口の渇きは薬のせい?口渇の原因と対策

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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私たちはのどが渇いたら水をのみ、あまり意識することなく生活をしています。口が渇くほどの感覚になることは、よほど炎天下で水分が足りなくなった時くらいでしょう。

しかしながら症状として、「口の渇き=口渇」が認められることがあります。文字通り、口が渇くという症状で、唾液が出なくて口がカラカラになることがあります。患者さんは、「喉が渇く」ということもあれば「口が渇く」ということもあります。

このような口渇は、様々な原因で認められます。そのひとつがお薬です。お薬としては、抗コリン作用のあるお薬が代表的です。

抗コリン作用とは、アセチルコリンの働きを抑えることによる作用です。そのために唾液の分泌が抑えられてしまい、水分をとっても喉が渇いてしまいます。

一方で薬の副作用ではなく、実は何か病気が隠れていることもあります。もっとも多いのは糖尿病でしょう。糖尿病では高血糖になり、そのせいでおしっこが多くなります。水分が足りなくなるので、のどが渇きます。

ここでは、口の渇き(口渇)の原因と対策について詳しくお伝えしていきたいと思います。まずはお薬が原因での口渇についてみていき、それ以外での原因についても考えていきたいと思います。

 

1.お薬の副作用で口渇(口の渇き)が起きるのはなぜ?

喉の渇きは脱水によって、口の渇きは唾液分泌低下によって生じます。前者は副作用によって生じた腎性尿崩症や糖尿病が原因に、後者は抗コリン作用が原因となります。

まずはじめに、「喉の渇き」と「口の渇き」の違いからみていきましょう。この2つをしっかりわけて考えていくことが大切です。

「喉が渇く」と「口が渇く」ではどちらも水分を欲しますが、そのニュアンスはかわってきます。「喉が渇く」のは、身体の水分が足りなくなっている時の感覚になります。それに対して「口が渇く」とは、唾液が足りなくなって口の中がカラカラになることです。

この2つはどちらも水分を欲するので、患者さんは「喉の渇き」ということもあれば、「口の渇き」ということもあります。

さて、お薬の副作用ではどのようなものがあるのかをみていきましょう。

  • 喉が渇く:腎性尿崩症(リーマス)・糖尿病(ジプレキサなどの抗精神病薬)
  • 口が渇く:抗コリン作用

薬の副作用で喉が渇くときは、脱水状態になるような病気を引き起こすときです。大きくは2つが考えられます。

腎性尿崩症では、腎臓での尿濃縮がうまくいかなくなってしまいます。原因のお薬としては、リーマスが有名です。糖尿病では、血糖が高くなることで尿にも糖が出ていくようになります。水分も引き連れて糖が出ていくので、脱水傾向が強くなります。ジプレキサなどのMARTAをはじめとした抗精神病薬の副作用として多いです。

薬の副作用で口が渇くときは、抗コリン作用が原因となります。抗コリン作用とは、副交感神経から分泌されたアセチルコリンをブロックする作用です。

アセチルコリンは唾液腺の受容体(M3受容体)を刺激することで、唾液の分泌を促します。ですから抗コリン作用が働くと、唾液が作られなくなってしまいます。身体の水分が足りなくなったわけではありません。

抗コリン作用があるお薬には、様々なものがあります。抗コリン作用を期待して作られているお薬もあります。精神科のお薬の副作用としては、三環系抗うつ薬、抗精神病薬などで認められることが多いです。詳しく知りたい方は、「抗コリン作用とは?抗コリン薬・コリン作動薬のすべて」をお読みください。

 

2.身体の病気が原因での口渇

口渇の原因は薬の副作用が多いですが、糖尿病やシェーグレン症候群が隠れていることがあるので注意が必要です。

口の渇きの原因についてまとめました。

口の渇きがみられる原因には様々なものがあります。このうちでも、最も多いのは薬の副作用によるものです。80%のお薬は、頻度は大きく異なりますが副作用として報告されているといわれています。

口渇で最も注意が必要なのは、身体の病気によるものです。見過ごしてしまって治療が遅れてしまうと、悪化してしまう病気もあります。それ以外にも、生活習慣やストレス、加齢などの生理現象でも認められることがあります。

ここでは、身体の病気が原因となる口渇(口の渇き)について詳しくみていきましょう。

 

①口渇の原因として多い身体の病気

口渇の原因となる身体の病気には、さまざまなものがあります。その原因を大きく分けると2つのタイプがあります。

  1. 病気で脱水状態になるタイプ(糖尿病や尿崩症など)
  2. 水分は足りているのに唾液がでないタイプ(シェーグレン症候群・神経障害など)

もっとも頻度が多いのは、糖尿病になります。

糖尿病は、精神疾患の患者さんには合併しやすい病気です。糖尿病は生活習慣と言われますが、精神疾患の患者さんでは生活習慣も乱れがちになります。さらに精神科のお薬は代謝を悪くしやすく、あわせて糖尿病を引き起こしやすくなります。

