抗うつ剤は太るの?体重増加と5つの対策
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
精神科のお薬を処方するときには、患者さんから「この薬は太りますか?」という質問をよく受けます。
精神科の薬はどうしても太る薬が多く、抗うつ剤も例外ではありません。抗うつ剤によって太りやすさには違いがありますが、多くの抗うつ剤では太りやすい方向に働きます。ですから、ちゃんと自己管理の意識をもって生活していきましょう。
ここでは、抗うつ剤が太りやすい理由からその対処法まで考えていきたいと思います。
1.抗うつ剤は太るの?
抗うつ剤は、抗ヒスタミン作用・抗5HT2c作用・セロトニン作用・ノルアドレナリン作用によって太りやすさが決まってきます。
抗うつ薬は、セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンといった脳内の物質を増やすことで効果がでてきます。ですが、薬は目的通りには作用してくれません。いろいろな物質に影響を与えます。これが副作用としてでてくるのです。
体重には、細かくみると4つの作用が関係しています。
- 抗ヒスタミン作用による食欲増加
- 抗5HT2c作用による食欲増加
- セロトニンによる代謝抑制作用
- ノルアドレナリンの代謝亢進作用
ヒスタミンは視床下部にある満腹中枢を刺激する物質です。ヒスタミンが増えると満腹になるということは、ヒスタミンに食欲を抑える働きがあるということで す。抗ヒスタミン作用は、これと反対の作用です。満腹中枢の刺激をとめてしまうので満腹感が得られなくなります。さらにヒスタミンがブロックされると、グ レリンというホルモンが増加します。このホルモンは摂食中枢を刺激してしまいます。食欲も増加してしまいます。
セロトニン2c受容体は、視床下部の満腹中枢にあります。これが刺激されるとお腹がいっぱいになって食欲が減少します。これがブロックされてしまうと、食欲が増加してしまいます。
また、セロトニンは精神を安定させてリラックス状態をつ くっていきます。すると、身体のエネルギーとしては消費が抑えられるようになります。このように、セロトニンには代謝抑制作用があります。
一方で、ノルアドレナリンは意欲や気力を高めたりする働きがあって、交感神経が優位に働きます。このため代謝が亢進して、エネルギーが消費されやすくなります。このように、ノルアドレナリンには代謝亢進作用があります。
これらの4つの作用のバランスで、抗うつ剤の太りやすさが決まってきます。
抗うつ剤の副作用について詳しく知りたい方は、
抗うつ剤の副作用(対策と比較)
をお読みください。
2.抗うつ剤だけでない太る理由
食欲は、精神疾患の影響を大きくうけます。
食欲は、心の影響を大きく受けます。食欲が低下してしまって体重が落ちてしまうこともあれば、食欲が増してしまって体重が増加することもあります。
典型的なうつ病の患者さんは、食欲がなくなって体重が減ってしまいます。また気力も低下してしまいますので、日中の活動量が落ちてしまいます。抗うつ薬を使って回復していくと、食欲から戻ってくることもあります。意欲がわかずに活動ができない状態が続くと、以前より太ってしまうこともあります。
また、摂食行動の異常という形で過食が認められることもあります。過食となってしまうのには、いろいろな背景があります。場合によっては、抗うつ薬が過食を軽減することもあります。ですから、抗うつ薬が太りやすくなるからといって、自己判断で中止せずに医師に相談してください。
このように、体重が増加しても「抗うつ剤のせいで太った」と決めつけてはいけません。薬を自己判断で中断してしまうと、症状が不安定になってしまったり、抗うつ剤では離脱症状がみられることもあります。しっかりと他に原因がないかをよく考えてみる必要があります。疑問をもったら、主治医に相談してみましょう。
3.抗うつ剤の「太る」副作用の比較
NaSSA≧三環系抗うつ薬>パキシル≧四環系抗うつ薬・SSRI>SNRI
