ビラノアの副作用と安全性について
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
ビラノアは、2016年に発売となった新しい第二世代抗ヒスタミン薬です。
抗ヒスタミン薬とは、過剰に分泌されるヒスタミンをブロックすることで、アレルギー症状を抑えるお薬です。
抗ヒスタミン薬は効果を求めれば求めるほど、眠気が強くなるジレンマがありました。ビラノアはこのジレンマを破り、効果もあるうえに眠気が少ないお薬とされています。
そのため中等度の効果がある抗ヒスタミン薬として初めて、運転などの注意喚起が添付文章に記載されていません。とはいえ、ビラノアも眠気が稀にあることから油断は禁物です。
ここでは、ビラノアの副作用と安全性についてまとめていきたいと思います。
1.ビラノアの副作用とは?
ビラノアは眠気が0.6%出ます。絶対にないわけではないので注意が必要です。
ビラノアはザイザルと同じくらいの効果にもかかわらず、眠気が非常に少ないお薬として注目を集めています。
実際の添付文章でも、ビラノアを使用した675例中16例 (2.4%)として報告されています。主な副作用は、
- 眠気4例 (0.6%)
- 口渇2例(0.3%)
- 頭痛2例(0.3%)
となっています。眠気は非常に少ないのですが、「絶対」眠くならないわけではないことに注意してください。
疲れていたり、お酒を飲みすぎた場合、抗ヒスタミン薬の眠気が強く出るという報告もあるので、普段はビラノアを飲んでても眠くならない人も注意が必要です。(これはビラノア飲んでる、飲んでない関係ないかもしれませんが・・・。)
しかし、その副作用は非常に少ないです。実際に効果が同等とされているザイザル(レボセチリジン塩酸塩)と比較してみましょう。
ザイザルの承認時までの成人を対象とした調査では、1,292例中207例(16.0%)に副作用又は臨床検査値の異常が認められました。主なものとしては、
- 眠気67例(5.2%)
- 頭痛42例(3.3%)
- 疲労39例(3.0%)
となっています。さらに眠気が少ないアレグラの添付文章でも、総症例6,809例中1,093例(16.1%)に副作用が認められました。主な副作用は、
- 頭痛310例(4.6%)
- 眠気158例(2.3%)
- 嘔気83例(1.2%)
と報告されています。直接比較した結果なので鵜呑みにはできないのですが、このようにビラノアは、副作用の頻度が他と比較してかなり少なくなっています。
ただし、ビラノアがいくら安全性が高いお薬だといっても、過量投与した場合は話は別です。実際にビラノア220mg(11錠)を内服すると、めまい・頭痛・嘔気が出現したことが報告されています。
そのためビラノアが効かない場合は薬を増やそうとせずに、他の点鼻薬(ナゾネックス・アラミスト)や抗ヒスタミンの点眼薬という局所の治療を追加することを考慮します。点鼻薬や点眼薬なら、眠気の副作用はまず認められません。
飲み薬での治療がよい方は、抗ヒスタミン薬以外にも効果が期待できるお薬もあります。
症状にあわせて、これらをうまく組み合わせてみましょう。
2.ビラノアは他の抗ヒスタミン薬と比較してなぜ眠くならないのか?
ビラノアは抗ヒスタミン薬でも眠気が最も少ないお薬とされています。理由として脳にほとんど抗ヒスタミン作用が影響しないことがいわれています。
よく使われる第二世代抗ヒスタミン薬の効果と眠気について比較してみましょう。
このように見ていただくと、ビラノアは眠気が少ないお薬として注目されているのがお分かりいただけるかと思います。車の運転に関する注意の記載が添付文章にないアレグラやクラリチンなどよりも、ビラノアは眠気が少ないとされています。
副作用による眠気の強さは、脳内にお薬がどれくらい移行するかで差が出てきます。このことを、脳内ヒスタミン受容体占有率といいます。
脳では神経伝達物質として情報の橋渡しをしていますが、抗ヒスタミン薬によって脳でのこの働きがブロックされてしまうと、中枢神経が抑制されて眠気が出現します。この脳でどれくらいブロックされているのか(脳内ヒスタミン受容体占拠率)が、一般的に眠気をあらわすのに使われる指標となっています。
これまで眠気が少ないといわれてきたアレグラやクラリチンの脳内ヒスタミン受容体占拠率は、それぞれ5~10%と少なかったのです。参考になりますが、同等の効果で比較的眠気の少ないザイザルでは、ヒスタミン受容体の脳内占拠率は15~20%といわれています。
ビラノアは、このヒスタミン受容体の脳内受容体がなんと-3.92%と、0を下回る結果を示したのです。-に関して説明すると複雑になるので、0と考えていただければと思います。
しかしこれは一般論であって、人によって眠気が出るか出ないかは全く違います。ビラノアで眠気が出たからといって、他の抗ヒスタミン薬でも必然的に眠気が出るわけではありませんので注意してください。
3.ビラノアを内服しても運転は全く心配ないのか?
