肺気腫(COPD)の症状にはどのようなものがあるか

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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タバコを吸い続けていると、タバコの有害物質によって肺がボロボロになり、穴ぼこだらけになっていきます。このような病気を、肺気腫といいます。

肺気腫では肺や気管支の壁がボロボロになり、息を吐きだす時にすぐにペチャンコになってしまって上手く吐き出せなくなってしまいます。このため呼吸機能が落ちてしまうため、COPD(慢性閉塞性肺疾患)と呼ばれています。

「タバコを吸い続けたときの症状は?」と聞かれてみなさんが思い浮かぶのは、

この2つだと思います。これらは肺気腫(COPD)をはじめとして、肺の病気の大部分でみられます。悪化すると息が苦しくなってきて病院を受診する人が多いです。それだけでなく実は、肺でおこった炎症が全身に広がって、

  • 栄養障害
  • 骨格障害
  • 心臓や血管障害
  • 精神障害

などの全身の病気がCOPDから生じることがわかってきています。

ここでは、肺気腫(COPD)の症状について詳しくお伝えしていきます。タバコを吸っていれば咳や痰は当たり前・・・で終わらせずに、肺気腫(COPD)で生じる可能性がある症状について確認してみてください。

 

1.肺気腫(COPD)での一番多い症状は?

咳と痰が圧倒的に多いです。さらに悪くなると、動くことでの息苦しさが出現します。これらがゆっくりと進行していくことが肺気腫の特徴です。

COPDの原因の約90%は喫煙です。タバコを吸い続けている人は、

  • ずっと続く咳
  • 一日中痰がらみ
  • 動いた時の息切れ

などありませんか?これらは肺気腫の症状の一つです。肺気腫の恐ろしいところは、これらの症状がゆっくりと進行していくことです。このため典型的な身体所見も重症になって初めて現れることが多いため、早期に気づきにくいことが特徴です。

特にタバコを吸ってる人は、周りの人も吸ってることが多いです。タバコ仲間も咳していたり痰が多いとなると、まぁこんなもんだろうと気にせずに流してしまいます。

これらが重症になると、COPDでは息苦しさが徐々に出現します。息苦しさも急にではなく、徐々に来るのがこの肺気腫の厄介なところです。COPDの重症度での息苦しさの変化をみてみましょう。

  1. 軽症:坂道や階段歩行、早歩きで息切れがあるが、苦痛はない。
  2. 中等症:同世代と並んで平地を歩くと自分だけ遅れる。
  3. 重 症:着替えや洗面などの日常動作でも息切れがする。

これをみると、「重症になる前に気が付くんじゃない?」と思うかもしれませんが、ゆっくり息苦しさがすすむと気が付かない人も意外といます。これらを評価する息切れの程度の指標として、修正MRC(mMRC)息切れスケール質問票があります。

MACグレード

この表を活用して数値化しながら、COPDの状態を評価します。グレード分類が0であっても大丈夫というわけではありませんので注意してください。

肺気腫は現在、日本では約530万人程度がいるといわれる国民病です。つまりタバコ仲間がみんな同じような症状だから大丈夫ではなく、みんなすでにCOPDの可能性が高いのです。

 

2.肺気腫(COPD)で急に症状が悪化するケースとは?

ばい菌に感染した場合、急に悪化することは多々あります。

タバコが吸っている人は、なぜ咳や痰が多いのでしょうか?これはタバコの煙の有害物質を外に出そうと、体が防御反応を示しているためです。

さらにタバコで肺がやられると、どのような問題が起こるでしょうか?一番の問題は、息を吐いたり、吸ったりする力が弱まってしまうことにあります。

普通の人では咳や痰を出さなくても、ばい菌が入ってきたらすぐに吐いた息で飛ばされます。しかしながら肺気腫の人では、少しでもばい菌が入ってくると、咳や痰で外に頑張って出さなければなりません。

COPDでは、肺全体がもともと炎症で燃え盛っています。そんなところにばい菌がつくと、少しでも外に追い出せないと急激に悪化してしまいます。これをCOPDの急性増悪といいます。

タバコで炎症がくすぶってるところにばい菌がついて、さらに炎症が悪化してしまいます。体の防御反応も弱いので、咳や痰で一生懸命沈静化しようとしてもできません。こうしてただの風邪でも、入院しなければならないくらい悪化することが多いです。

こうしてCOPDの急性増悪で燃え広がった肺は焼け野原のようになり、急性増悪前の状態よりも呼吸状態がさらに悪化します。そうなると、さらに感染しやすくなるという悪循環に陥ります。こうなってしまうと、退院しては入院を繰り返してしまう負のスパイラルに陥ってしまいます。

 

3.肺気腫(COPD)で肺以外の症状はないのか?