もっとも体重増加が認められるのは、新しい抗うつ薬のNaSSAと呼ばれるリフレックス/レメロンです。抗ヒスタミン作用が強く、また抗5HT2c作用も強いので食欲が増加します。
次にくるのは、古くからある三環系抗うつ薬です。その中でも、トリプタノールでは特に太りやすいです。抗ヒスタミン作用も強く、また抗5HT2c作用も認めます。セロトニン作用も強いので、太りやすくなります。
四環系抗うつ剤は、三環系抗うつ剤の副作用を軽減したお薬です。ですから、三環系抗うつ薬と比べると副作用が全体的に軽減していて、体重への影響も軽減しています。
新しい抗うつ剤のSSRIでは、明らかに太りやすいお薬というわけではありませんが、セロトニン作用が強いので太りやすい傾向にはなります。抗ヒスタミン作用などの他の作用はわずかですので、食欲が明らかに増加するお薬ではありません。むしろ、体重や体型へのとらわれが強いような過食症の方では、治療に用いることもあります。ただし、パキシルではなぜか、過食が発作的に起きてしまうことがあります。
SNRIのサインバルタやトレドミンは、ノルアドレナリンを増やします。交感神経系の物質が増加しますので、意欲があがり活動的にする作用があります。ですから、体重増加にはつながりにくいです。
その他、抗うつ薬としてよく使われるドグマチールは、胃の働きをよくする作用があります。このため、食欲があがって太る傾向にあります。エビリファイに関しては、ドパミンを増やすことで活動的にさせるので、むしろ体重が減ることがあります。
4.抗うつ剤による体重増加の対処法
体重増加が気になったら、まずは主治医にちゃんと相談しましょう。体重増加のとらえ方は、患者さんによっても個人差があります。体型に気をつけている女性では、男性の私よりもはるかに体重増加がつらいと感じるでしょう。医者も気を付けてはいるのですが、患者さんが思うほどに深刻に捉えていないこともあります。
抗うつ剤の体重増加の原因は、お薬だけとは限りません。ちゃんと伝えてくだされば、一緒に対策を考えていくことができます。ここでは、体重増加の対策をみていきましょう。
4-1.体重測定をする
まずは自分自身の体重を定期的に測定し、体重変化に気を付けていきましょう。
体重を定期的に測っていますか?体重測定といえば、年に1回の健康診断の時だけという方も多いのではないでしょうか。
「なんだか最近太ってきたなぁ・・・」と思って体重を測ってみたら、その数字にビックリしてしまうこともあります。その衝撃が大きすぎて、お薬を急にやめてしまうことにもなりかねません。
早めに体重増加に気づけた方が、すぐに対策をとって戻しやすいです。体重が大きく増えてしまったら、元に戻さなきゃという気持ちもくじけてしまいますね。
ですから精神科のお薬を服用している時は、できるだけ体重測定をするようにしましょう。
4-2.食事を見直す
間食をひかえ、炭水化物を控えるマイルールをつくりましょう。
抗うつ剤による体重増加は、ちゃんとカロリーをコントロールすれば改善されていきます。抗うつ剤は代謝への影響はそこまで大きくないものが多く、食べたカロリー以上に太ってしまうわけではありません。
食欲に任せていると、必要以上に食事をとってしまいます。動物の本能として、エネルギーは蓄えられるときにできるだけ蓄えるためです。
このため、食生活を見直しましょう。
- カロリーを意識して食事を選ぶ
- 間食を控える
- 朝食は抜かずに3食食べる
- よく噛んで食べる
- タンパク質を多くして、炭水化物を少なくする
いくつか補足したいと思います。
食事をとると身体があったかくなります。これは食事誘発性熱産生と呼ばれていますが、栄養素が分解されて熱が産生されるのです。消化活動によって胃腸が動くので、代謝がよくなるのです。このため、食事は3食きっちりととった方がやせます。食事の回数を3食以上に増やしてしまうと、よほどきっちりした方でないと自分の摂取カロリーがわからなくなるのでやめましょう。
