ヌーカラ(メポリズマブ)の効果と特徴について
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
ヌーカラ(メポリズマブ)は、2016年6月にグラクソスミスクライン社から発売されたIL-5のヒト化モノクローナル抗体です。重症喘息の患者さんに対して使われるお薬で、4週間に1回皮下注射する治療薬になります。
ヌーカラはIL-5を阻害することで、好酸球を減少させることで喘息発作を抑制するお薬です。重症喘息の、最後の切り札になるお薬です。
高い治療効果を認める代わりに、ヒト化モノクローナル抗体は非常に高いお薬です。そのため新しい薬だから試してみたいと気軽に手を出すと、すごい高額の医療費を支払うことになります。事前に準備することが必要になります。
ここでは、ヌーカラの効果と特徴についてまとめていきます。重症喘息の方は、ぜひご参考にしてみてください。
1.ヌーカラのメリット・デメリットは?
<メリット>
- 重症喘息に対して著効する
- 好酸球数が高いほど効果が高い
- 副作用がほとんどない
<デメリット>
- 薬価が非常に高い
ヌーカラは、ヒト化抗ヒトIL-5モノクローナル抗体製剤です。モノクローナル抗体はもともと、リウマチなどの膠原病という特殊な病気や、癌などの治すのが難しい病気に対して作られたお薬です。そのため他の喘息薬と比較すると、ヌーカラは効果がとても強いお薬になります。
ヌーカラは、IL-5だけにくっつくことに特化したお薬になります。IL-5をかなりの率でブロックすることで、重症喘息に対して唯一著効する治療薬といえます。
喘息は、アドエアやシムビコートなどのβ2刺激薬と吸入ステロイドの合剤でコントロールすることが多いです。一方でこれらの吸入薬だけでコントロールできない難治性の喘息は、今までの治療では非常に苦労していました。
どのお薬も著効せずに、最終的にプレドニンなどのステロイドを使用していましたが、ステロイドは非常に副作用が多いお薬でもあります。また喘息は気道の慢性炎症性疾患のため、基本的には長期間の治療を要します。
このような現状を最初に打破したのが、ゾレアになります。ゾレアも、ヌーカラと同じモノクローナル抗体です。ただしゾレアはIgEを阻害するため、ヌーカラとは作用する部位が違います。
ヌーカラは、ゾレアの次に発売された喘息に対して使用できる第二の分子標的薬です。
ヌーカラは、難治性喘息に対して非常に効果を示すお薬なうえ、副作用はほとんどありません。ヌーカラの副作用としては、皮下注射のため注射した部位に痛みがあることくらいです。
ヌーカラ、は難治性の喘息に対して効果も高いうえに副作用も少ないとなると、一見すると完璧に見えるお薬です。しかしそんなヌーカラの最大の問題点は、薬価の高さです。
ヌーカラは、2016年の時点の薬価は175,684円です。これを4週に1回投与します。つまり毎月17万円の薬価のお薬を投与することになるのです。3割負担だとしても、1回5万以上です。さらにヌーカラは、今までの喘息の治療薬も続けていく必要があります。つまり今までの喘息の治療費に、5万以上の負担が加わると考えてください。
そのため人によっては、高額療養費制度を考慮する必要があります。高額療養費制度は、1か月に支払った医療費の負担額が一定額を超えた場合、超えた額を医療保険が負担してくれる制度です。
このようにヌーカラは、気軽に勧めるのが難しい高額なお薬です。
2.ヌーカラの適応は?
