アビガン錠(ファビピラビル)の効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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富山化学工業が独自に開発したアビガン錠(ファビピラビル)は、新しいインフルエンザ治療薬として開発されました。

アビガン錠は新しい作用の仕組みをもった治療薬として注目されていましたが、動物実験で胎児への催奇形性が確認されたために、「緊急事態のみ」という条件付きの承認となりました。

そんな中、思わぬ形でアビガン錠が注目を浴びました。2014年の西アフリカでのエボラ出血熱の大流行です。エボラ出血熱は致死性の病気で、その治療薬はありませんでした。そんな中、アビガン錠が有効だったのです。

ここでは、アビガン錠のインフルエンザへの効果と特徴を中心にお伝えしていきます。

 

1.アビガンの作用の仕組み(作用機序)

アビガンの効果を考えていくにあたって、どのようにしてアビガンが効果を発揮するのかを知る必要があります。

インフルエンザウイルスが感染してからどのようにして体内で増殖していくのか、そしてインフルエンザ治療薬がどのようにしてそれを防ぐのか、詳しくみていきましょう。

 

1-1.インフルエンザの増殖機序について

アビガンの効果や副作用を手っ取り早く知りたい方は、2の「アビガンの効果について」から読んでいただければ幸いです。

インフルエンザの増殖は以下の3つの過程を経て増殖します。

  1. インフルエンザが体内への付着
  2. インフルエンザウイルスのRNA・タンパク質の合成
  3. インフルエンザウイルスの放出

インフルエンザウイルスは自分で増殖はできません。ヒトの細胞を使って増殖して、それをばらまくことで周囲の細胞に感染を広げていきます。

インフルエンザウイルスが口や鼻から入ってくると、身体の細胞に侵入してきます。そして人の細胞の中で、ウイルスのRNAという遺伝子やタンパク質を合成していくことで増殖します。そして新しくできたインフルエンザウイルスが、感染細胞から飛び出して周囲の細胞に感染を広げていきます。

①の付着・③の放出という過程で、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれる2つの糖蛋白の働きが必要になります。HAは16種類、NAは9種類あります。

インフルエンザA型では、このHAとNAの組み合わせで変異を起こすため、新型が出現します。自然界では50種類以上の組み合わせが存在するといわれ、予防接種はその中で今年は流行するだろうと予想される何種かを打ちます。

そのため予想された以外のウイルスが感染すると、インフルエンザワクチンを摂取したとしてもインフルエンザに罹患してしまうのです。

 

1-2.抗インフルエンザ薬の作用機序と種類

アビガンは、RNA複製の過程を阻害する新しい薬剤です。今まで日本で使われている抗インフルエンザ薬は全て細胞からの放出を阻害する薬剤(ノイラミニダーゼ阻害薬)です。

抗インフルエンザ薬の作用の仕組みは、先ほど述べた①~③のいずれかを阻害しています。

インフルエンザ治療薬の作用と種類をまとめました。

赤で示した4剤が日本で現在おもに使われているインフルエンザ治療薬です。この4剤をまとめてノイラミニダーゼ阻害薬と言います。

一方で新しいアビガンは、②のRNA複製の過程を阻害します。今までのインフルエンザ治療薬の作用機序とは全く異なります。

インフルエンザウイルスは自分だけでは増殖できず、私たちの体に吸着した後に自分のRNAを複製する作業を行います。アビガンはこのRNAの複製を邪魔することで効果を発揮します。

ノイラミニダーゼ阻害薬の手前の作業を邪魔するのがアビガンです。今までのお薬とは全く違う薬と考えてよいと思います。

 

2.アビガンの効果と特徴

アビガンは様々なウイルス感染症に効果があるのではと考えられています。インフルエンザウイルスだけでなく、さまざまなウイルスのRNA複製を阻害するためです。

冒頭でお話したエボラ出血熱では致死率の高さから見切り発車で使われましたが、有効性がみられています。現在はその他のRNAウイルス感染症にも効果があるのではと検証されています。

ここでは、インフルエンザ治療薬としてのアビガン錠の効果と特徴についてみていきましょう。

 

2-1.アビガンとその他のインフルエンザ治療薬の違い

アビガンでは投与が遅れても効果を示し、またノイラミニダーゼに耐性を示したインフルエンザウイルスに効くといわれています。

今までのノイラミニダーゼ阻害薬は、増える前にインフルエンザウイルスを細胞に閉じ込めてしまう治療薬でした。そのためタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ全て48時間以内に投与しないと意味がないとなっています。

