最強の睡眠薬「ベゲタミン」が販売中止になった理由と対策

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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ベゲタミン錠は、現在使われている睡眠薬の中では最強といっても過言ではないお薬です。

1957年の発売と非常に古くからあるお薬で、その効果の強さから「飲む拘束衣」と呼ばれたりもするほどです。ベゲタミンは3種類の成分の合剤となっていて、その中にはフェノバルビタールという安全性の低いバルビツール系成分が含まれています。

依存性も強く、ベゲタミンは薬物乱用につながってしまうことも少なくありませんでした。公益社団法人日本精神神経学会から、「薬物乱用防止の観点からの販売中止」の要望が製薬会社である塩野義製薬に出され、2016年度いっぱいでの販売中止が決まりました。

ベゲタミンを処方される患者さんは、様々な睡眠薬が効かなくて行きついた方が多いと思います。ベゲタミンの代替薬はどうすればよいのでしょうか?

ここでは、ベゲタミンの販売中止となった理由をみていき、今後の影響を考えていきたいと思います。

 

1.ベゲタミンが販売中止となった理由

ベゲタミンは強力な睡眠薬ですが、安全性が低いお薬です。ベゲタミンが乱用されることも多く、日本精神神経学会の要望から2016年をもって製造中止、在庫がなくなり次第販売中止となります。

ベゲタミンの販売中止は、販売元の塩野義製薬から以下のように発表されました。

公益社団法人日本精神神経学会から「薬物乱用防止の観点からの販売中止」のご要望を提起いただき、社内検討を進めた結果、2016年12月31日をもちまして弊社からの供給を停止し、以降は流通在庫品限りで販売中止とさせていただきたく、謹んでご案内申し上げます。

日本精神神経学会とは、精神科で一番大きな学会になります。私も所属しておりますが、精神科医であれば入っていない人はいないと思います。学会は公的機関ではありませんが、大きな発言力があります。

精神科のお薬は乱用されることがしばしばありますが、ベゲタミンは乱用されやすいお薬トップ5の常連薬になります。

またベゲタミンは、安全性の低いお薬になります。ベゲタミンを大量に服薬してしまうと、脳の機能が一気に落ちてしまいます。中脳が抑制されると意識消失します。脳幹の延髄が抑制されると、呼吸中枢や血管運動中枢が働かなくなります。こうなると呼吸が止まってしまい、血圧が一気に下がってしまいます。

このようにベゲタミンは、安全性が低いお薬なのです。これを受けて、2016年をもって製造中止となりました。製造中止されると薬局にお薬が卸されなくなります。薬局の在庫がつきると、販売中止になります。

製薬会社としても、古い薬のため薬価もかなり安くなっています。このため、無理に販売を続けてもよいことがないため、学会の要望に従って販売中止にしたのかと思います。

 

2.ベゲタミンはどうして乱用してしまうのか

ベゲタミンは耐性と依存性の強いバルビツール酸系睡眠薬の成分を含んでおり、ベゲタミンが使われるのは難治性不眠の患者さんでもあるため、乱用されることが多いです。

それではベゲタミンは、どうして乱用されやすいのでしょうか?それには、2つの要因があります。

  • ベゲタミンの成分としての要因
  • ベゲタミンを使うほどの難治性不眠の患者の要因

この2つがあります。

ベゲタミンには、フェノバルビタール(商品名:フェノバール)というバルビツール酸系睡眠薬の成分が入っています。耐性(薬が効かなくなってしまう)と依存性(薬がやめられなくなること)があるため、薬の量がどんどん増えてやめられなくなってしまうのです。

また、ベゲタミンを使うほど頑固な不眠の患者さんでは、何らかの精神疾患が背景にあることが多いです。そしてその精神疾患も、症状が慢性化して複雑になっていることが多いです。このような患者さんでは、ストレスの発散がどうしても短絡的になってしまいます。そのひとつとして、薬物乱用になってしまいます。

ベゲタミンは非常に強い鎮静作用があるので、「今の現実から逃れたい」という気持ちで過量服薬してしまうことが多いのです。

 

3.ベゲタミンはなくなった方がよい薬なのか?

ベゲタミンは確かに依存や安全性の問題がありますが、効果は強力で睡眠薬の切り札ともいえるお薬です。適切に使えばよいこともあるので、ベゲタミンの販売中止に関しては精神科医でも賛否両論かと思います。

これまでお伝えしてきたように、ベゲタミンというお薬はデメリットが目立つお薬です。しかしながらその効果は非常に強く、睡眠薬の切り札ともいうべきお薬になります。ベゲタミンは適切に使えば、有用なお薬でもあるのです。

ベゲタミンはなくなった方がよいお薬なのでしょうか?このように質問すると、おそらく精神科医でも賛否両論だと思います。

ベゲタミンは、3つの成分が合わさったお薬です。

成分名(一般名) 作用機序 分類 商品名
クロルプロマジン 抗ドパミンD2作用 抗精神病薬 コントミン/ウィンタミン
プロメタジン 抗ヒスタミンH1作用 抗パーキンソン薬 ピレチア/ヒベルナ
フェノバルビタール GABA促進作用 抗てんかん薬 フェノバール