この食後の代謝増加を大きくするには2つの方法があります。「よく噛んで食べること」と「タンパク質を多くすること」です。タンパク質では、摂取カロリーの30%あまりが熱産生につかわれると報告されています。よく噛んで食べると、熱産生が増えることもわかっています。
炭水化物抜きダイエットが流行っていましたが、おすすめできる方法ではありません。少なくとも朝食の糖質はなくすべきではないと考えています。すぐにエネルギーに変換できる栄養素は糖質です。脳の活動が低下している朝には、糖質でスイッチを入れる必要があります。糖質抜きダイエットが行き過ぎると、タンパク質や脂質が不足してしまって筋肉量が落ちてしまうことがあります。すると基礎代謝が落ちるので、痩せにくい身体になってしまいます。
ですから、炭水化物を減らすマイルールを作る程度がちょうどよいです。例えば、ご飯は半盛りにする、夜のラーメンは封印するなどです。ダイエットの目標が達成しても続けられるものにしていきましょう。
4-3.運動習慣をつくる
運動習慣によって筋肉量が増えると基礎代謝が増加するので、痩せやすい身体になります。
運動をすると、筋肉量が増えるために基礎代謝が上がります。このため、何もしないでも消費カロリーが増えていきますので、太りにくくなります。
できるならば、筋トレと有酸素運動を組み合わせた方が効率よく痩せられます。筋トレをすると少しずつ筋肉量が増えていくだけでなく、筋トレ直後から代謝があがります。この状態で有酸素運動を行うと、脂肪が効率よく燃焼されるのです。筋トレをするならば、大きい筋肉から鍛えていくのが効率がよいです。胸や背中やお尻の筋トレをしていきます。
抗うつ剤では代謝抑制作用は強くないことが多く、運動をすることで代謝がよくなりやすいです。また、運動は精神的にもよい影響があります。運動するとスッキリしますよね。軽症のうつ病の方では、治療として運動が勧められることもあるのです。運動習慣により病状がよくなれば、薬も減らしやすくなります。
4-4.抗うつ剤を減薬する
必ず主治医に相談してください。
抗うつ剤の効果がしっかりと出ているならば、少し減らして様子をみるのもひとつの方法です。抗うつ剤を減らしてみて、効果はそのままで食欲が軽減できれば、それに越したことはありません。
ですが、必ず主治医に相談してください。薬を減量しても大丈夫かどうかは、これまでの経過をみて判断しなくてはいけません。
症状が十分と落ち着いていない時期に急にお薬を減らしてしまうと、余計に症状が長引いて、結果として薬を飲む期間が増えてしまうことがあります。
4-5.他の抗うつ剤に変える
SNRIやSSRIへの切り替えを検討するのも方法です。
抗うつ剤の中でも、太りやすさには違いがあります。太りやすい抗うつ剤を使っている時は、太りにくいSNRIやSSRIに変更していくこともあります。
そうはいっても、薬の切り替えにはリスクも伴います。同じ作用をする抗うつ剤だからといって、同じように効果がでるとは限りません。ですから、効果も含めて総合的に切り替えるかを考えます。
お薬を切り替える場合は、いきなり置き換えたりすることはありません。まずは併用して副作用がないことを確認してから、少しずつ減薬して新しい抗うつ剤を増やしていきます。
まとめ
抗うつ剤は、抗ヒスタミン作用・抗5HT2c作用・セロトニン作用・ノルアドレナリン作用によって太りやすさが決まってきます。
食欲は、精神疾患の影響を大きくうけます。薬だけでなく他に原因がないかも考える必要があります。
NaSSA≧三環系抗うつ薬>パキシル≧四環系抗うつ薬・SSRI>SNRI
対処法としては、
- 体重測定をする
- 食事を見直す
- 運動習慣をはじめる
- 抗うつ剤を減薬する
- 他の抗うつ剤に変える
があります。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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