精神疾患と運転免許|お薬(向精神薬)を服用中でも運転免許は取得できる?

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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精神疾患の治療を開始すると、長期にわたってお薬を続けていくことが多いです。その時に直面する問題として、運転免許に関する問題があります。

「お薬を飲んでいても運転免許はとれますか?」という患者さんからの質問はよく受けますし、「免許の更新に運転免許センターにいったら診断書を持ってきてくださいと言われました」という患者さんも少なくありません。

また、入院している患者さんなどでは、「運転免許の更新ができないと、免許取り消しになってしまうのではないか」と不安に思われる方もいらっしゃいます。

運転は趣味だけでなく、生活にとって必須である患者さんも少なくありません。運転をしないと仕事にならない方もいらっしゃいますし、地方では車なしの生活は考えられません。

それでは、精神疾患とお薬(向精神薬)はどうして運転免許で問題になるのでしょうか?法律ではどのように取り決められていて、実際にはどのように運用されているのでしょうか?

ここでは、精神疾患と運転免許に関する疑問について、詳しくお伝えしたいと思います。

 

1.現在の精神疾患の運転免許の扱いとは?

免許取得・更新時に、一定の病気に該当すれば申請をしなくてはいけません。虚偽の申請をした場合、罰則規定が設けられれています。精神疾患を申請した場合、主治医の診断書を提出することになります。

まずは、精神疾患をかかえた患者さんの運転免許の法律上の規定についてお伝えしていきましょう。

運転免許に関する規定は、道路交通法という法律で定められています。道路交通法という法律は、昭和35年(1960年)に設定された法律になります。2度の大きな改定を経て、現在に至ります。その経緯は後ほど述べていきますが、現在の道路交通法は平成25年6月14日に公布され、平成26年6月より施行されています。

悪質危険運転者と自転車に対する対策に加えて、「一定の病気等に係る運転者対策」が新たに設けられました。大きく4つの対策になります。

都道府県公安委員会 運転に支障をきたす病気の症状の質問票が交付でき、提出を義務付けられる
虚偽の申告をして免許取得、更新した場合 1か月以下の懲役、または
30万円以下の罰金
医師 任意で患者の診断結果を
公安委員会に提出可能
都道府県公安員会 一定の病気が疑われるときに
免許効力を3か月以内暫定停止可

都道府県の公安委員会は、運転免許受験者や更新者に、一定の病気の症状の質問をすることが可能になりました。質問紙に記載することとなっていて、精神疾患と申請した場合、主治医の診断書が必要になります。

そして、症状があるにも関わらず虚偽の回答をして免許を取得または更新した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金刑を受けることになります。

さらには、医師は任意で患者の診断結果を公安委員会に届出ができるようになります。また、交通事故を起こした運転者が一定の病気に該当する場合、専門医の判断によらずに、暫定的に免許停止とできるようになりました。

 

このように精神疾患を抱える患者さんに対して運転免許の締め付けがきつくなったのは、てんかんで治療中の患者さんによる事故が続いたためです。

平成24年4月12日、京都祇園てんかん患者の運転する車が暴走し、7名が亡くなりました。この際、血中からてんかん薬の成分が検出されたましたが、運転免許の更新時に申請義務を違反していたことがわかりました。さらには、過去にも発作で繰り返し事故を引き起こしていたことも分かったのです。

遺族がおよそ20万人の署名を集めて国に提出し、道路交通法の改正につながりました。さらには、危険運転死傷行為処罰法も改正され、危険運転の範囲の拡大と罰則の強化がされました。

こうして、運転免許の取得・更新に関する道路交通法と、事故が起こった時の罰則という危険運転死傷行為処罰法の2つの方法によって、入口と出口の両面で厳しくなったのです。

 

2.運転免許で問題になる「一定の病気」とは?

一定の病気とは、てんかん、統合失調症、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、躁鬱病(双極性障害)、重度の睡眠障害などですが、症状がコントロールできていれば運転免許を取得できます。薬物依存は免許が取得できず、認知症も日常生活に支障がきていれば免許取得できません。

それでは、運転免許で問題になる一定の病気とはどのようなものでしょうか?

