苦しくないのに酸素が必要?肺気腫(COPD)の酸素療法について

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック

肺気腫(COPD)はタバコで肺がボロボロになった病気です。COPDの恐ろしいところは、タバコを辞めても治ることができないところです。

どのお薬もCOPDの病気を治すというよりは、一時的に症状を改善して悪化を緩やかにする効果しかありません。そのためCOPDの病気が進むと、普通に呼吸をするだけでは酸素が足りなくなってしまいます。

体の酸素が足りなくなった人は、日常生活でも酸素を投与する必要があります。街中で鼻に酸素を吸うカニュラを付けて歩いている人を見たことはないでしょうか?酸素を持ち歩きながら治療することで、体の中の酸素状態を保つことができます。医学的にこの治療を在宅酸素と呼びます。

我々の体は酸素が足りなくなると、息が苦しくなることで酸素が足りないことを教えてくれます。息が苦しいことを、息切れ・呼吸苦・呼吸困難などと呼びます。このように症状が出てきた人は息が苦しいので、在宅酸素を提案すると受け入れてくれます。

一方でCOPDで酸素が足りなくなくても、息が苦しくない人もいます。酸素状態を見るために、よくパルスオキシメーターという指で測る機械で酸素の状態をみます。パルスオキシメーターの数値が低くて酸素投与をした方が良くても、苦しくないからしたくないという方も大勢います。

  • 酸素状態が低いのにどうして呼吸苦がないのでしょうか?
  • 呼吸苦が無くても酸素を投与しなければならないのでしょうか?

ここではそんな疑問に答えるために、COPDと酸素療法についてみていきます。

 

1.パルスオキシメーターってどんな機械?

パルスオキシメーターとは、体の中の酸素状態を光を当てることで測る機械です。SpO2という数値で示します。

COPDの方も含めて肺の病気がある人は、よくパルスオキシメーターという機械を指にはめて酸素状態を測定します。このパルスオキシメーターは、脈拍数と体の中の酸素状態を測る機械です。酸素状態を示す検査値としては、SpO2という数値が代表的です。

SpO2とは、S=飽和度、p=脈 、O2=酸素の略語です。日本語では、経皮的酸素飽和度と呼びます。つまりSpO2とは、皮膚から酸素状態を見た値ということになります。どうして皮膚に光を当てただけで酸素状態が分かるのでしょうか?

我々の動脈血中にある酸素が運ばれる方法は、2通りあります。

  1. 血漿に溶けて運ばれる方法と
  2. 赤血球と結びついて運ばれる方法

このうち、大部分は②の赤血球に結びついて酸素は運ばれていきます。つまり赤血球と結びついている酸素の量が分かれば、体の中の酸素状態が見れることになります。

パルスオキシメーターは、この赤血球と酸素が結びついた比率をみているのです。具体的に何をしているかというと、赤外線と赤い光の2種類を当てています。

  • 酸素と結びついた赤血球は、赤外線を吸収します。
  • 酸素と結びついていない赤血球は、赤い光を吸収します。

この特徴を利用して、SpO2として酸素量を測定しています。光を当てるだけで痛くもないですし、すぐに測れるため気軽に測定しやすいのがパルスオキシメーターです。ただし、

  • 指が上手く入っていない
  • マニキュアなどが塗ってあって光を当てても吸入されない
  • 指先が冷たく循環動態が悪い
  • 貧血などがある

などでは正しくパルスオキシメーターが測定できない可能性があるため、注意が必要です。SpO2は、一般的には96%以上が正常です。SpO2が90%以下ですと、呼吸不全と医療業界では呼びます。呼吸不全とはすなわち、酸素が足りていない状態ということです。SpO2が90%以下であると、どんな病気であれ酸素が必要と判断することが多いです。

 

2.SpO2が低いのに何で息が苦しくないの?

