ムコフィリン吸入液(アセチルシステイン)の効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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ムコフィリン吸入液(一般名:アセチルシステイン)は、1965年にサンノーバ製薬会社より発売され去痰薬です。

ムコフィリンは痰の成分のジスルフィド結合を分解することで、痰のネバネバを取る効果があります。ただしムコフィリン吸入液は、ネブライザーという特殊な機械を使用して吸入するため、自宅でムコフィリンを使用する場合はネブライザーを購入する必要があります。

ムコフィリンは副作用も少なく安全に使用されるお薬のため、慢性的に痰がでる病気に使用します。ただし病気が治るわけではないためムコフィリンをずっと使用する必要があります。

ここでは、ムコフィリンの効果と特徴についてみていきましょう。

 

1.ムコフィリンのメリット・デメリットは?

<メリット>

  • 痰の粘度を低下してさらさらにする
  • 痰を産生する杯細胞の形成を抑制する
  • 副作用が少なく安全性が高い

<デメリット>

  • ネブライザーの吸入器が必要
  • 硫黄臭がする
  • 痰の原因疾患を治すわけではない
  • さらさらの痰には効果がない

ムコフィリンは痰切りとして使用される吸入液です。痰切りの効果としては、

  • 痰のジスルフィド結合を分解して痰をさらさらにする

という効果を示します。ムコフィリンは、吸入液としてネブライザーという機械を使って吸入することがほとんどです。

そのためムコフィリンは風邪などの一過性に使うことはほとんどなく、気管支拡張症や肺気腫、喘息などで常に痰がネバネバして出しづらい人が、ネブライザーを購入して吸入することが多いです。また吸入する時に、ムコフィリンは硫黄臭がするため臭いが嫌という人もいます。

ただしムコフィリンは、安全性が非常に高いお薬です。実際に副作用もほとんどないですし、使用できない病気や飲み合わせが悪いお薬もありません。

一方でムコフィリンは、痰を分解してさらさらにする効果しかないということです。つまりムコフィリンは、痰がでる原因自体を治療するお薬ではありません。ムコフィリンはあくまでも対処療法にすぎません。そのためムコフィリンを吸入する人は、基本的にずっと吸入する必要があります。

またムコフィリンは、さらさらした痰が大量に出てくるような人には向いていません。痰をもっとさらさらにして、出しづらくしてしまいます。そのため、硬くてネバネバした痰に使用するようにしましょう。

 

2.ムコフィリンの適応と用量は?

ムコフィリンは、ネバネバして固い痰に適応があります。ムコフィリン吸入液をネブライザーを使用して吸入します。

ムコフィリンの剤型は、

  • ムコフィリン吸入液20% 17.62%2mL

の吸入液のみです。ムコフィリンは内服薬がないので、使用するとすると現在はネブライザーを使用して吸入します。適応疾患は

  • 慢性気管支炎、肺気腫、肺化膿症、肺炎、気管支拡 張症、肺結核、囊胞性線維症、気管支喘息、上気道炎(咽頭炎、喉頭炎)、術後肺合併症の去痰
  • 気管支造影、気管支鏡検査、肺癌細胞診、気管切開術の善後処置

です。ここで注意が必要なのは、これらの疾患の治療ではないことです。去痰と書かれているように、ムコフィリンは痰を除去するのみの薬です。そのためムコフィリンを使用する方は、基本的に長い付き合いになることが多いです。ムコフィリンの投与量ですが、

  • ムコフィリンを通常、1回0.5包~2包を単独又は他の薬 剤を混じて気管内に直接注入するか、噴霧吸入する。

となっています。適宜増減すると添付文章ではありますが、ムコフィリンが効かないからといって倍量で内服することはほとんどありません。原因にもよりますが、効果が不十分な場合は他の内服薬を追加する場合が多いです。

また直接注入や噴霧と記載されていますが、現時点ではネブライザーで噴霧して気管支内に到達させて作用することがほとんどです。

 

3.ムコフィリンの薬価は?