ビラノアの添付文章には、運転の注意喚起の記載は全くありません。
ビラノア含めて、抗ヒスタミン薬は運転しても良いのか気にされる方が多いかと思います。効果が強い一部のお薬は、運転自体を禁止していますし、アレグラとクラリチン以外の抗ヒスタミン薬は、運転に関する注意喚起が添付文章に記載されています。
そのため花粉症が辛いけれども運転業務がやめられないといった方では、ビラノアは救世主となるお薬といえるでしょう。ビラノアの添付文章でも、「運転を気を付けるように」といった記載は一切ありません。
しっかりと安全性の試験もされています。男女22例にビラノアを飲んだ場合と飲まなかった場合に、側線に沿って運転したときのずれを比較した試験がなされています。結果として、ビラノアを内服した場合でも内服しなかった場合と同様の結果で、ビラノアの影響はないとされました。
しかし先ほど記載したように、ビラノアでも「絶対に」眠くならないということはありません。特に今まで他の抗ヒスタミン薬で眠くなった人は、油断しないで運転しないようにしましょう。
4.ビラノアを内服すると太るのか?
ビラノアの副作用で体重が太ったという報告はありません。
若い女性には気になる副作用として、「太る」ということがあげられます。ビラノアで太ってしまうのでは?と心配される方もいらっしゃいます。
インターネットなどで調べると、「抗ヒスタミン薬は太る」といった情報があふれているためです。確かに抗ヒスタミン薬は食欲が増加する副作用があります。しかしながらその抗ヒスタミン作用とは、中枢神経での抗ヒスタミン作用です。
花粉症治療に使われる抗ヒスタミン薬は、中枢神経には作用しないようになっております。特に第二世代抗ヒスタミン薬は、その特徴が顕著です。さらにビラノアは、第二世代の中でも脳内ヒスタミン受容体占有率が最も少ないお薬です。
ビラノアは脳内にお薬が移行しにくいので、中枢神経である脳への作用が非常に少ないです。このため、食欲増加などの副作用はほとんど認められません。
実際にビラノアの添付文章でも、体重増加は書かれていません。他の第二世代の抗ヒスタミン薬でも、0.1%以下の頻度となっています。さらに脳への移行が多い第一世代でも、副作用の添付に体重増加が書かれているものはほとんどありません。このように見ていくと、ビラノアを内服して太る心配はしなくてよいと考えられます。
ビラノアがよく使われる花粉症の時期は、別れと出会いで歓送迎会が多い季節です。そういった時に食べすぎない、飲みすぎないように気を付けたほうが大切かと思います。
5.ビラノアを内服するときに注意が必要な人は?
腎機能が悪い人は注意が必要です。
ビラノアの添付文章で慎重に投与する必要がある人は、
- 腎障害のある患者[高い血中濃度が持続するおそれ]
となっています。特に高齢者は腎機能が悪い人が多いので、どんな高齢者でも注意が必要です。
ただし実際にビラノアは腎機能障害がある人はどのような量にすればよいか記載がありません。安全性が高いお薬ですので通常量投与してビラノアの副作用を認めた場合適宜減量すると考えた方が良いと思います。
また添付文章では、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、
治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]
と記載されています。これはほぼすべてのお薬に記載されている文章です。動物実験(ラット)では、胎盤をビラノアが通過することは示されていますが、通過したことで胎児に影響を与えたという報告はありません。
一方で授乳中の婦人には、動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されています。このため添付文章上は、以下のように記載されています。
授乳中の婦人には本剤投与中は授乳を避けさせること。
赤ちゃんがビラノアの成分を服用したことによる問題は起こっていません。授乳は避けられるものという考えから、添付文章上は勧められていません。
ですから医師の立場としては、添付文章にこう書かれている以上はお勧めしないとしか言えないでしょう。実際のところは、自己判断で服用されている方も多いと思います。
花粉症治療薬と妊娠・授乳について詳しく知りたい方は、「妊婦さんの花粉症対策と使える薬とは?」「授乳中に花粉症の薬は大丈夫?」をお読みください。
またビラノアは小児に関しても新しいお薬のため、安全性が確立されていません。しかし他のお薬と比べて安全性が高いお薬のため、ビラノアが小児にも適応が通るのは時間の問題かと思います。
6.ビラノアの飲み合わせで問題になるものは?
ビラノアは、エリスロマイシン・ジルチアゼムとの併用が注意が必要です。また風邪薬には抗ヒスタミン薬が含まれるものがあり、注意が必要です。
ビラノアの添付文書には、
- エリスロマイシン
- ジルチアゼム
この二つが注意喚起が促されています。特にエリスロマイシンは、風邪などひいたときにばい菌をやっつけるお薬として処方する先生もいるため注意が必要です。
これらを内服した際は、ビラノアの血中濃度が高くなったり、副作用が強くなることがあるため注意が促されています。ただし、基本的にはビラノア内服中に併用してはいけないお薬はありません。
またビラノア含めて抗ヒスタミン薬全般で注意しなければいけないのは、風邪薬を内服したときです。風邪をひいたときに、鼻水がでて苦しむこともあると思います。鼻炎症状を抑えるための風邪薬には、抗ヒスタミン薬が含まれてることが多いです。
例えば感冒の時多く出されるPL顆粒には、メチレンジサリチル酸プロメタジンという抗ヒスタミン薬が使用されています。他にも市販薬の風邪薬には、
- ジフェニルピラリン塩酸塩
- クレマスチンフマル酸塩
- クロルフェニラミンマレイン酸塩
といった抗ヒスタミン薬が加えられています。
しかしながらこの抗ヒスタミン薬は、ビラノアの主成分であるビラスチンとは違ったものです。人間の体は複雑ですので、違った抗ヒスタミン薬を一緒に摂取したからといって、効果や副作用が足し算や掛け算のように倍増するものではありません。
ですが、「ビラノア内服中に風邪薬を飲んでも眠くならないか?」というのはまた別問題です。
そもそも、感冒薬単体に含まれている抗ヒスタミン薬で眠くなる人もいるでしょう。また重度の風邪をひいてる人は、体力が消耗されてそれだけで眠くなる人もいます。風邪薬は風邪の症状を和らげる効果はありますが、風邪を早く治すものではありません。
ビラノアと風邪薬の組み合わせで眠気を心配する人は、薬の飲み合わせの前に風邪の治療をしっかりと考えてみてください。
- 風邪の症状が軽症であれば、感冒薬をそもそも飲む必要がない。
- 風邪の症状が重症であれば、体力の消耗自体で眠気が出ることが予想されるので、ビラノアを飲む飲まないに関わらず安静にすること。
詳しく知りたい方は、「風邪を早く治す方法とは?」をお読みください。先ほどのエリスロマイシンと合わせて風邪の時は注意しようと思うことが大切です。
7.ビラノア内服中にアルコールはいいの?
ビラノアとアルコールを摂取することで、眠気などの副作用の増加が報告されています。またアルコールを摂取しすぎると、花粉症自体が悪化することがあります。
花粉症シーズンは出会いや別れの多い季節で送迎会が多い季節です。飲み会が多い中、ビラノアを飲みながらお酒を飲んでもよいのか気になるところですね。
アルコールについては、ビラノアの添付文章では特に記載はありません。
ただしアルコールの血管拡張作用によって、目の充血やかゆみ、鼻づまりやかゆみが悪化することがあります。その結果としてビラノアの効果が感じなくなる可能性はあります。
医師からすると花粉症の時期に一滴もアルコールを飲むなとは言いませんが、飲みすぎには注意してください。
まとめ
- ビラノアは、抗ヒスタミン薬の中では眠気が最も出現しづらい新薬として発売されました。
- ビラノアを内服した場合、眠気の副作用報告が0.6%あります。絶対に眠くならないわけではないので、注意しましょう。
- ビラノアを内服した際、運転の注意喚起は添付文章上ではありません。
- ビラノアを内服中に風邪をひいた方は注意しましょう。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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