リチオマール錠(炭酸リチウム「フジナガ」)の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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リチオマール錠は、1980年に発売された気分安定薬リーマス錠のジェネリックです。リチオマールは1994年に発売され、数少ないリーマス錠のジェネリックとして知名度の高いジェネリック薬品でした。平成27年6月、リチオマール錠は炭酸リチウム「フジナガ」に名称変更となっています。

リチオマールは、金属元素であるリチウムをお薬にしたものです。リチウムは通常、ごく微量にしか体内には存在しません。このため必須ミネラルですらないのですが、経験的にリチウムには気分安定作用があることがわかっています。

リチオマールは抗躁効果、抗うつ効果、再発予防効果の3つの効果のすべてを持ち合わせていて、とくに再発予防効果に優れているお薬です。このため、双極性障害の治療薬としてファーストチョイスで使われることが多いお薬です。

ここでは、リチオマール錠の効果と特徴について詳しくお伝えしていきます。

 

1.リチオマールの効果と特徴

気分安定薬には、3つの効果が期待されています。リチオマールでの3つの効果の強さは以下のようになります。

  • 抗躁効果(中程度)
  • 抗うつ効果(中程度)
  • 再発予防効果(強い)

これを踏まえて、まずはリチオマールの特徴をメリットとデメリットに分けてまとめたいと思います。専門用語も出てきますが、後ほど詳しく説明していますので、わからないところは読み飛ばしてください。

 

1-1.リチオマールのメリット

  • 再発予防効果に優れる
  • 抗躁効果が期待できる
  • 抗うつ効果も期待できる
  • 自殺予防効果がある
  • エビデンスが豊富
  • 薬価が安い

リチオマールは3つの効果のすべてを持ち合わせているのが特徴的で、その中でも気分の波を少なくする再発予防効果に優れています。双極性障害の再発率は、実に5年で80~90%ともいわれています。維持期の再発予防治療としては、リチオマールはすべてのガイドラインで第一選択にあげられています。

また、抗躁効果が期待できます。リチオマールの効果はゆっくりと出てくるので、軽躁状態の方で興奮が強くない方に向いています。それだけでなく、抗うつ効果も認められます。再発予防も見据えてじっくりと治療していける時には、リチオマールはすべてに効果が期待できるお薬になります。

このためリチオマールは、気分の波を小さくして、その波が起こるのを少なくしてくれるお薬といえます。

 

また、リチオマールは唯一、自殺の予防効果がしっかりと示されているお薬です。リチオマールの穏やかな鎮静作用や再発予防効果が関係していると思われます。双極性障害は非常に苦悩の大きな病気で自殺率も高いため、リチオマールの自殺予防効果は重要です。

リチオマールは古くからある薬なので、これまで多くの研究が積み重ねられてきました。このため、エビデンスが豊富なお薬です。また、薬価もとても安くなっています。

 

1-2.リチオマールのデメリット

  • 効果がゆっくりあらわれる
  • リチウム中毒に注意が必要
  • 振戦(ふるえ)や頻尿が多い
  • 甲状腺機能低下症・副甲状腺機能亢進症になることがある
  • 催奇形性がある

リチオマールのデメリットは、大きく2つあります。

  • 効果がゆっくり
  • 安全性の低さ

リチオマールは効果が出てくるのがゆっくりで、少なくとも1週間以上たってから認められます。また、有効血中濃度まで使わなければ、効果がしっかりと認められません。このため、時間がかかってしまいます。じっくりと治療ができる時はよいのですが、すぐに何とかしない時には向きません。

リチウムは治療濃度と中毒濃度が近いお薬です。リチオマールを過量服薬してしまうと、ときに急性中毒で死に至ることもあります。また、リチオマールは腎臓で排泄されるお薬なので、腎臓の機能が低下するとリチウムが身体に少しずつたまっていきます。このようになると、ジワジワと過量のリチウムが浸透して慢性中毒となってしまいます。

このようなお薬のため、定期的に血中濃度を測りながら使っていきます。腎臓に負担の大きいお薬である解熱鎮痛剤のロキソニンなどのNSAIDs、脱水を引き起こす利尿剤や降圧剤などは注意して使う必要があります。腎機能が低下しやすい高齢者も注意が必要です。

 

リチオマールの副作用として多いのは、手指の振戦(ふるえ)が多いです。中毒濃度に近づくにつれてひどくなっていきますので、ふるえが認められた場合はリチオマールの血中濃度を測る必要があります。それ以外にも腎臓での濃縮力が低下して多尿になる方が多いです。

ときに甲状腺に影響して、甲状腺ホルモンの分泌を低下させてしまうことがあります。甲状腺機能低下症は、抑うつ状態の原因にもなります。カルシウム代謝のバランスをとっている副甲状腺ホルモンの分泌を増加させてしまうことがあります。このため、年に1回は血液検査で甲状腺ホルモンとCa濃度をチェックする必要があります。

また、リチオマールには催奇形性があります。エブスタイン奇形という心臓の奇形が増加するという報告があります。特に妊娠初期ではリチオマールは避けた方がよいでしょう。

 

2.リチオマールの効果時間・血中濃度と使い方

リチオマールは最高血中濃度到達時間が2.6時間、半減期が18時間の気分安定薬です。400~600mgから開始して、定期的に血中濃度を測りながら有効血中濃度まで使っていきます。

リチオマールを服用すると、2.6時間で血中濃度がピークになります。そこから少しずつ薬が身体から抜けていき、18時間ほどで血中濃度が半分になります。

この血中濃度がピークになるまでの時間を「最高血中濃度到達時間」、血中濃度が半分になるまでを「半減期」といいます。

リチオマールは作用時間がそこまで長くはないので、1日2~3回に分けて服用することが一般的です。毎日服用していると、およそ5日で血中濃度が安定します。このため、少なくとも1週間は様子をみながら効果をみていきます。

 

リチオマールは治療域と中毒域が近いこともあり、血中濃度を測りながら用量を決めていきます。リチオマールは腎機能低下や脱水の影響をうけやすいので、患者さんごとに用量が異なります。

リチオマールの開始用量は400~600mgとなることが多いです。高齢者や腎機能低下が明らかな場合は、200~300mgから始めていくこともあります。血中濃度を測定しながら、有効血中濃度となるように量を調整します。

有効血中濃度は0.4~1.0mEq/Lが目安です。1.5mEq/Lを超えてくると中毒症状が出てくるため、せいぜい1.2mEq/Lに抑えます。抗躁効果を期待するときは高用量が必要で、1.0mEq/L前後にします。

維持療法のときは、患者さんの状態に応じて低用量(0.4~0.6mEq/L)か高用量(0.8~1.0mEq/L)で様子を見ていきます。高用量の方が再発予防効果は高いですが、副作用が強まります。維持療法では低用量となることもあるので、服用回数を1日1回に減らせることもあります。

 

3.リチオマールとその他の気分安定薬の位置づけ

  • 抗躁効果:効果はしっかりしているが、効きがゆっくり
  • 抗うつ効果:効果は認められるが、そこまで強くはない
  • 再発予防効果:他剤と比較しても効果的

気分安定薬としては、大きく3つのタイプがあります。

  • 炭酸リチウム(リチオマール)
  • 抗てんかん薬(デパケン・テグレトール・ラミクタール)
  • 抗精神病薬(エビリファイ・ジプレキサ・セロクエル・リスパダール)

薬の効きの早さをみると、炭酸リチウムと抗てんかん薬は効果がゆっくりで、抗精神病薬は効果が早いです。双極性障害の治療目的によって、それぞれの薬を使い分けていきます。治療目的にわけて、気分安定薬の位置づけを見ていきましょう。

 

躁の治療では、症状の程度によって異なります。

軽躁状態であればじっくりと治療ができるので、リチオマールかデパケンの単剤が最も推奨されています。抗躁作用だけを比較するならば、テグレトール>デパケン>リチオマール>>ラミクタールという印象です。後述する再発予防効果や副作用を考慮すると、日本のガイドラインではリチオマールが第一選択となっています。

中等度以上の躁状態では、治療のスピードが求められます。抗精神病薬単剤か抗精神病薬の併用が推奨されています。抗精神病薬での抗躁作用を比較すると、リスパダール≧ジプレキサ≧エビリファイ>セロクエルという印象です。リスパダールではうつ転してしまうこともあります。再発予防も意識して、リチオマールと併用していくことも多いです。この場合では躁状態が落ち着いてきたら、できるだけ抗精神病薬は減薬していきます。

 

うつの治療では、使える薬が限られてきます。双極性障害のうつ状態に効果がある薬としては、リチオマール、セロクエル、ジプレキサ、ラミクタールの4つがあげられます。

この中でも、セロクエルでの抗うつ効果が示されていて、ガイドラインでも推奨されています。リチオマールやラミクタール、ジプレキサでも効果があるといわれていますが、効果が不十分となってしまうこともあります。リチオマールとラミクタールの併用も推奨されています。これらの薬で効果がハッキリしない場合は、リフレックス/レメロンなどの抗うつ剤を使うこともあります。

 

再発予防効果としては、リチオマールが最も推奨されています。ラミクタールやデパケンといった抗てんかん薬、ジプレキサやセロクエルやエビリファイといった抗精神病薬でも再発予防効果が認められています。経過をみながらリチオマールとラミクタールといった形で、これらの薬を併用していくこともあります。再発予防の観点からは、抗うつ剤を使った場合、状態が落ち着いたら中止していくことが望ましいです。

 

4.リチオマールの副作用とは?

  • 副作用が全体的に多い
  • 慢性リチウム中毒に注意が必要
  • 振戦(ふるえ)や頻尿が多い
  • 甲状腺機能低下症・副甲状腺機能亢進症になることがある

リチオマールは、気分安定薬に分類されます。リチオマールの成分のリチウムは、身体にほとんど存在しない微量金属元素になります。このリチウムが増えることで、身体には様々な影響が出てきます。リチオマールは副作用が全体的に多い薬です。

リチオマールで気を付けなければいけないのが、リチウム中毒です。リチウムは治療濃度と中毒濃度が近いお薬です。ですから、定期的に血中濃度を測定して確認しなければいけません。後述しますが、慢性リチウム中毒に注意が必要です。

 

リチオマールの副作用として多いのは、振戦と頻尿の2つです。

振戦は、手や指のふるえという形でよく認められます。治療域では程度はそこまでひどくないことが多いですが、血中濃度が中毒域に達すると粗大なものに変わります。

頻尿は、ひどくなると腎性尿崩症という病名がつけられます。リチウムは、抗利尿ホルモンのバソプレシンの働きをブロックしてしまいます。このため多尿になり、水分が失われることで喉が渇いて多飲になります。

 

リチオマールを長期で使っている場合は、内分泌異常に注意が必要です。甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症を合併するリスクがあります。長期で使っている方は、これらを確認する血液検査を少なくとも年に1回、行っていく必要があります。腎機能、甲状腺ホルモン(TSH)、血清カルシウムを測定していきます。

 

5.リチオマールの適応疾患とは?

<適応>

  • 躁病および躁うつ病の躁状態

<適応外>

  • 抗うつ剤の増強療法

リチオマールは、添付文章上の適応疾患としては、双極性障害の躁状態のみとなっています。しかしながら、リチオマールの一番の強みは再発予防効果にあります。ですから、双極性障害のどのような状態でも使われることがあります。

また、抗うつ剤の増強療法として使われることがあります。抗うつ剤をつかっていて効果があと一歩の時に、100~200mgのリチオマールを追加することで抗うつ効果が増強されます。このような増強療法(augmentation)としても使われることがあります。

 

6.リチオマールが向いている人とは?

  • 再発予防効果を意識する方
  • 興奮がそこまで強くない躁状態の方
  • 気分爽快や多幸感がみられる典型的な躁状態の方
  • 服薬がきっちりと守れる方
  • 肝機能が低下している方

リチオマールの特徴は、「再発予防効果がしっかりとしているが効き始めがゆっくりなお薬」でした。この特徴を踏まえて、どのような方に向いているのかを考えていきましょう。

他の気分安定薬と比較しても、リチオマールは再発予防効果の強いお薬です。はじめから再発予防効果を意識して使っていくことも多いです。他の気分安定薬を使っていて気分の波が目立つ方では、リチオマールを併用することが多いです。

