強迫性障害の方への家族の接し方のポイント

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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強迫性障害とは、ある考えにとらわれてしまう強迫観念によって不安が高まり、それを打ち消すために強迫行為をしてしまう病気です。

「家を出る時に、鍵を何度も確認してしまう」
「外出して帰ってくると、何度も手洗いをしてしまう」
「トイレに行くたびに、服を着替えないと気が済まない」

といった症状がある患者さんもいるでしょう。このような患者さんの30~40%ほどで、確認行為に家族を巻き込んでしまいます。

「本当に大丈夫」と繰り返し求めて、本人が納得するまで繰り返されます。家族がこれに疲弊してしまって相談されるケースもすくなくありません。強迫症状が重たくなり過ぎてしまうと、受診すらできない状況になっていることもあります。

ここでは、強迫性障害の患者さんと家族の関わり方について詳しくお伝えしていきたいと思います。

 

1.強迫性障害という病気について家族も理解しよう

家族が感情を患者さんにぶつけると、強迫症状がますます悪化します。強迫性障害という病気について、家族も理解を深める必要があります。

強迫性障害を治療していくに当たっては、患者さんの家族も病気について理解をしていただくことが重要です。

強迫性障害の患者さんは、その多くの患者さんが強迫症状を不合理性だと思っています。「バカバカしい」「過剰だ」という思いを抱きつつも、強迫観念による不安がコントロールできずに強迫行為をしてしまうのです。

つまり、「止めたくても止められない」状態にあるのです。

患者さん自身も何とか止められないかと、努力して抵抗しています。それでもやめられないので悩み苦しんでいるのです。まずはそのことを理解していただきたいのです。

患者さんの家族の中には、「強迫性障害は本人の心の弱さのせいだ」と誤解されていることがあります。このため、どうして止められないんだと感情的になってしまう家族も少なくありません。

このように家族が患者さんに対して批判的であったり、もっと努力すればやめられるといったように過干渉ですと、強迫症状はますます悪化してしまいます。家族の感情表出が高いと、強迫性障害は悪化してしまうことがわかっています。

ですから、強迫性障害という病気を家族も理解することが必要です。

 

2.強迫性障害は家族も巻き込まれる

強迫観念や強迫行為に家族が巻き込まれてしまい、家族関係が悪化してしまうことがあります。それによって強迫症状も悪化してしまうこともあります。

強迫性障害の患者さんの1/3ほどは、家族を強迫症状に巻き込んでしまいます。

  • 強迫観念に巻き込まれる場合
  • 強迫行為に巻き込まれる場合

この2つがあります。

強迫観念に巻き込まれるパターンとしては、「家族が触ったものは汚いと思ってしまう」といったものです。患者さん本人が共同生活に苦痛を感じるだけでなく、家族にも心の負担になってしまいます。病気だと分かっていても、汚いと思われるのはストレスに感じます。

患者さん自身には大きなストレスがのしかかってくるので、次第に自分でも受け止められなくなっていきます。すると家族に責任を求めるようになってしまい、「もともとは家族が原因なのに、なぜ私だけが苦しまなければいけないのだ」というように物事のとらえ方がゆがんでしまいます。

強迫行為に巻き込まれるケースとしては、確認行為に対してが多いです。「本当に大丈夫?」と繰り返し確認され、本人が完全に納得するまでおさまりません。ときには確認の代行を頼まれることもあります。

家の鍵をかけ忘れていないかにとらわれている患者さんでは、何度も家族に電話して「鍵がちゃんとしめたかな?」と確認されることもあれば、「鍵がちゃんとしまっているか確認してきて」と要求されてしまいます。

これには際限がないので、家族も疲弊してしまいます。この中で家族との関係が悪くなってしまう方もいれば、反対に過度に患者さんに負い目を感じて要求にこたえ続けてしまうことがあります。

 

3.強迫性障害の確認行為に家族が巻き込まれた場合

確認行為に家族が応え続けていくと、強迫観念に対する「とらわれ」が強まってしまい、強迫行為がエスカレートします。主治医と相談し、確認行為に対して家族と患者さん本人での決まり事を作ってください。

強迫観念を打ち消すための確認行為のひとつとして、家族に「大丈夫だよね」という保証を求めることがあります。これに巻き込まれてしまった場合、家族はどのようにするべきでしょうか。

強迫行為である確認行為は、強迫観念に対する不安や不快感を打ち消すために行っています。これはある種の回避行動で、恐怖から逃げていることになります。強迫行為をおこなっていくと、次に同じような状況になるとかえって不安が高まるようになります。

少しずつエスカレートしていってしまい、確認行為によって安心感が得られなくなってしまうと、なかには怒りの衝動を抑えきれずに暴力行為などになってしまうこともあります。

確認行為に家族がこたえ続けていくとエスカレートしていき、それに十分応えられなくなると患者さんの不安や怒りの行き場がなくなって爆発してしまうことがあるという悪循環になってしまいます。

このことを強迫性障害の患者さんも家族も、双方が理解する必要があります。その上で主治医と相談し、確認行為の決め事を作っていきます。家族は治療にサポートしてもらいますが、その線引きを作っておきます。例えば、確認行為は1回だけにするといった決まり事です。

 

4.強迫性障害の治療で家族ができること

強迫性障害の治療は根気が必要なため、治療を続けていく気持ちを家族がサポートしてください。そして暴露反応妨害法を行っていくには、家族が一緒にサポートしてくれた方が治療が進んでいきます。

強迫性障害では、家族の理解と協力があるとより治療が進んでいきます。

強迫性障害の治療では、他の病気よりもお薬が高用量必要になるのが一般的です。効果がでてくるのも遅いため、治療を開始してもなかなかよくなっていく実感が得られないことも多いです。

そんなときに、患者さんだけでなく家族も焦ってしまうことがあります。強迫性障害では、焦らずにじっくりと治療していくことが大切です。患者さんの気持ちが折れそうになることもあるかもしれませんが、その気持ちを一番に受け止められるのは家族です。ぜひ治療には、家族も二人三脚でサポートしてください。

 

薬物療法によってお薬の効果が出てくると、日々の生活の中で精神療法を行っていきます。強迫性障害の精神療法は、暴露反応妨害法が中心となります。苦手なことに対して、少しずつ慣れていく治療法です。

患者さんと一緒に計画をたてて、それを実行していくサポートをしていってください。不安や不快感の程度を100点満点にして、不安階層表を作成します。

強迫性障害の不安階層表(PDF)

このなかで、点数が低くて取りくみやすいものから苦手なことに立ち向かっていきます。恐れていることに身をさらし(暴露)、それを打ち消すために行う強迫行為をがまんします。(反応妨害)

不安は永遠に続くものではなく、少しずつ落ち着いていくということを身体に理解させていきます。そして少しずつ、不安をコントロールできるようにしていきます。

暴露反応妨害法は、病院だけでは十分に行うことができません。患者さんの普段の生活の中で繰り返しおこなっていくことで、少しずつ効果が発揮されます。患者さんは苦手なことに自分から立ち向かっていくので、時には気持ちが逃げてしまいます。ぜひ家族が一緒に、治療をサポートしてください。

暴露反応妨害法について詳しく知りたい方は、「暴露反応妨害法(エクスポージャー)とはどういう治療法なのか」をお読みください。

 

5.強迫性障害で受診できなくなっている場合

本人に病識があれば、入院治療も検討できます。病識がなければ、家族が少しずつ作っていく必要があります。病院では家族相談も受け付けてくれるところもあるので、抱え過ぎずに相談しましょう。

強迫性障害の患者さんの中には、強迫症状が悪化していくと徐々に回避傾向が強まっていきます。例えば、外に出ることで汚染されてしまうと恐れるならば、その回避のために外出しなくなってしまいます。

こうして自宅にひきこもってしまい、周りからは理解しがたい決められたルールに縛られて生活をするようになります。そのルールによって、儀式的な行為をしているようなときもあります。

こうなってくると、治療のために病院にも通えなくなってしまいます。強迫性障害の治療の原則は外来治療ですが、このようになってしまうと入院治療をすすめていくしかない場合があります。

そうはいっても強迫性障害の治療では、患者さん自身の問題意識がないと治療をすすめていけません。なかには自分が病気であると思っていない(病識がない)方もいるので、そのような方は入院治療でも難しいです。

病識がない方に対しては、まずは患者さんの状況を家族が理解することが大切です。それを批判することなく、共感的に接することが大切です。家族に対する安心感ができたところで、患者さんの強迫性障害に対するデメリットをあげて話し合う場をもつべきでしょう。

病院によっては、家族の相談にも応じてくれるところがあります。家族だけで抱え過ぎず、困ったら相談してみましょう。

 

まとめ

家族が感情を患者さんにぶつけると、強迫症状がますます悪化します。強迫性障害という病気について、家族も理解を深める必要があります。

強迫観念や強迫行為に家族が巻き込まれてしまい、家族関係が悪化してしまうことがあります。それによって強迫症状も悪化してしまうこともあります。

確認行為に家族が応え続けていくと、強迫観念に対する「とらわれ」が強まってしまい、強迫行為がエスカレートします。主治医と相談し、確認行為に対して家族と患者さん本人での決まり事を作ってください。

強迫性障害の治療は根気が必要なため、治療を続けていく気持ちを家族がサポートしてください。そして暴露反応妨害法を行っていくには、家族が一緒にサポートしてくれた方が治療が進んでいきます。

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