牛車腎気丸【107番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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牛車腎気丸は、老化に伴う不調、とりわけ下半身の不調に効果がある漢方薬です。泌尿器科などでよく処方される漢方薬になります。

老化により力が弱まって、全身をめぐる気血水が不足・停滞すると、お腹に力が入らなくなり、体の諸所に不調があらわれます。特に、お腹の中でもおへそから下の部分に力が入らない症状を、漢方では「臍下不仁」といいます。

「臍下不仁」は、「腎」の気が不足する「腎虚」が原因で起こります。「腎」は腎臓のほか、副腎や膀胱、生殖器を司っています。

「腎」は生命力をあらわし、気血水がみなぎると若々しくいられる五臓の一つです。牛車腎気丸は「腎」の気を補い、体の内側のあたたかさと柔軟性を保ち、エネルギーを全身に循環させます。

その気が不足すると、膀胱は柔軟さとあたたかさを失ってしまい、尿をとどめておくことができなくなります。その結果、尿漏れや頻尿が起こるのです。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、牛車腎気丸は「ツムラの107番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される牛車腎気丸の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.牛車腎気丸【107番】の生薬成分の効能

八味地黄丸に、牛膝と車前子を加えた漢方薬です。効果は八味地黄丸とよく似ていますが、牛膝と車前子には利尿作用を、また、牛膝には血流をよくする作用が含まれます。八味地黄丸を使用する症状に加え、特に下半身のむくみがひどいものに使用します。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

牛車腎気丸は、十の生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 地黄(5.0g):強壮作用・利尿作用・補陰作用・補血作用
  • 山茱萸(3.0g):利尿作用・滋養強壮作用・補血作用
  • 山薬(3.0g):滋養強壮作用・下痢止め作用・血糖降下作用
  • 沢瀉(3.0g):利尿作用
  • 茯苓(3.0g):利尿作用・鎮静作用・健胃作用・抗めまい作用
  • 牡丹皮(3.0g):消炎作用・駆血作用
  • 桂皮(1.0g):発汗作用・解熱作用・鎮静作用・健胃作用・理気作用
  • 附子(1.0g):鎮痛作用・強心作用・昇圧作用
  • 牛膝(3.0g):月経調整作用・利尿作用・駆血作用
  • 車前子(3.0g):利尿作用・止痢作用・鎮咳作用

※カッコ内は、1日量7.5gに含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

牛車腎気丸の基本的な効果は、

  • 体力を充実させ、体をあたためて血のめぐりをよくすること
  • 身体中の水分量を調節すること

この2つです。これによって牛車腎気丸は、むくみや排尿異常を改善し、めまいや耳鳴りも鎮めます。

地黄、山茱萸、山薬が滋養強壮効果、附子が強心効果をあらわし、体を温めて体力を補います。牡丹皮は血の巡りをよくし、体の隅々まで血液を行きわたらせます。生命エネルギーをつかさどる「腎」を充実させることで、精力の充実、代謝機能の正常化をはかります。

沢瀉、茯苓、牛膝、車全子の利尿効果、桂皮の発汗作用で、体内の水分調節を行います。また、牛膝は丹皮と合わさって、血流量増加作用を強化します。

そのほか、地黄・山茱萸・山薬には、血糖降下作用が認められます。血糖値が高いことで起こる糖尿病は、血管に悪影響をもたらします。毛細血管の血流や末梢神経の伝達が悪くなって、手足のしびれ、かすみ目などが起こります。牛車腎気丸はこれらの症状に効果があるため、糖尿病を原因とする諸症状の改善にも効果があるといえます。

牛車腎気丸の生薬の由来について

 

2.牛車腎気丸の証

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(腎虚・水毒(腎虚))

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽」「虚実」「寒熱」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

体質が強いかどうか

病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

牛車腎気丸が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陰
  • 虚実:虚証
  • 寒熱:寒
  • 気血水:血虚・水毒(腎虚)

牛車腎気丸は虚証の人に向いている漢方薬になります。

 

3.牛車腎気丸の効果と適応

  • 老化による体力の低下・倦怠感
  • 腎機能低下や前立腺肥大症に伴う排尿障害
  • 老化による性機能低下
  • 糖尿病性の抹消神経障害・手足のしびれや網膜症
  • 四肢の冷えやめまい・耳鳴り
  • 水分停滞に伴うむくみ・下半身のだるさ

牛車腎気丸は宋時代に書かれた「済生方」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

牛車腎気丸は、名のとおり、腎に気を補う漢方薬です。「腎虚」から「臍下不仁」になり、力が入らなくなった腎に「気」を補い、気血水を全身にめぐらせます。

「腎」は腎臓や膀胱を含む五臓で、体の中でも水分調節をつかさどり、生命エネルギーの要ともされます。老化で腎に気が不足するとお腹に力が入らなくなり、「臍下不仁」という症状を呈します。これは下腹部の筋肉や感覚神経系が鈍くなってしまう症状です。