また、リチオマールは効き始めがゆっくりです。このため、衝動性や攻撃性が強く、興奮が強い躁状態の方には向きません。じっくりと治療ができるような方に使われることが多いです。興奮が強い方でも再発予防効果を意識して、抗精神病薬と併用されることはあります。

 

リチオマールの効果は、ピュアな躁状態に効果が期待できます。気分が爽快になって活動性が高まっているような方には、薬の効果が認められやすいです。反対に、以下のような患者さんはリチオマールの効果がよくありません。

  • 若年発症
  • エピソードが10回以上(気分の波を繰り返している)
  • 躁うつ混合状態
  • 不機嫌で攻撃性を伴う場合
  • 気分では説明できない幻覚や妄想などの精神病を伴う場合

 

リチオマールのもうひとつの特徴として、「治療域と中毒域が近くて安全性が低い」ことがあげられます。

このため、血中濃度を測定しながら効果をみていかなければいけません。ですから、毎日きっちりとお薬を服用しないと、効果が安定しません。リチオマールは1日2~3回の服用となることが多いので、

リチオマールは腎臓で排泄されるお薬でもあります。ですから、脱水や腎機能の影響を強く受けます。

  • 解熱鎮痛剤のロキソニンなどのNSAIDs(腎機能への影響)
  • 利尿剤や降圧剤(脱水のリスク)
  • 感染症(脱水のリスク)
  • 高齢者(腎機能が低下しやすい)

このような患者さんは注意が必要です。一方で、リチオマールは肝臓への影響が少ないお薬です。肝臓に負担をかけたくない方には向いているといえます。

 

7.一般名と商品名とは?

一般名:炭酸リチウム 商品名:リーマス・リチオマール

まったく成分が同じものでも、発売する会社が異なればいろいろな商品があるかと思います。医薬品でも同じことがいえます。このためお薬には、一般名と商品名というものがあります。

一般名というのは、薬の成分の名前を意味しています。発売する会社によらずに、世界共通で伝わる薬物の名称です。「炭酸リチウム(lithium)」に統一されています。主に論文や学会など、学術的な領域でこれまで使われてきました。

商品名とは、医薬品を発売している会社が販売目的でつけた名称になります。「リーマス(limas)」は、製造元である大正製薬がつけた名前になります。

 

リーマスは、日本では1980年から発売されています。特許が切れて、ジェネリック医薬品もつくられています。リチオマールもそのうちのひとつになります。それぞれの商品名で販売されていましたが、種類が多いと患者さんも違う薬と誤解してしまいますし、医療機関での薬の管理も大変になってしまいます。

このため現在では、「炭酸リチウム」という一般名(成分名)への名称統一がすすめられています。トリアゾラ ム「会社ごとの名称」といった形になっています。リチオマール錠は2015年6月、炭酸リチウム「フジナガ」に名称変更となりました。他にも「アメル」や「ヨシトミ」などが発売されています。

 

リチオマールの効果や副作用について詳しく知りたい方は、
リーマス錠の効果と特徴
リーマスの副作用(対策と比較)
をお読みください。

まとめ

リチオマールは、「再発予防効果がしっかりとしているが効き始めがゆっくりなお薬」です。「治療域と安全域が近く、安全性が低いお薬」でもあります。

  • 抗躁効果(中程度)
  • 抗うつ効果(中程度)
  • 再発予防効果(強い)

リチオマールのメリットとしては、

  • 再発予防効果に優れる
  • 抗躁効果が期待できる
  • 抗うつ効果も期待できる
  • 自殺予防効果がある
  • エビデンスが豊富
  • 薬価が安い

リチオマールのデメリットとしては、

  • 効果がゆっくりあらわれる
  • リチウム中毒に注意が必要
  • 振戦(ふるえ)や頻尿が多い
  • 甲状腺機能低下症・副甲状腺機能亢進症になることがある
  • 催奇形性がある

リチオマールが向いている方は、

  • 再発予防効果を意識する方
  • 興奮がそこまで強くない躁状態の方
  • 気分爽快や多幸感がみられる典型的な躁状態の方
  • 服薬がきっちりと守れる方
  • 肝機能が低下している方

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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