イナビル(ラニナミビル)の効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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イナビル(一般名:ラニナミビル)は、2010年9月10日に発売されてインフルエンザ吸入薬になります。リレンザに次ぐ2番目の吸入薬として発売されましたが、イナビルは2キットを1度に吸入するだけでインフルエンザの治療ができるという簡便さから、現在多くの病院で処方されております。

イナビルは、発症からできるだけ早く服用することが求められるお薬です。48時間以上たってしまったら、あまり効果は期待できません。

ここでは、イナビルの効果について、その作用の仕組みから詳しくお伝えしていきます。

 

1.イナビルの作用の仕組み(作用機序)

イナビルの効果を考えていくにあたって、どのようにしてイナビルが効果を発揮するのかを知る必要があります。

インフルエンザウイルスが感染してからどのようにして体内で増殖していくのか、そしてインフルエンザ治療薬がどのようにしてそれを防ぐのか、詳しくみていきましょう。

 

1-1.インフルエンザの増殖機序について

イナビルの効果や副作用を手っ取り早く知りたい方は、2の「イナビルの用量と使い方」から読んでいただければ幸いです。

インフルエンザの増殖は以下の3つの過程を経て増殖します。

  1. インフルエンザが体内への付着
  2. インフルエンザウイルスのRNA・タンパク質の合成
  3. インフルエンザウイルスの放出

インフルエンザウイルスは自分で増殖はできません。ヒトの細胞を使って増殖して、それをばらまくことで周囲の細胞に感染を広げていきます。

インフルエンザウイルスが口や鼻から入ってくると、身体の細胞に侵入してきます。そして人の細胞の中で、ウイルスのRNAという遺伝子やタンパク質を合成していくことで増殖します。そして新しくできたインフルエンザウイルスが、感染細胞から飛び出して周囲の細胞に感染を広げていきます。

①の付着・③の放出という過程で、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれる2つの糖蛋白の働きが必要になります。HAは16種類、NAは9種類あります。

インフルエンザA型では、このHAとNAの組み合わせで変異を起こすため、新型が出現します。自然界では50種類以上の組み合わせが存在するといわれ、予防接種はその中で今年は流行するだろうと予想される何種かを打ちます。そのため予想された以外のウイルスが感染すると、インフルエンザワクチンを摂取したとしてもインフルエンザに罹患してしまうのです。

 

1-2.抗インフルエンザ薬の作用機序と種類

日本で使われている抗インフルエンザ薬は全て、ウイルスが感染細胞から放出されるのを阻害する薬剤(ノイラミニダーゼ阻害薬)です。ノイラミニダーゼ阻害薬は4剤あり、イナビルもその中の一つです。

抗インフルエンザ薬の作用の仕組みは、先ほど述べた①~③のいずれかを阻害しています。

インフルエンザ治療薬の作用と種類をまとめました。

赤で示した4剤が日本で発売されている薬です。

シンメトレル(アマンダジン)は内服薬であり、日本でもパーキンソン病などに使われる薬ですが、アメリカなどの海外ではインフルエンザにも使用されています。しかしシンメトレルはインフルエンザA型にしか効果がなく、そのA型にも効かないアマンタジン耐性インフルエンザが高率に出現しています。このことからWHOも使用を推奨しておりません。

アビガンは新しい作用機序のインフルエンザ治療薬として注目されており、感染した細胞内でのウイルスの増殖を防ぎます。現在の薬で効果のない新型インフルエンザが流行した場合、厚労省が要請して製造されることになっています。致死性のエボラ出血に対する有効性も認められ、ウイルス性疾患への幅広い効果が注目されています。

細胞からの放出を阻害する薬剤は、ノイラミニダーゼ阻害薬といわれています。ノイラミニターゼ(NA)とはインフルエンザウイルスの表面にある糖蛋白で、細胞から飛び出していく際に必要となります。この働きを邪魔するので、ウイルスが細胞外に出ていけなくなります。

日本で発売されている4種類の薬は、全てこのノイラミニダーゼ阻害薬となります。この中ではリレンザとイナビルが吸入薬、ラピアクタが点滴するお薬で、タミフルは内服薬になります。

この中でイナビルは最も新しいインフルエンザ薬として活躍しています。

 

2.イナビルの用量と使い方

イナビルは1回吸入すれば効果が持続するお薬です。医療機関で薬剤師や看護師が吸入の方法を教えてくれることがほとんどです。

イナビルは、吸入して使うインフルエンザ治療薬です。1回吸入するだけで効果がインフルエンザ治療薬の効果が持続する薬として、非常に簡便です。

インフルエンザ治療薬としての有効成分はラニナミビルという成分ですが、イナビルは正確に言うとラニナミビルオクタン酸エステルという成分が含まれています。これが体内に吸入されると、代謝されて有効成分のラニナミビルとなるのです。

ラニナミビルは、最高血中濃度到達時間が4時間、半減期が70時間程度となっています。つまり、一度吸入してしまうと、血中濃度が半分になるまでに3日ほどかかります。ですから、一回の吸入で十分に効果が持続するのです。

一回で可能なので、医療機関で薬剤師や看護師がイナビルの吸入の仕方を教えてくれることがほとんどです。その場で吸入してしまって帰宅していただくことが多いのですが、念のため吸入の仕方をご説明します。

イナビルのキットには、①と②という番号が書いてあります。このボタンを交互に押し込んでスライドさせて、順番に吸いこんでいきます。①と②の中にはそれぞれ、別々のお薬の成分が入っています。

まず、吸入器のキットを軽くたたいてお薬の成分を広がりやすくします。まずは①を押し込んでスライドさせ吸入します。軽く息を吐いてから、吸いこみ口の奥まで加えます。吸いこんだ後は2~3秒ほど息をとめます。吸い込む際には、キットの底にある空気孔は塞がないように注意してください。それが終わったら②にスライドして吸入します。すべて吸入するために、2回繰り返しましょう。

イナビルの用量は、年齢と用途によって異なります。

イナビルを治療に使う時は、

  • 10歳以上:イナビル40mg(2キット)を1回吸入
  • 10歳未満:イナビル20mg(1キット)を1回吸入

イナビルを予防で使う時は、

  • イナビル20mg(1キット)を1回吸入を2日間

 

3.イナビルのメリット・デメリット

インフルエンザ吸入薬のイナビル、1回の吸入で効果が持続するので広く使われています。イナビルの特徴を、メリットとデメリットに分けてみていきましょう。

 

3-1.イナビルのメリット

「①1日で済ませられる②吸入薬で手軽にできる③目立った副作用や使用注意が少ない④治療効果が他の3剤と比較して劣っていない」といった特徴から、イナビルは第一選択薬として使われることが多いです。

それでは、イナビルが使いやすい特徴は何でしょうか?以下の4点が挙げられます。

  1. 1日で済ませられる
  2. 吸入薬で手軽にできる
  3. 目立った副作用や使用注意が少ない
  4. 治療効果が他の3剤と比較して劣っていない

それぞれの内容について細かく見ていきましょう。

①1日で済ませられる

この点が最も医師から好まれる理由ですが、タミフルやリレンザと違いイナビルは1回で投与できるため、非常に利便性が良いです。タミフルやリレンザは熱が下がっても5日間内服しなければなりません。この2剤は熱が下がったからと言って途中でやめてしまうと再発してしまうリスクがあるため、必ず5日間服用する必要があります。

しかし「のど元過ぎれば熱さ忘れる」ということわざがあるように、医師や薬剤師からどんなに説明を受けても、よくなってしまえば内服がおろそかになってしまう方もいらっしゃいます。熱が下がったこと=インフルエンザが完全に治ったわけではありません。

途中でタミフルやリレンザを自己中断された方の中には、インフルエンザが再発することもあります。一方でイナビルは、その場で2回吸入したら治療が終わりです。そのため、治療中断でのインフルエンザの再発を心配する必要がありません。

②吸入薬で手軽にできる

1日で済ませられる特徴という意味では、点滴のラピアクタも同様です。ただし点滴は針を刺して投与します。痛みを伴いますし、1時間程度と時間もかかります。ラピアクタは、飲めない、吸えない重症例に使うことが多いので、クリニックでは置いてない場合も多いです。一般的に入院が可能な大きな病院で使われることが多いお薬です。

一方でイナビルは吸うだけなので1分もかかりません。人によってはこれだけで本当に熱が下がるのか??と心配になるほど手軽にできる治療なのです。

③目立った副作用や使用注意が少ない

タミフルが発売後数年たってから異常行動が問題になり、10代は慎重投与となっています。同じノイラミニダーゼ阻害薬なので、イナビルでも異常行動はあり得るかもしれないと注意書きがされておりますが、現在までは大きな問題にはなっておりません。

副作用としても下痢が最も多いですが、頻度としては0.3~4%と言われています。他のインフルエンザのお薬でも出現する副作用です。副作用としてではなく、インフルエンザの症状自体で異常行動や下痢などの多彩な症状が起きることもあるので、副作用かどうかを判断するのは難しいです。

ですから、「イナビルを吸ったからもう大丈夫!」と油断せず、完全に治るまではお家でゆっくり休みましょう。

④治療効果が他の3剤と比べて劣っていない

これだけ手軽に治療できる一方で、治療薬を5日使ったり、点滴を行う他の治療と比べて効果が落ちたりしないのかと心配になる人もいると思います。しかしながら、インフルエンザA型・B型共に、どの薬が一番優れているといったことは結論が出ていません。