我々が苦しいと感じるのは酸素状態が低い時ではなく、低くなった時の酸素状態の差を感じて苦しいと感じます。慢性的に低い人は頻回に低い状態を繰り返すため、息苦しいと感じるセンサーが壊れてしまいます。

パルスオキシメーターとSpO2について分かったところで、なぜパルスオキシメーターでSpO2の値が低くても苦しくない人がいるのかご説明していきましょう。

水の中にずっといたら息が苦しくなりますよね?この時体の中では、何が起こっているのでしょうか?息をずっと止めていると、体の酸素量も息を吸わない分どんどん下がっていきます。

体の中の酸素量が下がるということは、SpO2もどんどん下がっていきます。この時に、SpO2が98%から90%まで下がったとしましょう。私たちの体には、大動脈と頸動脈の2か所にセンサーがあります。(大部分は、頸動脈のセンサーが作用します。)このセンサーは、98%から90%の8%下がった差を感じることで、苦しいという警報機を鳴らします。

つまり我々が苦しいと感じるのは、

  • 体の中の酸素が足りない時

ではなく、

  • 体の中の酸素が減った時

なのです。COPDの方は日常的にSpO2が低いため、つねに体の中の酸素状態が足りない状態です。いつでもSpO2が低いということは、ずっとSpO2が90%のため、SpO2の差がないので苦しいと感じないのです。

また酸素を感じるセンサーも、頻回にSpO2が乱高下すると差を感じづらくなり、最終的に壊れてしまいます。つまり、

  1. COPDでSpO2が低いのに苦しくない人は、病態がゆっくりと進んで酸素状態が低いのに体が慣れてしまった人です。このように慢性的に呼吸状態が悪い人を慢性呼吸不全と医学用語で呼びます。
  2. COPDでSpO2が下がって苦しいと感じる人は病気が急速に進行して酸素状態が低いのに慣れる前に、SpO2が低くなった人です。このように急速に呼吸状態が悪い人を急性呼吸不全と医学用語で呼びます。

①の慢性呼吸不全のCOPDの人と②の急性呼吸不全のCOPDの人、どちらの方が皆さん状態が悪いと思いますか?酸素状態が低いのに慣れて苦しくないと感じる1の慢性呼吸不全の人の方が状態が良いと感じるかもしれません。

しかし医師からすると、①の慢性呼吸不全の人の方がはるかに問題です。先ほど水にずっと潜ったことを考えてみていただきましたが、その続きを考えてみましょう。水から上がったら苦しい人は、「ハァハァ」と呼吸回数が増えて一生懸命呼吸をすると思います。「息が苦しい」と感じることは非常に重要で、息が苦しいと感じるからこそ「酸素をいっぱい体に取り込んで酸素状態を正常にしよう」とする生きる力につながります。

つまり酸素状態が低くても息が苦しくならないのは、「警報機が壊れてしまって、酸素が低いのにも気が付かずに一生懸命息を吸うことができない」状態です。そのため酸素が低くても気が付かずに生活してしまうため、酸素が足りなくなって命に関わることがあります。

低酸素血症になると、

  • チアノーゼ(酸素状態が足りずに皮膚や唇が紫色になる)
  • 心不全(酸素状態が足りずに一生懸命心臓が動き続けることで、ばててしまい心臓の機能が低下する)
  • 低酸素脳症(脳に酸素が足りずに記憶障害や言語障害が出てくる。最悪意識がなくなってしまう)

などの症状が出現します。これらの症状は場合によっては、一度引き起こすと致命傷になりかねません。基本的に酸素状態が足りずに脳や心臓にダメージを受けて細胞が壊死した場合は、元に戻すことが2度とできないからです。

そのため息が苦しい、苦しくない関係なく、酸素が足りない人は酸素を投与した方が良いと言われています。

 

3.COPDの酸素投与以外の治療法は?

