四逆散【35番】の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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「四逆」とは四肢の逆冷という意味があり、本来温まっているはずの部分が冷えている状態のことになります。

胃炎や胆嚢炎など、内臓に炎症があると、一般的には熱が出ます。しかし、熱があるのに手足が冷える場合があります。わかりやすい症状としては、この「熱」と「冷え」が同時に起こっているとき、「四逆散」が有効とされます。

胃が痛い、手足が冷える…このような症状が同時に起こる場合、いわゆる自律神経失調症などでみられます。自律神経失調症では、ほかにも不眠やイライラ、肩こりなどの症状をあらわす人もいます。

自律神経失調症の主な原因は、ストレスと言われます。慢性的な症状でなくても、緊張すると手が冷たくなることがありますね。そのような場合、交感神経が過度にはたらいて血管が収縮し、血行が悪くなって指先から冷えていくのです。

四逆散は精神的な緊張をやわらげてリラックスさせ、血行を良くして体のこわばりを緩めるはたらきがあります。内臓の炎症も改善するのですが、漢方の世界でいうと「肝・脾」の機能を回復させることで、精神的なストレスを和らげることにもつながります。

漢方薬にはそれぞれ番号がついていて、四逆散は「ツムラの35番」などとも呼ばれます。ここでは、病院で処方される四逆散の効果と副作用についてお伝えしていきます。

 

1.四逆散【35番】の生薬成分の効能

炎症を抑える柴胡、気分を落ち着けて痛みを和らげる芍薬と、気を巡らせる枳実と、成分の役割がはっきりしている組み合わせです。それぞれの効能がちょうどよく作用するよう、甘草が緩和作用を発揮します。

漢方は、何種類かの生薬を合わせて作られています。生薬は自然界にある天然のものが由来です。天然のものといっても、生薬それぞれに作用が認められます。ですから、漢方薬は生薬の合剤といえるのです。

四逆散は、4つの生薬から有効成分を抽出して作られています。まずはそれぞれの生薬成分の作用をみていきましょう。

  • 紫胡(1.5~2.0g):解熱作用・消炎作用・鎮痛作用・鎮静作用・抗ストレス作用
  • 枳実(1.5~2.0g):下剤作用・健胃作用
  • 芍薬(1.5~2.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・血管拡張作用
  • 甘草(1.5~2.0g):鎮痛作用・抗痙攣作用・鎮咳作用

※カッコ内は、製剤1日量に含まれる生薬の乾燥エキスの混合割合です。

柴胡が主薬となり、炎症を鎮めるはたらきがメインです。枳実・芍薬にも同じ作用があり、主薬を助けて、いち早い炎症の回復をはかります。

痛みとイライラを抑えるのは、芍薬の作用がメインです。有効成分のペオニフロリンが筋肉の緊張をゆるめ、また、血の巡りをよくする駆血作用をもち、収縮した血管を拡張ることで血流を増やします。さらに芍薬は酸の分泌を抑え、潰瘍の予防や再発防止の効果も持ちます。

枳実には、気をめぐらせる「理気作用」があります。漢方では、体力がありながら体に不調がある場合を、「気が滞った状態(気滞)」といいます。気は「肝」が司っており、枳実が「肝」にはたらきかけることで気がめぐるようになります。

四逆散は手足に冷えが見られる症状に使われる処方ですが、メインは内臓の炎症を抑えて熱を冷ますことにあり、体をあたためる成分は入っていません。熱がお腹にたまった状態を解消し、気をめぐらせることで血もうまく循環するようになれば、末梢の冷えは改善します。

このほか、各成分のはたらきのバランスをとる甘草にも、緊張を緩める作用や疼痛緩和作用があります。4つの成分が心身に働きかけ、相互作用で自律神経の調整をはかります。

四逆散の生薬の由来について

 

2.四逆散の証

陰陽(陽証)・虚実(中間〜実証)・気血水(気滞)

漢方では、患者さん一人ひとりの身体の状態をあらわした「証」を考えながら薬を選んでいきます。証には色々な考え方があり、その奥はとても深いです。

漢方薬を選ぶに当たって、患者さんの体格や体質、身体の抵抗力やバランスの崩れ方などにあわせて「証」をあわせていく必要があります。証を見定めていくには、四診という伝統的な診察方法を行っていくのですが、そこまでは保険診療の病院では行わないことがほとんどです。