それだけではなく、糖尿病では末梢神経障害も引き起こしやすいです。唾液の分泌に重要な神経を障害してしまい、唾液が出にくくなってしまうこともあります。

次に注意が必要な病気としては、シェーグレン症候群があげられます。

シェーグレン症候群とは、自己免疫疾患と呼ばれる病気です。自己免疫疾患とは、自分の免疫細胞が自分自身を誤って攻撃してしまう病気です。シェーグレン症候群では、涙腺や唾液腺に対する自己抗体を作ってしまい、それが攻撃してしまうことで、涙分泌や唾液分泌などを障害します。

その結果として唾液の分泌が低下してしまい、口渇が出現します。シェーグレン症候群は、40~50歳代の女性に多く発症する疾患です。

 

②その他の身体の病気

それ以外にも、口腔疾患や神経障害があげられます。

細菌感染である耳下腺炎、ムンプスウイルス感染である流行性耳下腺炎(おたふく風邪)などでは、発熱や疼痛でわかります。また、唾液腺管内に石ができる唾石症や舌下線に粘液がたまるガマ腫という病気もありますが、こちらも腫れや疼痛があります。

唾液腺の分泌に関わる神経障害も口渇の原因となります。唾液腺には3つありますが、顎下腺と舌下腺は舌下神経、耳下腺は舌咽神経を介して分泌されます。前2者でおよそ75%、後者で25%の唾液が分泌されます。

舌下神経も舌咽神経も脳神経という末梢神経に分類されます。これが頭頸部の放射線治療などで障害されたり、糖尿病の末梢神経障害や神経変性疾患などで障害をうけると、唾液の分泌が低下します。

 

3.口渇の原因はどのように診断するの?

年齢や今までの病気から病気を特定していきます。多くの場合は採血、採尿を行っていきます。

口渇で悩んで病院を受診されると、以下の質問はほぼ聞かれると思います。気になることがあれば、医師に自分から伝えてくださいね。

  • どのくらい前から症状がみられるか
  • 普段より排尿が多いか
  • 症状は徐々に、または突然に始まったか
  • 一日で特定の時間帯に渇きが増加または減少するか
  • 食事や生活習慣に変更があったか
  • 食欲に影響があるか
  • 体重の増減があるか
  • 最近、怪我や火傷をしたか
  • 出血や腫れはありますか?
  • 熱があるか
  • 頻繁に汗をかいているか

これらをもとに、原因と思われる病気にある程度あたりをつけていきます。ただし質問だけでは診断するのも難しいのも事実です。

そのため、尿や採血検査はほぼ必須で行われると思います。たかが口の渇き、されど口の渇きです。もしかしたら思わぬ病気が隠れているかもしれません。

薬を飲んでから口渇が認められた場合は、お薬の副作用の可能性があります。処方した医師に相談してみましょう。薬と関係がなさそうでしたら、まずは内科を受診してみましょう。検査結果で病気がある程度特定されたら、しかるべき専門家に紹介していただけると思います。

 

4.口渇の対策はどのようにしていくのか

口渇の原因疾患があれば、その治療をしていきます。薬の副作用の場合、原因薬剤の減量や変更を検討していきます。薬のメリットが大きい場合は、生活習慣・機能訓練・漢方薬などの対策を行っていきます。

それでは口渇が認められたときに、どのように対処していけばよいのでしょうか。

何らかの原因が認められた場合、その病気の治療を行っていくことが原則になります。原因疾患を治療することで、口渇の改善が期待できます。それぞれの病気に応じた治療を行っていきます。

それに対して、薬の副作用が原因で口渇が生じている場合はどうすればよいでしょうか?

可能であれば、お薬をできるだけ減量していきます。抗コリン作用が弱まれば、副作用としての口渇も落ちつくことがあります。

しかしながら、効果がしっかりと認められたらお薬を止められないこともあります。そのような場合はどうすればよいでしょうか?このような場合は、お薬のメリットとデメリットを天秤にかけて判断します。

デメリットが大きければ、より抗コリン作用が少ないお薬に切り替えていきます。メリットの方が大きければ、できる対策をしていくしかありません。そのような対策としては、以下の3つがあります。

  • 生活習慣
  • 機能訓練
  • 漢方薬

順番にみていきましょう。

 

5.口渇の対策①-生活習慣

食事習慣と口呼吸や歯磨きといった日常習慣を見直してみましょう。

口が渇くというのは、水分が足りっていないからとは限りません。水分が足りていないのであれば、水を飲めばすぐに「喉の渇き」はなくなります。しかしながら薬の副作用などによる「口の渇き」では、唾液が出ていないだけで身体の水分は足りています。

