花粉症における減感作療法とは?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
毎年花粉症の季節になると、憂うつになる人も多いかと思います。
何とか治せないかなぁって思って調べてみると、減感作療法という治療に出会えた方も多いのではないでしょうか?実は私も、この花粉症の減感作療法をやっている一人だったりします。
花粉症の減感作療法は、スギのエキスを定期的に身体にうっていき、スギ花粉に慣らしていく治療です。そのため以下の二つの事を肝に銘じておかないと、「注射で痛い思いをしたのに全然効かない!!」となります。
- スギ花粉に慣れるまでは2年~7年と長い年月がかかる
- 花粉症を完全に治すわけではなく、症状を軽くする治療である
ここをよく理解して減感作療法を始めていかないと、「騙された!!」と感じてしまうかもしれませんので注意しましょう。花粉症は、特に毎年のスギ花粉の飛散の量によって症状の出方が違うので、軽減していると実感するのも難しいと思います。
私も実際に減感作療法を受けて5年たちますが、同じぐらい花粉症がひどかった妻に「今日は花粉結構たくさん飛んでない?」と聞かれて、「減感作療法のおかげであまり感じないなぁ」と実感するようになっています。
それでは花粉症の減感作療法についてみていきましょう。
1.減感作療法の前に原因をチェック
減感作療法を行う前に、採血でスギ花粉が陽性であることを確認する必要があります。
まずは、本当にスギ花粉が悪者か確認する必要があります。アレルギー症状があると花粉症と思ってしまいますが、年中アレルギー性鼻炎の方ではスギ花粉が原因でないことも度々あります。
スギ花粉による花粉症かどうかは、採血でスギに対するIgEがどれくらい作られているかを調べることでわかります。IgEが基準値以下であれば、スギ花粉のせいではないと分かります。
アレルギーはどんな物質でも起こります。ネコやイヌなどの動物、小麦や牛乳、卵などの食べ物、カビやハウスダスト(ほこり)など、家に普段からあるものでもアレルギーになりえます。
採血する機会はそんなにないかと思いますので、スギだけではなくアレルギーが起きやすいものをまとめて調べるのが一般的です。もし心配なものや仕事上よく扱うものがあって気になるというものがあれば、採血する前に一緒にアレルギーがないかチェックしたい旨を伝えたほうが良いかもしれません。
このように、減感作療法を始める前には本当にスギ花粉が原因なのかをチェックする必要があります。また、他のアレルゲンがあるかどうかも調べる必要があります。スギ以外にも原因が重なっている場合、減感作療法をしてもスギにしか効果がありません。アレルギー症状は変わらないこともあるのです。
2.注射による花粉症の減感作療法の方法
スギのエキスを、ごく少量から注射していきます。最初はこまめに注射をしていき、維持量になったら月に1回注射を継続していきます。シーズン中はこまめに注射をした方が、花粉症の症状を軽減できます。
採血検査でスギのIgEが陽性となって初めて、スギ花粉が原因と的が絞れるわけです。診断が確定してから減感作療法を始めていきます。簡単にいってしまうと、「花粉に少しずつ慣らせていって、敵じゃないと認識させる治療」になります。
最近ではシダトレンという錠剤(舌下錠)での治療薬も発売されていますが、ここでは従来から行われている注射での減感作療法をご紹介します。
花粉症のエキスを、ごく少量から注射していきます。どれくらいの量からはじめていくかは、クリニックによっても異なりますし、患者さんのスギ花粉に対するIgEの量によっても変わってきます。ごく微量から少しずつ増やしていきます。
週に1~2回、定期的にスギ花粉を皮下注射します。回数を重ねるごとに少しずつ量を増やしていき、体に慣らさせていきます。スギ花粉の維持量に達したら、月に1回ずつ打つのが一般的です。維持量はだいたいスギ、花粉のエキスの1/1000程度が一般的です。
減感作療法は1年を通して、常に1か月に1度は注射を続けていくことが大切です。一度やめてしまうと、慣れていた体がリセットされてしまいます。そうするとまた0からのスタートになってしまうので、シーズンが終わっても続けるようにしましょう。
またシーズン中は、1か月に1回ではなく2~3回注射した方がよいです。注射をすることで花粉を中和してくれるIgGという抗体が作られるので、症状が緩和されます。
3.花粉症の減感作療法の副作用は?
