ベルソムラは認知症になりにくい?ベルソムラの認知機能低下への影響

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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「睡眠薬を長く服用している認知症になりやすくなる」

お薬に詳しい方では、心配される方もいらっしゃいます。確かに睡眠薬では、認知機能への影響がいわれています。しかしながら不眠自体が認識能を低下させるため、適切にお薬を使えば過度に心配する必要がありません。

そうはいっても、できることなら認知機能への影響が少ない睡眠薬が望ましいです。特に高齢者に睡眠薬を使っていく時には、認知機能のことも考慮する必要があります。

2014年に発売されたベルソムラは、従来の睡眠薬とは異なったメカニズムの睡眠薬になります。認知機能への影響も少ないと考えられています。ここでは、ベルソムラの認知機能低下について詳しくお伝えしていきます。

 

1.どのような睡眠薬が認知症になりやすい?

ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬では、認知症リスクを高めることが懸念されています。

日本では現在、主に4種類の睡眠薬が使われています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、作用メカニズムは同じになります。ベンゾジアゼピン受容体に作用して、脳のGABAの働きを強めます。GABAは神経活動を抑える働きがあるので、脳の活動が抑えられるのです。

非ベンゾジアゼピン系の方が作用が睡眠に選択的なので、認知機能への影響は少ないと言われていますが、影響は少なからずあると思われます。

脳の活動が抑えられている状態が続くため、感覚的にも「頭を使わなければボケる」と理解しやすいかと思います。それに対して最近になって発売されたロゼレムやベルソムラは、その作用メカニズムが異なります。

ロゼレムは体内時計の調整に関係しているメラトニンというホルモンに作用し、ベルソムラは覚醒と睡眠を切り替えるオレキシンに作用します。どちらも生理的なメカニズムを利用して睡眠作用をもたらすので、脳の活動を抑える薬ではないのです。

ですから現在のところ、ロゼレムやベルソムラは認知機能低下に影響しないのではといわれています。むしろ認知機能を改善させる可能性も示唆されています。

睡眠薬の認知症リスクについて詳しく知りたい方は、「睡眠薬で認知症になるの?睡眠薬のよる認知機能低下への影響」をお読みください。

 

2.ベルソムラの短期的な認知機能への影響

ベルソムラは、短期的な認知機能への影響は少ないと考えられます。

このように、ロゼレムやベルソムラは認知機能への影響が少ないと考えられています。

この2剤を比較すると、ロゼレムは即効性に乏しく、効果も不十分となることが多いです。このため高齢者で認知機能への影響が懸念されるときには、ベルソムラが使われることが増えてきています。

それでは、ベルソムラを服用した時に認知機能へはどのような影響を与えるかを見ていきたいと思います。

ベルソムラを投与して10時間後に認知機能を比較したみたところ、精神運動機能には影響を及ぼしていないという結果が報告されています。30mgを使った時に、1.5時間後の情報処理の遅延や注意力の低下がみられたという報告がありますが、日本では20mgが上限になり、この用量では認知機能への影響は認められていません。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のルネスタと比較した動物実験の報告もあります。ヒスタミンとアセチルコリンという2つの神経伝達物質をみたものです。ヒスタミンが減少すると眠気がもたらされ、アセチルコリンが減少すると認知機能低下につながると考えられています。

アセチルコリンがどうして認知機能に影響するかは分かっていませんが、脳内のアセチルコリンを増やすお薬が認知症治療薬として効果を示しているのです。

ルネスタとベルソムラを比較してみると、どちらもヒスタミンは減少させました。それに対してアセチルコリンは、ルネスタは減少させるけれどもベルソムラは影響を与えないという結果となりました。

このようにみてみると、ベルソムラの短期的な認知機能への影響は少ないと考えられます。

 

3.ベルソムラの認知症への影響

ベルソムラによって、認知症の原因物質であるβアミロイドやタウタンパクの減少が報告されています。まだまだデータが不十分ですが、認知機能へのよい影響があることも期待されます。

それでは長期的にみたときに、ベルソムラは認知症リスクを高めないのでしょうか?ベルソムラは世界に先駆けて日本で発売されたお薬なので、2014年から使われ始めてまもないです。ですから、認知症への影響を評価するには年月が必要になります。

ベルソムラのターゲットであるオレキシンについて、認知症の原因物質と考えられているアミロイドβやタウタンパクとの関係を調べた報告がありますのでご紹介します。

 

認知症の約50~60%を占めるアルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβが沈着することが原因の一つと考えられています。これが沈着することにより神経細胞が壊れてしまうために、情報を伝える事が出来なくなると考えられています。そして神経細胞が死んでしまう事で脳も委縮していき、認知機能や身体機能も徐々に失われていきます。

アルツハイマー型認知症を発症させたマウスを使って、睡眠と覚醒がアミロイドβの日内変動に及ぼす影響を調べた研究があります。

アミロイドβは覚醒時に高くなり、睡眠時に低くなるといった特徴があります。ベルソムラを投与すると、脳内でのアミロイドβが抑制されることが確認されたのです。長期間にオレキシン受容体拮抗薬を投与した群は投与していない群に比べて、脳内のアミロイドβの蓄積が抑制されたと報告されています。

そもそもアミロイドβは、徹夜して断眠すると脳内で少しずつ蓄積されていくといった報告もあります。つまり、不眠症であること自体が認知症のリスクとなることを意味しています。

ベルソムラと認知症の原因物質の関係

不眠と認知症の関係

※オレキシン受容体拮抗薬=ベルソムラ

 

もう一つの物質として、タウタンパク質があります。タウタンパク質は脳神経細胞の中に少しずつ蓄積していき、神経細胞そのものを死滅させていくと考えられています。脳内のオレキシン濃度が高いと、このタウタンパクも上昇すると報告されています。

オレキシン濃度が増加すると、入眠障害や中途覚醒の原因となることが分かってきています。それだけでなく、認知症の原因物質であるタウタンパクも増加しやすくなる可能性があるのです。

 

このように、ベルソムラによって脳内のオレキシン濃度を減少させられれば、βアミロイドやタウタンパクといった認知症の原因物質を抑えることができる可能性があります。まだまだベルソムラの認知症に関連する報告はデータが十分にある訳ではないため、今後の研究結果の積み上げが期待されています。

 

まとめ

ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬では、認知症リスクを高めることが懸念されています。

ベルソムラは、短期的な認知機能への影響は少ないと考えられます。

ベルソムラによって、認知症の原因物質であるβアミロイドやタウタンパクの減少が報告されています。まだまだデータが不十分ですが、認知機能へのよい影響があることも期待されます。

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