八味地黄丸【7番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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八味地黄丸は、別名を八味丸や腎気丸ともいい、老化に伴う不調、とりわけ下半身の不調に効果がある漢方薬です。泌尿器科などでよく処方される漢方薬になります。

老化により力が弱まって全身をめぐる気血水が不足・停滞すると、お腹に力が入らなくなり、体の諸所に不調があらわれます。特にお腹の中でも、おへそから下の部分に力が入らない症状を、漢方では「臍下不仁」といいます。

「臍下不仁」は、「腎」の気が不足する「腎虚」が原因で起こります。「腎」は腎臓のほか、副腎や膀胱、生殖器を司っています。

その気が不足すると、膀胱は柔軟さとあたたかさを失ってしまい、尿をとどめておくことができなくなります。その結果、尿漏れや頻尿が起こります。また、ホルモンの分泌も乏しくなり、生殖機能も不調となります。

「腎」は生命力をあらわし、気血水がみなぎると若々しくいられる五臓の一つです。八味地黄丸は、「腎」に気を補い、体の内側のあたたかさと柔軟性を保ち、エネルギーを全身に循環させます。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、八味地黄丸は「ツムラの7番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される八味地黄丸の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.八味地黄丸【7番】の生薬成分の効能

老化が原因で起こる血液循環の停滞、冷え、新陳代謝不足に伴う諸症状を改善します。地黄により血の巡りを改善し、山茱萸と山薬の強壮効果で体力をつけます。沢瀉、茯苓、桂皮が水分の巡りをよくし、また、附子が強心作用と、低下した新陳代謝を促進します。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

八味地黄丸は、8つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 地黄(6.0g):強壮作用・利尿作用・補陰作用・補血作用
  • 山茱萸(3.0g):利尿作用・滋養強壮作用・補血作用
  • 山薬(3.0g):滋養強壮作用・止痢作用・血糖降下作用
  • 沢瀉(3.0g):利尿作用
  • 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 牡丹皮(2.5g):消炎作用・駆血作用
  • 桂皮(1.0g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用
  • 附子(0.5g):鎮痛作用・強心作用・昇圧作用

※カッコ内は、1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

八味地黄丸の基本的な効果は、体力を充実させ、体をあたためて血のめぐりをよくすることです。

八味地黄丸は、六味丸に桂皮と附子を加えたものです。地黄・山茱萸・山薬には滋養強壮効果があり、体を温めて体力を補います。牡丹皮は血の巡りをよくし、体の隅々まで血液を行きわたらせます。

さらに附子が強心作用によって生命エネルギーをつかさどる「腎」を充実させ、精力の充実と代謝機能の正常化をはかります。

そして沢瀉や茯苓の利尿効果、桂皮の発汗作用で、体内の水分調節を行います。

そのほか、地黄・山茱萸・山薬には、血糖降下作用が認められます。血糖値が高いことで起こる糖尿病は、血管に悪影響をもたらします。毛細血管の血流や末梢神経の伝達が悪くなって、手足のしびれなどが起こります。八味地黄丸は、これらの症状に効果があるため、糖尿病を原因とする諸症状の改善にも効果があるといえます。

八味地黄丸の生薬の由来についてまとめました。

 

2.八味地黄丸の証

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(血虚・水毒(腎虚))

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

八味地黄丸が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:寒
  • 気血水:血虚・水毒(腎虚)

体に必要なうるおいがなくなっていく状態を陰虚といいます。腎泌尿器・生殖器をつかさどっている「腎」の気の不足によって陰虚が生じるため、これを腎虚といいます。八味地黄丸は、腎虚を改善する漢方薬です。

八味地黄丸は虚証の人に向いている漢方薬で体力の弱っている高齢者に向いているといえます。

 

3.八味地黄丸の効果と適応

  • 老化による体力の低下・倦怠感
  • 腎機能低下や前立腺肥大症に伴う排尿障害
  • 老化による性機能低下
  • 糖尿病性の抹消神経障害・手足のしびれや網膜症
  • 四肢の冷えやめまい

八味地黄丸は漢時代に書かれた「金匱要略」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

八味地黄丸は「腎気丸」の別名をもつとおり、腎の気を補う漢方薬です。「腎虚」から「臍下不仁」になり、力が入らなくなった腎に「気」を補い、全身にめぐらせます。

「腎」は腎臓や膀胱を含む五臓で、体の中でも水分調節をつかさどり、また、生命エネルギーの要ともされます。老化で腎に気が不足すると下腹部に力が入らなくなり、「臍下不仁」という症状を呈します。これは下腹部の筋肉や感覚神経系が鈍くなってしまう症状です。