「臍下不仁」になると、下腹部が冷えて血の巡りが悪くなります。すると、下腹部にある膀胱の筋肉も冷えて柔軟性を失い、尿を貯められなくなります。また、体が冷えることによって、体の水分は汗にならず、尿として排泄される量が多くなります。そこで尿が貯められないとなると、尿意を覚える回数が増え、時には尿漏れや失禁が起こります。

尿の調節だけでなく、体に水分をうまく分配できないと、水の流れが滞ることで起こる胃内停水やむくみ、また、反対に水分が足りないところでは乾燥肌や口渇が起こります。

これらの症状でよく使用されるのは八味地黄丸ですが、牛車腎気丸はその中でも、特に下半身のむくみやだるさ、痛みを感じる人に向いている処方です。

下腹部には生殖機能をつかさどる臓器もあります。気が不足し、体が冷えることでホルモンが分泌されにくくなり、男性であればインポテンツ、女性であれば閉経後の骨粗鬆症が起こりやすくなります。

牛車腎気丸は、腎に気を補うことによって、身体中にエネルギーをめぐらせてあたため、水分を調節します。体の中からあたたかさと筋肉のしなやかさをを保ち、精力の回復とします。

これによって排尿障害や性機能低下に効果が期待でき、高齢者に向いている漢方薬といえます。また、四肢の冷えや糖尿病症状にも効果が期待できます。

また、「腎は耳に開窮する」という言葉があり、腎と耳の働きには深い関係があるとされます。耳鳴りやめまいは、高齢で体の弱った人や疲労感の強い人によくあらわれます。この症状も、牛車腎気丸で腎に気を補うことで改善します。

なお、添付文章に記載されている牛車腎気丸の適応は以下のようになっています。

疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少または多尿で時に口渇がある次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ

[参考]
使用目標:比較的体力の低下した人あるいは老人で腰部および下肢の脱力感、冷え、しびれなどがあり、排尿の異常(特に夜間の頻尿)を訴える場合に用いる。

  1. 上腹部にくらべて下腹部が軟弱無力の場合(臍下不仁)
  2. 多尿、頻尿、乏尿、排尿痛などを伴う場合
  3. 疲労倦怠感、腰痛、口渇などを伴う場合

 

4.牛車腎気丸の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

牛車腎気丸は、ツムラから発売されています。1日量は、ツムラは7.5gになっています。

牛車腎気丸は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。牛車腎気丸を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.八味地黄丸の効き目とは?

効果は2週間以上かけてゆっくりと認められることが多いです。

それでは、牛車腎気丸の効き目はどのような形でしょうか。

牛車腎気丸は、虚証の人に向いている漢方薬です。ゆっくりとした体の老化や慢性的な疲労に対する不調を回復するので、効果も徐々にあらわれます。

一般に冷えに対する効果は早いと言われますが、むくみや膀胱の過活動などに対する効果を実感するには、2〜3ヶ月の服用が必要です。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.牛車腎気丸の副作用

牛車腎気丸では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。牛車腎気丸は、比較的安全な漢方薬と言われ、重篤な副作用はめったにみられません。しかし、子供に対する処方や、飲み合わせによっては注意が必要です。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

牛車腎気丸は、虚証の人に向く処方です。体力がある人、暑がり、のぼせがある人には誤治となってしまいます。誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

牛車腎気丸には、生のままだと有毒成分のアルカロイドを含む、附子が使われています。漢方に使うものは安全に処理をされていますが、それでも人によっては舌のしびれ、吐き気、動悸、不整脈といった症状をあらわすことがあります。

そのため、附子を含む他の漢方を一緒に服用すると附子の摂取量が多くなってしまうので、注意が必要です。また、子供には特に注意が必要で、2歳未満には処方しないのが一般的です。

また、牡丹皮が血流を促進するため、妊娠している人は流産や早産を起こす可能性があります。

地黄には胃の動きを悪くさせる作用があるため、食欲不振や吐き気、下痢などの胃腸症状を起こしやすい人は慎重に使います。胃の調子が低下している人は、食後の服用にするか、六味丸のほうが良いでしょう。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

八味地黄丸に、牛膝と車前子を加えた漢方薬です。効果は八味地黄丸とよく似ていますが、牛膝と車前子には利尿作用を、また、牛膝には血流をよくする作用が含まれます。八味地黄丸を使用する症状に加え、特に下半身のむくみがひどいものに使用します。

陰陽(陰)・虚実(虚)・寒熱(寒)・気血水(血虚・水毒(腎虚))

牛車腎気丸は、以下のような方に使われます。

  • 老化による体力の低下・倦怠感
  • 腎機能低下や前立腺肥大症に伴う排尿障害
  • 老化による性機能低下
  • 糖尿病性の抹消神経障害・手足のしびれや網膜症
  • 四肢の冷えやめまい・耳鳴り
  • 水分停滞に伴うむくみ・下半身のだるさ

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