尿が出にくいのは薬のせい?副作用での尿閉の原因と対策

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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男性の方でお薬を飲んでから、

  1. トイレがやたら近い
  2. 尿が出にくい
  3. 尿切れが悪い

なんて症状が出た方はいませんか?これはお薬の副作用かもしれません。

その一方で、前立腺肥大症の症状も考えていく必要があります。男性には前立腺というものがあります。前立腺は年をとるにつれて大きくなっていくので、誰にでも起こりうるのです。

お薬としては、抗コリン作用のあるお薬が代表的です。抗コリン作用は、様々なお薬で認められます。それ以外にも、SNRIをはじめとした抗うつ剤でも注意が必要です。

特に前立腺肥大がもともとある人は注意が必要で、少しでも排尿に影響があるお薬を使うと副作用があらわれてしまいます。これが冒頭であげた症状として認められるのです。

ここでは、お薬の副作用でみられる「おっしこがでない」「残尿感がある」といった症状に対する対策をみていきたいと思います。

 

1.排尿トラブルの副作用を起こす薬の特徴

抗コリン薬やα1刺激薬の副作用で、おっしこが出にくくなる可能性があります。

お薬を服用していると、おしっこのトラブルが出てくることがあります。うまく尿が出なくなり、頻尿となってしまったり、残尿感が残ってしまったりします。さらにひどいと、尿閉といっておっしこが出なくなってしまうこともあります。

このような排尿トラブルを引き起こすお薬は

  1. 抗コリン作用
  2. α1遮断作用

この2つの作用を持っているものになります。

抗コリン作用とは、アセチルコリンの働きを抑えることによる作用です。アセチルコリンは、副交感神経に関係する物質です。排尿時はリラックスする状態で行われるので、副交感神経が優位な状態で行われます。つまり、アセチルコリンが作用している状態です。

抗コリン作用ではアセチルコリンの働きを邪魔するので、排尿しにくくなるのです。膀胱の排出力を弱めるとともに、尿道を細く収縮し、尿の出を悪くする作用があります。

一方でα刺激作用は、副交感神経の反対の交感神経を刺激します。交感神経は身体のスイッチがオンになっている時の神経で、尿に関しては蓄える方向に働きます。緊張している時に尿意を感じないのはこのためです。

α1刺激作用は、前立腺をはじめとした尿道に直接働きます。尿道が収縮することで、尿道の通り道を狭めてしまいます。

このように、薬の副作用として排尿トラブルが生じるのは、抗コリン作用とα1刺激作用によることがほとんどです。

 

2.副作用による尿閉の原因となるお薬

抗コリン薬や抗精神病薬をはじめとした抗コリン作用のある薬、一部の抗ヒスタミン薬、α1刺激作用のある抗うつ剤、昇圧剤などが原因となります。

尿閉をはじめとした排尿トラブルを引き起こすお薬の特徴としては、

  • 抗コリン作用
  • α1刺激作用

この2つがあります。具体的にみていきましょう。

抗コリン作用があるお薬には、様々なものがあります。抗コリン作用を期待して作られているお薬もあります。

  • 止痢薬
  • 気管支吸入薬
  • 頻尿改善薬
  • 抗パーキンソン薬
  • 多汗症治療薬

などは代表的な抗コリン薬です。他の目的で使われれているお薬の副作用として認められることもあります。精神科のお薬の副作用としては、三環系抗うつ薬や抗精神病薬などで認められることが多いです。

詳しく知りたい方は、「抗コリン作用とは?抗コリン薬・コリン作動薬のすべて」をお読みください。

抗ヒスタミン薬も抗コリン作用が一部で働くため、このような症状が認められることもあります。抗ヒスタミン薬は主にアレルギー薬として花粉症や蕁麻疹、皮膚炎に使用されます。また一部の抗ヒスタミン薬は、鼻詰まりの治療のために風邪薬にも含まれています。

 

α1刺激薬としては、

  • 昇圧剤:血管を収縮して血圧をあげる。
    メトリジン・リズミック・エホチールなど
  • 鼻炎治療薬:鼻の血管を収縮することで鼻閉をとる。
    プリビナなど

などがあります。こちらも、他の目的で使われている薬の副作用として認められることもあります。抗うつ剤のSNRIが代表的です。

SNRIには、ノルアドレナリンを増加させる作用があります。ノルアドレナリンは交感神経を刺激する物質で、α1刺激作用も認められます。

SNRIは脳に作用するように作られてはいますが、全身に作用してしまいます。尿道に作用することで、尿閉の副作用が認められることがあるのです。

SNRIは現在、サインバルタ・トレドミン・イフェクサーが発売されていますが、とくにトレドミンで認められることが多いです。

 

3.年をとると避けられない前立腺肥大症とは?