具体的な病名が、道路交通法施行令(道路交通法に基づいて)第33のニの三に規定されています。

  • 統合失調症(自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く。)
  • てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)
  • 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)
  • 無自覚性の低血糖症(人為的に血糖を調節することができるものを除く。)
  • そううつ病(そう病及びうつ病を含み、自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈しないものを除く。)
  • 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
  • その他自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気

これらの病気であれば直ちに運転免許が停止されるというわけではなく、あくまで症状のコントロールができずに運転能力に支障があるケースに限ります。それ以外にも、

  • 認知症(日常生活に支障がある程度)
  • アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒

に関しては、運転免許は認められません。

運転免許更新時に、以下のような質問紙に回答する必要があります。

運転免許証の更新時の質問票について

ここで病気のことを申告すると、主治医からの病状に関する診断書を提出するようにいわれます。この診断書では、医師は患者さんの状態によって3つのなかから判断します。

  • 運転に必要な能力を欠くおそれのある症状なし
  • 運転に必要な能力を欠くおそれのある症状あり
  • 特殊な事情があるためで、今後6か月以内にOKになりそう

これによって、運転免許の申請の可否を判断します。6か月以内になると、改めて診断書を提出することになります。診断書代は患者さんの自己負担になりますので、3,000円程度かかってしまいます。

実際に、「運転に必要な能力を欠くおそれがある」という判断はなかなかしづらいです。明らかに病状がコントロールできていない場合を除けば、ほとんどのケースで問題なしという診断書になります。ですから、運転免許が認められないのでないかという過度な不安はしなくても大丈夫です。

一定の病気が原因での事故自体は0.1%程度といわれていて、精神疾患があると事故を起こしてしまうのかという部分は疑問視されています。医師による任意での届出もありますが、よほど危険がない限り行わないと考えられます。

 

3.精神疾患での運転免許の実情

基本的に、主治医は運転免許に関しての診断書は記載してくれるかと思います。虚偽の報告をすると罰則規定もあり、また事故を起こしたときに自動車運転致死傷罪に問われる可能性も高くなります。正直に申請して、診断書を提出しましょう。

これらを踏まえて、精神疾患の患者さんが免許を申請するときにどのようにすればよいのか、実情を考えたいと思います。

現在の運転免許制度では、自分自身の病気については患者さんの自己申請にゆだねられています。ですから、「隠しておく」ということもできなくはありません。大きな事故を起こす確率はとても低いでしょうから、バレルことも少ないでしょう。

しかしながら、虚偽の申請をした場合には罰則規定が作られてしまいました。また、ここでは記載しませんでしたが、自動車運転致死傷罪の適応が厳格化されました。もしも病気のせいで正常な運転が困難な状態での事故があった場合、自動車運転致死傷罪が適応されてしまうようになったのです。

申請を正しく行っていなかった場合、裁判官を含めた心証は間違いなく悪いものになるかと思います。自動車運転致死傷罪が適応されてしまうリスクも高まると思われます。

患者さんにとっては、

  • 免許申請が2度手間になってしまう
  • 診断書代金がよけいにかかってしまう

という負担がありますが、申請を正しく行ってください。万が一、虚偽の申請で事故を起こすと、ますます精神疾患の患者さんの風当たりが強くなります。

診断書の提出を求めたところで、主治医はほとんどの場合、運転免許はOK(病状は落ち着いていて、運転に必要な能力を欠く恐れなし)にするかと思います。私自身、入院中の患者さん以外はほとんど、運転免許OKの診断書しか書いていません。

ですから、診断書を提出させる意味がどれほどあるのかと思いますが、正しく申請して診断書を提出していただければと思います。

 

4.精神疾患だと運転免許が取り消しになる時代があった!

2001年までは、統合失調症をはじめとした精神疾患、てんかんの患者さんは、診断されると運転免許が認められていませんでした。

精神疾患の患者さんの運転に対する締め付けは、最近になって厳しくなっているような印象の方が多いかと思います。昔の方が規制が緩かったと思われるかもしれませんが、意外にも精神疾患の患者さんに対する運転の取り扱いは昔の方が厳しかったのです。

薬を飲んでいようがいまいが、精神科の患者さんの多くが自動車の運転を許されていなかった時代があったのです。

道路交通法が制定された当初は、精神病、てんかん等は絶対的欠格事由となっていて、病名が診断されると運転免許が与えられないこととなっていました。

第88条 次の各号のいずれかに該当する者に対しては、免許を与えない。

一 (略)
ニ 精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者
三~五 (略)

このように規定されていたのです。この法律が、実に平成13年(2001年)まで運用されてきました。「精神病者、精神薄弱者」というと非常に広く、精神疾患の病名が判明すれば免許停止となってしまう状況だったのです。といっても、虚偽の申請をしても罰則規定がありませんでした。ですから実際には、「病気のことを黙っておく」という形がとられることが少なくありませんでした。

このような規制は、精神疾患に対する社会の偏見の強さを反映していたのかと思います。さらには、昔は治療法も発展しておらず、精神疾患=治らない病気という考え方が根強かったこともあげられます。

薬物療法を中心とした治療により精神疾患が付き合っていける病気に変わっていくことで、社会で生活できる患者さんも増えてきました。そんな中、運転に関する規制は、社会参加への大きな妨げになっていたのです。