禁煙と薬物療法が中心になります。

COPDの方の中には、診断されていきなり低酸素状態で酸素が必要な方も多いです。ただし酸素投与というのは、COPD治療の中でも最終手段になります。

実際にCOPDの治療のガイドラインをみてみましょう。

copdの治療ガイドライン

COPDの治療はピラミッド状になっていて、

  1. 禁煙などの日常生活の改善
  2. 薬物治療

を行っていきます。③として酸素療法があります。

酸素療法に入る前に、COPDの治療をまずみてみましょう。

 

3-1.日常生活の改善(禁煙)

まず①の日常生活です。病院でCOPDと診断された方の大部分は、症状が出てから受診された方になります。「薬で何とかしてほしい」と思う方が多いですが、「まず禁煙してくれないとよくならない」というのが正直なところです。

タバコを吸いながら薬で治療して良くしようというのは、とても甘い考えになります。COPDをよくしていくためには、禁煙が非常に大切です。お薬だけではよくすることができません。そのことを踏まえて、この先の薬物療法をご覧になってください。

「症状はとりたい。でもタバコは辞めたくない。」

といったことを言われてしまうと、医師としても非常に辛いところです。COPDは残念ながら、禁煙しても病気は治りません。ただし、症状の進行を緩徐にすることはできます。

その一方で、「もう苦しくて、苦しくて助けてほしい。」といった重篤な状態までCOPDが進行してしまっても、症状を完全に取り除くことはできません。

禁煙について詳しく知りたい方は、「COPD(肺気腫)と診断されても遅くない!禁煙の方法とは?」を一読してみてください。

さらにCOPDは喫煙以外にも気を付けることが多々あります。禁煙以外で気を付けることを知りたい方は、「COPD(肺気腫)は日常生活が重要!COPDの進行予防と治療法」を一読してみてください

 

3-2.COPDの薬物療法

禁煙しても、COPDは症状が改善しない病気です。そのため多くの方は薬物治療を受けると思います。薬の第一選択肢は、

  1. 長時間作用型の抗コリン薬
  2. 長期作用型のβ2刺激薬

の2つの気管支拡張薬となっています。どちらを先に選ぶかは、専門家の中でも意見が分かれるところです。しかし共通して言えるのは、

  1. 閉塞隅角緑内障の患者
  2. 前立腺肥大症による排尿障害のある患者

この2つの病気がある人には、抗コリン薬は使用できません。抗コリン薬で病状が悪化する可能性があるためです。

緑内障は閉塞隅角のパターンのみ禁忌ですが、ご自身が緑内障のどのパターンか認識している人は少ないです。緑内障が悪化すると失明につながることから、一般的には緑内障の方には抗コリン薬は使用しないことが多いです。

また前立腺肥大は、高齢男性の多くに認められる疾患です。病院で診断されていなくても、

  • 残尿感がある
  • トイレが近い
  • 尿がスムーズに出せない

などの症状が高齢の男性にあれば前立腺肥大の可能性があるため、β2刺激薬を優先させることが多いです。

それぞれの作用機序についてみていきましょう。交感神経が活発になると、空気を取り入れるために気管支を拡張させます。この交感神経を活発化させるのが「β2刺激薬」になります。

この反対の作用をする副交感神経が働けば、気管支は収縮します。つまり、気道が狭くなっていきます。この副交感神経の働きを邪魔するのが「抗コリン薬」になります。

このように別々の作用機序ですが、COPDで気管支が狭まった病態を広げることで症状を緩和する作用があるお薬です。ですから抗コリン薬・β2刺激薬ともに、穴ぼこだらけになった肺を治す効果はありません。気管支を広げることで、

  • 症状の緩和
  • 生活の質(QOL)
  • 呼吸機能

などの改善を目指す治療です。一方で抗コリン薬、β2刺激薬の吸入でもCOPDが進行してしまった場合次の一手というのはなかなかないのが現状です。COPDの薬物治療について詳しく知りたい方は、「COPD(肺気腫)の治療の流れとは?薬物治療とその他の治療」を一読してみてください。

 

4.COPDの在宅酸素療法の効果は?