「臍下不仁」になると、下腹部が冷えて血の巡りが悪くなります。すると、下腹部にある膀胱の筋肉も冷えて柔軟性を失い、尿を貯められなくなります。また、体が冷えることによって、体の水分は汗にならず、尿として排泄される量が多くなります。そこで尿が貯められないとなると、尿意を覚える回数が増え、時には尿漏れ、失禁が起こります。

尿の調節だけでなく、体に水分をうまく分配できないと、水の流れが滞ることで起こる胃内停水やむくみ、また、反対に水分が足りないところでは乾燥肌や口渇が起こります。

また、下腹部には生殖機能をつかさどる臓器もあります。気が不足し、体が冷えることでホルモンが分泌されにくくなり、男性であればインポテンツ、女性であれば閉経後の骨粗鬆症が起こりやすくなります。

八味地黄丸は、腎に気を補うことによって、身体中にエネルギーをめぐらせてあたため、水分を調節します。体の中からあたたかさと筋肉のしなやかさをを保ち、精力の回復とします。

これによって排尿障害や性機能低下に効果が期待でき、高齢者に向いている漢方薬といえます。また、四肢の冷えやめまい、糖尿病症状にも効果が期待できます。

なお、添付文章に記載されている八味地黄丸の適応は以下のようになっています。

疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互的に冷感と熱感のあるものの諸症:

腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧

 

4.八味地黄丸の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

八味地黄丸は、ツムラ・コタロー・クラシエなどから発売されています。1日量はツムラは7.5g、コタローは9g、クラシエは6gとなっています。クラシエからは錠剤も発売されていますが、1日量が18錠にものぼります。

八味地黄丸は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。八味地黄丸を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.八味地黄丸の効き目とは?

効果は2週間以上かけてゆっくりと認められることが多いです。

それでは、八味地黄丸の効き目はどのような形でしょうか。

八味地黄丸は、虚証の人に向いている漢方薬です。ゆっくりとした体の老化に対する不調を回復するので、効果も徐々にあらわれます。

一般に冷えに対する効果は早いと言われますが、膀胱の過活動などの排尿障害に対する効果を実感するには、1~2ヶ月の服用が必要です。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.八味地黄丸の副作用

八味地黄丸では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。八味地黄丸は、比較的安全な漢方薬と言われ、重篤な副作用はめったにみられません。しかし、子供に対する処方や、飲み合わせによっては注意が必要です。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

八味地黄丸は、虚証の人に向く処方です。体力がある人、暑がりでのぼせがある人には誤治となります。誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

八味地黄丸には、生のままだと有毒成分のアルカロイドを含む附子が使われています。漢方に使うものは安全に処理をされていますが、それでも人によっては舌のしびれ、吐き気、動悸、不整脈といった交感神経刺激症状をあらわすことがあります。

そのため、附子を含む他の漢方薬と一緒に飲むと、附子の摂取量が多くなってしまうので注意が必要です。また、子供には特に注意します。2歳未満には処方しないのが一般的です。

また、牡丹皮が血流を促進するため、妊娠している人が服用することで流産や早産を起こす可能性もあります。

地黄には胃の動きを悪くさせる作用があるため、食欲不振や吐き気、下痢などの胃腸症状を起こしやすい人は慎重に使います。胃の調子が低下している人は、食後の服用にするか、六味丸のほうが良いでしょう。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

八味地黄丸は、「腎虚」による「臍下不仁」の症状を改善します。膀胱の機能を整えて頻尿や尿漏れなど、排尿異常を改善します。また生殖器の働きも整え、性機能障害を改善します。

体内の水分調節をすることで肌がうるおい、乾燥によるかゆみを改善します。滋養強壮効果を持ち、血のめぐりをよくして体をあたためることで体の隅々まで血液が行き渡り、神経障害を改善します。

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(血虚・水毒(腎虚))

八味地黄丸は、以下のような方に使われます。

  • 老化による体力の低下・倦怠感
  • 腎機能低下や前立腺肥大症に伴う排尿障害
  • 老化による性機能低下
  • 糖尿病性の抹消神経障害・手足のしびれや網膜症
  • 四肢の冷えやめまい

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