四環系抗うつ薬の効果と副作用
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
四環系抗うつ薬は、三環系抗うつ薬の副作用を軽減できないかと開発されました。残念ながら効果がかなり減弱してしまい、抗うつ剤としては力不足なものになってしまいました。
ですが、四環系抗うつ薬には睡眠を深くする効果があるので、これを利用して睡眠薬としてつかわれることが多いです。四環系抗うつ薬は一般的な睡眠薬と違って依存性もありません。
四環系抗うつ薬にはどのような効果や副作用があるのでしょうか?ここでは、他の抗うつ剤との比較もふまえてご紹介していきたいと思います。
1.四環系抗うつ薬とはどのような抗うつ剤なの?(作用機序)
四環系抗うつ薬は、ノルアドレナリンを増加させることによって効果を発揮します。
四環系抗うつ薬は、セロトニンではなくノルアドレナリンを増加させることで効果を発揮します。まずはセロトニンとノルアドレナリンについてご説明していきましょう。どちらも、神経と神経の橋渡しを行う神経伝達物質です。
「セロトンン」は気持ちの安定に関係しているといわれていて、症状としては、不安や落ち込みと関係があるといわれています。ですから、セロトニンを増やせば抗うつ効果が期待できます。
「ノルアドレナリン」は、意欲に関係しているといわれていて、症状としては、意欲低下や気力低下といったものと関係があります。
これらの物質を増やすには2つの方法があります。
①分泌された神経伝達物質の回収を邪魔する(再取り込み阻害)
②神経伝達物質の分泌を増やす(自己受容体遮断)
四環系抗うつ薬は、ルジオミールとテトラミドが代表的です。ルジオミールでは①、テトラミドでは②の方法をとっています。
①のルジオミールの作用機序からみていきましょう。分泌された神経伝達物質のノルアドレナリンは、役割を果たすと回収されます。このことを再取り込みと呼びます。この再取り込みを阻害すれば、ノルアドレナリンの量が増えますね。回収されずに残ったノルアドレナリンは残って作用し続けるので、効果が発揮さ れるのです。
②のテトラミドの作用機序をみていきましょう。ノルアドレナリンが神経から分泌されると、それがメッセージになって受け取る側の神経に伝えられていきます。この分泌神経には、ノルアドレナリンが ちゃんと分泌されたかを監視する目をもっています。それがアドレナリンα2自己受容体です。ノルアドレナリンがちゃんと分泌されていれば、この受容体にノ ルアドレナリンがくっつきます。もう十分と認識して、ノルアドレナリンの分泌を抑制します。
テトラミドは、このα2自己受容体にくっついて働きをブロックしてしまいます。ノルアドレナリンが足りてないと勘違いさせて、分泌を増加させるのです。
2.四環系抗うつ薬にはどのような種類があるの?
日本では、四環系抗うつ薬としては2種類が発売されています。三環系抗うつ薬の副作用を軽減するために作られました。SSRIやSNRIなどの新しい抗うつ剤が発売されると、抗うつ剤として使われることは減りました。それでは、それぞれの特徴をみていきましょう。
2-1.ルジオミール(成分名:マプロチリン)
かつては、三環系抗うつ薬のアモキサンと並んでよく使われていましたが、最近はSSRIやSNRIが使われることがほとんどです。
ルジオミールは、1981年に発売されました。三環系抗うつ薬に比べると効果は減弱してしまいましたが、副作用はかなり軽減されました。。四環系の中ではルジオミールの効果は強かったので、三環系抗うつ薬の前によく使われていました。しかしながら、2000年ごろからSSRIやSNRIなどの新しい抗うつ剤が発売されると、主役の座は奪われていきました。
ルジオミールはノルアドレナリンを増やす効果があります。このため、意欲や気力に効果が期待できます。また、睡眠を深くする効果もあります。副作用としては、眠気が目立ちます。体重増加・便秘・口渇・ふらつきにも注意が必要です。まれに痙攣発作が起きることもあります。
2-2.テトラミド(成分名:ミアンセリン)
抗うつ剤としてよりは、睡眠薬として使われることが多いです。
テトラミドは1983年に発売となりました。四環系の中では、ルジオミールよりは効果がマイルドでした。このため、抗うつ剤としてはルジオミールの方がよく使われていたかもしれません。
テトラミドは、ノルアドレナリンを増やす効果が期待できます。実は、テトラミドを改良したのがNaSSA(リフレックス/レメロン)です。ノルアドレナリンだけでは効果が不十分だったので、セロトニンにも作用するようになっています。NaSSAは、新しい抗うつ剤の中では最も効果が期待できます。
テトラミドは、睡眠を深くする効果があります。このため、抗うつ剤よりも睡眠薬として使われることがほとんどです。
3.四環系抗うつ薬が使われる疾患とは?
