有機溶剤健康診断のポイントと流れ

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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有機溶剤を扱う業務に従事している方は、有機溶剤健康診断を受けなければいけません。これは、特殊健康診断の一種で、会社がうけさせる義務を負っています。

ここでは、有機溶剤健康診断について、その概要と流れをまとめたいと思います。

 

1.有機溶剤健康診断とは?

有機溶剤を扱う方に対して行う、半年に1度の特殊健康診断です。

有機溶剤健康診断は、有機溶剤を使った仕事に従事する労働者に対して、半年ごとに定期的に行われる健康診断です。扱う有機溶剤の種類に関して、症状や検査項目に狙いをつけて行う特殊健康診断です。

これは、労働安全衛生法に基づいて定められた有機溶剤中毒予防規則第29条によって、会社に義務付けられています。正式な名称は、有機溶剤等健康診断といいます。

また、「有害物を取り扱う業務」の場合は、定期健康診断も6か月ごとに行わなければならないとされています。このため、有機溶剤を扱う業務の方は、通常の健康診断+αの項目を半年ごとに行っていくことになります。

なお、有機溶剤の含有率が5%を超えていると「有機溶剤等」と分類されて、健康診断を行う必要があります。

 

2.なぜ有機溶剤が怖いのか?

脂溶性と揮発性があるためです。

もともと有機溶剤は、印刷や洗浄、塗装、接着など多くの職場で利用されているものです。この有機溶剤には、脂溶性と揮発性という2つの重要な性質があります。

脂溶性とは、その文字通り、脂に溶けやすい性質のことです。人間の細胞は脂がたくさん含まれています。水溶性の物質であれば、水と油は混じりあわないように、細胞にも大きな影響がありません。

ですが脂溶性の物質ですと、細胞に溶け込んで蓄積してしまいます。このため、肝臓や腎臓や造血系、生殖系、神経系などにダメージがでてきます。また、皮膚がただれて炎症がおきたり、眼や鼻、のどといった粘膜に対して刺激作用があります。

揮発性とは、常温でも気体になる性質のことです。このため、有機溶剤の蓋の閉め忘れや床へこぼした時などに、簡単に蒸気となって身体に入ってきます。

急激に吸収されると、脳に作用して中枢神経の働きが抑えられ、急性中毒症状がみられます。意識障害から呼吸抑制などがすすんでいきます。また、低濃度でも少しずつ身体に蓄積すると、臓器にダメージがでてきて慢性中毒症状がみられます。

 

3.有機溶剤健診診断の対象となる業務

54種類の有機溶剤を扱う業務が対象です。

有機溶剤を扱う業務は多岐にわたります。5%以上の有機溶剤を含むものは、有機溶剤等と分類されて健診の対象となります。

その中でも、通気性がよくない場所(屋内作業場等)ではとてもリスクが高いので、作業環境の管理も行うことが義務付けられています。屋内作業場やタンク、船舶の内部、車両の内部、坑の内部、マンホールの内部、ダクトや水管などでの仕事です。

有機溶剤としては、対症となるものが54種類指定されています。以下のものは、第三種有機溶剤と分類されていて、タンクなどの内部での作業を行う時だけ健診を行えばよいとされています。

  • ガソリン
  • コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む。)
  • 石油エーテル
  • 石油ナフサ
  • 石油ベンジン
  • テレビン油
  • ミネラルスピリツト(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリツト、ホワイトスピリツト及びミネラルターペンを含む。)

 

4.有機溶剤健康診断の項目

業務経歴・既往歴・症状・尿蛋白は必須で、有機溶剤によっては尿中代謝産物・肝機能・貧血・眼底を検査します。

必ず実施される項目は以下の①~④です。

①業務の経歴の調査
②有機溶剤による既往歴・症状・所見・検査結果の確認
③自覚症状や他覚症状の有無
④尿中の蛋白の有無

以下の⑤~⑧は、有機溶剤の種類ごとに実施するか決められています。

⑤尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査
⑥肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP)
⑦貧血検査(赤血球数、血色素量)
⑧眼底検査

特定の有機溶剤で必要となる健康診断項目をまとめました。

医師が必要と判断した場合は、さらに以下を実施する必要があります。

⑨作業条件の調査
⑩貧血検査
⑪肝機能検査
⑫腎機能検査
⑬神経内科学的検査

 

5.有機溶剤健康診断では、尿をいつとるのか?