つまりインフルエンザウイルスの量が十分に増殖してしまった後では、今さらインフルエンザウイルスを閉じ込めたところで後の祭りになってしまうのです。

しかしアビガンは、インフルエンザウイルスの増殖自体を抑制する作用を有しています。つまり細胞外にたくさんのインフルエンザウイルスが増殖してしまった後でも、RNAの増殖を阻害することで効果を示すことができます。アビガンは2日以降たった後でも、治療効果があるとされています。

また近年の季節性インフルエンザには、タミフル耐性のインフルエンザウイルスが登場していると話題になってます。このタミフル耐性のインフルエンザウイルスに対してはイナビルやリレンザが効果があるといわれています。しかしながら同じ作用機序であるノイラミニダーゼ阻害薬であることから、いつの日か現在発売されている治療薬全てが効かないインフルエンザウイルスも出てくるのではと懸念されております。

そんな中、この全く作用機序が違うアビガンの存在が大きいのです。他のインフルエンザ薬に耐性ができてしまっても、アビガンでは効果が期待できるのです。タミフル耐性やリレンザ耐性のインフルエンザウイルスの細胞をアビガンに投与しても、これらのウイルスは全く増殖しなかったという報告があります。

 

2-2.アビガンとその他のインフルエンザ治療薬の効果の比較

耐性がない普通のインフルエンザウイルスでは、効果は他のインフルエンザ薬と変わりがないと報告されています。特別に効果が高いというわけではありません。

2007-2009年に、タミフルとアビガンの効果について50人ずつに振り分けて効果を検証しています。(第Ⅱ相試験)以下の7つのインフルエンザ症状が、どれくらいで消失するのかを調べています。

  1. 咽頭痛
  2. 鼻症状
  3. 頭痛
  4. だるさ
  5. 筋肉痛
  6. 寒気

これらの症状の消失は、アビガンでは54時間、タミフル投与群では47時間でした。この7時間の差は統計学的には有意な差ではないとのことで、効果はどちらも同じと結論付けられています。(何も投与しない人たちは73時間でした。)

熱が下がった時間は、アビガンでは21時間、タミフルでは19時間で2時間の差となっています。この2時間の差も、統計学的には有意な差ではないとされています。(何も投与してない人たちは31時間でした)

以上から、タミフルとアビガンは同程度の効果があるとされています。アビガンが新薬だからといって、インフルエンザに凄い効果を示すわけではないということに注意しましょう。

 

3.アビガンの投与方法は?

1日目は1回1600mg、2~5日目は1回600mgを1日2回経口投与し、投与期間は5日間です。

アビガン錠は200mgの錠剤が製造されています。その使い方は他のインフルエンザ薬より複雑です。

最初の一日目は1600mg(8錠)を1回として朝・夕で計16錠内服します。その後は600mg(3錠)を1回として朝・夕で計6錠内服します。これを計5日間投与します。

内服薬としてはタミフルが有名ですが、タミフルは1錠75mgを1錠ずつ朝・夕で計5日間内服しますので、アビガンの方が手間がかかるということがよくわかると思います。

量も多いですし、何より1日目と2日目から量が変わるので間違えのもとになるかもしれません。

 

4.いつアビガンは登場するの?

アビガンは厚生労働大臣の要請がない限りは、製造できないこととされています。インフルエンザ薬で耐性を持ったインフルエンザウイルスが流行した時に登場することが予想されます。

実は2014年3月24日に、アビガン錠200mgの製造販売が承認されているのです。

しかし適応は

「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」

となっており全てのインフルエンザに適応がありません。

さらに厚生労働大臣の要請がない限りは、製造できないこととされています。もし発売されたとしても、国が使用の必要があると判断した場合のみ患者さんへの投与が検討される薬剤であるとされ、通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう、厳格な流通管理を行うことが求められています。

つまり2009年の新型インフルエンザのような大流行が起き、タミフルやリレンザ、イナビルなどの薬に効果がないとなった時に登場予定のお薬なのです。ちなみにインフルエンザキットではA型、B型のみしか診断できず、インフルエンザ薬に耐性を持ったインフルエンザかどうかは研究所で調べないとわからないです。

 

5.アビガンは、なぜ条件付きなのか?