この3つの成分は、実は絶妙な配合になっています。

クロルプロマジンはドパミンをブロックしますが、その副作用(錐体外路症状)をプロメタジンが和らげてくれます。そしてこの3つの薬の成分は、すべて鎮静作用があります。3つとも異なるメカニズムによって鎮静するため、相乗効果が期待できるのです。

安全性の面からは安易に使うべきお薬ではないですが、どうしても不眠が改善できない患者さんにとっては救世主になることもあります。私もできるだけ使わないようにしているお薬ですが、どうしても眠れない時だけの頓服として使うこともあります。

このような患者さんに対して、「ベゲタミンは安全性が低いから販売中止」というのは少し酷になります。ベゲタミンに行きついたということは、それなりの理由があったはずです。ベゲタミンを使っているとお薬の耐性もできてしまうので、他のお薬に切り替えても効果が期待しにくいのです。

それ以外にも統合失調症の患者さんや、多剤になっている患者さんでは、ベゲタミンを使うことでお薬が整理されることもあります。(多剤処方により診療報酬が減算されるようになって、この目的で処方されることも増えたかと思います。詳しく知りたい方は、「精神科や心療内科にいくと薬漬けにされるって本当?」をお読みください。)

同じように乱用が問題視されていたエリミンは、2015年に販売中止となりました。こちらに関しては他に代用できるお薬もあるため、私としても販売中止になるべきと考えていました。ベゲタミンに関しては、販売中止するべきともいえないお薬になります。

エリミンの販売中止について詳しく知りたい方は、「エリミン錠が「赤玉」と呼ばれて販売中止になった理由」をお読みください。

ベゲタミンの効果について詳しく知りたい方は、「ベゲタミンA錠の効果と強さ」をお読みください。

 

4.ベゲタミンの代替薬とは?

ベゲタミンをいきなりやめられない方は、ベゲタミンの3つの成分を再現してフェノバルビタールを少しずつ止めていくのも方法です。それも難しければ、効果のある睡眠薬を見つけましょう。

それでは、ベゲタミンが中止になってしまったらどのようにすればよいのでしょうか?代替薬について考えていきましょう。

ベゲタミンは、3つの成分を配合したお薬になります。この成分は、いずれも商品として発売されています。

成分名 商品名 ベゲタミンA錠 ベゲタミンB錠
クロルプロマジン コントミン/ウィンタミン 25mg 12.5mg
プロメタジン ピレチア/ヒベルナ 12.5mg 12.5mg
フェノバルビタール フェノバール 40mg 30mg

ですから、この割合で処方すればベゲタミンと同じ有効成分になります。3剤はいずれも粉薬が発売されていますし、錠剤でも以下の剤形で発売されています。

  • コントミン錠/ウィンタミン錠:12.5mg・25mg・50mg・100mg
  • ピレチア錠/ヒベルナ錠:5mg・25mg
  • フェノバール錠:30mg

これらを組み合わせる方法もできなくないですが、服薬の手間も増えてしまいますね。ベゲタミンの安全性が低くなる原因はフェノバルビタールにあるので、再現するにしてもできるだけ使いたくはありません。

フェノバルビタールは、バルビツール酸系の中でも作用時間が長いお薬なのが救いです。このため身体からゆっくりと抜けていくため、薬がなくなったことによる離脱症状はそこまで強くありません。

まずはベゲタミンを少しずつやめていきましょう。いきなり減らせない方は3つの成分を再現して、フェノバルビタールだけ少しずつ減らしていくのも方法です。これができない方は、他の睡眠薬を使っていくしかありません。

現在使われている睡眠薬の主流は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬になります。このタイプとバルビツール酸系睡眠薬は、その作用機序が似通っています。どちらもGABA受容体に作用します。このため、ベゲタミンを長く使っている方はベンゾジアゼピン系睡眠薬も効きにくいことが多いです。

ですから、異なる作用メカニズムのお薬から使っていくことが望ましいです。2014年に発売されたベルソムラは、新しいお薬なので使ったことがない方も多いです。安全性も高いので、使ってみるのもひとつの方法でしょう。

ベゲタミンで効果が認められた方は、コントミンと同じ抗精神病薬が効果的であることもあります。このため、催眠効果が期待できる抗精神病薬で合うお薬を見つけていくのも方法です。

この機会に、お薬だけでなく睡眠によい生活習慣なども見直していきましょう。

 

まとめ

ベゲタミンは強力な睡眠薬ですが、安全性が低いお薬です。ベゲタミンが乱用されることも多く、日本精神神経学会の要望から2016年をもって製造中止、在庫がなくなり次第販売中止となります。

ベゲタミンは耐性と依存性の強いバルビツール酸系睡眠薬の成分を含んでおり、ベゲタミンが使われるのは難治性不眠の患者さんでもあるため、乱用されることが多いです。

ベゲタミンは確かに依存や安全性の問題がありますが、効果は強力で睡眠薬の切り札ともいえるお薬です。適切に使えばよいこともあるので、ベゲタミンの販売中止に関しては精神科医でも賛否両論かと思います。

ベゲタミンをいきなりやめられない方は、ベゲタミンの3つの成分を再現してフェノバルビタールを少しずつ止めていくのも方法です。それも難しければ、効果のある睡眠薬を見つけましょう。

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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