減感作療法での副作用はほとんどありません。
花粉症に対する減感作療法は、平成14年に登場したスギ花粉からはじまります。非常に良いもので、重篤な副作用はほとんどないと報告されています。しかしながら減感作療法は、アレルギーを意図的に起こす治療法なので、アナフィラキシーに注意が必要です。
アナフィラキシーとはアレルギーが過剰に起こり、息苦しさや皮疹、血圧低下や肝機能障害が出現し、場合によっては緊急で処置しないと命の危険性もあります。
こういった危険な副作用を回避するために、症状がまず出ないだろうと思われる少ない量から始めていくのです。「時間がないから少し多い量からスタートして」という人もいますが、まずは少ない量からはじめていくのが安全です。
その他のアレルギーの副作用としては、蕁麻疹などの皮膚疾患、嘔吐、下痢がまれにあります。特に注射のしはじめに起きることが多いので、アナフィラキシーに対する注意も含めて、初回から数回は30分から1時間は院内で様子を見ていただく病院が多いです。
また皮下に注射するため、注射した部位にかゆみ、腫れ、発赤が出ることがあります。これはスギ花粉の注射に限らず、どの注射でも起こり得る反応です。
スギ花粉エキスは、人工的にスギのエキスを抽出したものになります。自然界に元々あるものを注射するため、小児の方、妊婦の方や授乳中の方も安心して行うことができます。
4.花粉症の減感作療法の費用は?
初回は5000~10000円、その後注射だけになると500~600円になります。
最初は初診料もありますし、採血も行うためどうしても価格が高くなってしまいます。採血する項目が増えれば、それによって費用も高くなってしまいます。そのため一概には言えないですが、多くは5000~10000円になることが多いです。
ただし病院によっては、採血する時にアレルギーだけでなく、一般的な肝機能や腎機能など細かく採血することもあります。そうすると、もう少し高くなることもあります。
初回にスギ花粉を注射して何もなければ、あとは受診するたびに注射をするだけなので、再診料も含めると500~600円程度になります。
5.花粉症の減感作療法での心構えとは?
効果が出るまでに数年が要することと、症状が完全に治るわけではないことは絶対に理解しておきましょう。
花粉症の減感作療法で調べると、「花粉症が治る」という言葉をよく目にします。さらに「花粉地獄に別れを告げる」「花粉症が根治する」とかなり期待を持たせる文章もあります。
「花粉症が完全に治るんだ!!」と思って受けられると、たいていその効果にがっかりする人がほとんどです。
実際の効果の報告をみると、有効率は60~80%とされています。
しかし内訳をみると、
- 「完全に花粉症が治った」:20%
- 「かなり花粉症が治った」:20%
- 「ある程度花粉症が治った」:20%
- 「少し花粉症が治った」:20%
となっています。完全に治った人は2割程度との報告が多いです。さらに完全に治った人は、元々花粉症が軽症だった人が多いです。また花粉症の時期は抗ヒスタミン薬などを内服する人も多いですし、毎年花粉の散布量が違うため症状が安定しないことも多いです。
花粉症は症状が安定しづらい病気のため、重度の花粉症の人が減感作療法で完全に症状を無くすのを期待するのはかなり厳しいと思います。
また、減感作療法は体を慣らしていく治療です。スギ花粉の注射を数回して慣れていくものではありません。一般的には2~3年、時間がかかる方は5~6年となります。「今年は花粉が多そうだから減感作療法やってみよう」という方法では効果は期待できません。
以上の事から減感作療法の心構えとしては、「辛い花粉症の症状が毎年来るのが辛い!数年かかってもいいから少しでも楽になる可能性があるならやろう!」くらいでないと、減感作療法の効果は実感できないと思います。
また、初回は頻回に病院を受診する必要があります。そのため最初はある程度時間が作れる時にやる必要があります。
減感作療法は私自身ようやく5年目で効果を実感できています。2~3年で効果がないからあきらめてしまっては勿体ないです。かなりの長期プランを覚悟で、減感作療法にいどむようにしましょう。
6.花粉症の減感作療法のメカニズム(作用機序)
