社会不安障害の症状はどのように発展していくのか

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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社会不安障害(社交不安障害)とは、人から悪く思われないか、人に迷惑をかけてしまうのではないかと過度に恐れてしまう心の病です。

人前で緊張したりするのは当たり前ですし、内気な性格自体は悪いことではないのです。しかしながら、社会生活に影響するほどの症状がみられるときは、社会不安障害として治療していくことが大事です。

社会不安障害は、自分の性格のせいだろうと思い込んで、長く苦しみ悩んでいる方もいらっしゃいます。10代前半に発症することが多く、その後の人生に影響してしまうこともあります。

ここでは社会不安障害の代表的な症状をお伝えしていき、どのような状況やシチュエーションで症状があらわれるのかを見ていきましょう。

 

1.社会不安障害の本質的な症状とは?

他人から否定的に見られるのではという恐怖や他人に迷惑をかけてしまうのではという恐怖の少なくともどちらかが認められます。

社会不安障害の本質的な特徴は、他人に注目されるような社会的状況に対しての過度な恐怖や不安にあります。

その根底には、2つの恐怖の少なくともどちらかが存在しています。

  • 他人から否定的な評価をされるかもしれない恐怖
  • 他人に対して迷惑をかけてしまうだろうという恐怖

「恥をかいてしまったらどうしよう」と恐れ、その結果として他人から否定的にみられたり、迷惑をかけてしまうことによって、自分が拒絶されてしまうのを恐れているのです。

日本人は仲間や組織を重んじる文化なので、海外に比べると「他人に迷惑をかけてしまうかもしれない」という恐怖が強い傾向にあります。かつては確信型対人恐怖ともいわれていて、日本の文化に独特の病気と考えられていました。現在は欧米でも確認されていて、こちらも含めて社会不安障害と考えます。

これらの恐怖が本質にあり、さまざまな精神症状や身体症状がみられます。それによる失敗体験が、さらに社会不安障害の悪循環を強めていきます。

 

2.社会不安障害の2つのタイプ

パフォーマンス限局型と全般型に分けることができ、この2つは重症度の違いと考えられています。

このような社会不安障害ですが、そのタイプは大きく2つに分けられます。

1つ目は、プレゼンや発表など、人前に出る時だけ極度に緊張してしまうタイプです。普段はまったく問題なく、周囲とも円満に接しています。むしろ明るくて前向きな方も多いです。ですが人前や注目される場面になると、極度の緊張のあまり自分を出せなくなります。

2つ目は、生活全般に対して人と接することを苦手としているタイプです。当然のように、人前や注目される場面を苦手にしています。それだけでなく、日常生活での人との付き合いにも苦痛を感じていて、内向的な方が多いです。不登校やひきこもりの原因になることもあります。

前者の方は、パフォーマンス限局型といいます。プレゼンや発表といったパフォーマンスをする時だけに不安が限られていているので、恐怖症としてとらえることができます。

後者の方は、全般型といいます。子供の時からの恥ずかしがりや行動抑制(物事を避けたがる)という、生まれ持っての気質からはじまることが多いです。徐々に生活全般に対して消極的になってしまいます。

この2つのタイプは同じ病気であるのかどうかは、長年議論されてきました。しかしながら、病気の本質には違いがないと考えられるようになり、現在では重症度の違いと考えられています。つまり、全般型の方がより重症と考えているのです。

 

3.社会不安障害は「性格」と考えずに「症状」と考えよう

社会不安障害は、性格と思い込んでしまっている方が多いです。症状と考えて治療していくことで、生き方が変わっていきます。

社会不安障害の2つのタイプのどちらにも共通していることは、本人や周りが「性格」ととらえていることが非常に多い点です。パフォーマンス限局型では、「緊張しい」であったり「ビビり」な性格と思い込んでしまいます。全般型では、「人見知り」であったり「引っ込み思案」な性格と思い込んでしまいます。

そのような性格として、本人も周囲も割り切って生活していることが多々あります。不安や恐怖を感じることに関しては、できるだけ避けて生活をします。学校や就職、家庭などに影響が出てきます。

このため、性格ではなく症状と考えて治療をしていくことで、その人の人生が変わることがあります。社会不安障害の患者さんは、そのことを患者さんの方から訴えてくれないこともあります。ですから診察の中で、

「人前で話をするときに緊張しやすいですか?」
「人付き合いをいつも不安に感じませんか?」

などと声をかけることで、社会不安障害が分かってくることもあります。社会不安障害は性格と考えずに、症状と考えていくと気持ちが楽になります。

 

4.社会不安障害の精神症状

回避行動によって自己評価が低下し、ますます予期不安が高まります。この恐怖の悪循環が、社会不安障害を悪化させていきます。

人は多くの人と関係を築きながら生きています。家を出れば、街は人であふれています。学校や仕事にいけば多くの人間関係があり、子育てをしていてもママ友達やご近所などの人間関係が必ずあります。

社会不安障害の患者さんは、そのような社会生活の中で傷つきやすい状況にあります。もともと人前で苦手意識を持っている患者さんが人の注目を浴びると、不安や恐怖を感じます。その結果として、過緊張による吐き気やふるえ、発汗などの自律神経症状が認められ、失敗体験となってしまいます。

失敗体験をしてしまうと、できるだけ避けるようになってしまいます。この回避行動が症状をさらに悪化させていきます。回避してしまうことで、苦手意識が強くなっていくのです。「また失敗してしまうのではないか?」という予期不安が作られていきます。このようにして少しずつ失敗体験が積み重なっていき、恐怖の悪循環の輪が強くなってしまうのです。

 

社交不安障害の悪循環について

この悪循環のループが、社会不安障害を悪化させていきます。確かに人前を避ける回避行動をすれば、不安は一時的に軽減します。しかしながらこの回避行動が、社会不安障害の悪化の原因です。

回避行動をしてしまうことで、成功体験を積むチャンスが失われていきます。そして少しずつ、自己評価が低くなっていきます。「どうせ自分にはできない」と考えてしまうことで、さらに回避傾向が強くなってしまいます。

こうして苦手意識(認知)は固定化してしまって、回避行動も習慣化してしまいます。

このような不安や緊張は、本人も過剰だと不合理に感じていることが多いです。しかし中には、「自分は醜いから当然のことだ」などと妄想的で確信めいていることもあります。

 

5.社会不安障害の身体症状

過度な不安や緊張によって、さまざまな自律神経症状が認められます。

社会不安障害では、他人から注目を浴びるような社会的状況になると、恐怖とともに身体に症状があらわれます。この身体の症状は、緊張が強すぎることによる症状です。

普段私たちも緊張すると、汗をかいたり、胸がバクバクしたりするかと思います。不安や緊張に対して交感神経が優位となり、身体が身構えているのです。社会不安障害では、その緊張が非常に強烈なのです。

自律神経症状には、以下のように様々なものがあります。

  • 動悸
  • 息ぐるしさ
  • 手足のふるえ
  • 声のふるえ
  • めまいや吐き気
  • 腹痛や下痢
  • 口の渇き
  • 大量の発汗
  • 体感異常(異常に暑く感じる)
  • 顔が真っ赤になる(赤面症)

これらの症状が、ますます失敗している意識を増します。社会不安障害の悪循環につながっていくのです。

 

6.社会不安障害の症状があらわれやすい場面

社会不安障害では、他人からの注目が集まる状況を苦手に感じます。

社会不安障害の患者さんでは、他人から否定的な評価をされてしまうのではないか?迷惑をかけてしまうのではないか?という恐怖が根底にあります。

ですから、気心の知れている友人や親族とは普通に接することができます。自宅では落ち着いて過ごせますので、引きこもりの原因にもなってしまうのです。

それではどのような社会的状況を苦手とするのでしょうか?私自身も社会不安障害(パフォーマンス限局型)で悩んでいた経験も含めて、社会不安障害の症状があらわれやすい場面について具体的に紹介していきます。

①人と会う時

社会生活の中では、人と会って話をする機会はとても多いです。気心が知れている方では問題ないのですが、よく知らない方と会う時に緊張感が高まることがあります。

まったく見知らない人よりも、少し知っている程度の人と会う時の方が緊張が強くなることが多い印象があります。少しは見知った人の方が、自分がどのような評価をされるのかという恐怖が強くなるのでしょう。

とても仲がよい方でも、1対1になることに怖さを感じることもあります。

②発表やプレゼン(スピーチ)

発表やプレゼンでは、多くの人から自分に注目が集まる代表的な機会です。苦手意識がある方は多いと思いますが、何とかこなせるならば正常範囲です。社会不安障害では、頭が真っ白になり、声や身体が震えたりします。

スピーチ恐怖といわれたりしますが、仕事であってもプライぺートであっても、スピーチをする機会はあります。仕事であればプレゼンや会議、朝礼など、プライベートであれば地域のイベントやPTAなどの集まり、結婚式などがあります。

③記帳など人前で字を書くとき

人前で字を書くときに、手が震えてしまって困る方も多いです。このような症状を書痙といいます。

冠婚葬祭では、自分の名前を記帳するかと思います。「上手く書かなければいけない」「受付の人がみている」といった意識が働いてしまうのです。仕事でも、お客さんに書いて説明しようとするときに、手が震えて困ってしまうことがあります。学生であれば、黒板に字を書くときに困る方もいらっしゃいます。

④電話

社会不安障害では、電話を苦手にする患者さんが多いです。電話では相手の表情も動作もみえません。相手の様子がわからないため、相手に変に思われていないかと想像してしまいます。

そんな中で、「ちゃんと必要なことを伝えられているだろうか?」「声は震えていないだろうか?」などと緊張感が高まり、電話恐怖になってしまいます。

⑤買い物や美容院

買い物や美容院も苦手にする方が多いです。社会不安障害の患者さんは、自分自身の評価も低いことが多いです。とくに服を買う時や美容院などでは、自分の容姿を意識する必要があります。他人からどう思われるのかを意識するのが容姿なので、他人からの評価そのものに感じます。

そんな中、親しげにおしゃれな店員さんが近づいてきたり、美容師さんから「今日はどんな髪型にしましょうか?」と声をかけられると、緊張が高まってしまうのです。

⑥デート

デートが怖くなってしまう「デート恐怖」がみられることもあります。デート恐怖は、女性よりも男性に多いです。

彼女とあうときに緊張しすぎてしまったり、一緒にいることが周りから注目されているのではと気になってしまいます。その結果として、結婚や家庭をもつことが遅れがちになってしまうことがあります。

⑦外食や公衆トイレ

レストランなどで外食をすると、いろいろな人から見られていると感じて緊張してしまいます。とくに相手が親友や家族でない場合、相手に対しても迷惑をかけていないかと気になってしまいます。

このようにして筋肉がこわばってしまい、「うまく料理を切れないのではないか?」「うまく喉を料理が通らないのではないか?」「おいしそうに見えないのではないか?」と気になって、会食恐怖になってしまいます。

なかには、公衆トイレや職場のトイレで用を足せなくなってしまう方もいます。ほかに誰かいたり、後ろに人が並んだりすると、「早く用を足さなければ」と焦ってしまいます。そのような時に、尿が出なくなってしまうような排尿恐怖がみられることがあります。

 

7.社会不安障害の合併症

長い経過の中で、うつ病や様々な不安障害を合併します。性格として固定して回避性パーソナリティ障害が合併することがあります。

社会不安障害では、50%以上の患者さんで何らかの精神疾患が合併していると考えられています。

社会生活には人との関わりがつきものです。人とうまく付き合っていける方が得をすることが多い世の中です。人前で堂々と話ができることはリーダーシップがあると評価されていきます。

社会不安障害の患者さんは、人の評価にさらされるだろう機会を回避する傾向にあります。そうなることで不安を感じずに済みますが、生きていく中での悩みや苦しみが募っていきます。そんな中、うつ病やその他の不安障害を合併する方も多いです。

アルコールやタバコ、違法薬物などに頼ってしまう方もいます。これらの離脱症状が、さらに社会不安障害を悪化させてしまって依存症に発展してしまうこともあります。また、双極性障害との合併も多いです。双極性障害は気分の波に振り回され、対人関係が不安定になってしまうからでしょう。

社交不安障害が長年続くと、生活全般から回避的になってしまいます。そのような思考や行動パターンが性格として固定してしまうと、回避性パーソナリティ障害を合併してしまいます。

 

まとめ

他人から否定的に見られるのではという恐怖や他人に迷惑をかけてしまうのではという恐怖の少なくともどちらかが認められます。

パフォーマンス限局型と全般型に分けることができ、この2つは重症度の違いと考えられています。

社会不安障害は、ともすれば性格と考えてしまう病気です。症状と考えて治療していくことで、生き方が変わっていきます。

回避行動によって自己評価が低下し、ますます予期不安が高まります。この恐怖の悪循環が、社会不安障害を悪化させていきます。

社会不安障害の症状があらわれやすい場面としては、以下があげられます。

  • 人と会う時
  • プレゼンや発表(スピーチ)
  • 人前で字を書くとき(記帳など)
  • 電話
  • 買い物や美容院
  • デート
  • 外食や公衆トイレ

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