ヌーカラは現在、難治性の喘息に対してのみ適応があるお薬です。
ヌーカラの添付文章での適応疾患は、
気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)
と記載されています。つまり、吸入薬でも治らない重症な喘息患者さんのみが適応になるとのことです。
薬を毎日吸うのがめんどくさいからヌーカラだけで治療する…というのは適応外になります。また、ヌーカラは新しいお薬のため、12歳以上の方から対象です。発売当初のゾレアも最初は成人のみでしたが、数年たってから小児にも適応が通りました。
そのためヌーカラも、今後小児に使用できる可能性はあると思います。
またヌーカラは、IL-5をブロックすることで好酸球の産生を強力に抑制するお薬です。そのため体内の好酸球が多ければ多いほど、気管支喘息発作を抑える効果が強い傾向がデータでも認められています。
一方で好酸球数が少ない人は、十分な効果が得られない可能性があります。実際の臨床試験でも、
- 好酸球数がヌーカラ投与前に150cells/μl以上もしくは過去に300cells/μl以上
の方を対象に試験されています。好酸球数は実際に採血してみないと、どれくらいの数値なのか全くわかりません。重症喘息の方でも、好酸球数が低い人は大勢います。
喘息は非常に複雑な疾患で、そもそも好酸球などのアレルギーが関与しない非アレルギー性の喘息が注目を集めています。これらの非アレルギー性の場合、好酸球は低値になります。こういった非アレルギー性の喘息の方が、難治性のことが多いです。
好酸球の代わりに、好中球が喘息発作の引き金になっているのではといわれています。そのため重症喘息の方は、まず採血で確認しましょう。採血すれば好酸球以外にもIgEも測定できるため、ゾレアの適応についても確認できます。
またアレルギーの原因物質であるアレルゲンが分かれば、対策がしやすくなるかもしれません。アレルゲンの対策について確認したい方は、「喘息発作を予防するためには?喘息予防の5つの対策」を一読してみてください。
3.ヌーカラの投与量と薬価は?
ヌーカラは100mgを4週ごとに皮下注射します。薬価は約17万円と非常に高額です。
ヌーカラは100mgを4週ごとに皮下注射します。投与期間に関しては、新しいお薬のため今後の課題ですが、基本的に重症喘息の方はヌーカラを投与して、「喘息の炎症を治す」というよりは、「喘息の炎症を抑える」といった表現が良いと思います。
商品名 | 投与量 | 薬価 | 3割負担 |
ヌーカラ | 100mg | 175684円 | 52705.2円 |
※2016年10月23日時点での薬価になります。
ヌーカラは4週間に1回、5万以上の値段がかかるわけです。もう一つのモノクローナル抗体のゾレアも、非常に高いお薬です。ただしゾレアはIgEと体重によって換算されるため、一概にどれくらいの価格はいえません。
ゾレアは一番安くても、薬価は4週間に1回2万3千円、一番高いと2週間に1回18万円(4週間に36万円)かかる治療になります。そのため、ヌーカラとゾレアどちらが安いかは人によります。
1つ言えることは、ヌーカラもゾレアも難治性の喘息に対してのみ適応があります。つまり、喘息に対してすでに色々な治療薬を投与しても改善しない人が適応になります。そのため喘息に対しての治療薬は、元々治療していたお薬の治療費+ヌーカラもしくはゾレアの治療費となります。
多くの方は、月に数万円かかる場合がほとんどです。そのため高額医療制度を使用しないと、とてつもない価格になります。
4.ヌーカラの副作用と安全性は?
ヌーカラの副作用は、注射部位の疼痛などが多いです。ただしこれらは、ヌーカラに限らず注射であればどれでも起きえます。また、ヌーカラはどのような人でも投与可能です。
ヌーカラは添付文章によると263例中60例(23%)に副作用が報告されました。その主なものは、
- 注射部位反応21例(8 %)
- 頭 痛14例(5 %)
- 過敏症 6 例(2 %)
です。最も多い注射部位反応ですが、注射の副反応として、欧米ではそもそも副作用とは考えられていません。注射を打った部位が赤くなったり、痛みが出るのはむしろ普通の反応です。そのため、ヌーカラ自体の成分の副作用はほとんどありません。
またヌーカラが使えない人は、ヌーカラにアレルギーがある人のみになります。これは全てのお薬にいえることです。そのためヌーカラは、喘息以外にどのような疾患があっても、どのようなお薬を内服していても投与することができるお薬です。
5.ヌーカラが向いてる人は?