酸素状態を維持することで、生活の質を上げて、寿命を延ばすことにつながります。

本来であれば禁煙や薬物療法をしっかりとやったうえで酸素療法をお勧めしたいのですが、COPDの方は病院に来た時にはすでに最初に説明した慢性呼吸不全で、息苦しくないけど酸素が足りない状態で来る人も少なくありません。

このような場合は、医師は自宅でも酸素を使っていく治療をお勧めすることがあります。実際に自宅で酸素療法している人はCOPDの方が最も多く、全体の45%といわれています。

自宅でも酸素を吸うことのメリットとしては、

  1. 息苦しさが改善されて生活の質が改善する
  2. 肺以外の臓器の負担を減らして寿命が延びる

の2点が挙げられます。それぞれについて確認していきましょう。

 

4-1.息苦しさが改善されて生活の質が改善する

まずあげられるメリットは、生活の質の改善です。とくに酸素が足りなくて息苦しいと感じるCOPDの方で、在宅酸素を導入することで一番実感しやすいポイントです。一方で息が普段苦しくない人も、生活の質が上がるといわれています。

COPDの方では、身体は無意識のうちに動かさなくなってしまいます。低酸素状態になれてしまっているとはいえ、

  • 坂道や階段を避ける
  • 動く必要がないならなるべく動かない
  • テレビなど活動性が低いものを好むようになる

など動作を避ける傾向がでてきます。COPDは肺だけではなく、全身の炎症性疾患です。色々な部位に炎症を起こすことで、呼吸器症状以外も引き起こします。詳しく知りたい方は、「肺気腫(COPD)の症状にはどのようなものがあるか」を参照にしてみてください。

呼吸器症状以外には、

  1. 骨粗しょう症
  2. 骨格や筋障害
  3. 心臓や血管障害
  4. 腹部の消化管障害
  5. 代謝障害
  6. メンタルの障害

息苦しさで無自覚に動かなくなるうえに、COPD自体も骨や筋肉に障害を与えます。このためCOPDの重度の方はかなり衰えていき、やせ型の人が多いです。肺の状態が悪い上に骨や筋力も加速的に衰えて、急激に寝たきりになる人も多いです。

急激に動けなくなり咳や痰も治らないと、メンタル的に落ち込む人も多くいます。

在宅酸素を導入することで、少なくとも呼吸の問題は解決できます。酸素状態が改善できると、医師としても積極的に動くように推奨しやすくなります。

在宅酸素を導入できた方は、適度な運動(リハビリ)をお勧めします。行動範囲が広がることで、友人や家族との交友も増えて生活の質がよりよくなります。

 

4-2.肺以外の臓器の負担を減らして寿命が延びる

もうひとつのメリットとして、肺だけでなく臓器の負担を軽くして寿命を延ばす点について説明します。体の酸素の量が少ないと、

  • 肺以外で酸素を送るよう頑張る臓器が出てくる
  • 酸素が足りなくてダメージが出てくる臓器が出てくる

といった悪循環が生じます。一番影響受けやすいのが心臓です。肺と心臓は、非常に密接な臓器です。肺で酸素がとらないとなると、心臓がその分頑張って酸素を取り込んだ血を全身に回そうとします。

持久走とかで走った時に、ハァハァ息が切れて心臓がバクバクするのが分かると思います。これは肺が一生懸命息を取り込んでいると同時に、心臓も一生懸命酸素を全身に供給しているのです。

持久走をしているときは、休憩すれば徐々に動悸も収まってきます。しかし、COPDの場合はそうはいきません。肺が常に酸素が取り込みづらい状態なので、心臓が常に働き続けなければならないのです。

心臓が頑張って、頑張って、頑張り続けて…心臓は休むことはできないので、24時間常に頑張り続けます。そうすると、さすがの心臓もばててきます。これが心不全という病態です。具体的には右心不全が多いです。右側の心臓の動きは、主に血液が戻ってくるのを受け止める仕事をします。