このため、患者さんの全体像から「証」を推測して判断していきます。「陰陽(いんよう)」「虚実(きょじつ)」「寒熱(かんねつ)」など、証には様々な捉え方があります。

このうち医者が参考にする薬の本には、たいてい「陰陽」と「虚実」しかのっていません。陰陽は身体全体の反応が活動的かどうかをみて、虚実は身体の抵抗力や病気の勢いをみます。つまり病院では、以下の2点をみています。

  • 体質が強いかどうか
  • 病気への反応が強いかどうか

さらに漢方では、「気血水」という3つの要素にわけて病気の原因を考えていきます。身体のバランスの崩れ方をみていくのです。

漢方の証について詳しく知りたい方は、「漢方の証とは?」をお読みください。

四逆散が合っている方は、以下のような証になります。

  • 陰陽:陽証
  • 虚実:中間証〜実証
  • 気血水:気滞(イライラ)

四逆散は、比較的体力がある人に向いている漢方薬です。カッとなって怒るのも、体力があってのことですよね。

 

3.四逆散の効果と適応

  • ストレス性の胃炎や胃潰瘍
  • ストレスによる不眠やイライラ
  • 生理周期に伴う頭痛
  • 甲状腺機能障害

四逆散は、漢時代に書かれた「傷寒論」という漢方の古典書をもとに生薬の成分を配合しています。それぞれの生薬成分の効果があわさって、ひとつの漢方薬としての効果がみられます。

四逆散はストレスが原因の不調に、精神面と身体面の両方に効果を発揮します。

人に精神的なストレスがかかると、交感神経が活発になって興奮し、血管が収縮して血行が悪くなります。手足の末端に血液が行き届かなくなり、冷えを感じます。また、交感神経は内臓のはたらきにも影響を与えます。胃酸が多く分泌され、胃酸過多から腹痛や胃炎になることがあります。

この状態が長く続くと、活動を活発にする交感神経が優位になり、リラックスのためにはたらく副交感神経とのバランスが崩れます。このような自律神経失調症の状態では、内臓の炎症や四肢の冷えのほか、イライラや不眠、腰痛や肩こりなどの症状が起こります。

漢方では、消化器官を「脾」、消化器官の中でも肝臓を「肝」とあらわします。「肝」は、正常であれば気をめぐらせるのですが、うっ血して機能亢進(肝気鬱結)すると上手く気がめぐらなくなります。これによって、情緒不安定になります。

また、「肝」は「脾」をなだめる相克関係にあります。このため、肝が強くなりすぎて脾胃の機能が弱まってしまいます。つまり、「肝」が正常にはたらくと「脾」の熱を冷まし、炎症を抑えることにつながります。

さらに「肝」は、心臓をあらわす「心」に対しては、そのはたらきを助ける相性関係にあります。「肝」が正常になると、血液が循環するはたらきも強くなるのです。四逆散は、ある程度体力がある人に向けた処方ですので、体の中に気が足りないわけではありません。ストレスによって巡りが悪くなった状態を解消すれば、足りないところに気が配分されてバランスが取れ、不調が改善されると考えられます。

イライラや怒りっぽくなる、抑うつなど、気分が落ち着かない症状の原因としては、ストレスの影響が大きいです。それだけでなく、生理に伴う影響や、甲状腺機能障害などもあります。月経や甲状腺といえば、ホルモンですよね。このような、ホルモンが原因による精神不安定にも効果が期待できます。

なお、添付文章に記載されている四逆散の適応は以下のようになっています。

比較的体力のあるもので、大柴胡湯証と小柴胡湯証との中間証を表わすものの次の諸証: 胆嚢炎、胆石症、胃炎、胃酸過多、胃潰瘍、鼻カタル、気管支炎、神経質、ヒステリー

[参考] 使用目標:体力中等度もしくはそれ以上の人で、胸脇苦満、腹直筋の攣急があり、イライラ、不眠、抑うつ感などの精神神経症状を訴える場合に用いる。

  1. 腹痛、腹部膨満感、動悸などを伴う場合

 

4.四逆散の使い方

1日2~3回に分けて、空腹時(食前・食間)が基本です。飲み忘れが多くなる方は食後でも構いません。

四逆散は、ツムラから発売されています。1日量は、ツムラは7.5gになっています。

四逆散は、1日2~3回に分けて服用します。漢方薬は空腹時に服用することを想定して配合されています。ですから、食前(食事の30分前)または食間(食事の2時間後)に服用します。量については、年齢や体重、症状によって適宜調整します。

漢方薬を空腹時に服用するのは、吸収スピードの問題です。麻黄や附子などの効果の強い生薬は、胃酸によって効果が穏やかになります。その他の生薬は、早く腸に到達することで吸収がよくなります。四逆散を食前に服用するのは、吸収をよくするためです。

とはいっても、空腹時はどうしても飲み忘れてしまいますよね。現実的には食後に服用しても問題はありません。ただし、保険適応は用法が食前のみなので、形式上は変更できません。

 

5.四逆散の効き目とは?