ですから、口が渇くからといって水分を過剰にとってしまうと血液が薄まってしまって、水中毒になってしまうこともあります。過剰な水分のとりすぎには注意しましょう。

口の渇きである口渇に対して、生活習慣からできる対策としては以下のようなものがあります。

  1. よく噛む
  2. バランスのよい食事
  3. 水分を軽く口にふくむ
  4. 酒・タバコ・アルコールを控える
  5. 歯磨きをする
  6. 口呼吸から鼻呼吸へかえる

まずは食事習慣を見直してみましょう。よく噛んで食事をすることがとても重要です。噛むことで刺激になり唾液が分泌されます。

また栄養分の偏りは微量元素の摂取不足に繋がりますので、バランスよく食事をすることも大事です。味覚に重要な亜鉛は普通に食事をしている場合は問題ありませんが、インスタント食品や冷凍食品やファーストフードに偏った生活をしていると欠乏してしまいます。特別なサプリなどは必要ありませんが、食生活をしっかりとバランスよくすることが重要です。

水分に関しては、過剰に摂取してしまうこともあるので口に含む程度にしておきましょう。うまみ成分が唾液の分泌を促すということもあり、昆布茶などもおすすめです。また、タバコやカフェインやアルコールを控えることで口腔粘膜への刺激が減りますので、唾液分泌が促進されます。

 

次に日頃の習慣を見直しましょう。口呼吸になっていると、口の中が乾燥しやすくなるのは避けられません。なかなか習慣化すると修正が難しいかもしれませんが、鼻から息をするように心がけてみてください。詳しく知りたい方は、「口呼吸を改善して鼻呼吸にする8つの方法」をお読みください。

歯磨きの習慣も大切です。唾液というのは、口の中を刺激することで唾液の分泌を促すだけでなく、口の中のばい菌も綺麗にする作用があります。その唾液が減ってしまうと、ばい菌が繁殖しやすい状態になります。

 

6.口渇の対策②-機能訓練

唾液腺マッサージをすることで、唾液の分泌が促されます。

唾液腺をマッサージすることで、唾液の分泌を促す方法があります。唾液腺である耳下腺と顎下腺、舌下腺部のマッサージを行います。

  1. 耳下腺への刺激:両頰に指先をあて、耳の下から上の奥歯の辺りを、円を描く様に押しながら10回程度マッサージします。
  2. 顎下腺への刺激:あごの内側を首に近い方から顎先に向かい親指で、5か所位を10~20回程度押します。
  3. 舌下腺への刺激:両手の親指を揃え、あごの真下(舌の付け根辺り)を何度か押します。片手の人差し指を横にして何度かたたく様にしても良いです。

上記①~③を毎日習慣付けると、口の機能が高まり口渇が緩和されるだけではなく、出てきた唾液を飲み込むことで嚥下(飲みこみ)のちょっとした訓練にもなります。

 

7.口渇の対策③-漢方薬

コリン作動薬が発売されていますが、シェーグレン症候群や頭頸部放射線治療後のみしか使えません。漢方薬が一定の効果を認めることがあります。

口渇に対しては、お薬も発売されています。しかしながら抗コリン作用の副作用に対しては使えず、シェーグレン症候群や頭頸部放射線治療後の患者さんのみの適応になります。

参考までに、お薬としては2つの方法があります。人工唾液で補充する方法と、唾液分泌を促進する方法になります。唾液の補充方法として、サリベートという人口唾液が使われます。唾液分泌を促進する方法としては、コリン作動薬としてサラジェンやエボザック、サリグレンなどがあります。

これらのお薬は病気が限定されてしまうので、薬の副作用としての口渇には使うことができません。このような時は、漢方薬を使うことで症状が和らぐことがあります。漢方薬としては、以下のようなお薬を使っていきます。

漢方薬 代表的なケース
白虎加人参湯(陽・実) 第一選択、口が渇き水を多く飲みたいとき
麦門冬湯(中・中) 痰がからんで口が乾くとき
五苓散(中・中) むくんだ傾向があるときに
十全大補湯(陰・虚) 体がだるく、食欲もない
加味逍遥散(陰・虚) イライラなどの神経症状あり
半夏厚朴湯(中・中) 喉の異物感があるとき

 

まとめ

喉の渇きは脱水によって、口の渇きは唾液分泌低下によって生じます。前者はお薬の副作用によって生じた腎性尿崩症や糖尿病が原因に、後者は抗コリン作用が原因となります。

口渇の原因は薬の副作用が多いですが、糖尿病やシェーグレン症候群が隠れていることがあるので注意が必要です。

口渇の原因疾患があれば、その治療をしていきます。薬の副作用の場合、原因薬剤の減量や変更を検討していきます。薬のメリットが大きい場合は、生活習慣・機能訓練・漢方薬などの対策を行っていきます。

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