つまり右心不全は、戻ってきた血液を受け止めきれずに渋滞させてしまう病態です。渋滞した血液はどうなるのでしょうか?最初は、高血圧として数字に表れてくることが多いです。

その状態が続くと、血管からじわじわと外に水分が出ていきます。これが結果として、むくみを起こします。さらに悪化した状態だと、肺に水が溜まっていきます。こうなると息が苦しくなってきます。

息が苦しくなるとさらに心臓は頑張りますが、またへばってしまって息苦しくなるという悪循環になります。こうなると、心臓のリズムもおかしくなり出します。これが不整脈となります。

一定のリズムで血液が送られないと、心臓内で血の塊ができてしまいます。血の塊ができてしまうと、脳や心臓にとんだ時に詰まってしまい、その部位が壊死してしまいます。これが脳梗塞や心筋梗塞となります。

肺が狂いだすと全てが狂いだすのです。実際にCOPDの方は、安定していても30%の方が心不全、つまり心臓がばてている所見があるとされています。この時在宅酸素を導入して酸素を取り込んであげると、心不全が改善することが知られています。

また低酸素状態が続くと、脳梗塞や心筋梗塞になってしまうリスクが正常の方より20~30%高いというデータもあります。これも酸素を吸入することで改善することができます。

このように生活の質を保ちながら病気が悪化するのを防ぐことで寿命を伸ばすことが、在宅酸素を導入する目的です。

 

5.在宅酸素療法を行う上での注意点

タバコは絶対にやめなければなりません。また、決められた酸素量以上の酸素を投与してしまうと二酸化炭素が溜まってしまい、非常に危険です。

お鼻から酸素を吸うだけですが、在宅酸素は入院で酸素の機械を導入することが多いです。在宅酸素を導入するうえで、以下の点に気を付けることがあります。

  1. 禁煙を徹底する
  2. 火気注意
  3. 決められた酸素量で吸入する

などです。それぞれについてみていきましょう。

 

5-1.禁煙を徹底する

タバコを吸いながら在宅酸素は絶対にできません。酸素は、投与されているところから半径2m以内は火気厳禁です。そのため酸素を吸いながら、タバコを吸うということは絶対にできません。

酸素は、酸素自体は燃えませんが、燃えているものの勢いを増す性質を持っています。そのためタバコの火が大きくなり、顔やカニュラ、服に引火する危険性があります。

酸素を吸う時はそのたびに外して…なんて甘い考えも一切許されません。「酸素が投与されているのを忘れてうっかりライターをつけちゃった」なんてやってしまったら、全身火傷だけではなく、火事でご家族の方をも危険にさらすかもしれないからです。

また、COPDの治療を思い出してほしいのですが、

  1. 禁煙
  2. 薬物療法
  3. 酸素療法

の順番に治療します。つまり酸素療法をする人は、①の禁煙できていることが大前提になります。ここまで呼吸状態が悪くなる前に禁煙して欲しいところですが、喫煙している人がいたらすぐにタバコをやめるようにしましょう。

 

5-2.火気注意

東日本大震災の時にこの在宅酸素は非常に問題になりました。必要な方に十分な酸素が供給できるかという問題とともに、火事の原因に在宅酸素がなってしまったからです。そのため厚生労働省も酸素の取り扱いに関しては、十分に注意を払うよう喚起されています。

具体的には、

  1. 液体酸素装置は換気の良い窓ぎわにおく
  2. 日当たりに良い所に装置を置きっぱなしにしない
  3. 火がある場所から2m以内は近づかない
  4. 消火器をすぐそばに置く

などの対策が言われています。特に大切なのこととしては、火がある場所から2m以内は近づかない点です。日常生活で火を使う場所としたら台所でしょう。

基本的に酸素をしている方は、火を使って料理をしてはいけません。

  1. 誰かに作ってもらう
  2. コンビニなどで買ってくる
  3. レンシレンジで対応する

などで対策しましょう。女性の方だと家事する時だけ在宅酸素を外してしまう方もいますが、やったりやらなかったりすると全く意味がありません。足りなくなったら補うのが在宅酸素の治療ではありません。足りなくならないように常に補うのが在宅酸素の治療です。