COPDは、肺の炎症を契機に全身に炎症がひろがる病気と考えられてます。

タバコを吸ったら呼吸器の症状が出る…ここまではある程度予想できるかと思います。しかし最近になって、肺気腫は肺の炎症を契機に、全身に広がる病気だと考えられてきてます。

肺で炎症が燃え広がってすぐに沈静化できれば良いのですが、肺が燃えてる状態でタバコという燃化物を投与し続けると、肺で収まらず全身に炎症がひろがります。炎症物質が、COPDの人では高値になることが研究でも示されています。

炎症反応が高いことで、

  1. 骨粗しょう症
  2. 骨格や筋障害
  3. 心臓や血管障害
  4. 腹部の消化管障害
  5. 代謝障害
  6. メンタルの障害

など様々な障害が出現します。それぞれどのような障害があるか細かく確認しましょう。

 

3-1.骨粗しょう症

骨粗しょう症は、骨がもろくなる病気です。COPDの方の3分の1に発症します。

骨粗しょう症は、骨がカルシウム不足となりスカスカになる病気です。発症すると腰痛や背部痛などをきたし、最悪圧迫骨折で動けなくなってしまう病気です。

最近の研究では、この骨粗しょう症がCOPDの3分の1に発症すると報告されています。はじめは、COPDが急性増悪した場合に炎症を抑えるために使われるステロイドの副作用が疑われました。

しかしながら、ステロイドを使用していない患者さんでも多くの人が骨粗しょう症になることがわかってきました。肺で燃え広がった炎症物質が骨に燃え広がっていることが懸念されています。骨も炎症物質で燃えてしまい、どんどん弱くなってしまうのです。

同時にタバコ吸いの人は、栄養状態が悪いことが多々あります。骨を作るのに関与するビタミンDやカルシウム不足が心配されています。

最近腰が痛いなぁっていう人は、もしかしたらCOPDの兆候かもしれません。

 

3-2.骨格や筋障害

COPDでは筋力が衰え、やせ形の人が多いです。

肺気腫の炎症が筋肉に燃え移ると、筋力がどんどん衰えていきます。特に分かりやすいのが足の筋力です。足の筋力が衰えると歩くのも大変になります。さらにエンジンである肺自体もタバコでボロボロのため、さらに動くのが大変です。

息切れはするし、足は重いし…といって動かなくなってしまい、ベッドでゴロゴロする生活が多くなります。

そしてさらに悪化すると、全身の筋力が低下してしまいます。COPDの人は骨と皮だけの様な状態の人が多いですが、これは筋肉が肺気腫の炎症で燃えてしまうことが影響しています。

また、先ほどの骨粗しょう症の場合と同じように、栄養が偏ってる人が多いのも影響しています。タバコとお酒で生きているという人は、筋力がほとんどなくなってしまいます。

 

3-3.心臓や血管障害

COPDは、心筋梗塞や心不全、不整脈の方が非常に多いです。

肺と心臓は非常に密接な臓器です。肺で酸素がとらないとなると、心臓がその分頑張って酸素を取り込んだ血を全身に回そうとします。持久走とかで走った時に、はぁはぁ息が切れて心臓がバクバクするのが分かると思います。これは肺が一生懸命息を取り込んでいると同時に、心臓も一生懸命酸素を全身に供給しているのです。

持久走をしているときは、休憩すれば徐々に動悸も収まってきます。しかし肺気腫の場合はそうはいきません。肺が常に酸素が取り込みづらい状態なので、心臓が常に働き続けなければならないのです。

心臓が頑張って、頑張って、頑張り続けて…心臓は休むことはできないので、24時間常に頑張り続けます。そうするとさすがの心臓もばててきます。これが心不全という病態です。具体的には右心不全が多いです。右側の心臓の動きは、主に血液が戻ってくるのを受け止める仕事をします。

