貧血は症状がなくても病院へ!貧血の症状と怖さ
何気なく毎年受けている健康診断の結果を見たら、『貧血』と診断された方は多いのではないでしょうか?
日常会話でも『貧血』という言葉はよく耳にします。内科外来をしていると、「ふらふらする」や「立ちくらみがする」といった症状を『貧血』と表現することが多いように感じます。
広辞苑に書かれている『貧血』の定義を要約すると、
- 血液中の赤血球が減少した状態
- ある臓器の血流が減少した状態(脳貧血など)
とあります。
一般的に言われる『貧血』は、②の臓器の血流が減少したことを意味することが多いでしょう。しかし医学的には、①を『貧血』として扱います。ですから採血で赤血球が足りないことが示されて、初めて貧血といえます。
ふらふらするや立ちくらみがするは、低血圧や睡眠不足など貧血以外でも起きえるため、なかなか症状だけでは貧血だと診断するのは難しいです。
逆に症状がなくても、健康診断で採血をすれば貧血がわかります。ですが貧血と診断されても、軽視して放置してしまう方もすくなくありません。ここでは、採血結果で貧血といわれた人にはどのような病気を考えられるか、その原因について詳しく見ていきたいと思います。
1.貧血の定義とは?
Hbの数値が低いことで貧血と診断されます。
医師から貧血と診断された時の状態は、血液中の酸素を運ぶ細胞(赤血球)が減っている状態です。赤血球は主に酸素を運ぶ働きをします。つまり赤血球が足りなりないまま運動をすると、脳に供給される酸素が足りなります。このため貧血になると立ちくらみやめまいが起こるのです。
めまいや立ちくらみが起きたら貧血の可能性はありますが、貧血と断言はいえません。立ちくらみやめまいの原因としては貧血の他にも、
- 血圧低下(出血や自律神経の問題)
- 耳の平衡器官の問題
- 脳自体の病気
など様々な病態で起こりえます。逆に症状がなくても採血で赤血球が足りてないことが示された場合は、『貧血』と診断されます。つまり、症状の有無は関係ないのです。具体的には、ヘモグロビン(Hb)値で測定されます。
赤血球中の大部分を占めている血色素がヘモグロビンで、ヘムという色素とグロビンというタンパク質からできています。このヘモグロビンが酸素と結合しています。
ヘモグロビンの数値が、
- 成人男性:14g/dL未満
- 成人女性:12g/dL未満
- 妊娠中:11g/dL未満
- 高齢者:11g/dL未満
これらの数値を下回ると、健康診断などで『貧血』の原因を調べなさいと指導されます。
症状がないからといって放置していると、思わぬ怖い病気が隠れているかもしれません。貧血といわれた方は必ず、症状の有無に関わらず病院を受診してください。
2.貧血の症状にはどのようなものがあるのか
軽度であれば、症状はほとんどありません。貧血が進行すると、疲れやすさや運動の息切れなどが認められます。
前述したように、貧血とは血液検査をしてみる他に診断はつけられません。それでは、どのような症状が出たら貧血を疑うのでしょうか。
実は、「ふらふらする」や「立ちくらみがする」といった症状は、貧血の症状としては稀です。軽度の貧血や時間をかけて貧血になってしまった場合は、ほとんど症状がありません。やや貧血が進むと、
- 疲れやすい
- 運動時の息切れ
- 何となく怠い
- 髪が抜けやすい
などの症状が認められます。Hb7 g/dlを下回るような重篤な貧血の場合は自覚症状が現れることが多く、
- 全身倦怠感や頭重感
- めまい
- 耳鳴り
- 動悸
- 呼吸困難
などが代表的な症状です。これらの症状に加えて、鏡で顔を見たときに眼瞼結膜や顔色が蒼白であれば確実に貧血でしょう。下血(痔からなど)や不正出血など、日ごろから出血が多い場合も貧血の心配があります。
一方で採血ではHbが正常にあっても、実は貧血のなりかけで症状が先に出てくることもあります。これを隠れ貧血といいます。ヘモグロビンは主に鉄で作られるのですが、鉄がどれくらい貯蔵されているのか診るのにフェリチンという数値を見ます。
このフェリチンが低いと、鉄の貯蔵が底をつきそうということで体が症状を出して知らせてくれることがあります。隠れ貧血について詳しく知りたい方は、「慢性疲労症候群と診断する前に、隠れ貧血がないかチェック!」を一読してみてください。
3.貧血と診断されたらどのような病気が原因?
貧血が起こるには、大きく分けて2つのパターンがあります。①赤血球が失われる場合②赤血球が作られない場合です。貧血がみつかったら、そのどちらであるか調べなければなりません。
どんな病気でも、まずは原因を特定する必要があります。なぜ貧血が起きているのか、この原因(病名)を突き止めて、初めて治療に移れます。
貧血の原因としては、
- 赤血球が失われる場合
- 赤血球が作られない場合
の2つの病態を考えます。
①として分かりやすいのは出血です。どこかで血が出て失われていれば貧血になります。出血する部位としては、
- 消化管
- 性器出血
の2つが考えられます。手や足から血が出ていれば誰でもわかるでしょうが、体の中の出血は分かりづらいです。
消化管出血の有無を調べる必要があるため、上部内視鏡で胃潰瘍や胃がんを探したり、大腸がんを見つけるために便潜血を調べたりします。さらに便潜血陽性の場合は、大腸がんや大腸憩室からの出血を想定して下部内視鏡を行います。
女性の場合は、
- もともと生理の時出血が多いか?
- 不正出血の原因となるような病変はあるのか?