むしろ一部では新型インフルエンザに対して、タミフルよりイナビルやラピアクタの方が効果が良かったと発表している研究もあります。

少なくとも5日間内服するタミフルと同等の効果が得られていますので、安心して吸入しましょう。

 

3-2.イナビルのデメリット

唯一と言っても良い欠点は、イナビルの吸入がちゃんとできたかどうか確認できない点です。もし心配なら医師にしっかり相談しましょう。

基本的には良いところばかりのイナビル。しっかり吸入できるか分からない小さなお子さんの場合はタミフルが選択されますが、成人中心の内科では、インフルエンザ=イナビルといったように処方している医師も多いです。インフルエンザシーズンは特に内科受診者は多いので、インフルエンザと診断できたら流れ作業でイナビルを処方しがちです。この時よく起こるのが相互の「大丈夫だろう」という思い込みです。

医師「話してるときそんなに咳もしていないし、話もしっかりとしている。この患者さんなら大丈夫だろう。」

患者さんの家族「咳も多いし吸入薬大丈夫かしら?そもそもうちのおじいちゃん、吸入薬なんてちゃんと吸えるのかしら?でもお医者さんが処方してくれたお薬なら大丈夫だろう。」

このようにして「なんとなく大丈夫だろう」とイナビルが使われ、実はちゃんと吸えていないということはしばしばあります。特にイナビルはちゃんと吸えたらランプが光るなんてことはないので、確実に吸えたか確認する方法はありません。

吸った瞬間に咳き込んだ、何かうまく吸えてなさそうと思っても、追加処方は基本ないと考えてください。イナビルが中途半端に吸入された後、追加でタミフル内服で効果がさらによくなったという報告はないですし、むしろその2剤を処方した時の副作用や安全性がわからないためです。

そのため、

  • インフルエンザで咳症状が強い
  • 喘息や肺気腫(COPD)などで、もともと普段から咳が多い
  • 認知症がありしっかりと吸入できるか不安

といった場合は必ず医師にその旨を報告しましょう。

 

4.イナビルと他の抗インフルエンザ薬の比較

イナビルの特徴は、「1日で治療が済む吸入薬」という点にあります。成人だと、まずイナビルが第一選択という病院が多くなってきています。

イナビルではどんな人に向いていて、どんな人に向いてないのでしょうか。まずは4剤の比較を見てみましょう。

インフルエンザ治療薬の用法・薬価・使用割合を比較しました。

タミフルが2001年発売され爆発的に使われるようになりましたが、2007年に10代の飛び降り自殺にて異常行動が問題になりました。そういった流れから、タミフルの10代での処方は少なくなっています。

タミフルもまだまだ処方されているお薬ですが、少しずつイナビルが増加してきています。その場で一回の吸入で効果が持続するため、吸入ができるならイナビルを処方されることが多くなってきています。

 

5.検査が陰性でもイナビルが処方されることがある?

インフルエンザ検査が陰性でも、インフルエンザが症状や経過から疑わしい時はイナビルが処方されます。

インフルエンザの診断は基本的には簡易検査キットで行われます。もっと正確に調べる方法もありますが、シーズン中では大勢の患者さんがいらっしゃるので、簡易検査でみていくことになります。検査について詳しく知りたい方は、「インフルエンザの検査方法と検査タイミングとは?」をお読みください。

ここでインフルエンザA、Bと診断されたらイナビルが処方されます。ここまでは誰もが納得するでしょう。

ただし簡易検査キットで陰性と診断された場合はどうでしょうか。インフルエンザ簡易検査キットで陽性と診断されたら間違いなくインフルエンザといえるのですが、陰性と診断されても違うと断言するのが難しい検査です。特に早期の場合は、インフルエンザウイルスが増殖する前かもしれませんし、子供などで大暴れしながら検査した場合は、ちゃんと鼻腔の粘膜が採取されたかが怪しいです。

そのため医師の視点で考えると、インフルエンザ簡易検査キットが陰性でも、インフルエンザ流行中の発熱で他の疾患が考えづらい場合は、インフルエンザとして治療することが多いです。

ですので、インフルエンザの検査が陰性なのにイナビルを出されたのはなんでだろう??って思う人がいるかもしれませんが、これはインフルエンザを疑って処方されているのです。

その他インフルエンザの予防投与にも使用されます。詳しく知りたい方は、「イナビルの予防投与の適応と効果」をお読みください。

 

まとめ

  • インフルエンザウイルスは、①体内への付着②RNA・タンパク質の合成③インフルエンザウイルスの放出を経て増殖します。
  • 日本で発売されている4種類の薬はノイラミニダーゼ阻害薬であり、インフルエンザ細胞の放出を阻害します。
  • イナビルは1回に2度の吸入で治療できる手軽さが良いお薬です。
  • イナビルは成人では多くの方に処方されていますが、吸入薬が心配な人は医師に相談しましょう。

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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