四環系抗うつ剤は抗うつ剤に分類されるように、うつの治療のために開発されたお薬です。かつては三環系抗うつ薬よりも副作用が少ないためによく使われましたが、現在では睡眠薬として使われることが多いです。疾患ごとにみていきましょう。
3-1.うつ病
意欲や気力を改善していきます。
実のところ、うつ病の原因はよくわかっていません。そして、うつ病の方の脳ではどのような異常が起こっているのかも、ハッキリとわかっていません。
色々な薬が開発されている中で、どうやら「モノアミン」と呼ばれる脳内の神経伝達物質が関係していることがわかってきました。モノアミンのうち、セロトニンを増やせば落ち込みや不安に、ノルアドレナリンを増やせば意欲や気力に効果があることがわかってきたのです。
ですが、脳内のセロトニンやノルアドレナリンを測るすべは今のところありません。これができれば、うつ病の科学的に診断ができたでしょう。うつ病の患者さんの脳内では、おそらくセロトニンやノルアドラナリンが欠乏していると考えられているのです。
四環系抗うつ薬は、ノルアドレナリンを補うことで抗うつ効果を発揮します。意欲や気力の改善に効果が期待できます。SSRIやSNRIなどの新しい抗うつ剤が登場すると、抗うつ剤として使われることは一気に減りました。
3-2.不眠症
抑うつ傾向がみられる不眠の方には、効果的です。
四環系抗うつ薬の副作用として、眠気は多くの方が経験します。これを逆手にとって、不眠症の治療に役立てることができます。四環系抗うつ薬は睡眠を深くする効果があります。REM睡眠と浅い睡眠が減少して、深い睡眠が増加します。このため、熟眠障害がある方には効果が期待できます。
このような効果があるので、抑うつ傾向がある方には睡眠薬として有効なことがあります。
4.四環系抗うつ薬と他の抗うつ剤の効果を比較
四環系抗うつ薬以外にもいろいろな抗うつ剤が使われています。四環系抗うつ薬の特徴としては、
- 抗うつ効果が弱い
- 睡眠効果が期待できる
以上の2つがあげられます。この特徴をふまえて、代表的な抗うつ剤と比較してみましょう。
4-1.三環系抗うつ薬
効果は最も強いですが、副作用も多いです。
うつに効果のある薬として最初に開発されたのが、三環系抗うつ薬のトフラニールです。その後、うつの薬物治療の歴史がはじまりました。
三環系抗うつ薬は昔からある薬ですが、今でもよく使われています。古い薬なので洗練されていないので副作用が多いのですが、そのかわりに効果も厚い薬なのです。一言で言えば、「ハイリスク・ハイリターン」な抗うつ剤といえます。
うつの治療としてまずはじめに使う薬は、SSRIやSNRIなどの新しい抗うつ剤です。副作用が少なく安全性が高い薬から使っていくのが鉄則だからです。新しい抗うつ剤は洗練された薬が多く、どうしても効果の面では三環系抗うつ薬よりも劣ってしまいます。NaSSAは、新しい抗うつ剤の中では最も効果が期待 できます。これらの抗うつ剤を使ってもどうしても改善しない時は、三環系抗うつ薬を使っていきます。
4-2.SSRI(選択的セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
SSRIでは、効果と副作用のバランスがよく、セロトニンを増加します。
SSRIはセロトニンだけにしぼって効果を発揮する抗うつ剤です。このため、不安や落ち込みには効果がより発揮されます。SSRIは、他の受容体には作用しないようにできています。このため、副作用はかなり軽減されています。
効果という意味では、総合的にはSNRIと同じくらいでしょうか。安全性も高いので、抗うつ剤として初めに使われることも多いです。SNRIはSSRIと違って、セロトニンだけでなくノルアドレナリンを増加させます。このため、意欲低下や気力低下目立つ方にはSNRIの方が効果が期待できます。患者さんの状態によって使い分けます。
SSRIは不安を和らげる効果が強いので、様々な不安障害、摂食障害や月経前緊張症(PMS)などに使われています。
4-3.SNRI(セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