がポイントになります。疑われる場合は、産婦人科で超音波検査をしていただきます。
①として、出血の次に考えるべきは溶血でしょう。溶血とは、血管内で赤血球が自爆して壊れている状態です。先ほどの出血は血管外の外の話になるのに対して、溶血は血管内でおこる病気です。
溶血が起きているかどうかをみるとしたら、赤血球が壊されている所見がないか血液検査で調べます。溶血があれば血液検査で、
- ビリルビンが上昇している。
- 乳酸脱水素酵素(LDH)が上昇している。
- ハプトグロビンは低値となる。
など他の採血項目が異常値になります。
②の赤血球が作られない場合としてまず一番考えられるのは、
- 鉄
- ビタミンB12
- 葉酸
など赤血球が作られるために必要な成分が不足している場合です。このような貧血として、鉄欠乏性貧血や巨赤芽球性貧血という病態があります。
その他、腎臓で作られるエリスロポエチンという赤血球産生に必要なサイトカインが低下している状態も考えられ、腎性貧血といいます。
膠原病や悪性腫瘍、感染症などの慢性炎症があり、2次的に赤血球の産生が低下することもあります。骨髄の機能自体が悪くなる血液の病気も考えなければなりません。
このように、貧血と一言で言っても様々な部位の異常でおこります。そのため体の中のどこの異常か考えなくてはなりません。
4.貧血は何科に受診?貧血は症状がなくても病院へ
Hbの数値および症状から判断されます。血液内科が専門ですが、一般内科でも問題ありません。絶対に症状が無いからといって、放っておかないようにしましょう。
貧血と診断されたらまず何科に行けばよいかはみなさん迷われると思います。大まかな病態をお伝えしてきましたが、
- 貧血が疑われたらいきなり胃カメラ飲まされるの?
- 産婦人科行ったら痛そうな検査されないの?
なんて不安になるかもしれません。そもそも症状もないし放っておいて良いやなんて考えてしまう人も多いです。症状がなくて貧血と診断された方は、健康診断での指摘がほとんどでしょう。
せっかく健康診断で病気の予兆を見つけたのに、それをご自身で見過ごしてしまっては、痛い思いをして注射で血をとった意味が全くなくなってしまいます。
そのため貧血と診断された時、大まかにどうすれば良いか考えてみましょう。
まず貧血と診断された場合は、Hbの値を確認してみてください。この値で貧血と診断されているのです。そして貧血の重症度も、Hbによります。
もしHbが8を下回っているのであれば、自覚症状のあるなしにかかわらず、急いで大きな総合病院を受診してみてください。Hbが8を切るというのは、必ず何か治療をしなければならない病気が隠れています。
さらにHbが8を切っていたら、症状に合わせて輸血も検討しなければいけません。Hbが7を切っていたら、ほぼ確実に輸血すると考えてください。
そのためHbが8を切っていたら緊急性が高い状態のため、必ず病院は受診してください。放っておくと、ほぼ確実に命に関わるほど重篤な貧血です。一方でHbが10前後であれば、少し病態を考えてみましょう。
- 性別
- 年齢
- 症状
- 食事状態
- 今までかかったことが大きな病気
- 飲んでるお薬
から、どの病気かある程度鑑別できるかもしれません。
特に若い女性の場合は、
- 生理による出血
- 栄養の偏り
の2つが合わさって貧血になりやすいです。女性の場合は生理で多少なりとも血を失うため、男性に比べて貧血になりやすいです。特に先ほど書いた鉄分やビタミンが不足していると、それが合わさって貧血に拍車がかかります。
また栄養状態が問題なくても、
- 生理による出血が多い
- 生理が不規則
- 生理の症状が強い
- 不正出血がある
など思い当たることがあれば、産婦人科から受診して良いと思います。特に生理に関しては非常にナイーブな問題のため、産婦人科以外は細かい検査や診断がなかなかできません。
産婦人科疾患の有無を確認してから他の科を受診すると、産婦人科以外の医師としては非常に助かります。
また高齢者の場合では、性別に関わらず貧血になりやすいです。体力の低下とともに血の産生も低下しますし、食べ物の食べる量も低下するでしょう。
特に80代の方は、むしろHbが13以上あることの方が少ないかもしれません。しかしHbが低くて気になる病気としては、消化器系の癌があげられます。癌が知らない間に消化管に出現していて、じわじわと出血している可能性があります。消化器の癌ならお腹に痛みがあるのではと思う人もいますが、かなり進行しない限り胃癌や大腸癌で症状が出ることは少ないです。
高齢者の方で貧血がある方は、消化器の癌を一度疑ってもよいかもしれません。また、便の色でも鑑別ができることがあります。
- 便の色が黒い=胃から出血している
- 便の色が鮮血=大腸から出血している
と一般的には考えられています。便の色で上記に当てはまる方は、消化器内科や外科を受診して一度カメラで見てもらいましょう。
Hbが10前後で若い人の場合は、まずは血液内科を受診してみましょう。
- 外食やインスタント食に偏っている=鉄やビタミン不足
- 痔がある=出血していて貧血進行
- 痛み止めのロキソニンをよく飲んでる=胃潰瘍や十二指腸潰瘍
などなど様々なことが考えられます。また血液の病気が隠れている人もいるかもしれません。
病院を受診する際は、健康診断で採血した結果を含めて全て持ってきてください。健康診断の結果を持っていかないと、採血をもう一度してHbの値を再度確認しなければなりません。
また、血液内科が周りにない場合は、一般的な内科を受診してみても良いでしょう。採血結果をみながら次にどうすればよいか伝えてもらえると思います。
まとめ
- 貧血はHb(ヘモグロビン)の値で診断されます。
- 貧血は症状の有無は関係ありません。
- 貧血は赤血球が失われる場合と作られない二つの病気が考えられます。
- 貧血は様々な病気が隠れている可能性があります。貧血を指摘されたら必ず病院を受診しましょう。
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