その点が問題視され、平成13年に道路交通法が改正となりました。

 

5.道路交通法の平成13年改定

精神疾患と診断されても、症状がコントロールされていれば運転免許が取得できるようになりました。

このような規制は障害者の社会参加への妨げになるとして、平成13年に道路交通法が改正されました。この改正では、症状が運転に支障があるかどうかを患者さんごとに判断することになりました。そこで問題がないと判断されれば、運転免許が取得できるようになったのです。つまり、絶対的欠格事由から相対的欠格事由に変わったのです。

第88条ニ 削除

第90条 (前略)ただし、次の各号のいずれかに該当する者については、政令で定める基準に従い、免許を与えず、又は6月を超えない範囲内において免許を保留することができる。

一 次に掲げる病気にかかっている者

イ 幻覚の症状を伴う精神病であって政令で定めるもの
ロ 発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの
ハ イ又はロに掲げるもののほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼす恐れがある病気として政令で定めるもの

一のニ 介護保険法第5条の2に規定する認知症

ニ アルコール、麻薬、あへん又は覚せい剤の中毒者

このように、精神疾患と診断されても症状がコントロールされていれば、運転免許を取得できるようになったのです。その一方で、

  • 免許取得や更新時に申告書に記入すること
  • 申告書の記入内容で必要と判断されれば運転適性相談をうけること
  • 症状に変化がある場合には運転適性相談を再度受けること

などが義務づけられるという形で、締め付けはきつくなりました。このころから、病状によっては診断書を提出することとなっていました。しかしながらこの診断書が使われるのは、もっぱら薬物抵抗性のてんかん患者さんでした。さらには、診断書を提出しなくても罰則規定もなかったのです。ですから無視をすることもできました。

平成13年ではこのように、精神疾患のある患者さんが運転免許を持てるようになりました。しかしながら平成25年に現在の道路交通法改訂では、診断書の提出が必要となってしまいました。

 

6.精神疾患で入院中の運転免許はどうすればよいの?

3年以内であれば、退院後1か月以内に手続きをすれば免許の更新が可能です。

運転免許は、2年~5年ごとに更新をしていく必要があります。精神疾患で入院していても、更新の時期は自動的にやってきてしまいます。誕生日月の前後1か月が更新期間となります。

症状がよくなっていて自由に外出したりできればよいのですが、外出を自由にできない場合もあります。運転免許の更新ができないと失効してしまうのではと心配される患者さんも少なくありません。

入院という「やむを得ない」事情があるときに、運転免許はどのような扱いになるのでしょうか?ケースに分けて整理してみましょう。

  1. 有効期間を経過して6か月以内
  2. やむを得ない事情がなく6か月以上1年以内
  3. やむを得ない事情で3年以内
  4. それ以外

①有効期間を経過して6か月以内

この場合は理由の如何を問わず、正式な失効にはなりません。本籍地の入った住民票が必要になり、やむを得ない事情がある場合は証明する書類が必要になります。更新講習と視力聴力などの適正試験を受ける必要はありますが、運転免許の更新を行うことができます。

ただし、一点だけ注意があります。正式に更新が終了するまでの期間、運転をすると無免許運転扱いとなってしまいます。この期間に事故をおこしてしまうと、民間の保険は適応外になることもあります。

②やむを得ない事情がなく6か月以上1年以内

やむを得ない事情がなくて時間がたってしまった場合、仮免許からやり直しになってしまいます。運転免許試験を実技・筆記ともに受験する必要があります。実技を免除するためには、再び教習所に通わなくてはなりません。

やむを得ない事情とは、入院や海外出張などに限られます。「忙しくて…」「更新のはがきがこなかった…」などは通じません。

③やむを得ない事情で3年以内

やむを得ない事情で3年以内の場合は、その事情がやんでから1か月以内であれば運転免許更新の手続きをとることができます。1か月を過ぎてしまうと免許失効してしまうので、すみやかに手続きをとるようにしてください。

やむを得ない事情を証明する書類が必要になり、入院中の患者さんは入院証明書や診断書を添えて提出してください。

④それ以外

それ以外のケースでは、どんな事情があれども運転免許は失効してしまいます。

 

まとめ

免許取得・更新時に、一定の病気に該当すれば申請をしなくてはいけません。虚偽の申請をした場合、罰則規定が設けられれています。精神疾患を申請した場合、主治医の診断書を提出することになります。

一定の病気とは、てんかん、統合失調症、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、躁鬱病(双極性障害)、重度の睡眠障害などですが、症状がコントロールできていれば運転免許を取得できます。薬物依存は免許が取得できず、認知症も日常生活に支障がきていれば免許取得できません。

更新期間の3年以内であれば、退院後1か月以内に手続きをすれば免許の更新が可能です。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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