最後に、花粉症の減感作療法の仕組みを詳しくお伝えしたいと思います。そもそも花粉症がどのようにして起こるのかをみていき、花粉症の減感作療法はどのように効果がみられるのかをみていきましょう。
6-1.花粉症の作用機序について
花粉を異物と認識して追い出そうとして働く体のメカニズムが、花粉症の症状へとつながります。
なぜ、花粉が飛散したら花粉症になるのでしょうか?実は花粉自体は悪さしてないのです。私たちの体が、花粉を異物と認識して排除しようとすることによって、鼻水や目のかゆみが出現するのです。このアレルギー反応をⅠ型アレルギーといい、主に免疫物質のIgEが関与するアレルギーとなります。
Ⅰ型アレルギーの作用機序を詳しくみてみましょう。代表的な原因花粉であるスギ花粉を吸いこんで、どのように花粉症が発症するのかみていきましょう。
簡単に流れを説明すると、以下のようになります。
- 花粉(スギ)が体内に侵入。
- マクロファージ(体の中の警察官)が異物と認識して花粉を食べる。
- マクロファージがT細胞、そしてB細胞とバケツリレーのように花粉の情報を次々に渡す。
- 花粉が次に入ってきたときに撃退するために、B細胞がIgEという特殊な爆弾を作り、肥満細胞(体の中の爆弾保管庫)に保管しておく。
- 花粉が再び侵入した際に、肥満細胞は保管しておいたIgE爆弾が発射されて花粉にくっつく。
- IgEが爆発することをきっかけに、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が放出される。
このヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質や目や鼻を刺激して結果として、目のかゆみや鼻水、鼻閉などを引き起こしているのです。
6-2.花粉症の減感作療法のメカニズム
スギのエキスを徐々に加えていき体を慣らさせます。体が慣れる機序として、スギ花粉に対するIgGが作られるのです。
花粉症の作用機序の①~④の過程は、実は花粉症の症状がない人でも起こっています。体はどんな異物が入ってきてもいいように備えているのです。つまり⑤のスギ花粉が侵入したときに、IgE爆弾が爆発することが花粉症を引き起こす引き金になります。
減感作療法はスギ花粉を体に慣れさせる治療ですが、具体的には花粉症とIgE爆弾がくっつくのを体に慣らさせて防ごうとしているのです。
どんな重度の花粉症の人でも、ごく少量のスギ花粉であればアレルギー症状を引き起こさないで見逃す量があります。そのごく少量の量で慣らしていき、慣れたら徐々にスギエキスの投与量を増量して治療するのです。
減感作療法の具体的な機序ですが、IgEの代わりにスギ花粉と結合し中和するIgGが作られます。IgGはIL-4やIL-13を介して先ほどの④で登場したB細胞にも作用し、IgEではなくIgGを産生するように切り替えるように作用させます。
このIgGが沢山作られることで、スギ花粉がIgEにくっつく前にIgGがくっつきます。IgGが花粉につくことで、IgEが不発に終わるのです。
またスギ花粉を徐々に慣らしていくことで、IL-10の産生を増大させます。このIL-10によって、ロイコトリエンやヒスタミンなど花粉症の症状を直接関連する化学物質の分泌を抑制するとも言われます。
まとめ
<減感作療法のメリット>
- 花粉症の症状を予防できる可能性がある。
- 副作用がほとんどない。
- スギ花粉エキスが維持量まで達したら、月に1回500~600円程度で済む。
<減感作療法のデメリット>
- 即効性は全くなく、効果が出るのに2~3年は最低かかる。
- 花粉症が完全に治る可能性は低く、症状が軽減する程度である。
個人的には花粉症の方はぜひ受けてみて欲しい治療ですが、せっかちな人や時間がない人はなかなか難しい側面がある治療です。
減感作療法をやると決めたら最低数年は頑張るぞ!という気持ちでぜひ病院を受診してみてください。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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