補中益気湯【41番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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補中益気湯の「益気」とは「気を益す」、すなわち「元気を出す」ということです。また、漢方の「中」は、消化吸収に関わる臓器を指します。「補中」つまり、胃腸が良くなれば、体の働きも改善するということです。

身体の気が不足してしまうと、疲労感が現れたり身体がだるくなったり、食欲がなくなったり風邪を引きやすくなったりします。精神的にも気分が落ちこんだり、気力が出なくなってしまいます。

このような状態に対して、補中益気湯は代表的な補気剤としてよく使われます。別名「医王湯」ともいわれる漢方薬です。補中益気湯は体力が虚弱で全体的に疲れが出ている人に向いている漢方薬で、効果も実感しやすい漢方薬と処方していて感じます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、補中益気湯は「ツムラの41番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される補中益気湯の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.補中益気湯【41番】の生薬成分の効能

補中益気湯は、胃腸の働きを整えて血の巡りをよくして栄養状態を整え、その上で人参と黄耆を中心とした人耆剤によって気を補う漢方薬といえます。このようにさまざまな生薬が一緒に働いて、体力気力を充実させる漢方薬になります。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

補中益気湯は、10種類の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 人参(4.0g):強壮作用・抗ストレス作用・賦活作用・補気作用
  • 蒼朮・白朮(4.0g):健胃作用・利尿作用・発汗作用
  • 黄耆(4.0g):強壮作用・利尿作用
  • 当帰(3.0g):補血作用・駆血作用・月経調整作用・潤腸作用
  • 陳皮(2.0g):健胃作用・鎮咳作用・理気作用
  • 大棗(2.0g):健胃作用・強壮作用・利尿作用・鎮静作用
  • 柴胡(2.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
  • 甘草(1.5g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用
  • 生姜(0.5g):発汗作用・制吐作用・健胃作用・鎮咳作用
  • 升麻(1.0g):発汗作用

※カッコ内は、ツムラの製剤1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

補中益気湯の効果の中心となる生薬は人参と黄耆です。この2つはともに滋養強壮作用があり、補気作用があります。この二つの生薬が入った漢方は「参耆剤(ジンギザイ)」と呼ばれますが、体力や気力を回復してくれる作用があります。

蒼朮(白朮)は水分の循環をよくしてくれます。柴胡と升麻は炎症をしずめることで、補った気をさらに高める働きがあります。

陳皮や生姜や大棗は胃腸の働きを良くすることで、消化機能を整えます。当帰は血を補ってめぐりをよくする働きがあり、気を生み出す元を作ります。

このようにみると補中益気湯は、胃腸の働きを整えて血の巡りをよくして栄養状態を整え、その上で人参と黄耆を中心とした人耆剤によって気を補う漢方薬といえます。このようにさまざまな生薬が一緒に働いて、体力気力を充実させる漢方薬になります。

補中益気湯の生薬の由来とは

※本来は白朮が使われるのですが、日本では蒼朮が代用で使われることが多いです。蒼朮と白朮は同じではなく、生薬としての作用は異なりますので注意が必要です。

 

2.補中益気湯の証

陰陽(陰証)・虚実(虚証)・寒熱(中間証)・気血水(気虚)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などを見極めて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

補中益気湯が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰証
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:中間証
  • 気血水:気虚(心身疲労)

 

3.補中益気湯の効果と適応

  • 倦怠感・疲労感が強いうつ病や不安障害など様々な精神疾患
  • 手術や病気、出産などにより体力が低下し衰弱している場合
  • 慢性的に長引く風邪
  • 慢性疲労症候群

補中益気湯は、「内外傷弁惑論」という漢方の古典書に紹介されている代表的な漢方の薬です。10種類のそれぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

補中益気湯は、消化機能を意味する「脾胃」を高めることで気を補い、その働きをよくすることで慢性的な疲労感や倦怠感、気力低下を改善する漢方薬です。

このため補中益気湯が使われるのは、身体の「気」が不足している以下のような状態のときです。

  • 気分の落ち込み、不安障害、うつ状態
  • 体力低下、術後や病後の衰弱
  • 貧血、胃腸機能の減退、疲労倦怠感
  • 多汗症・男性不妊症

精神疾患の患者さんでは心身共に消耗しているかたも多く、補中益気湯を使うことで元気になる方も多いです。

補中益気湯は術後の回復を助けたり、慢性疾患での消耗を防ぐ目的でも使われます。悪性腫瘍、いわゆるガンでの治療でも、副作用軽減と体力維持のためにつかわれることもあります。NK細胞を活性化させ、免疫を高めることでの抗腫瘍作用も報告されています。