催奇形性の懸念と、できるだけ耐性ウイルスを作らないためです。

何故、このような厳格な規制があるのでしょうか?それには2つの理由があります。

  • 胎児への催奇形性が懸念されているから
  • 耐性ウイルスを作らないため

催奇形性については、アビガンの安全性のところで述べさせていただきます。

ウイルスは薬に対して一定の確率で変異して、薬に対して耐性をもったものが登場することがあります。これはインフルエンザに限った話ではありません。

感染症の世界は、ばい菌と薬の永遠のいたちごっこが繰り広げられています。新薬を作ると多くのばい菌がやっつけられます。しかしながら中には変異するやつがいて、新薬に耐性のあるものが出現します。薬が効かなくなりますから、さらに新薬を開発してやっつける・・・といったことを繰り返しているのです。

ただ新薬というのはそんなに簡単に作れるものではありません。効果だけでなく安全性などもクリアーされたものしか人には使えないのです。ウイルスの変異のスピードは非常に早く、いつか人類はウイルスに敗れてしまうのではと危惧すらされています。

そのため新しく登場する予定のお薬は、できるっだけ慎重に使う必要があるのです。これには患者さんにも協力が必要になります。それは症状がたとえ良くなっても、アビガンはキッチリと5日間飲んでいただくことです。理由としては、熱が下がった=インフルエンザウイルスが完全に消滅したわけではないためです。

熱とは基本的に、インフルエンザや細菌などを退治するための身体の防御反応です。化学の実験と同じで、体温が高くなると免疫反応が高まるのです。つまり熱が下がってきて楽になったのは、防御反応を取らなくてもよいくらいインフルエンザウイルスが少なったということです。しかしインフルエンザウイルスは繁殖力が強いウイルスです。本人が油断するとあっという間に再発してしまいます。

再発してしまうと、アビガンに耐性を持ったインフルエンザウイルスが出現することも予想されます。せっかくの新薬なので大切に使う必要があります。

 

6.アビガンの副作用

アビガンで多い副作用としては下痢、上腹部痛などの胃腸障害ですが、これらは他のインフルエンザの治療でも起こります。副作用の頻度も同じ程度でした。

タミフルとアビガンを比較した試験では、タミフルが24%、アビガンが20%で副作用が出たとされています。タミフルでは下痢が11%、吐き気が7.5%でした。アビガンは下痢が10%、上腹部痛・吐き気が4%となっており、どちらも消化器症状が同じ程度出ています。

ただし注意が必要ですが、インフルエンザ自体でも消化器症状を認めます。特にB型インフルエンザでは消化器症状が多いです。

アビガンの副作用か、はたまたインフルエンザの症状なのか、これを鑑別するのは医師でも困難です。

 

7.アビガンでの安全性は?

アビガンは小児、妊婦には危険性があるため投与しないとなっております。授乳中の方は投与することは可能ですが授乳は禁止されています。男性でも精液への移行が確認されており、投与後7日間は性交を避けるように注意喚起されている珍しい薬です。

まず小児ですが、アビガンの添付文書でも小児に対する投与経験はないとされていることから原則勧められていません。動物実験でも異常歩行や骨格筋線維の萎縮が副作用として認められているため、投与しない方が良いと思います。

次に妊婦さんですが、アビガンは動物実験で催奇形性が確認されていることから、妊婦または妊娠している可能性のある人には禁忌とされています。

またアビガンは精液中にも移行するため、男性にアビガンを投与する際は、アビガンを投与期間中および投与終了後7日間、性交渉時は避けるように注意喚起されています。

出産後にアビガンを投与すること自体は良いのですが、アビガンが母乳に移行することが分かっていますので授乳は避けるよう指示されています。

 

まとめ

  • アビガンはRNA複製の過程を阻害する今までのインフルエンザとは作用機序から違う新しい薬剤です。
  • アビガンの効果及び副作用は、他のインフルエンザ薬と差はありません。
  • アビガンの特徴は、投与が遅れても効果を示す点と、今までのインフルエンザ薬に耐性を示したインフルエンザウイルスに効果を示す点です。
  • アビガンは1日目は1回1600mg、2~5日目は1回600mgを1日2回経口投与し、総投与期間は5日間です。
  • アビガンは厚生労働大臣の要請がない限りは、製造できないこととされています。
  • アビガンは妊婦、小児は使わない薬です。

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