ムコフィリンは古い薬のためジェネリック医薬品が登場しています。

次にムコフィリンの薬価です。ムコフィリンは古いお薬のため、アセチルシステインとしてジェネリック医薬品が発売されています。ムコフィリンの薬価ですが、

  剤型 薬価 3割負担
ムコフィリン吸入液 20% 60.0円 18円

※2017年1月15日の薬価です。

となっています。なお後発品のアセチルシステインの薬価ですが、

  剤型 薬価 3割負担
アセチルシステインNa 20% 49.6円 15円

※2017年1月15日の薬価です。

ジェネリック医薬品のアセチルシステインNa吸入液として先発品のムコフィリンと比較すると、8割程度の薬価で購入できます。

 

4.ムコフィリンで使用するネブライザーとは?

ネブライザーとは、薬剤を含んだ細かい霧を発生させる装置になります。

ネブライザーとは、下の図の様な吸入器の機械を使用してムコフィリンを吸入します。

 

ネブライザー

このような機械を使用します。ネブライザーを使用して薬剤を細かな粒にして吸引してもらうことにより、ムコフィリンを直接気管内に投与する治療法です。ネブライザーは2種類があります。

  • ジェットネブライザー:加圧したジェット気流を吹き付けることにより、細かい粒子が発生します。これをそのままジェット気流で拭き流ししたものを吸います
  • 超音波ネブライザー:超音波の振動により粒子を発生させます。そして、もわもわした煙の様なものを吸います。

現在、多くのネブライザーはジェットネブライザーを使用しています。理由としては、

  1. 超音波では、粒子を発生させる際に薬が変成してしまう。
  2. 超音波ネブライザーは粒子が細かくなりすぎてしまい、肺胞奥にいきすぎてしまうことで、息ができなくなることがある。
  3. 苦しい時は超音波ネブライザーのような煙だと吸いづらく、ジェットネブライザーのように勢いよく流してくれた方が吸いやすい。

などの理由です。そのためムコフィリンを投与するネブライザーは、ジェットネブライザーが多いです。

 

5.ムコフィリンが向いてる人は?

<向いてる人>

  • 肺気腫、喘息や気管支拡張症など慢性的に痰がでる病気
  • 間質性肺炎の方

ムコフィリンは、ネブライザーを使用して使用する痰切りのお薬です。

そもそも痰とは、正常な人にも作られています。気管支などにある杯細胞などから粘液物がでてきて、肺の中を綺麗にしています。杯細胞が出した粘液物をゴミとしてまとめたのが痰になります。

実は痰として肺や咽頭で作られたゴミは、少ない場合は食道の方に落ちていきます。食道は胃につながっているため全く問題になりません。ただしこの痰の量が増えて咽頭から口に溜まる場合が、喀痰として症状となって表れます。

喀痰の原因は、

  1. 異物が体に入ってきたのを粘液物で絡めとって外に出す防御反応
  2. 気管支や咽頭のどこかから粘液物が漏れ出ている

このように2つあります。

喀痰について詳しく知りたい方は、「痰はどうして出るのか?喀痰の原因と病気の見分け方」を参照してみてください。

このような背景を踏まえたうえで、ムコフィリンはどのような人に向いてるのか考えてみましょう。ムコフィリンはネブライザーを購入して使用するため、風邪などの一過性に痰がでる疾患には向きません。一番良いのは、ずっと慢性的に痰がでる

などの病気です。これらの病気は、ムコフィリン以外の治療薬で基本的には治療します。しかし重篤な病態までいくと、どうにもこうにも痰が切れないことが多い病気でもあります。

特に気管支拡張症やCOPDは、コントロールするのが難しいです。こういった方は夜間を中心に痰が切れずに、一日中不快感が付きまといます。痰が喀痰できなくて苦しい方は、ネブライザーを購入して痰が固くて出しづらくなるごとに、ムコフィリンを吸うこともあります。

実際にCOPDなどはタバコで肺がボロボロになる病気ですが、治すことがほとんどできません。そのため、ムコフィリンなどを定期的に吸入して痰を出しやすくし続けることで、息苦しさなどの改善もデータとして示されています。

もし喘息発作などで痰が固くて取れなくて苦しさがある場合は、吸入する前に事前に医師や看護師に伝えましょう。喘息発作で受診した際のネブライザーは、

などβ2刺激薬が吸入します。この際、病院によって痰切りを一緒に投与するかどうか意見が分かれています。もし痰が固くて取れないのであれば、これらβ2刺激薬と一緒にムコフィリンの吸入も考慮してもらえるかもしれません。

