人参養栄湯【108番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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身体の中の「気」が足りなくなっている状態を漢方では「気虚」といいますが、こういう時には元気がなくなります。体がだるくて疲れやすく、やる気がおきないといった症状が現れます。息切れや動悸、発汗や悪寒などといった身体症状も現れます。

また、身体の「血」が不足すると「血虚」という状態になり、血流が不足して顔色が悪くなったり、貧血の症状が現れたりします。

病気や手術後、産後などでは体力が低下し、「気虚」や「血虚」の状態になりやすくなります。このようなときによく使われる漢方薬が人参養栄湯です。人参養栄湯は気力と体力を補って、弱っている患者さんの元気をとりもどします。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、人参養栄湯は「ツムラの108番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される人参養栄湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.人参養栄湯【108番】の生薬成分の効能

人参養栄湯は、主薬である「人参」を中心に、滋養・強壮作用のある「黄耆」「遠志」「五味子」に、血行をよくする「当帰」や「地黄」などが組み合わせられています。補気・補血の効果が期待できます。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

人参養栄湯は、12種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 人参(3.0g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
  • 黄耆(1.5g):強壮作用・利尿作用
  • 当帰(4.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 地黄(4.0g):強壮作用・利尿作用・補陰作用・補血作用
  • 白朮(4.0g):健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 茯苓(4.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用
  • 芍薬(2.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・血管拡張作用
  • 桂皮(2.5g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用
  • 陳皮(1.5g):健胃作用・鎮咳作用・理気作用
  • 遠志(2.0g):鎮静作用・強壮作用・去痰作用
  • 五味子(1.0g):鎮咳作用・止汗作用・止痢作用
  • 甘草(1.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用・強壮作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量9.0gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

人参養栄湯は「補薬の王」と呼ばれる人参を中心に、12種類の生薬からできています。

補薬とは体力を補うために用いる薬のことです。人参と黄耆の組み合わせは相性が良く、どちらも滋養強壮作用と補気作用があります。この二つの生薬が入った漢方は「参耆剤(ジンギザイ)」と呼ばれますが、体力や気力を回復してくれる作用があります。

人参・黄耆以外にも、遠志、五味子に滋養・強壮作用があり、「気」を補う作用があります。また、当帰や地黄が「血虚」の状態を改善させ、血のめぐりをよくしてくれます。そして利尿作用や発汗作用のある白朮や茯苓が、体の水分の循環を良くします。

芍薬や甘草は筋肉の緊張をゆるめてくれる作用があり、遠志にも鎮静作用があります。身体をリラックスさせて「気」や「血」を補う漢方薬が人参養栄湯になります。

人参養栄湯は、同じく気血を補う十全大補湯に遠志・五味子・陳皮を加え、川芎を除いた処方になっています。十全大補湯よりも、さらに効果が強められています。

 

人参養栄湯の生薬の由来について

 

2.人参養栄湯の証

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(気虚・血虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

病院では、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。漢方の代表的な証には、「陰陽」「虚実」「寒熱」「表裏」の4つがあります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

人参養栄湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:寒証
  • 気血水:血虚(血流不足・貧血症状)・気虚(心身疲労)

 

3.人参養栄湯の効果と適応

  • 疲労倦怠感
  • 病後、術後、産後の体力低下
  • 疲労からくる食欲不振
  • 疲労からくる不眠
  • 貧血や冷え症

人参養栄湯は、「和剤局方」という宋の時代に書かれた古典書に紹介されています。12種類それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

人参養栄湯に含まれている12種類の生薬のなかでも主な生薬である人参を中心に、黄耆などの滋養強壮作用のある生薬により、病気や手術、出産後の低下した体力を取り戻します。

また疲労がたまってくると、食欲が落ちてしまったり、眠れなくなったりすることがあります。このように、疲労が原因となった食欲不振や不眠にも効果が期待できます。

人参養栄湯には、「血虚」の状態を改善させる生薬である当帰や地黄が含まれています。これらの生薬が全身の血行をよくするので、貧血の改善や手足の冷えの改善が期待できます。

なお、添付文章に記載されている人参養栄湯の適応は以下のようになっています。

病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血

使用目標:病後・術後あるいは慢性疾患などで疲労衰弱している場合
1)全身倦怠感、顔色不良、食欲不振などを伴うことが多い
2)慢性疾患で、微熱、悪寒、咳嗽などを伴う場合

 

4.人参養栄湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

人参養栄湯は、ツムラやコタロー、クラシエ、オースギなどから発売されています。生薬成分の含まれる量は同じなのですが、会社によって漢方薬の1日量が異なります。人参養栄湯では、ツムラは9.0g、コタローは15.0g、クラシエは7.5g、オースギは12.0gとなっています。

人参養栄湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用することで、麻黄や附子などの効果の強い生薬は胃酸によって効果をおだやかにし、その他の生薬は早く腸に到達して吸収がよくなります。人参養栄湯では、空腹時の方が吸収はよくなります。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.人参養栄湯の効き目とは?

人参養栄湯は、漢方薬の中では効果の実感が早いです。早い人では数日、2週間くらいかけて少しずつ効いてくる方もいます。

それでは、人参養栄湯の効き目はどのような形でしょうか。

人参養栄湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで様々な身体の症状で悩まされていた方が、ビックリするくらいに穏やかになることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

人参養栄湯は、漢方薬の中では効き目はやや早い印象があります。比較的すぐに効果が出てくる方もいますが、2週間ほどして効果が少しずつ強まってくることも多いです。1ヶ月ほど使って効果の実感が乏しい方には、他の漢方薬に切り替えていきます。

効果が認められた方でも体質改善を意識していくには、すぐに人参養栄湯を中止せずに半年ほどは使っていった方がよいです。疲弊していた時期が長い方では、バランスを整えるにも時間がかかります。

このような効き目なので、抗うつ剤や抗不安薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性と確実性はありません。ですから、疲れが出ないからといって栄養ドリンクのように頓服として使っても効果は期待しにくいです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.人参養栄湯の副作用

人参養栄湯では、生薬固有の副作用として偽アルドステロン症に注意が必要です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレル ギー反応が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み 始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

人参養栄湯の生薬成分の甘草は、大量に服用すると生薬としての副作用が懸念されます。「偽アルドステロン症」と呼ばれる機能異常によって、高血圧やむくみ、低カリウム血症などが認められることがあります。

低カリウム血症によって、筋肉のけいれんや麻痺が起こることがあります。甘草の入っている他の製剤やグリチルリチンとの飲み合わせには十分な注意が必要です。また、長期間にわたって複数の漢方薬を服用するときは念のために注意してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

人参養栄湯は、体力を補う「補薬」の王ともいわれる生薬の「人参」を中心に、黄耆や遠志、五味子による滋養強壮作用と、当帰や地黄による血行促進作用による貧血や冷え症の改善が中心といえます。

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(気虚・血虚)

人参養栄湯は、以下のような方に使われます。

  • 疲労倦怠感
  • 病後、術後、産後の体力低下
  • 疲労からくる食欲不振
  • 疲労からくる不眠
  • 貧血や冷え症

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