柴胡加竜骨牡蛎湯【12番】の効果と副作用
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
神経が高ぶった状態になると、動悸や不眠などの症状が現れます。柴胡加竜骨牡蛎湯は、このような症状を鎮めるために用いられます。
柴胡加竜骨牡蛎湯には精神安定作用があるため、心身ともに穏やかにさせてくれるのです。比較的体力がある方に用いられる漢方薬で、虚弱体質な方には向きません。漢方薬の中では、比較的効果が強いものになります。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、不安や緊張が強いさまざまな病気で使われます。女性では、更年期障害などでも使われます。
漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、柴胡加竜骨牡蛎湯は「ツムラの12番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される柴胡加竜骨牡蛎湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。
1.柴胡加竜骨牡蛎湯の生薬成分の効能
柴胡加竜骨牡蛎湯は、解熱鎮痛作用とカルシウムによって気持ちを落ち着けて、胃腸の働きを整えることで身体の調子を整える漢方薬といえます。効果の中心となる生薬は、「柴胡」による解熱鎮痛作用と「竜骨・牡蛎」のカルシウムによる鎮静作用です。
漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。
柴胡加竜骨牡蠣等は、11種類(メーカーによっては10種類)の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。
- 紫胡(5.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
- 竜骨(2.5g):鎮静作用・血管収縮作用
- 牡蛎(2.5g):鎮静作用・制酸作用
- 黄芩(2.5g):解熱作用・消炎作用
- 大黄(1.0g):下剤作用・利胆(胆汁排出促進)作用・健胃作用
- 半夏(4.0g):制吐作用・健胃作用
- 人参(2.5g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
- 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
- 桂皮(3.0g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用
- 生姜(1.0g):発汗作用・健胃作用・制吐作用・鎮咳作用
- 大棗(2.5g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用
※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。
※ツムラの製品には大黄は含まれていません。
柴胡加竜骨牡蛎湯の生薬の中で、効果の中心は「柴胡」になります。そこに2つの生薬「竜骨」「牡蛎」が加わって効果を発揮します。
柴胡を中心とした漢方製剤を「柴胡剤」とよびます。柴胡には解熱鎮痛作用があり、それによって身体を冷まして落ち着けてくれます。
竜骨と牡蛎は、どちらも主成分は炭酸カルシウムです。竜骨は以前はマンモスなどの化石を使用していましたが、現在ではゾウやサイ、ウマなど大型の哺乳類の骨を使用しています。牡蛎は私たちが食べる身ではなく、貝殻をすりつぶしたものです。
これらの鉱石類に含まれる炭酸カルシウムが神経の高揚を鎮めてくれます。気分を落ち着かせて、精神を安定させる効果が期待できます。
柴胡と一緒に、黄芩が用いられることが多いです。柴胡と黄芩は解熱鎮痛作用があるので、ほてりやのぼせ、身体の炎症を鎮める作用が期待できます。桂皮は全身の気の巡りをよくすると考えられます。
茯苓も精神安定に効果的で、脾胃の機能を高める作用のある人参や大棗や生姜と一緒に用いることで、消化機能を高める働きが期待できます。また、茯苓には利尿作用があり、水分循環を改善してくれます。大黄には腸運動を亢進させ、便通をよくする働きがあります。
このようにみると柴胡加竜骨牡蛎湯は、解熱鎮痛作用とカルシウムによって気持ちを落ち着けて、胃腸の働きを整えることで身体の調子を整える漢方薬といえます。
2.柴胡加竜骨牡蛎湯の証
陰陽(陽)・虚実(中~実)・寒熱(熱)・気血水(気うつ・気逆)
漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。
漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などを見極めて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。
このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。
このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。
- 体質が強いかどうか
- 病気への反応が強いかどうか
さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。
漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。
柴胡加竜骨牡蛎湯が合っている方は、以下のような証になります。
- 陰陽:陽証
- 虚実:実証~中間証
- 寒熱:熱証
- 気血水:気うつ(落ち込み)・気逆(のぼせ・イライラ・興奮)
3.柴胡加竜骨牡蛎湯の作用のメカニズム
ストレス対処機構のひとつとして重要なグルココルチコイド受容体の機能低下を改善する作用が認められています。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、その作用の仕組みが科学的にも解明が試みられています。その作用のメカニズムを簡単にお話したいと思います。
柴胡加竜骨牡蛎湯が作用するのは、グルココルチコイド受容体といわれる部分です。この受容体は、ストレスへの対処のために重要な働きをしています。副腎皮質から分泌されたグルココルチコイドが受容体にくっつくことで、抗ストレス作用が認められます。
過度なストレスにさらされていると、このグルココルチコイド受容体機能が低下してしまいます。その結果セロトニンやドパミンといった神経伝達が減少し、不安や抑うつにつながると考えられています。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、このグルココルチコイドの機能を正常化します。それによってセロトニンやドパミンといった神経伝達物質の働きを正常化させるのです。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、生薬成分によって気持ちを落ち着けて鎮静的に作用しますが、落ちこんでいる気持ちを持ち上げる作用も期待ができるのです。
4.柴胡加竜骨牡蛎湯の効果と適応
- 不安やイライラが強い軽症うつ病・不安障害・ストレス性障害
- 気がたってしまって眠れない不眠症
- 自律神経失調症や多汗症
- 更年期障害
- 子どもの夜泣き
- 高血圧に伴う不安・動悸・不眠
柴胡加竜骨牡蛎湯は、後漢時代に書かれた「傷寒論」という漢方の古典書に紹介されています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。
柴胡加竜骨牡蛎湯がもっともよく使われるのは、体力が中等度以上の方で精神が不安定な状態の方です。そして動悸がしたり、眠れなかったり、便秘を伴っている場合です。神経の高ぶりを抑え、気持ちを落ち着かせる効果を期待する場合に用います。
不安を抑える効果は漢方薬の中では強いため、パニック障害や全般性不安障害などの不安障害の治療にも用いられます。全体的に神経が過敏になっている方に効果が期待できます。
病院で処方されるお薬(抗不安薬や抗精神病薬)では、副作用として眠気が強く出たり、ふらつきが出たりすることが多いです。柴胡加竜骨牡蛎湯ではそのようなことは非常に少ないので、高齢者や子供には使いやすいのです。ただし、柴胡加竜骨牡蛎湯は比較的体力のある人向けなので、虚弱体質の人には向きません。
不眠症にも柴胡加竜骨牡蛎湯が使われることがあり、不安やイライラなどによって眠れない方に使われます。このように柴胡加竜骨牡蛎湯には精神安定作用があるので、
- イライラしやすい軽症うつ病・不安障害・ストレス性障害
- 気がたってしまって眠れない不眠症
といった精神症状の改善に効果が期待できます。このように、柴胡加竜骨牡蛎湯が向いているのは、気や血の巡りをコントロールしていると考えられる、「肝」が高ぶっている状態のときです。これによりイライラが目立つような精神症状を和らげたい方です。そのような観点では、
- 自律神経失調症や多汗症
- 更年期障害
- 子どもの夜泣き
- 高血圧に伴う不安・動悸・不眠
などにもよく使われます。高血圧に関しては、竜骨による血管収縮作用というよりは、ストレスによる高血圧の持続を緩和するために使われます。
なお、添付文章に記載されている柴胡加竜骨牡蛎湯の適応は以下になります。
精神不安があって、どうき、不眠などを伴う次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜なき
5.柴胡加竜骨牡蛎湯の使い方
1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、ツムラ、クラシエ、テイコク、コタローなどから発売されています。1日量は、ツムラ・コタローは7.5g、クラシエは6.0g、テイコクは9.0gになっています。クラシエには錠剤が発売されていますが、1日18錠服用する必要があります。
生薬成分は基本的には同じなのですが、ツムラには下剤作用のある大黄が含まれていません。このため、下痢気味の方はツムラの柴胡加竜骨牡蛎湯が適しているでしょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。
漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。柴胡加竜骨牡蛎湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。
とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。
6.柴胡加竜骨牡蛎湯の効き目とは?