ムコフィリンが使用されるもう一つの疾患が間質性肺炎です。実は日本では、まだ適応疾患に入っていません。しかし世界では、間質性肺炎でムコフィリンを定期的に吸入し続ける人もいます。

一部ではムコフィリンを吸入し続けることで、間質性肺炎の増悪が防げたというデータがあるからです。ただしこれは確立されておらず、間質性肺炎に対してムコフィリンを吸っても吸わなくてもあまり差がないというデータもあるため、一定の見解が得られていません。

日本の保険診療は、確実に効果があると認められたものしか適応が通らないため、現時点ではムコフィリンは間質性肺炎に対して適応がありません。

一方で間質性肺炎に対して、今のところ有効な手立てはありません。

  • ピレスパ
  • オフェブ

などの新薬が、一部の間質性肺炎(肺線維症)に対して適応があります。しかしこれらの薬は、悪化するスピードを緩徐にするのみでよくすることはありません。基本的には間質性肺炎は、急激に悪化した場合はソルメルコートなどでステロイドを大量に投与し、その後プレドニンの内服を継続するといった流れが多いです。

ただし改善する可能性は低いうえに、ステロイドの副作用に苦しむことが多いです。そのため間質性肺炎は、実は癌より治療薬がない分、予後が悪いと言われています。こういった実情を踏まえ、間質性肺炎の専門病院では、間質性肺炎に効くかもしれないムコフィリンを導入することもあります。

間質性肺炎にムコフィリンを投与することの是非については、今後もデータが待たれています。

 

5.ムコフィリンの作用機序は?

ムコフィリンは、痰のジスルフィド結合を分解して痰をさらさらにします。

痰切りの去痰剤などは色々なお薬が処方されています。その中でも色々なタイプがあります。大まかなタイプを下にまとめました。

種類 作用機序 代表薬
気道分泌
促進薬
気道の中のさらさらの痰を増やすことで、
気道を綺麗にする。
ビソルボン
気道粘液
溶解薬
ネバネバの痰をさらさらに変える。 ムコフィリン
気道粘液
修復薬
淡の粘液を整える。 ムコダイン
気道潤滑薬 気道内のサーファクタントを活発にして、気道を掃除する。 ムコソルバン

この中で、ムコフィリンは気道粘液修復薬になります。具体的に作用機序をみていきましょう。痰の大部分は水です。その中で1割程度、ムチンという物質が含まれています。このムチンが、痰の粘っこさを出す原因になります。

痰が固くなって粘っこいと、出しづらくなってしまいます。ムチンの構成成分は、

  • シアル酸
  • フコース

の2つが挙げられます。これらのシアル酸とフコースなどをつなげる結合に、

  • グリコシド結合
  • ペプチド結合
  • ジルフィド結合

といった様々な結合にてあのネバネバした状態を生み出しています。

ムコフィリンは、このうちジルフィド結合に作用します。具体的には、ジルフィド結合はS-S結合しています。Sとは化学記号で硫黄のことです。このS-S結合をムコフィリンのSH基によって開裂させることで、シアル酸やフコースなどのつながりを分解します。

このネバネバの成分を分解することで、痰のネバネバをさらさらに変えます。なお、痰が最初からサラサラの場合はジルフィド結合がほとんどないため、意味がありません。

またムコフィリンには他にも、

  • 痰にレジカルな変化をもたらす
  • 痰のPHを整える

などの作用がありますが、これらは微々たる影響しか与えないと考えられています。

 

まとめ

<メリット>

  • 痰の粘度を低下してさらさらにする
  • 痰を産生する杯細胞の形成を抑制する
  • 副作用が少なく安全性が高い

<デメリット>

  • ネブライザーの吸入器が必要
  • 硫黄臭がする
  • 痰の原因疾患を治すわけではない
  • さらさらの痰には効果がない

<向いてる人>

  • 肺気腫、喘息や気管支拡張症など慢性的に痰がでる病気
  • 間質性肺炎の方

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