テオドール(テオフィリン)で血中濃度を測定する理由は?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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テオドール(一般名:テオフィリン)は、

  • 気管支を拡げる作用(気管支拡張作用)
  • 炎症を抑える作用(抗炎症作用)

という2つの作用を併せ持ったお薬です。このような作用を利用して、テオドールは気管支喘息や肺気腫(COPD)の治療薬に使われています。

テオドールを処方された人は、定期的にテオフィリンの血中濃度を採血で調べていく必要があります。どうしてテオドールは、他の内服薬と異なって血中濃度を測定しなければいけないのでしょうか?

これはテオフィリンが、病気に対して有効である血中濃度と、副作用(テオフィリン中毒)が出現する血中濃度が近いことが原因です。

良かれと思ってテオドールを投与してみたら、逆に副作用でとんでもないことになったということは避けなければなりません。ですから、テオドールを投与された方はテオフィリンの血中濃度を定期的に測定する必要があるのです。

ここでは、テオドールがどれくらいの血中濃度であれば安全で効果が期待でき、どれくらいの血中濃度だと危険なのか確認していきましょう。

 

1.テオフィリンの血中濃度について

テオドールは、テオフィリンの血中濃度が8~20μg/mlだと効果があり、血中濃度が20μg/ml以上だと副作用が出現しやすいといわれています。

テオドールは口から入ったら、胃や小腸から吸収されて、血液の中に入ります。この血液の中に、薬がどれだけ入っているかを示した数値が、血中濃度となります。

テオフィリンの血中濃度は一般的に、

  • 5~10μgl/ml:テオフィリンによる抗炎症作用が期待される
  • 10~20μg/ml:テオフィリンによる気管支拡張作用が期待される
  • 20-30μg/ml:テオフィリンによる軽度の副作用がでやすい
  • 30-40μg/ml:テオフィリン中毒として重度の副作用が出現しやすい
  • 40μg/ml以上:テオフィリン中毒はほぼ必発

といわれています。このため、テオフィリンの血中濃度は8~20μg/mlを保つように調整し、20μg/mlを超えないようにするのが一般的です。

テオドールは、有効血中濃度を維持することで発作を予防することが期待できます。一方ですぐに中毒域に入ってしまうため、テオドールは徐放性剤としてゆっくりと胃や腸に溶け出すようにできています。

さらに高齢者はテオフィリンの濃度が上がりやすいことから、少量から徐々に上げることがすすめられています。そのため血中濃度を測定しながらお薬を調整していかないと、非常に危険なお薬なのです。それではテオフィリンの血中濃度について、効果と副作用で分けて細かくみてみましょう。

 

1-1.テオフィリン血中濃度での効果の差について

テオフィリン血中濃度が5~10μg/mlだと抗炎症作用、10~20μg/mlだと気管支拡張作用があるといわれています。

副作用を怖がって投与量が少なくても、テオドールの効果は期待できません。テオフィリンの血中濃度が5~10μg/mlで、抗炎症作用が期待できます。そして10~20μg/mlで、気管支拡張作用が期待できます。

ガイドラインでは、テオドールを内服したときの血中濃度は8~20μg/mlを目指すことがすすめられています。テオドールの血中濃度は、その人の体の大きさ、腎臓や肝臓の機能の状態、さらには一緒に飲むお薬との飲み合わせで、テオフィリンの血中濃度は千差万別です。

また、高齢者は血中濃度が上がりやすいため、テオドールを少量から開始することも多いです。テオドールは、特に発売当初は痰切りのお薬として処方していた医師も多いため、テオフィリンの血中濃度も測定せずにそのまま使っている医師もいます。

ただしテオドールが少量のままですと、実際の血中濃度が5μg/ml未満となってしまうことも多々あります。テオドールを処方されているのに血中濃度が測られていない場合は、テオドールに慣れていない先生が処方している可能性もあるため注意が必要です。

またテオドールは、抗炎症反応と気管支拡張の両方の作用を持っていますが、

  • 抗炎症作用はテオドールより吸入ステロイドの方が効果が高い
  • 気管支拡張作用はテオドールより吸入薬のβ2刺激薬や抗コリン薬の方が効果的

このように、どっちつかずのお薬でもあります。一緒に他の薬と使用することで効果が上乗せされるだけでなく、相乗効果も期待されるといわれています。そのためテオドールを使用する場合は、喘息もCOPDも吸入薬だけでコントロールできない重症な場合が多いです。

 

1-2.テオフィリンの血中濃度での副作用の差について

一般的にテオフィリンの血中濃度が20μg/mlを超えると、副作用が出現するといわれています。30μg/mlを超えると副作用が重篤になり、テオフィリン中毒といわれます。