前立腺肥大症は膀胱の下にある前立腺が肥大して、尿道を圧迫し、排尿障害を起こす病気です。

排尿トラブルが認められた場合は、前立腺肥大症についても考えていく必要があります。

お薬によって前立腺肥大の症状が出現した人は、前立腺をさらに肥大させたわけではありません。潜在的に前立腺肥大があって、膀胱の機能が薬で弱められたために副作用が認められることが多いです。

そのため薬をやめれば良いというわけではなく、これを機会に一度泌尿器に受診してみるのも良いかもしれません。前立腺肥大ではなく前立腺癌だったというケースもたびたび経験します。

そもそも、前立腺とはなんだろう?と思ってらっしゃる方もいるかもしれません、前立腺は男性のみに存在する生殖器です。膀胱の真下にあり、尿道を取り囲むかたちで存在します。前立腺はクルミほどの大きさで、重さは数十グラムです。この前立腺の機能としては、

  1. 精嚢から分泌された精嚢液を精巣で作られた精子と混合し精液を貯留
  2. 排尿機能の調整

の2つになります。この②の作用が、排尿障害の原因となります。正常に尿をため込む場合は、膀胱の筋肉が緩むことでスペースが広がります。さらに尿道と前立腺の筋肉が収縮して尿の通り道を塞いでしまうのです。

排尿する場合は逆で、前立腺と尿道の筋肉が緩んで尿の通り道ができるとともに、膀胱が収縮することで尿を押し出す働きがあります。

前立腺肥大症とは、この膀胱の下にある前立腺が肥大して尿道を圧迫し、排尿障害を起こす病気です。症状は人によって様々ですが、健康なときには無意識に済ませている排尿がスムーズにいかなくなることで、日常生活に大きな支障をきたします。具体的には、

  1. 尿の勢いが低下
  2. 夜間の頻尿
  3. 残尿感

が症状として現れます。ガンとは違って良性の増殖ですので生命にかかわるような病気ではありません。(ただし前立腺癌も似たような症状で発病することがあります。)

ですが放っておくと、尿閉といって尿が全く出なくなることもあります。これにお薬の副作用が輪をかけてしまうことが多いのです。

 

非常に稀ですが、前立腺がない女性にも膀胱自体に影響して、副作用が出現することがあります。尿切れが悪い、トイレが近くなるといった副作用がみられます。

しかし女性で排尿障害が出現する時は、子宮筋腫等で腹部の手術をしたなどといった、何かリスクファクターがあることが多いです。

 

4.薬で尿閉になった時の対策とは?

一番は薬をやめることです。軽度の場合は、

お薬による副作用では、前立腺肥大を悪化させて症状が出現しているわけではありません。そのためお薬をやめれば、基本的にはもとに戻ります。ですから、原則は原因薬剤の中止になります。

それでも戻らない人は、薬の影響が残ってるというよりは前立腺肥大の病状が進行している可能性が高いです。そのため薬をやめても前立腺肥大の症状が残ってる人は、泌尿器科受診を考慮しましょう。

特に尿が出づらいという状況は、老廃物が体中を駆け巡る可能性があるため非常に危険です。尿閉までなってしまった場合は、必ず泌尿器科を受診する必要があります。

 

しかしながら、尿が少し近い、軽度の残尿感といった程度だと、薬を続けるかやめるか迷うところです。その薬に代わるものがあれば良いのですが、なければ継続していくことも考慮しなければいけません。メリットとデメリットの兼ね合いなのです。

しかし前立腺肥大は、年齢を重ねれば重ねるほど悪化するリスクがあります。そのため、常に症状を医師に伝えるようにしましょう。軽度の症状で薬を続ける場合は、前立腺肥大症の治療を行いながらの場合もあります。

 

5.前立腺肥大症の治療と尿閉の副作用止め

前立腺肥大症の治療薬としては、α1遮断薬や抗男性ホルモン剤、ホスホジエステラーゼ5阻害薬などが使われます。副作用止めとしては、α1遮断薬やコリン作動薬が考慮されます。

前立腺肥大症の治療としては、以下のようなお薬が使われます。

  1. αアドレナリン受容体遮断薬(α遮断薬)
  2. 5α還元酵素阻害薬(抗男性ホルモン薬)
  3. PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害薬

その一方で、副作用で尿閉が認められているのならば、原因を改善するお薬を使っていく必要があります。

  1. コリン作動薬
  2. α1遮断薬

薬の副作用でそれぞれの薬についてみていきましょう。

 

①α1受容体遮断薬

α受容体遮断薬は、前立腺肥大症に伴う排尿困難の薬として、現在最も多く使われる内服薬です。前立腺平滑筋にあるα1受容体を遮断することで、前立腺の筋肉を弛緩させ、その結果として、前立腺の尿道に対する圧迫を軽減します。