<向いてる人>
- 難治性の喘息の人
- 好酸球数が高い人
- ゾレアが投与できない人
- お金にゆとりがある人
ヌーカラは、喘息の切り札といった立ち位置で、難治性喘息の多くの方に処方されています。喘息は、アドエアやシムビコートなどの吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤が効かない場合は、非常に治療が難しい病気です。これら合剤が効かない場合は、
などを加えるのが一般的です。しかし吸入薬が著効しない人が、これらの薬を全部使用してもなかなかよくならないことが多く、風邪などで体調が悪くなると容易に喘息発作が出現してしまいます。
最終的にはプレドニンなどのステロイドを頻回に使い、様々な副作用がでてきてしまう人もいます。
ヌーカラは、こういった治りづらい喘息の救世主として活躍しています。一方でヌーカラは非常に高価なお薬のため、気軽に投与しづらい面もあります。
高額医療制度は、患者さんの収入で限度額が決められています。一概にいくらとは言いづらいですが、最低でも数万円は毎月払うことになります。そのため、金銭面に余裕がある方ではないとなかなかヌーカラは投与できない現実があります。
しかし喘息は、発作が起きれば起きるほど重症化してしまう疾患です。喘息の発作が起きる都度、気管支平滑筋がどんどん太くなります。さらに気管支平滑筋が鍛えられると太くなると同時に、繊維化といってどんどん固くなってきます。
気管支が狭まって固くなると、喘息発作のときに短期作用型のβ2刺激薬を使っても気道が広がらなくなってしまって、喘息発作が改善しなくなります。これをリモデリング(不可逆性)と、専門用語では呼んでいます。このリモデリングについて詳しくい知りたい人は、「症状がなくても喘息の治療はやめられない?喘息の治療期間とは?」を参考にしてみてください。
気管支喘息は、リモデリングまで起きると非常に重篤になります。ちょっとした風邪やストレスで容易に喘息発作を引き起こし、人によっては頻回に入退院を繰り返します。さらに状態が悪くなると、在宅酸素といって酸素が外せなくなるくらい状態が悪くなる人もいます。こうなる前にヌーカラを投与して、しっかりと喘息を抑制することが大切です。
一方でもう一つの問題として、ゾレアとヌーカラどちらを投与した方が良いかという問題があります。ヌーカラは非常に新しいお薬のため、ゾレアとヌーカラを直接比較した試験が2016年では存在しません。
1つ言えることは、現時点ではヌーカラは全ての重症喘息の方に投与できますが、ゾレアはIgEと体重によっては投与できない人もいます。IgEが高すぎる人や体重が重たすぎる人には、有用なデータがないためです。そのためゾレアが投与できない、もしくはゾレアの方がヌーカラよりも高額になる人は、ヌーカラを選択して良いかと思います。
また現時点では、ヌーカラは好酸球が高ければ高いほど効果があることが分かっています。逆に好酸球数が少ない人は、十分な効果が得られない可能性があります。そのため、好酸球数が高い人はヌーカラをより積極的に投与して良いと思います。
ヌーカラの今後の課題として、
- 重症喘息の方にゾレアとヌーカラどちらが効くのか?(もしくはどういった方が効きやすいのか)
- 重症喘息の方にゾレアとヌーカラ両方投与すれば効果があるのか?
- 重症喘息の方にヌーカラを投与した場合、どれくらい投与した後効果判定をすればよいのか?
などなど、様々なことが検討が必要かと思います。新しいお薬のため未知の部分が多いですが、重症喘息の方に少なくとも希望の光になるお薬だと考えています。
6.ヌーカラってどんなお薬か?
ヌーカラはヒト化抗ヒトIL-5モノクローナル抗体製剤として、IL-5とくっついてその働きを阻害します。これにより、好酸球を抑制することでアレルギーの炎症を改善させるお薬です。
最後に、ヌーカラがどのようにして効果を発揮するのかをご説明します。
喘息はⅠ型アレルギーに属します。Ⅰ型アレルギーの発生機序は以下のようになります。
- アレルギーを起こす原因物質(アレルゲン)が体内に侵入します
- Th2細胞が刺激されてIL-5を産生します。
- IL-5が好酸球のIL-5受容体に結合して、好酸球の増殖、分化、活性化を促します。
- 好酸球が気管支で炎症を起こし喘息発作を引き起こす。
ヌーカラは、この③のIL-5が好酸球に結合するのを阻止するお薬です。モノクローナル抗体というのは、IL-5だけにくっつくことに特化したお薬になります。ちなみに、Th2細胞が作り出す様々な抗体にくっつく抗体をポリクローナル抗体といいます。
ヌーカラはIL-5だけにくっつくために、そのブロック率は非常に強いです。IL-5をほぼブロックできてしまえば、③や④には進めません。つまり喘息の症状は、ほぼ出ないといえます。
モノクローナル抗体はもともと、リウマチなどの膠原病という特殊な病気や、癌などの治すのが難しい病気に対して作られたお薬です。そのため他の喘息薬と比較すると、ヌーカラは効果がとても強いお薬になります。
その効果を見た試験が以下のデータです。なおこちらのデータは、ヌーカラの製薬会社であるグラクソスミスクライン社のホームページのデータを参照させていただいています。
まず、重症喘息の方にヌーカラを投与した際の好酸球の減少率を見たのが下の図です。
黒がプラセボ(偽薬)で、緑がヌーカラです。縦軸が好酸球の比率で、投与前を1として考えています。横軸は期間です。黒の線はほとんど変わりませんが、緑の線は投与後から急激に低下しており、4週目で投与前の2割程度の数値まで低下しています。最終的に、32週目で84%血中の好酸球を低下させています。
この結果、喘息の症状を抑えたのが下の図です。
先ほど同様に、黒がプラセボ、緑がヌーカラです。縦軸が喘息発作の回数を示しています。1年間に黒のプラセボが1.74回喘息発作を起こしたのに対して、緑のヌーカラは0.83と53%減少させています。ちなみにこの検査は、重症喘息の患者さんを対象にした試験です。
重症喘息とは、従来の治療では改善できない人です。そのような重症喘息の方に対して半分以上治療効果を示すというのは、非常に効果が高い治療と言えます。
一方で気管支喘息は、上にあげたような単純な病態ではないといわれています。喘息は「気管支に慢性的に炎症が続くことで症状が生じる疾患」と定義されていますが、慢性炎症を引き起こすメカニズムは人によって全然違い、喘息の中にも色々なタイプがあるといわれています。
Th2細胞だけ見てもIL-5以外に
- IL-4
- IL-10
- IL-13
- GM-CSF
- TNF-α
など、様々なサイトカインと呼ばれる炎症物質を産生するといわれています。喘息に使用される分子標的薬のもう一つのゾレアは、IL-4やIL-13が形質細胞を刺激することで産生されるIgEを阻害するお薬です。そのため、作用機序が全く違います。
さらに言えば、Th2細胞が炎症の発端といわれていましたが、近年の研究ではTh1やTh17が関与するともいわれており、それらが関与した喘息の方が難治性ともいわれています。
今後さらに喘息が解明され、ヌーカラのように難治性の喘息の方も著効するような薬がどんどん登場することが期待されてます。
まとめ
- ヌーカラはIL-5のモノクローナル抗体です。
- ヌーカラは難治性の喘息に対してのみ適応があります。
<メリット>
- 重症喘息に対して著効する
- 副作用がほとんどない
<デメリット>
- 薬価が非常に高い
<向いてる人>
- 難治性の喘息の人
- 好酸球が高い人
- ゾレアが投与できない人
- お金にゆとりがある人
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
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