SNRIでは、効果と副作用のバランスがよく、セロトニンだけでなくノルアドレナリンも増加します。
セロトニンだけでなくノルアドレナリンも増加させる抗うつ剤として発売されました。SNRIもSSRIと同様に、他の受容体には作用しないようにできています。このため、副作用はかなり軽減されています。
効果という意味では、SSRIと同じくらいでしょうか。安全性も高いので、抗うつ剤として初めに使われることも多いです。SNRIはSSRIと違って、セロ トニンだけでなくノルアドレナリンを増加させます。このため、ノルアドレナリンによって意欲低下や気力低下目立つ方に効果が期待できます。
SNRIは痛みにも効果があることがわかってきています。このため、疼痛の緩和のために使われることもあります。
4-4.NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動薬)
新しい抗うつ剤では効果がもっともしっかりしていますが、三環系抗うつ薬には劣ります。
NaSSA は、セロトニンとノルアドレナリンの分泌を増やすとともに、セロトニンの作用を効率化することで効果を発揮する薬です。新しい抗うつ剤の中でも効果が強い お薬で、13種類の抗うつ剤を比較した研究では、もっとも効果が優れていたという結果がでています。SNRIよりも効果が強いです。
この抗うつ剤では、良くも悪くも眠気と食欲増加が特徴的です。いい面では働けば、不眠が改善し、食欲が戻ります。悪い面で働らけば、眠気が日中に及んでしまい、体重が増加してしまいます。とくに飲み始めに眠気が強くでてくるので、働いていたり家事をされている方では、使いにくいお薬になってしまいます。
不眠がある方などでは、うまくいけば睡眠薬を使わなくて済みます。
4-5.抗うつ剤のタイプ別、効果の強さの比較
効果の強さだけをみれば、三環系抗うつ薬>NaSSA>SSRI=SNRI>四環系抗うつ薬となります。
このように、いろいろな抗うつ剤が発売されています。抗うつ剤の効果を比較して図にまとめたので参考にしてください。
5.四環系抗うつ薬の副作用
副作用は、眠気が特徴的です。
四環系抗うつ薬の副作用として一番多いのが眠気です。この眠気の副作用を逆手にとって、睡眠薬として使われています。よく認められる副作用を、原因を元に整理してみましょう。
- 眠気・体重増加(抗ヒスタミン作用)
- めまい・ふらつき(抗α1作用)
四環系抗うつ薬は抗ヒスタミン作用が強く、抗α1作用も認められるので注意が必要です。これらの副作用を上手く使って睡眠や食欲の改善に役立てることもあります。その他にも、
- 便秘・口渇(抗コリン作用)
- 動悸・尿閉(ノルアドレナリン作用)
な どがみられることがあります。四環系抗うつ薬は、従来の三環系抗うつ薬と比べると抗コリン作用がかなり軽減されています。ですが、多少は認められますので、副作用として出てくることもあります。また、四環系抗うつ薬はノルアドレナリンを増やすことで効果を期待しているお薬です。過剰に働いてしまうと、動悸がしてし まったり、おしっこが出にくくなってしまうことがあります。
6.抗うつ剤のタイプ別、副作用の比較
副作用の多さで比較すると、三環系抗うつ薬>四環系抗うつ薬≒NaSSA>SSRI≧SNRIとなります。
代表的な抗うつ薬の副作用の比較を以下にまとめます。
まとめ
四環系抗うつ薬は、ノルアドレナリを増加することで効果を発揮します。
ルジオミール・テトラミドなどが発売されています。
三環系抗うつ薬はうつ病・不眠症などで使われます。
抗うつ剤のタイプごとに効果の強さを比較すると、三環系抗うつ薬>NaSSA>SSRI=SNRI>四環系抗うつ薬となります。
副作用の多さで比較すると、三環系抗うつ薬>四環系抗うつ薬≒NaSSA>SSRI≧SNRIとなります。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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