つまり右心不全は、戻ってきた血液を受け止めきれずに渋滞させてしまう病態です。渋滞した血液はどうなるのでしょうか?最初は高血圧として認められることが多いです。

その状態が続くと、血管からじわじわと外に水分が出ていきます。これが結果としてむくみを起こします。さらに悪化した状態だと、肺に水が溜まっていきます。こうなると息が苦しくなってきます。

息が苦しくなるとさらに心臓は頑張りますが、またへばってしまって息苦しくなるという悪循環になります。こうなると、心臓のリズムもおかしくなり出します。これが不整脈となります。

一定のリズムで血液が送られないと、心臓内で血の塊ができてしまいます。血の塊ができてしまうと、脳や心臓にとんだ時に詰まってしまい、その部位が壊死してしまいます。これが脳梗塞や心筋梗塞となります。

肺が狂いだすと全てが狂いだすのです。実際にCOPDの方は、安定していても30%の方が心不全、つまり心臓がばてている所見があるとされています。

さらに脳梗塞や心筋梗塞が正常の方より20~30%多いというデータもあります。

 

3-4.腹部の消化管障害

胃潰瘍や逆流性食道炎がCOPDの方には多いとされています。

COPDの人は、胃潰瘍の合併率が非常に高いことがわかってます。理由としては、

  • タバコの煙が胃に行くことで直接傷つける
  • 肺での炎症が胃に行くことでのストレス
  • 低酸素状態と低栄養で十分に胃の健康状態が保たれない
  • 治療薬による影響

など様々なことがいわれています。人間は一つの臓器が壊れると、いろんな臓器がそれを補おうとして影響が出ます。胃も例外ではありません。

また逆流性食道炎も、非常に多くの肺気腫の方に認めます。これは横隔膜の筋力がなくなったり、肺が穴ぼこだらけで膨らんだ影響が考えられています。

逆流性食道炎は、括約筋の低下で胃液が逆流する病気です。食後の胸やけが最も多い症状です。タバコを吸って胸やけがする人は、ただのお酒の飲みすぎや食べ過ぎではないかもしれません。

 

3-5.代謝障害

COPDの人は糖尿病や高脂血症になりやすいとされています。

COPDは糖尿病の危険因子として最近注目されています。実に正常の人の1.5倍糖尿病になりやすいといわれているのです。肺で燃え上がった炎症がストレスになり、糖尿病が発症するといわれています。

さらに高脂血症や痛風も肺気腫の人は多いとされています。これらは、タバコ吸いの人が不摂生な食事をしてる影響だといわれています。

タバコを吸っている人が糖尿病にかかったら、COPDを疑うことお勧めします。

 

3-6.メンタルの障害

COPDの末期の人は、半分以上の人がうつ状態といわれています。

息ができない、苦しいというのは、非常につらい症状の一つです。これらの症状が出てきた人は、動くのも億劫になり家から出てこなくなることが多いです。こうなってくると、

  • 息が苦しいことでのストレス
  • 病状が徐々に進行することの不安
  • 社会的な孤独感や不安
  • 動くことが制限されることでのいらだち

が原因で抑うつ状態になることもあります。これは病状が進行すればするほど、高頻度になります。

 

まとめ

  • 肺気腫(COPD)はタバコを吸い続けることで、多くの場合咳や痰が初期症状で出現します。
  • 肺気腫(COPD)は進行するにつれて労作時の息切れがあります。しかし症状はゆっくりと進むため気が付きづらいのが特徴です。
  • 肺気腫(COPD)は防御力が弱まるためばい菌にかかると急激に悪化します。
  • 肺気腫(COPD)は肺の炎症を契機に全身に症状が出現する病気です。

タバコを吸っている人が咳や痰をきっかけに病院に行った場合はCOPDと診断されやすいです。

一方で、骨粗しょう症や糖尿病をきっかけに病院を受診した人は、そこからCOPDが疑われることは少ないでしょう。医師100人にタバコを吸い続けてよいか聞いたら、ほぼ全員の医師が禁煙を指示すると思います。しかし、COPDの可能性を指摘してやめるようにまで伝えてくれる医師はそう多くないかもしれません。

タバコを吸ってる人はぜひこの文章の症状で思い当たる節があるのならまず病院でしっかりと診断を受けましょう。

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