テオドールの軽度の副作用としては、

  • 消化器症状(特に悪心嘔吐)
  • 頭痛心
  • 頻脈
  • 不眠
  • 不安・興奮などの精神症状
  • 横紋筋融解症(手足のしびれや筋肉痛)

などが挙げられます。これらの副作用は、一般的にはテオフィリンの血中濃度が20μg/mlを超えると出現するといわれています。さらに重度な副作用となると、

  • 痙攣
  • 心室頻拍・心房細動(心臓のリズムがおかしくなります)
  • 呼吸促進(息が苦しくなります)

などの副作用が出現するといわれています。これらの重度な副作用が出現した場合は、テオフィリン中毒といいます。テオフィリンの血中濃度が40μg/ml以上になると、これらの副作用は必発といわれています。テオフィリンの濃度が50μg/mlを超えると心肺停止になり、最悪の場合は死亡するといわれています。

これらの重篤な副作用は、前触れもなく突然起こることがあります。一方でテオフィリンの血中濃度が20μg/ml以下の人が、いきなりけいれん発作を起こして亡くなるようなことはまずありません。(テオフィリンの血中濃度が低いのに痙攣が起きた場合は、テオドール以外の他の原因を考えます。)

ただしテオフィリンの血中濃度が20μg/ml以下でも、

  • 食思不振・嘔気
  • 頭痛
  • 動悸

などが出現することがあります。テオドールの副作用について詳しく知りたい方は、「テオドールの副作用と安全性」をお読みください。

 

2.テオフィリンの血中濃度を上げる要因とは?

テオドールを規則正しく飲んでいても、血中濃度をあげる要因は様々があります。テオフィリンの血中濃度が上昇すると、重篤な副作用につながりかねません。一つずつ確認していきましょう。

 

2-1.テオフィリンの血中濃度が上がる要因①-内服薬

テオドールは、内服薬によって血中濃度が乱高下しやすいお薬です。

テオフィリンの血中濃度が安定していても、別の内服薬を加えたことで簡単に乱高下することがあります。テオフィリンはおもに肝臓のCYP1A2という酵素によって分解されるため、同じ酵素を必要とするお薬では相互作用があります。添付文章で注意するようにいわれているお薬をみていきましょう。

テオフィリンの血中濃度をあげるお薬としては、

  1. シメチジン:胃酸の分泌を抑えるお薬
  2. メキシレチン塩酸塩・プロパフェノン塩酸塩・アミオダロン塩酸塩:不整脈のお薬
  3. エノキサシン・塩酸シプロフロキサシン・ノルフロキサシン・パズフロキサシンメシル酸塩・プルリフロキサシン:ニューキノロン系抗生物質
  4. エリスロマイシン・クラリスロマイシン・ロキシスロマイシン:マクロライド系抗生物質
  5. フルボキサミンマレイン酸塩:抗うつ剤
  6. フルコナゾール:抗真菌薬
  7. アシクロビル・バラシクロビル塩酸塩:抗ウイルス薬
  8. インターフェロン・イプリフラボン・シクロスポリン:免疫抑制薬
  9. アロプリノール:尿酸抑制薬

などがあります。他にも色々ありますが、代表的なものをあげました。

特に気を付けなければならないのが、ニューキノロン系やマクロライド系の抗生物質です。これらのお薬は、熱があるときに気軽に処方されることがあります。

後述しますが、熱がある状態だけでもテオフィリンの血中濃度は上がります。熱があってテオフィリンの血中濃度が上がっている時にニューキノロンやマクロライド系を加えてしまうと、一気にテオフィリン中毒の域まで上がるため非常に危険です。

 

2-2.テオフィリンの血中濃度が上がる要因②-発熱

風邪やインフルエンザで熱が出た際は、テオフィリンの血中濃度が上がる可能性があるので注意が必要です。

テオドールを飲んでるときに発熱すると、テオフィリンを分解する能力が約60%低下するといわれています。特に小児の場合は、発熱だけでも熱性けいれん等のリスクファクターです。ですからテオドールの痙攣は、小児に多いとされています。

このため小児では、テオドールを内服中は特に注意が必要になります。

一方でテオドールを内服している方は、もともとCOPDや喘息などのコントロールが不良な方が多いと思います。COPDの急性増悪や喘息発作の一番の誘因は、風邪やインフルエンザなどのばい菌による感染になります。

テオドールの血中濃度の上昇を怖がって自己中断してしまうと、今度はCOPDや喘息のコントロールが悪くなってしまいます。そうすると、余計に副作用が強いお薬を使わざるを得なくなってしまいます。そのため、勝手にテオドールを自己中断するのだけはやめましょう。

テオドールが処方されている人はCOPDも喘息も重症な人が多いため、まずはすぐに病院を受診しましょう。COPDも喘息も、悪化すると命を落としかねない病気です。もう一度繰り返しますが、テオドールを自己中断して様子を見ることだけはやめてください。

 

2-3.テオフィリンの血中濃度をあげる要因③-カフェイン

お茶やコーヒー、紅茶、コーラなどのカフェインが含まれた飲み物とテオドールを一緒に内服してはいけません。

お茶やコーヒー、紅茶、コーラなどに含まれるカフェインは、テオドールの主成分であるキサンチン誘導体と同じ成分のため一緒に内服してはいけません。

テオフィリンと一緒にカフェインを服用すれば、吸収や代謝を邪魔して、テオフィリンの血中濃度をあげてしまう可能性があるからです。

一緒に飲まなければカフェインを摂取して良いのかというと、これはなかなか難しい問題です。カフェインの致死量は10g=10000mgといわれています。コーヒー1杯には、50~200mg程度のカフェインが含まれています。テオドールは基本的に、200mgを1日2回トータルで400mg内服することが一般的です。

そのため、カフェインとテオドールの内服だけでカフェイン中毒が起こるとは考えづらいです。

一方で、テオドール内服中にカフェインを禁止にした人たちとカフェインを普段通りに飲んだ人たちを比べると、カフェインを飲み続けた方がテオフィリンの濃度が上昇しやすいとなっています。

ただしコーヒー1杯飲んだ…お茶を飲んだらカフェインが含まれてた…といった程度で慌てる必要はありません。もしコーヒー1杯間違って飲んだくらいでテオフィリン中毒が起きるようなお薬であれば、発売はそもそもされていません。

しかし風邪などひいてテオフィリンの血中濃度が上がりやすい時に、カフェインが入ってるお茶などを飲むのは注意してください。

 

3.テオフィリンの血中濃度を下げる要因は?

テオフィリンの血中濃度を逆に下げてしまうと、テオドールの効果がなくなってしまいます。一時的であれば気にすることもないですが、ずっと下げて続けてしまうと、テオドールを飲んでる意味が全くなくなってしまいます。どういったものでテオフィリンの血中濃度を下げるか確認しておきましょう。

 

3-1.テオフィリンの血中濃度を下げる要因①-内服薬

テオフィリンの血中濃度を下げるお薬は、

  1. フェニトイン・カルバマゼピン・フェノバルビタ-ル:抗てんかん薬
  2. リファンピシン:抗結核薬
  3. ランソプラゾ-ル:胃酸分泌抑制薬
  4. リトナビル:HIV治療薬

これらのお薬は、いずれも長期間投与されることが多いお薬です。テオドールはこのように併用注意のお薬が多いため、全部覚えている人は医師でもほとんどいません。

このためテオドールを処方されたら、必ずかかりつけの薬剤師さんや他でかかっている先生に伝えるようにしてください。

 

3-2.テオフィリンの血中濃度を下げる要因②-タバコ

タバコの煙は、テオフィリンの血中濃度を下げるため注意が必要です。

テオドールは、COPDと喘息の治療のために処方するお薬です。そのため、これらの疾患でタバコを吸ってしまうと症状がどんどん悪化してしまいます。タバコを吸っていること自体がそもそも大きな間違いです。

テオドールが処方されている人はどちらの疾患も重症な人が多く、少しでも何とかしなければいけない状態です。そのような時にタバコを吸ってさらに病態を悪化させてしまうと、治療の意義がないばかりか、それ以上やりようがなくなってしまう可能性もあります。

そしてタバコは、肝臓の酵素に作用してテオフィリンを分解しやすくします。そのためテオフィリンを分解することで血中濃度が下がってしまい、テオドールを飲む意味がなくなってしまいます。

これはタバコを吸わなくても、他の人が吸ってる煙を浴びるだけでも同じことが言えます。タバコの受動喫煙によっても、テオフィリンの血中濃度が下がる可能性があります。

テオドールを内服する前に、タバコをまずやめておくようにしましょう。

 

まとめ

  • テオドール(テオフィリン)は、効果が出る血中濃度は8~20μg/mlになります。
  • テオドール(テオフィリン)は、副作用がでる血中濃度は20μg/mlになります。
  • テオドールは、併用注意のお薬がたくさんあります。
  • テオドールは、熱があると血中濃度が高くなります。
  • テオドールは、カフェインと一緒に内服すると血中濃度が高くなります。
  • テオドールは、タバコを喫煙しながらだと血中濃度が下がってしまいます。

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