α1受容体遮断薬は、

  • ハルナール(一般名:タムスロシン)
  • ユリーフ(一般名:シロドシン)
  • フリバス(一般名:ナフトピジル)

などが一般的です。これらα1受容体遮断薬を内服していると、1週間以内で症状改善効果と満足度が得られます。さらにお薬を続けることで、継続投与における長期的な改善効果も示されています。

一方で前立腺を小さくする効果はないので、注意していないと前立腺肥大症が悪化しているのに気が付かないということもありえます。

α受容体は血管にもあるので、α受容体遮断薬の副作用も認められます。血管を拡張させて急な血圧低下をひきおこし、たちくらみ(起立性低血圧)などの副作用を起こす可能性が指摘されています。

しかし、現在日本で前立腺肥大症に広く使われているα受容体遮断薬は、血管を拡張させる作用はほとんどなく、血圧低下に伴う副作用は一般的に少ないと言われています。

その他の副作用として、めまい、下痢、射精障害などがみられることがあります。なお、α受容体遮断薬を服用していると白内障の手術に影響あるので、手術予定の方は注意が必要です。

 

②5α還元酵素阻害薬

上記のα1遮断薬の効果がない方に、適応が考慮されるお薬です。血液中の男性ホルモンであるテストステロンが、前立腺組織に作用するのを抑える作用を持ちます。

少し難しい話になるのですが、テストステロンは5α還元酵素の作用により、前立腺細胞の増殖に働きかけることで前立腺を肥大させます。5α還元酵素阻害薬は、このテストステロンによる前立腺細胞の増殖を抑制します。

その結果、肥大した前立腺は大きくなるのを防ぐばかりか、徐々に前立腺が縮小していきます。肥大した前立腺が縮小して、結果として排尿困難の症状を改善します。

この薬は具体的には、

  • アボルブ(一般名:デュタステリド)

が有名です。

5α還元酵素阻害薬の作用はα受容体遮断薬と異なり、前立腺の細胞に働いてから徐々に前立腺の平滑筋が少なくなっていきます。このため、効果がみとめられるのに数ヶ月かかることが欠点です。そのためα受容体遮断薬による治療を先に行いながら、5α還元酵素阻害薬を投与していくことが多いです。

 

③PDE5阻害薬

副交感神経から産生される一酸化窒素には、筋肉を弛緩する作用があります。cGMPという物質を作り、それが筋肉に働いて弛緩させます。PDE5阻害薬は、尿道や前立腺の平滑筋に働いて、このcGMPの分解を止める働きがあります。

こうして尿道の平滑筋を弛緩します。尿道の平滑筋が弛緩するということは、 前立腺肥大症に伴う下部尿路症状が改善されていくのです。

もともとは勃起不全や肺高血圧症に使用するお薬でした。そのため先ほどあげた男性ホルモンをブロックするお薬とは異なり、精力が低下するといったことはありません。

一方で循環器でも使用されるお薬であることから、心疾患がないか事前にチェックすることがあります。代表的なお薬は、

  • シアリス(一般名:タダラフィル)

が有名です。

 

④コリン作動薬・コリンエステラーゼ阻害薬

排尿困難が抗コリン作用のために認められる場合は、コリン作用を強めるお薬を使っていくことがあります。排尿困難はなかなか生活習慣などで改善できる余地が少なく、薬のメリットがあるなら止められないこともあります。

このような時は、コリン作用を強めるお薬で相殺していきます。コリン作動薬としては、

  • ベサコリン(一般名:ベタネコール)
  • ウブレチド(一般名:ジスチクミン)

などがあります。

 

この他、漢方薬やサプリメントも処方されることがありますが、上記のお薬と比較すると著明な効果があるとはいえません。このため、お薬で軽度の排尿障害であればα1遮断薬やコリン作動薬を使って様子を見ることがあります。

しかしそれ以上重症な場合は薬をやめて、前立腺肥大症をチェックします。その際は、5α還元酵素阻害薬やPDE5阻害薬で治療することが多いです。

 

まとめ

  • 前立腺肥大症は膀胱の下にある前立腺が肥大して、尿道を圧迫し、排尿障害を起こす病気です。
  • 抗コリン薬やα1刺激薬は、膀胱の筋肉を緩めることで尿が思いっきり出せなくなり、結果として前立腺肥大症の症状の出現につながります。
  • お薬で排尿障害が出現した場合は、薬をやめれば一般的には症状は良くなります。
  • 排尿障害が軽度な場合は、α1遮断薬やコリン作動薬を内服しながらお薬を続ける場合もあります。

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