効果は漢方薬の中では効果が早く認められることが多いです。
柴胡加竜骨牡蛎湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで落ち着かなかった方が、ビックリするくらいに穏やかになることもありました。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。
柴胡加竜骨牡蛎湯は他の漢方薬と比べると、効果が認められるのが早い傾向にあります。なかには服用した直後から効果の実感がある方もいます。体力がある人に使われる漢方なので、そのぶん効きはじめは早いのです。
2週間ほどして効果がゆっくりと認められる方もいらっしゃいます。ときには1~2か月かけて効果が認められることもあるので、焦らず使い続けていくことが大切です。
このような効き目なので、安定剤や抗不安薬のようにすぐに精神を安定させたり不安を取り除いてくれるような確実性はありません。不安なときや落ち着かない時に頓服としてはあまり向いていません。
漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。
7.柴胡加竜骨牡蛎湯の副作用
柴胡加竜骨牡蛎湯では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。下痢しやすい大黄が含まれているので、胃腸が弱い方は注意が必要です。非常にまれですが、間質性肺炎にも注意が必要です。
漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。
- 誤治
- アレルギー反応
- 生薬固有の副作用
漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。
誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。
体が虚弱で胃腸も弱く、下痢を起こしやすい人の場合、柴胡加竜骨牡蛎湯は慎重に用いるようにしなければなりません。柴胡加竜骨牡蛎湯に含まれる大黄は下剤のようなもので、腹痛や下痢を起こす可能性があります。胃腸が弱い方が用いる場合は、大黄を含まないツムラの製品を服用するほうがよいかもしれません。
また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。
そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあるのです。柴胡加竜骨牡蛎湯では、さきほど述べました大黄に注意が必要です。
また、ごくまれに間質性肺炎と肝障害が起こることがあると報告されています。黄芩が原因ではと考えられていますが、柴胡剤では注意喚起がされています。空咳や息切れ、息苦しさなどの呼吸困難、発熱やひどい倦怠感、皮膚や白目が黄色くなるといった症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。
漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」「漢方薬は安全?漢方薬による間質性肺炎」をお読みください。
8.柴胡加竜骨牡蛎湯の効果を高めるためには?
柴胡加竜骨牡蛎湯は効果があると信じ込める人の方が、効果が期待できます。
昔から「良薬は口に苦し」といわれてきたように、独特の苦みが漢方の効能を引き立たせてくれることがあります。このような思い込みの効果ともいえるプラセボ効果(偽薬効果)は、心の病気では非常に大きいです。
一般的に精神科のお薬は、30%ほどのプラセボ効果があるといわれています。臨床試験などを行うと、ダミーの薬でも3割くらいの人には効果が認められるのです。漢方薬のプラセボ効果は、西洋薬よりも大きいという報告もあります。
ですから、柴胡加竜骨牡蛎湯は効くと思い込んで服用した方がよいのです。そういう意味では、信じ込める人の方が効きやすいのです。せっかく服用するのですから、「こんなに苦いんだから柴胡加竜骨牡蛎湯は効くんだ!」を思いながら服用してください。
柴胡加竜骨牡蛎湯を使う時は、現実的には以下のケースがあります。
- 柴胡加竜骨牡蛎湯自体の効果を本当に期待する場合
- 副作用で抗うつ剤や抗不安薬が使えない場合
- 抗うつ剤や抗不安薬を使うことに対する不安が大きい場合
- 薬の量を減らしていく時に不安が強い場合
- 妊娠が判明した場合 ※有益性が危険性を上回る場合
病気や症状という面で見れば、柴胡加竜骨牡蛎湯はこれまでお伝えしてきたような方に向いているといえます。しかしながら、柴胡加竜骨牡蛎湯の効果だけを本当に期待して使うケースばかりではありません。
実際の現場では、さまざまなケースで柴胡加竜骨牡蛎湯が使われています。せっかく服用されるのでしたら、しっかり効くと言い聞かせながら服用してください。
まとめ
柴胡加竜骨牡蛎湯は、解熱鎮痛作用とカルシウムによって気持ちを落ち着けて、胃腸の働きを整えることで身体の調子を整える漢方薬といえます。効果の中心となる生薬は、「柴胡」による解熱鎮痛作用と「竜骨・牡蛎」のカルシウムによる鎮静作用です。
陰陽(陽)・虚実(中~実)・寒熱(熱)・気血水(気うつ・気逆)
柴胡加竜骨牡蛎湯は、以下のような方に使われます。
- 不安やイライラが強い軽症うつ病・不安障害・ストレス性障害
- 気がたってしまって眠れない不眠症
- 自律神経失調症や多汗症
- 更年期障害
- 子どもの夜泣き
- 高血圧に伴う不安・動悸・不眠
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
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