貧血や胃腸の働きが弱っていたり、風邪が慢性的に長引いてしまう時にも使われることがあります。慢性的に疲労倦怠感や食欲不振がある場合に改善が期待できます。何らかの原因で慢性疲労感が続く慢性疲労症候群という病気があります。この病気にも、補中益気湯が効果的なことがあります。

その他、心身の疲労からくる多汗症や男性不妊症(精神運動率の改善)にも使われることがあります。

このように補中益気湯が向いているのは、心身が衰弱している方です。胃腸の機能が低下していて気分が落ち込み、重い疲労感を持つ方に使われる漢方薬になります。

なお、添付文章に記載されている補中益気湯の適応は以下のようになっています。

消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:
夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症

 

4.補中益気湯の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

補中益気湯は、ツムラ、クラシエ、コタロー、三和など多くの製薬会社から発売されています。1日量は7.5gが基本となっていて、コタローでは12gとなっています。

補中益気湯は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。補中益気湯を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.補中益気湯の効き目とは?

補中益気湯は、漢方薬の中では効果の実感が早いです。早い人では数日、2週間くらいかけて少しずつ効いてくる方もいます。

それでは、補中益気湯の効き方をみていきましょう。

まずは補中益気湯の効果についてです。補中益気湯は、漢方薬の中では効果が期待できると感じています。疲労倦怠感や食欲不振を抱えている45人の患者さんに補中益気湯を4週間以上使ったところ、3か月後の時点で90%以上の方が改善していたという報告があります。(著明改善55.6%・改善33.3%)

補中益気湯の効果は、人それぞれです。証がぴったりと合う方には、効果テキメンなこともあります。いままで疲労感や倦怠感が強かったかたが、急に身体が軽くなって活動的になることもあります。その一方で、まったく効果の実感がない方もいらっしゃいます。

補中益気湯は、漢方薬の中では効き目がやや早い印象があります。補中益気湯を飲み始めて3~4日して効果を実感する方もいます。私の同僚の精神科医も補中益気湯を服用していますが、彼はすぐに効果を実感できるとのことでした。

多くの方は2週間ぐらいして少しずつ効果が出てきます。1ヶ月ほど使って効果の実感が乏しい方には、補中益気湯の効果は乏しいと考えて私は処方を他の漢方薬に切り替えています。

効果が認められた方でも体質改善を意識していくには、すぐに補中益気湯を中止せずに半年ほどは使っていった方がよいです。疲弊していた時期が長い方では、バランスを整えるにも時間がかかります。

このような効き目なので、抗うつ剤や抗不安薬のようにすぐに不安を取り除いてくれるような即効性と確実性はありません。ですから、疲れが取れないからといって栄養ドリンクのように頓服として使っても効果は期待しにくいです。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.補中益気湯の副作用

補中益気湯では、配合されている生薬の「甘草」を大量に服用したときに生じる「偽アルドステロン症」と呼ばれる症状に注意が必要です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

補中益気湯は体力虚弱な人に用いるので、体力の旺盛な人に用いても効果は望めません。重い副作用はないとされていますが、配合されている生薬の「甘草」を大量に服用すると浮腫(むくみ)を生じたり血圧が上がってきたりすることがあります。

これが「偽アルドステロン症」と呼ばれる症状です。複数の漢方薬を長期間併用している時などは念のため注意をしてください。むくみなどの症状が出た場合は、すぐ医師に連絡してください。また、まれに間質性肺炎や肝障害がみられることもあります。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

補中益気湯の代表的な生薬成分である人参と黄耆に滋養強壮作用があるため、虚弱体質の人の体力と気力を補い、消化機能を回復させ、倦怠感を取り除き元気を取り戻す作用が期待されます。

陰陽(陰証)・虚実(虚証)・寒熱(中間証)・気血水(気虚)

補中益気湯は、以下のような方に使われます。

  • 倦怠感・疲労感が強いうつ病や不安障害など様々な精神疾患
  • 手術や病気、出産などにより体力が低下し衰弱している場合
  • 慢性的に長引く風邪
  • 慢性疲労症候群

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