげましょう。

何かのアドバイスをしたいときはおだやかな口調で、「こうするともっと良くなるかもしれない」「こういうやり方もある」「こういう風にしてもらうと私は嬉しい」というように、相手を否定しない言い回しにしてみてください。

無理にそれを聞き入れさせようとするのではなく、自分の考えを淡々と話すだけのような気持ちで接すると、不必要なストレスを避けられます。

自己主張をするときは相手を批判しないように心がける

強迫性パーソナリティ障害の方は、自分だけではなく周囲の方にも様々な制限を強いることがあります。

お金の使い方や考え方、やり方や規則に反することへの批判など、あれこれ言われると気が滅入ってしまうことがあるかもしれません。

可能な場合はそれが患者さん本人の障害によるものと理解し、聞き流すようにしていいと思います。ですがあまりにそれが自分自身のストレスになる場合、生活や関係に支障をおよぼす場合には、相手を批判しないように、やんわりと自己主張をしておきましょう。

例えば、「あなたの価値観ややり方は尊重するけれど、私には私の価値観や考えがあるよ」ということを、冷静でおだやかな口調で話すようにしてみます。

ポイントはけんか腰にならないこと、相手を批判しないことです。理屈で話せば納得してくれる傾向にあります。

③自分のペースを大切に

とくに家族の方の場合、本人の言動や治療の進行具合などが気になってしまうかもしれません。ですが、それは本人の問題と線を引き、自分のペースを守るようにしましょう。

本人から話を振ってきたときには、基本は聞き役でいてください。

④話をかぶせないようにする

強迫性パーソナリティの方は、話し方が非常に回りくどい場合があります。枝葉の部分まで正確に伝えようとするあまり、話の本筋を見失ってしまうのです。

周囲の方からすると、結局は何が言いたいかわからずイライラすることがあるため、思わず自分が話を先導したくなってしまうかもしれません。

しかしその際、相手の話に言葉をかぶせてしまうと、本人が混乱してますます話がこんがらがってしまいます。ある程度言葉を待って、適当なところで話の本筋を思い出さすようにすると、上手くいくかもしれません。

⑤相手の基本性格は尊重する

強迫性パーソナリティ障害の方は、基本的に真面目で硬い性格があります。

周囲の方の性格によっては、それが息苦しく感じることがあるかもしれませんが、その性格自体は1つの個性で悪いものではありません。

自分とは違った性格で価値観が合わないと思ったとしても、相手を自分の性格の方に寄せようとせず、お互いの個性を尊重するようにしてください。

⑥治療効果を急かさない

治療が始まると、周囲の方としても効果に期待したくなると思います。

効果が出ないように感じると、病院を変えた方がいいのではないか、もっと別の治療法があるのではないかと焦ってしまうこともあるかもしれません。

たしかに、客観的な視点は大切です。しかし強迫性パーソナリティ障害の治療においては、かなりの時間がかかります。あまりに治療方針や病院の対応などの疑問を感じる場合を除き、一定の期間が過ぎないと治療効果は表れてこないことが普通です。

周囲の方は焦らず、治療効果を患者さん自身に急かさず、自分のペースを保ちながら見守ってあげてください。何か困ったとき、不安なときは、主治医とそうだんするようにしてください。

 

まとめ

強迫性パーソナリティ障害の治療と周囲の方の接し方のポイントをご紹介しました。

治療において薬は対症療法で、固定した苦しい思考パターンにアプローチする認知行動療法がメインになります。カウンセリングが行われることになります。

いずれにしても、患者さん自身が積極的に治療へ参加し、日常の生活も含め、地道な努力を積み重ねていく必要があり時間がかかります。

周囲の方は、それを焦らず見守り、必要以上の口出しや批判を避け、適度な距離を置いて接するようにしましょう。

強迫性パーソナリティ障害の方は、極端な部分がゆるんでくると、その性格が仕事や社会生活に生かされるケースも多いです。あきらめず、不安なときには主治医と相談しながら、治療に取り組んでください。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック