病気不安症とは?病気不安症の症状・原因から診断・治療まで

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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病気不安症は、新しい診断基準のDSM‐Ⅴで作られた病気になります。

これまでの診断基準では、心気症と診断されてきた病気の一部になります。病気不安症は心気症と異なり、身体症状が認められない患者さんのことを指します。

つまり、身体には何も症状が出ていないのに、「重大な病気が隠れているかもしれない」という恐怖にとらわれてしまっている病気です。

ここでは、新しく作られた病気不安症について、その症状・原因から診断・治療まで詳しくお伝えしていきます。

 

1.病気不安症とは?心気症との違い

病気不安症とは、自分が重大な病気にかかっているのではという恐怖にとらわれている病気です。従来の心気症のうち、身体症状が認められない心の問題が大きい患者さんが診断されます。

病気不安症(illness anxiety disorder)とはどのような病気なのでしょうか?従来の診断基準の心気症との違いを含めてみていきましょう。

病気不安症は、「自分が何か重大にかかってしまうに違いない」というとらえれが強い病気です。しかしながら実際に身体症状は認めておらず、かりにあったとしてもごく軽度のものしかありません。

従来の心気症は、身体症状があるかどうかは大きなポイントではありませんでした。新しい診断基準では、身体症状があるものは身体症状症、ないものは病気不安症としてわけられました。

従来の心気症患者さんのうち、およそ75%が身体症状症、25%が病気不安症と診断されます。

病気不安症は心気症の患者さんの中でも、より心の問題が大きい患者さんが診断されます。

病気不安症の患者さんは「重大な病気」を恐れていて、健康に関する不適切な行動をとります。

病院に受診して検査をしても、大きな異常は認められません。それを医者が伝えても病気不安症の患者さんは納得ができず、セカンドオピニオンを繰り返してしまいます。ドクターショッピングをする患者さんの中には、病気不安症の患者さんは少なくありません。

病気についても細かく調べあげ、医師はもちろんのこと、家族や友人にも「大丈夫だよ」という言葉を求めてしまいます。人間関係のトラブルになってしまうことも多い病気になります。

 

2.病気不安症の原因とは

病気不安症は、身体感覚の認知の問題や抑圧されたストレス、疾病利得などが原因となります。このため、性格傾向や日々のストレスなどが要因と考えられています。

病気不安症の原因としては、3つの側面から考えることができます。

  • 身体感覚の誤った解釈
  • 無意識に抑圧された葛藤によるもの
  • 疾病利得

病気不安症の患者さんは、何かの病気をきっかけに発症することもあります。結果的に良性のものであっても、身体の感覚に対して誤った認知が形成されてしまうことがあります。ちょっとした身体の変化に敏感になり、身体の病気を過剰に心配してしまいます。

そして病気不安症は、自分の中に抱えている葛藤(ストレス)を無意識に抑え込み、その不安が症状に転換されて出てきているとも考えられています。

そして意識が症状に向くことは、自分の葛藤と向き合わなくて済みます。さらには病気であることから、周囲の人から配慮してもらえるという現実的なメリット(疾病利得)もあるのです。

病気不安症はこのような原因が考えられているため、性格などの本人要因も大きいと、ストレスなどの環境要因が重なって発症します。

①性格

性格は遺伝的な気質に加えて、育ってきた環境や生きていく上での経験から培われていきます。

病気不安症になりやすい性格としては、森田療法を生み出した森田正巳は神経質性格をあげています。いわゆる神経症になりやすいと言われている性格です。

神経質性格とは、

  • 内向的
  • 内省的
  • 心配性
  • 完全主義
  • 理想主義
  • 負けず嫌い

神経質性格は、心配性で内向的という弱気な側面もある一方で、完全主義で理想主義、負けず嫌いという強気な側面もある性格です。

このように共存しているため、弱気な部分を強きな部分が受け入れられなくてストレスを抱えやすい傾向にあります。

②ストレス

病気不安症では、ストレスを無意識に抑え込んでしまう抑圧が原因と考えられています。それが抑えきれなくなり、身体的な不安に置き換えられています。

病気不安症は、ストレスがきっかけに不安が強まることがあります。

  • 避けたい出来事(学校や仕事に行くなど)
  • 感情的になる出来事(夫への怒りなど)

こういった出来事で病気不安症が悪化します。病気不安症は、身体の健康に関係する出来事でも、症状が動揺することがあります。

  • 親しい人が亡くなったり、重篤な病気になってしまった
  • 自分が重篤な病気になって、何とか回復した

こういった出来事があると、一時的に心気状態になることがあります。

それ以外にも、子供の頃の虐待や、幼少期の重大な病気にかかったことが、病気不安症を発症しやすくすると報告されています。

③年齢や性別

病気不安症の発症年齢はさまざまですが、20~30歳の成人早期~中期が最も多いといわれています。

年をとると健康面に不安を感じるのは当然とみなされるので、病気不安症と診断される患者さんが少ないこともあると思います。

実際には年配の方で病気不安症になる患者さんも少なくなく、若い人よりも当然の心配であることも重なって、治りにくい印象があります。

そして多くの不安の病気では女性の方が多い傾向にありますが、病気不安症では男女差は大きくありません。それでも私の印象では、やはり女性の方が多い印象をうけます。

ある研究では、内科の病院に受診した患者さんの3~8%は病気不安症患者さんだったという方向があります。

 

3.病気不安症の症状と診断とは?

病気不安症の診断をすすめていくには、診断基準を元に行っていきます。精神疾患の診断基準には、アメリカ精神医学会(APA)のDSMと世界保健機関(WHO)のICDがあります。

身体症状症は、DSM‐Ⅴで新たに作られた診断基準で、ICD-10には認められません。

ここでは、DSM‐Ⅴに基づいて診断基準をご紹介していきます。AからFまでの6項目を上から順番にチェックしていくことで、病気不安症と診断できるようになっています。

簡単にまとめると、

  1. 「重い病気かもしれない」というとらわれがあること
  2. 身体症状はほとんどみとめられないこと
  3. 健康について強い不安を感じていること
  4. 健康に関する不適切な行動がみられること
  5. 6か月以上持続していること
  6. 他の精神疾患でないこと

順番に、詳しくみていきましょう。

A.重い病気である、または病気にかかりつつあるというとらわれ。

病気不安症では、「自分には何か重大な病気が隠されているかもしれない」という得体のしれない病気に対して心配が強いです。

B.身体症状は存在しない。または存在してもごく軽度である。他の医学的疾患が存在する、または発症する危険が高い場合は、とらわれは明らかに過度であるか不釣り合いなものである。

病気不安症の患者さんは、身体症状はほとんど存在しません。病院で精密検査を行ったとしても、大きな異常をみつけることはできません。

本来ならば病気と感じることもない身体の感覚を症状ととらえてしまうこともあります。その「症状」から重大な病気があるかもしれないと心配してしまいます。

身体症状がある場合は、身体症状症と診断されます。

C.健康に対する強い不安が存在し、かつ健康状態について容易に恐怖を感じる。

病気不安症では、健康や病気に対して強い心配をしています。知り合いが病気になってしまったという話題や、健康に関するニュースなどを読んだりすると、些細なことでも病気に対する不安が高まってしまいます。

生活をしている中で健康に対する心配は大きな部分を占めていて、日々の生活に影響してしまいます。

D.その人は過度の健康関連行動を行う。または不適切な回避を示す。

病気不安症の患者さんは、健康に関して2つのパターンの行動をとります。医療を求めるタイプと、医療を避けるタイプです。

医師が検査などを行ったうえで「大丈夫!」と保証しても、不安を拭い去ることができません。このため、他の病院でセカンドオピニオンをうけるなどのドクターショッピングを繰り返してしまう患者さんが多いです。

自分でも繰り返して身体を確認したり、インターネットで情報を集めたりします。周囲に「大丈夫かな?」と繰り返し尋ね、人間関係が崩れてしまうこともあります。

その一方で、医療を求めずに回避してしまう患者さんもいます。重大な病気があるかもしれないと心配する一方で、重大な病気とわかってしまうことを恐れてしまうこともあります。

病院にいったら病人が多く、自分を危険にさらしてしまうと恐れる方もいます。外出や運動はしない方がよいと、自宅でひきこもりがちになってしまうこともあります。

病気不安症の患者さんは、何らかの健康に関する不適切な行動が認められます。

E.病気についてのとらわれは少なくとも6か月は存在するが、恐怖している特定の病気は、その間変化するかもしれない。

病気不安症は、例えば親しい人の死などをきっかけにして、一時的に健康への不安が高まることもあります。

このため、6か月以上持続している必要があります。

F.その病気に関連したとらわれは、身体症状症、パニック障害、全般不安症、醜形恐怖症、強迫症、または妄想性障害身体型などの他の精神疾患ではうまく説明できない。

病気や健康に対する不安は、他の精神疾患でも認められることがあります。心気症状といったりしますが、うつ病では気持ちの落ち込みと共に悲観的になり、自分の健康に対しても過剰に心配してしまうことがあります。

このように、うつ病や様々な不安障害で合併することがあります。これらの病気による心気症状と説明ができる時は、病気不安症とは診断しません。

また、病気不安症は重大な病気にたいしてとらわれがありますが、それは「かもしれない」というレベルになります。「間違いない」というほどに確信してしまっている場合は、妄想性障害となります。

自分の外見が醜いといったとらわれに限られていない必要があります。自分の外見だけに限定されている場合は、身体醜形障害になります。

 

4.病気不安症の治療①-薬物療法

抗うつ剤を中心に、抗不安薬を補助薬として使っていきます。内容が妄想的な場合、抗精神病薬も使っていきます。

病気不安症では、お薬によって症状を緩和させることができます。以下の3つのケースの患者さんは、お薬によって治療をすすめていった方がよいです。

  • うつ状態がひどい場合
  • 不安が非常に強い場合
  • 重大な病気にかかっていると確信している場合

うつ状態がひどい患者さんでは、病気不安症の症状は悪循環になっています。気持ちがふさぎ込み、不安が強くなってしまいます。自分の健康に関しても不安が強くなってしまいます。このような場合は、まずはうつ状態を改善することが大切です。

また、不安が強い場合も同様です。病気不安症は慢性的に経過することも多い病気です。身体へ不安を抱えながらの生活は、大きなストレスになります。その中で不安障害を合併してしまうと、心気症の症状も悪化させてしまいます。

身体への不安に関して、「何か重大な問題がある」と確信してしまっていることがあります。このような時には、脳の機能的な異常が生じている可能性が高いです。

 

このような病気不安症の患者さんで使われるお薬は、SSRIをはじめとした抗うつ剤が中心です。抗うつ剤はセロトニンを増加させることで、不安を和らげていくお薬です。

抗うつ剤は効果が遅いので、即効性のある抗不安薬を併用することが多いです。しかしながら抗不安薬は、長期間使っていると耐性(効かなくなること)や依存の問題があります。このため抗うつ剤が効いてきたら、少しずつ減量して置き換えていきます。

妄想的に病気を信じ込んでいる場合は、抗精神病薬を使うこともあります。このような場合は、ドパミンが過剰に分泌されていることがあります。ドパミンの働きをブロックする抗精神病薬が使われることがあります。

お薬を不安に思われる方も多いかと思いますが、抗うつ剤は安全性の高いお薬です。抗不安薬も、出口を見据えて使えば問題ありません。

お薬について詳しく知りたい方は、「薬物療法のカテゴリー」をお読みください。

 

5.病気不安症の治療②-精神療法

認知行動療法・森田療法などを行っていきます。疾病利得に注意して、患者さんが自分のストレスに向き合えるようにしていくことが大切です。

病気不安症の原因としては、3つの側面から考えることができます。

  • 身体感覚の誤った解釈
  • 無意識に抑圧された葛藤によるもの
  • 疾病利得

これらを意識して、精神療法をすすめていく必要があります。

身体感覚の誤った解釈という要因が強い患者さんは、認知行動療法森田療法などの精神療法が向いています。無意識の葛藤という要因が強い患者さんは、精神分析などの洞察療法を行っていきます。

そして病気不安症の患者さんで気をつける必要があるのが、疾病利得になります。疾病利得とは、病気になるということで自分のストレスに向き合わなくて済むというメリットのことです。

病気であるということに逃げてしまい、自分自身のストレスや困難な課題に目を向けるのを避けてしまうことがあります。こういったものに直面化し、向き合っていけるようにしていく必要があります。

 

6.病気不安症の治療③-薬を使わないリラックス法

呼吸法・漸進的筋弛緩法・自律訓練法など、自分自身をリラックスさせる方法も有効です。

自分自身でリラックスする方法もあります。その代表的な方法としては、以下の3つがあります。

リラックスする呼吸法とは、吐く時間を意識した腹式呼吸法です。上手になってくると、呼吸を整えることで不安や緊張を和らげることができます。苦手な社会的状況に直面した時に、呼吸法で乗り切れれば大きな自信になります。

漸進的筋弛緩法とは、リラクゼーションとも呼ばれている方法です。筋肉の緊張状態を知り、それを和らげていく練習をします。慣れてくると、自分自身の緊張状態に気づけるようになってきます。

自律訓練法とは、リラックス状態を自己暗示で作れるようになっていく方法です。リラックス状態をイメージして、それを身体にしみこませていきます。上手になってくると、リラックス状態をすぐに作れるようになっていきます。

いずれの方法も、繰り返し続けていくことで少しずつ上手になっていきます。いわば筋トレのようなもので、すぐには効果が出ないけれども継続していくことで少しずつ効果が出てきます。

詳しく知りたい方は、「薬に頼らずに不安を解消する4つの方法」をお読みください。

 

まとめ

病気不安症とは、自分が重大な病気にかかっているのではという恐怖にとらわれている病気です。従来の心気症のうち、身体症状が認められない心の問題が大きい患者さんが診断されます。

病気不安症は、身体感覚の認知の問題や抑圧されたストレス、疾病利得などが原因となります。このため、性格傾向や日々のストレスなどが要因と考えられています。

病気不安症の薬物療法としては、抗うつ剤を中心に、抗不安薬を補助薬として使っていきます。内容が妄想的な場合、抗精神病薬も使っていきます。

精神療法としては、認知行動療法・森田療法などを行っていきます。疾病利得に注意して、患者さんが自分のストレスに向き合えるようにしていくことが大切です。

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