炎症には、早くて一週間で効果が出ます。慢性的な症状に関しては、一ヶ月ほどの服用が必要です。

それでは、四逆散の効き目はどのような形でしょうか。

四逆散の一番の効果は、炎症を抑え、気をめぐらすことです。気が巡り、また「脾」が回復することによって、精神面にも回復が及んでいきますから、まずは内臓の炎症を治すことが先決です。

精神的な症状に関しては、元々のその人の考え方というのもあります。リラックスできるようになって、イライラや怒りっぽさがとれ、自分でも効果を実感するためには、しばらく時間がかかります。

また、炎症や潰瘍は、治ったとしても、再発の可能性があります。四逆散には、服用をしばらく続けることによって、再発防止の効果もありますので、1ヶ月ほどは様子を見ながら飲み続ける方がよいでしょう。

漢方薬の効果について詳しく知りたい方は、「病院で処方される漢方薬の効果とは?」をお読みください。

 

6.四逆散の副作用

四逆散では、誤治や生薬固有の副作用が中心です。

漢方薬は一般的に安全性が高いと思われています。しかしながら、生薬は自然のものだから副作用は全くないというのは間違いです。

漢方薬の副作用としては、大きくわけて3つのものがあります。

  • 誤治
  • アレルギー反応
  • 生薬固有の副作用

漢方薬の副作用として最も多いのが誤治です。漢方では、その人の状態に対して「漢方薬」が処方されます。ですから状態を見誤って処方してしまうと、調子が悪くなってしまったり、効果が期待できません。このことを誤治といいます。

誤治では、さまざまな症状が認められます。これを副作用といえばそうなるのですが、その原因は証の見定めを間違えたことにあります。あらためて証を見直して、適切な漢方薬をみつけていきます。

また、食べ物でもアレルギーがあるように、生薬にもアレルギーがあります。アレルギーはどんな生薬にでも起こりえるもので、体質に合わないとアレルギー反応 が生じることがあります。鼻炎や咳といった上気道症状や薬疹や口内炎といった皮膚症状、下痢などの消化器症状などが見られることがあります。飲み始めに明らかにアレルギー症状が出ていたら、服用を中止してください。

そして、生薬自体の作用による副作用も認められます。生薬の中には、その作用が悪い方に転じて「副作用」となってしまうものもあります。

四逆散の生薬成分には甘草が含まれており、これを大量に服用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれるだるさや浮腫(むくみ)、血圧上昇、低カリウム血症が生じたりすることがあります。複数の漢方薬を併用する際には、とくに注意が必要です。

また、著しく体力が消耗している人に対しては向かない処方です。妊娠中の方には、慎重に用います。妊娠中は、ただでさえむくみや体重増加が起こりやすくなっています。万が一、服用後にそれらの症状が出たり、悪化したりする場合も考えられますので、必ず医師と相談してください。

四逆湯という名前が似ている漢方薬がありますが、全く効果が異なるので注意してください。

漢方薬の副作用について詳しく知りたい方は、「漢方薬で見られる副作用とは?」をお読みください。

 

まとめ

柴胡が主薬となり、内臓の炎症を抑える効果を持ちます。ストレス性の内臓疾患、気分の抑うつやイライラ、怒りっぽくなる各症状に、特に効果を発揮します。炎症には、比較的すみやかに効果を発揮しますが、精神的な落ち着きを自覚し、胃潰瘍などの再発を繰り返さなくなるまでには、1ヶ月ほど様子を見ます。

陰陽(陽証)・虚実(中間〜実証)・気血水(気滞)

四逆散は、以下のような方に使われます。

  • ストレス性の胃炎や胃潰瘍
  • ホルモンバランスの乱れによる精神不穏や頭痛
  • 自律神経失調症による不眠や不安、抑うつ症状

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