週末の作業終了後が理想ですが保存が難しいので、適宜健診当日に尿を取っていただくことが多いです。

有機溶剤は身体に入ると代謝されて尿で排出されます。その代謝産物を測定することで、どれくらいの有機溶剤が身体に取り込まれたのかを推測することができます。このため、特定の有機溶剤の場合は、尿中の代謝産物の量を測定します。

尿中の代謝産物に関してまとめました。

「尿をいつとるのか」ということが、結果に大きく影響してきます。理想をいえば、週末の作業終了後に尿をとりたいところです。もっとも有機溶剤が身体に吸収されているポイントでとることが理想です。ですが、週末の夕方に採尿すると、週末は保存しておかなければいけません。代謝産物によっては揮発するものもあるので、冷蔵が望ましいです。

現実的には、このようにできないことがほとんどです。検診当日に適宜尿を取っていただくケースが多いです。

 

6.有機溶剤健康診断の実施タイミングについて

雇い入れ時・定期・配置転換時に行います。

事業主は、有機溶剤を扱う業務に従事する労働者に対し、上述の検査項目について、特定のタイミングで健康診断を実施する必要があります。

  • 雇入れの際
  • 当該業務への配置替えの際
  • 配置換え後6ヶ月以内ごとに1回

 

7.有機溶剤健康診断で異常がみつかったら?

産業医含めて就労上の配慮を検討し、職場環境に関しても検討を加えます。

電離放射線健康診断を受けた後、もし何か異常があったり、体に異変が起こっていたことがわかったらどうなるのでしょうか?まずは医療機関での再検査になります。その上で、医師に就業上の意見を診断書にしていただきます。

その意見を踏まえて、職場としての適切な措置を検討しなければなりません。例えば、就業場所を変更したり、作業を変えたり、労働時間を短縮するなどといった措置です。これらは現実的なマネージメントとの兼ね合いもありますので、落としどころを産業医含めて検討します。

また、職場環境自体にも改善点がないか検討します。作業環境の測定や施設・設備の整備を行ったり、衛生委員会などでも改善に向けた具体的なアクションを検討します。

 

8.有機溶剤等健康診断個人票と結果報告書

個人票の5年間の保存と、年度末の労基署への報告が必要です。

個人票は健康診断の結果記入および管理に用いてください。これは5年間保存しなければならないと規定されています。

結果報告書は、定期健康診断とあわせて労基署に提出するものです。注意点としては、「所見のあったものの人数」の欄は、それぞれの検査項目の所見者の合計ではないことです。例えば、赤血球と白血球の両方で所見がある方は、それぞれの検査項目で1ずつカウントされます。ですが、全体としての有所見者は1名となります。医師の指示人数とは、再検査や要受診で病院への受診を促した人数です。

 

まとめ

有機溶剤を扱う方に対して行う、半年に1度の特殊健康診断です。

なぜ有機溶剤が怖いのかというと、脂溶性と揮発性があるためです。

54種類の有機溶剤を扱う業務が健診の対象となります。

健診項目は、業務経過・既往歴・症状・尿蛋白は必須で、有機溶剤によっては尿中代謝産物・肝機能・貧血・眼底を検査します。

雇い入れ時・定期・配置転換時に行います。

異常がみつかったら、産業医含めて就労上の配慮を検討し、職場環境に関しても検討を加えます。

5年間の個人票の保存と、年度末の労基署への報告が必要です。

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