その他、

  • ガスストーブ
  • 他の人のタバコ
  • 線香やろうそく

などにも注意が必要です。

 

5-3.決められた酸素量で投与する

これが一番の問題です。COPDの人の中には酸素を大量に吸入し続けた方が良いと考えている人もいます。しかし酸素は、実は体にとって毒なのです。高流量の酸素を投与し続けると、肺が傷ついてしまいます。

一方で在宅酸素で扱う酸素量で、肺障害が起こることは少ないです。それなら酸素は沢山吸った方が良いのでしょうか?答えは×です。酸素を吸ってしまうと、実は二酸化炭素が溜まりやすくなってしまいます。どうしてでしょうか?

それは脳が酸素を投与することで、「頑張って呼吸しなくても大丈夫だなぁ」って勘違いしてしまうからです。最初に酸素のセンサーは、首と大動脈にあると記載しました。これらは末梢のセンサーとなっています。これらの末梢のセンサー(受容体)は、全て中枢の脳に情報が向かいます。

脳は呼吸状態に限らず、体の全身状態の司令塔です。そのため司令塔は酸素状態が良好という情報を受け取って、体に無理に呼吸しなくてよいという指令を間違って送ってしまいます。吸う方は、酸素が入ってきてくれるので問題はありません。問題なのは、息を吐く方です。呼吸が弱まって吐くのも怠ってしまうと、二酸化炭素が溜まってしまいます。

医学的に二酸化炭素が溜まった状態を、「CO2ナルコーシス」と呼びます。CO2ナルコーシスになると、皮膚や脳の血管が拡張して、

  • 発汗
  • 頭痛
  • 顔面紅潮

などの症状があらわれます。逆に他の血管は収縮するため、

  • 血圧上昇
  • 頻脈
  • 吐き気

などが出てきます。重篤になると、二酸化炭素が脳に溜まって脳の働きを抑制してしまいます。そうすると、

  • 意識障害
  • けいれん
  • 呼吸抑制

が起きて命に関わってきます。そのため酸素をむやみにあげて二酸化炭素が溜まってしまうと、命を落としかねません。入院して酸素量を決定するのは、「必要最低限の酸素量を確認して二酸化炭素をためないようにするため」です。

人によっては、動くときと動かない時で酸素量が変わる人もいます。めんどくさいと感じるかもしれませんが、全ては安全に呼吸状態を改善していくためです。

在宅酸素を導入する人は、

  • 動くとき(労作時)
  • 動かないとき(安静時)
  • 寝ているとき(睡眠時)

どれくらいの酸素量で治療するのか、しっかりと確認しましょう。どの時でも必要な最低限の酸素量を投与して、二酸化炭素をため込まないようにするのが大切です。酸素を吸うと二酸化炭素が溜まるといわれると、「それなら酸素を吸いたくない」と思うかもしれません。しかし、

  • 低酸素で脳や心臓にダメージを受けた場合、二度ともとには戻りません
  • 高二酸化炭素血症で意識がぼんやりした場合、換気補助療法で二酸化炭素をはかせると基本的に元に戻ります

低酸素血症の方がリスクが高いのです。このため、「背に腹は代えられない」精神で酸素療法を導入することが多いです。

 

まとめ

  • SpO2は体の酸素量をあらわす数値です。パルスオキシメーターで測定します。
  • SpO2が低値でも息が苦しくない人は、酸素が少ないのに慣れてしまった人です。酸素が少ないのに慣れてしまった人の方が重篤な状態です。
  • 酸素療法は、禁煙、薬物加療でも酸素状態が改善しない場合考慮する治療です。
  • 酸素療法は、必要以上の酸素量を投与すると二酸化炭素が溜まってしまうので注意が必要です。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック