花粉症にステロイド注射(ケナコルト)はよいのか?ステロイド注射の是非について

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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花粉症に効く薬がないか調べられた方は、ステロイド注射にたどり着いた方は多いのではないでしょうか?

実際に『花粉症 注射』で検索すると、花粉症に対するステロイド注射について沢山の意見が出てきます。しかし2極化しており、人によっては悩むところかと思います。

  • A「ステロイド注射は副作用が多い!!」
  • B「ステロイド注射は花粉症に良く効く!!」

この2つの意見は、実はどちらも正解です。しかし片方の側面にとらわれてしまって、「やった方が良い、やめた方が良い」と極端な議論になってしまうのです。特にAの立場をとる方は、「Bはガイドラインを無視したとんでもないやつだ」と強く批判します。

確かに花粉症でのステロイド注射はガイドラインでは推奨されていません。ガイドラインはとても大切な指標の一つです。しかしガイドラインに縛られすぎてしまうと、時に視野を狭めてしまいます。

ここは冷静にA・B両方の側面からみていきながら、花粉症でのステロイド注射の是非について深く考えていきたいと思います。

 

1.ステロイドについて

花粉症に対してのステロイド注射は最も効果を発揮するお薬の一つですが、同時に副作用が多い治療です。ステロイド注射の是非をみる前に、そもそもステロイドが何であって、どうして効果があるのか?どうして副作用が多いのか?を知ってからの方が議論に参加しやすいと思います。

ステロイドがなんだかよくわからずに、

  • A「ステロイド注射は副作用が多い!!」
  • B「ステロイド注射は花粉症に良く効く!!」

という議論をいきなりされるから困惑するのでしょう。まずはステロイド自体について簡単に説明します。

 

1-1ステロイドとはそもそも何か?

ステロイドは、体の副腎皮質ホルモンとして作られている物質です。

ステロイドホルモンは、実は体の中で作られているホルモンです。副腎でヒドロコルチゾン(ステロイドの一種)に換算して、1日当たり5~30mgのステロイドが分泌されています。一日の中でも分泌量は変化していて、朝に多く分泌されて夜に低下していくホルモンです。

他のホルモンは体の一部分にしか作用しないのに対して、ステロイドは全身の受容体に作用します。体内の血糖・脂肪・電解質・骨・筋肉の代謝に関与します。ステロイドホルモンは一言でいうと「ストレスなどの負荷に対して、体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンです。ですから抗ストレスホルモンともいわれます。

元気になるための作用としては、

  1. 筋肉での蛋白質代謝、脂肪組織での脂質代謝をあげ、体内の血糖値をあげる
  2. リンパ球や間質細胞などの効果を止めて、組織での炎症を抑える
  3. 気持ちを高揚させる

などの効果があります。つまり体内のエネルギーとなる血糖値をあげて、気分を上げます。さらに一時的に炎症を止めることで、結果として体を元気にするホルモンです。

これだけ聞くと、すごくいいホルモンのような気もします。しかしなんでも限度というものがあります。筋肉や脂肪から血糖値を上げすぎてしまうと糖尿病になりますし、気持ちを上げすぎてしまうとイライラにつながります。炎症も抑えすぎてしまうと、いざばい菌が入った時に戦えなくなってしまいます。

つまりステロイドは、攻撃のスイッチを入れる代わりに防御のスイッチを切る作用のあるホルモンなのです。朝にステロイドホルモン量が多いのは、活動性が上がるために攻撃のスイッチを入れる必要があるからです。

 

1-2ステロイドはどうして花粉症含めて色々な病気に効くのか?

ステロイドは自己免疫の大部分を抑えることで、花粉症に対して最もよく効くお薬の一つです。

ステロイドは自己免疫疾患の最終兵器として実はかなり多くの疾患に使われています。先ほどの

2.リンパ球や間質細胞などの効果を止めて、組織での炎症を抑える

の作用を利用して、大部分の炎症を起こす細胞を止めてしまうのです。

自己免疫疾患とは、本来ならば体を守るべき白血球などが何らかのエラーで自身の体を攻撃してしまう病気です。自分の身体に対するアレルギー反応になりますが、アレルギー反応としては主に4種類に分けることができます。

  • Ⅰ型アレルギー:IgEを主体にしたアレルギーです。IgEがアレルギー源にくっついて、セロトニンやヒスタミンを放出して発症します。
    代表的な疾患:花粉症・蕁麻疹・気管支喘息・食物アレルギー
  • Ⅱ型アレルギー:IgGを主体にしたアレルギーです。IgGがアレルギー源にくっついて、白血球が直接その細胞を破壊する生体反応です。
    代表的な疾患:悪性貧血・橋本病・特発性血小板減少性紫斑病・重症筋無力症
  • Ⅲ型アレルギー:アレルギー源を排除しようとした結果、うまく排除されずに免疫複合体という物質が形成され、血液を介して各々の臓器にダメージを与えるアレルギーです。
    代表的な疾患:関節リウマチ・シューグレン症候群・全身性エリテマトーデス・アレルギー性血管炎など膠原病と呼ばれる疾患が主です。
  • Ⅳ型アレルギー:アレルギー源を排除しようとした白血球自体がおかしくなってしまうアレルギーです。おかしくなった細胞を感作T細胞とよび、周辺組織を損傷します。
    代表的な疾患:金属アレルギー・薬剤性肺炎・腫瘍免疫・移植免疫

このほぼ全ての疾患に、ステロイドは適応になります。花粉症はⅠ型アレルギーに属しています。

花粉症というのは、体が花粉を敵と認識して外に出そうとする防御反応です。その防御反応は以下のようになります。

  1. 花粉(スギ)が体内に侵入。
  2. マクロファージ(体の中の警察官)が異物と認識して花粉を食べる。
  3. マクロファージがT細胞、そしてB細胞とバケツリレーのように花粉の情報を次々に渡す。
  4. 花粉が次に入ってきたときに撃退するために、B細胞がIgEという特殊な爆弾を作り、肥満細胞(体の中の爆弾保管庫)に保管しておく。
  5. 花粉が再び侵入した際に、肥満細胞は保管しておいたIgE爆弾が発射されて花粉にくっつく。
  6. IgEが爆発することをきっかけに、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が放出される。

花粉症の第一選択肢である抗ヒスタミン薬は、⑥のヒスタミンをブロックして効果を出します。つまり、大元のIgEや好酸球にはわずかしか効きません。一方でステロイドは、これらの流れを無視してほぼ全ての免疫を抑制します。

 

1-3.ステロイドはどうして副作用が多いのか?

ステロイドは全身に作用することで、様々な部位に影響を与えます。

ステロイドは攻撃のスイッチを入れるために、防御のスイッチを解除するスイッチです。そのため、攻撃するために色々なものを犠牲にします。

具体的に挙げていくと、

  1. 細菌やカビなどの感染症に弱くなる(炎症を抑えるため防御が下がります)
  2. 副腎機能不全(ステロイドを長期投与すると副腎がステロイドを作らなくなります。)
  3. 糖尿病(ステロイドが筋肉や脂肪を燃やし血糖値を上昇させます)
  4. 胃潰瘍や十二指腸潰瘍(ステロイドが胃腸に働くことでストレスがかかります)
  5. 高血圧(ステロイドで血管が収縮します)
  6. 肝機能障害(ステロイドが肝臓を通して炎症を抑えるため負担がかかります)
  7. 緑内障、白内障(ステロイドで眼圧が上がったり、目のレンズが濁ったります)
  8. 精神障害(ステロイドでイライラしたり眠れなくなります)
  9. 骨粗鬆症(ステロイドは骨にも作用し、骨密度が低下します)
  10. 生殖機能障害(ステロイドホルモンは性ホルモンと似ている部分があるため、生理不順が起きます)
  11. 満月様顔貌、顔面紅斑(ステロイドは体内に水分を取り込むためむくみやすくなります)

全身に関わる病気から、目や骨や皮膚など細部に渡るところまで様々な副作用が起こるのがステロイドです。

 

2.花粉症でのステロイド注射(ケナコルト)の効果

ケナコルト注射を、花粉症の期間中に筋肉注射します。

花粉症でのステロイド注射としては、ケナコルト(一般名デポステロイド)が使われます。ケナコルトの適用疾患は多岐にわたっており、実は花粉症もケナコルトの添付文章での適応に含まれています。つまり製薬会社は、花粉症での使用を推奨していることになるのです。

ケナコルトの持続期間とその強さですが、ケナコルト40mg(1バイアル)を筋肉注射した場合は、投与後3時間で最高血中濃度51.7μg/dLに達します。その後ゆっくりと減少して6日後になると約1/3の15.2μg/dLにまで減少し、14~21日間はその血中濃度が持続します。

数字を書かれてもピンと来ないと思いますが、ケナコルト15.2μg/dLをプレドニンに換算すると、10~15mg内服した血中濃度に相当すると思われます。つまりケナコルト40mg筋注は、プレドニン10~15mg内服を2〜3週間投与したことになると考えてみればよいと思います。

 

プレドニンといわれてもピンと来ない人も多いかと思います。花粉症の治療で使われる飲み薬の一つに、セレスタミン配合錠があります。このお薬もステロイドが含まれています。

セレスタミン配合錠1錠あたり、プレドニン2.5mg相当のベタミタゾンというステロイドが含まれています。つまりセレスタミン配合錠で換算すると、ケナコルトを注射することで4錠から6錠分のお薬が2~3週間持続します。

 

ちなみに投与量ですが、ケナコルトの添付文章では以下のようになっています。

成人にはケナコルトとして、1回20〜80mgを1〜2週おきに筋肉内注射すること。

ただしこの添付文章は、ケナコルトの筋肉注射に対応する全ての疾患に適応されています。病気によっても必要なお薬の量は変わります。

花粉症でも症状やその人の状態にもよりますが、一般的には20mg~40mgを花粉症シーズン中に1~3回程度投与することが多いです。

ケナコルトの効果はどれくらいあるのでしょうか?ケナコルトを筋肉注射した時の効果を疾患ごとに比較した結果をご紹介したいと思います。結果は、効果があった人数/筋肉投与した人数(効果があった%)で示しています。

疾患名 筋肉注射の効果
花粉症 163/172(94.8%)
関節リウマチ 54/59(91.5%)
全身性エリテマトーデス 5/5(100%)
慢性湿疹 28/28(100%)
神経性皮膚炎 32/57(56.1%)
ネフローゼ症候群 7/9(77.8%)
蕁麻疹 8/12(66.7%)
気管支喘息 235/256(91.8%)
紫斑病 7/8(87.5%)

このように花粉症はケナコルト注射することで、実に9割近い患者に効果を示すのです。これは非常に高い数値です。一般的に花粉症に使われる治療薬の第一選択肢は抗ヒスタミン薬ですが、その効果は5~7割のことが多いです。

さらに、

  • 膠原病や全身性エリテマトーデスなどの膠原病内科
  • 気管支喘息などの呼吸器内科
  • 慢性湿疹や蕁麻疹などの皮膚科
  • ネフローゼ症候群などの腎臓内科

などの様々な科の免疫疾患に対してもケナコルトは使われており、優れた効果を認めています。

 

3.花粉症に対してステロイド注射の厚生労働省の見解

花粉症に対してステロイド注射を乱発することはお勧めできないが、絶対にダメというわけではないです。

賛否両論色々あるのが花粉症のステロイド注射です。では、国の見解はどうでしょうか?

花粉症でのステロイド注射であるケナコルト注射について、厚生労働省が医療従事者向け花粉症専門相談箱2012の中でコメントしています。まずは原文のままご紹介し、後ほど一つずつ解説していきます。

デポステロイド筋注は保険で認められていますが、問題は副作用です。 ケナコルトAを1バイアル(40mg)筋注しますと、血中濃度は筋注後3時間でピークとなり、 その後3週間まで有効濃度が維持されます。 一方、血中コルチゾール値は筋注後2週間の間0となり、副腎皮質機能の抑制は3~4週間続きます。 また、排卵に与える影響については、卵胞期初期に投与した場合には排卵は2週間以上抑制され、 再開は3~6週後になると報告されています。2000年に行われました花粉症患者さんを対象とした 調査では545名中12.7%の方が本治療の経験がありましたが、その効果に対する満足度は他の治療法 に比較してむしろ低値であり、かつ1シーズンに3回以上筋注を受けていた方が37.5%もあり、さらに 副作用について説明を受けている方は40.6%にすぎませんでした。他に副作用の少ない治療法が多数 あり、本治療法は一般的にはすすめられません。患者さんの強い希望により使用する場合でも副作用の可能性、禁忌疾患(高血圧、糖尿病、感染症、緑内障、白内障など)の有無を確認し、十分なインフォームドコンセントを得る必要があります。

長いし難しい内容も多々ありますので、一つ一つ解説していきましょう。

  • デポステロイド筋注は保険で認められています。

つまり国は花粉症に対してステロイド注射を保険で認めているということで、ケナコルトの効果を評価していることになります。

  • 問題は副作用です。(省略)血中コルチゾール値は筋注後2週間の間0となり、副腎皮質機能の抑制は3~4週間続きます。

ケナコルトを打つことで、体内のステロイドを作っている副腎が頑張って作らなくていいやと勘違いしてしまうのです。完全に0というのは少し言い過ぎかと思いますが、少なくなるのは間違いありません。ステロイドホルモンが0ということは、急性副腎不全という状態になります。症状としては、

  • 吐き気・嘔吐・下痢・腹痛などの腹部の症状
  • 発熱
  • 脱水症状・血圧低下
  • 意識障害
  • 呼吸困難

これらの症状は命に直結することもあります。もしケナコルトを注射してこれらの症状が認められるのであれば、疾患に限らずケナコルトの筋肉注射は行わないでしょう。

実際に添付文章での副作用報告でも、1102人の中で副腎不全になった方は0.1%となっています。さらにケナコルト注射による副腎不全で命を落とした方は報告されていません。

  • また、排卵に与える影響については、卵胞期初期に投与した場合には排卵は2週間以上抑制され、 再開は3~6週後になると報告されています。

こちらも頻度としては添付文章では1102人で14人(2.8%)で、月経異常となっております。

  • 2000年に行われました花粉症患者さんを対象とした調査では545名中12.7%の方が本治療の経験がありましたが、その効果に対する満足度は他の治療法に比較してむしろ低値であり、(省略)

先ほどのケナコルトの添付文章では9割に効果ありとなっているのに対して、厚生労働省では効果満足度が低いとかいてあります。どっちが本当なのかと疑問になるかと思いますが、これは言葉のあやです。ケナコルト注射で完全に花粉症が治ると言われて打った方は、効果があったとしても症状が残れば満足度は低くなるでしょう。

満足度という言葉はかなり抽象的な言葉ですし、どのような説明を受けて、どれくらい効果を期待したのかでかなり変わってきます。

要するに花粉症に対してのステロイド注射は、全ての人に完全に症状がとれるわけではないということが見解かと思います。そのことを隠して、「ステロイド注射を打てば全てが治せる」といって乱発することに対する警告だと思います。

  • 他に副作用の少ない治療法が多数あり、本治療法は一般的にはすすめられません。

これはその通りだと思います。花粉症に関しては副作用が少ないお薬が多数出ており、それを使用せずに第一選択肢でステロイド注射を選択することはリスクが高いと思います。

花粉症にどのような薬があるかは、「花粉症の治療薬・治療法の選び方」をお読みください。

  • 患者さんの強い希望により使用する場合でも、副作用の可能性、禁忌疾患(高血圧、糖尿病、感染症、緑内障、白内障など)の有無を確認し、十分なインフォームドコンセントを得る必要があります。

これは花粉症のステロイド注射に限らず、どの治療に対してもいえることです。どのような効果があり、どのような副作用があるのかを患者さんに理解していただく必要があります。

 

花粉症のステロイド注射をする医師がほとんど正しい説明しないまま、効果の点ばかりを取り上げて乱発している実態があります。それに対して国として警報を鳴らしている状態だと思います。しかしこの警報が魔女狩りの合図のいわんばかりに全ての症例で否定しているように感じるのも事実です。

厚生労働省も花粉症のステロイド注射をダメといっているわけではありません。しっかりと患者さんの状態を見極めたうえで、副作用のリスクをよく説明してステロイド注射を行うようにとしています。

その点を踏まえて、ケナコルト注射はどのような人に適応か考えてみましょう。

 

4.花粉症にケナコルト注射が勧められる人とは?

全ての花粉症患者さんに対してケナコルト注射(ステロイド注射)を勧めるのは、あるべき治療ではありません。どういった人が適応外と考え、どういった人が適応があると考えられるかみてみましょう。

 

4-1.花粉症にケナコルト注射が勧められない人は?

  • 花粉症が内服薬でコントロールできる方
  • ケナコルト注射に対して注意が必要な疾患をお持ちの方
  • 小児・65歳以上の方
  • 妊娠中の方

まず大前提として、花粉症が内服薬などで十分にコントロールできている方はステロイド注射をあえて打つ必要はありません。内服薬がいらなくなるといって勧めている医師もいますが、これはどうひいき目に見ても間違いです。

最低限、アレグラザイザルなどの抗ヒスタミン薬をまずは試してみるべきです。

次に、ケナコルト注射の慎重投与や禁忌にあたる人は投与しない方が良いと思います。

まず禁忌ですが、

  1. 感染症・全身の真菌症の患者[免疫が抑制されるため]
  2. 結核性疾患の患者[免疫が抑制されるため]
  3. 消化性潰瘍の患者[胃潰瘍が悪化するため]
  4. 精神病の患者[中枢神経に作用して精神症状が悪化するリスクがあるため]
  5. 単純疱疹性角膜炎の患者[免疫が抑制されるため]
  6. 白内障や緑内障の患者[水晶体線維や眼圧に影響するため]
  7. 高血圧症の患者[電解質代謝作用により、 高血圧症が悪化するため]
  8. 電解質異常のある患者[電解質代謝作用により、 電解質異常が悪化するため]
  9. 血栓症の患者[血液凝固促進作用により、血栓症が悪化するため]
  10. 直近に手術を行った患者[創傷治癒が障害されることがあるため]
  11. 急性心筋梗塞を起こした患者[心破裂を起こしたという報告があるため]

これらの項目に当てはまる方は、ケナコルト注射は原則禁忌とされています。

さらに慎重投与ですが、

  1. 糖尿病の患者(血糖値が上昇するリスクがあるため)
  2. 骨粗鬆症の患者(骨がもろくなる可能性があるため)
  3. 腎不全の患者(腎機能を悪化させる可能性があるため)
  4. 肝機能低下・脂肪肝の患者(脂質代謝に働き肝機能が悪くなるため)
  5. 脂肪塞栓症の患者(脂質代謝に関与し塞栓がさらにできる可能性があるため)
  6. 重症筋無力症の患者(使用初期に症状が一時的に悪化することがあるため)
  7. 甲状腺機能低下の患者(甲状腺機能が悪化することがあるため)

以上の禁忌項目11に慎重投与7、計18項目に当てはまる方は、花粉症にケナコルト注射を使用することはお勧めできません。

ケナコルト注射は一度注射すると、効果が2~3週間続きます。投与する前にもう一度、自分が当てはまらないか確認しましょう。

また高齢者では今まで指摘されてなくても、上にあげた18項目のうち1つか2つは隠れていることがあります。さらに高齢者の場合は、副作用が強く表れることも報告されています。65歳以上の方は控えた方が良いでしょう。

一方で小児も発育が遅くなったり、頭蓋内圧亢進症状といった副作用報告されているため、花粉症にケナコルト注射お勧めできません。

妊娠予定の方や妊娠中の方も、ケナコルトによって動物実験で新生児の副腎萎縮が見つかったと報告があることから、使用は考えた方が良いと思います。

 

4-2花粉症でケナコルト注射が適応になる方は?

花粉症が難治性であり、禁忌や慎重投与に当てはまらない方は考慮して良いと思います。

花粉症の薬が何やっても効かない人も少なくありません。そうした場合にガイドラインでは、少量のステロイドを短期で内服するとを勧めています。実はガイドラインでも、ステロイドは切り札としての位置づけなのです。

一方で短期間のみと明記しているのは、副作用が出ることも考慮しているからです。しかし花粉症は、どうしてもスギ花粉の飛散量で症状に波がある病気です。花粉症でステロイドの効果を持つ内服薬としては、セレスタミン配合錠がよく使われます。

実際の臨床で花粉症の重度の症状の人に対して、セレスタミンを5日間内服しただけでその後の症状が治まったという人はまずいないでしょう。

花粉症をセレスタミン配合錠でシーズン中乗り切ることは、ケナコルト注射を打つこととほぼ同じことになります。さらにセレスタミン配合錠を長期間内服した場合は、慎重にお薬を減らしていく必要があるお薬です。

詳しく知りたい方は、「セレスタミン配合錠が自己中断できない理由」を読んでみてください。

このため花粉症の症状が強い方では、ケナコルト注射を考慮しても良い場合もあります。特に病気がない若い男性は、ケナコルト注射の適応になりやすいです。女性の場合は月経が遅れることが3~4%の割合であるため、注意が必要です。

 

5.ケナコルト注射の副作用

ケナコルト注射の副作用としては、頻度では満月様顔貌が最も多いです。高血圧や糖尿病のリスクを高めるため、治療の前に心身の状態をチェックしてみましょう。

ケナコルト注射は必要に応じて行ってもよい治療かと思います。ただしケナコルト注射をする前に、どんな副作用が起こるか理解しておきましょう。

ケナコルト注射の重大な副作用は以下のようになります。

  1. 誘発性感染:1.0%
  2. 続発性副腎機能不全:0.1%
  3. 糖尿病:0.5%
  4. 消化性潰瘍:0.1%
  5. うつ病:0.1%

これらの頻度は1%以下であり、これで命を落としたような報告は現在のところありません。

ケナコルト注射の高頻度の副作用としては、

  1. 満月様顔貌:3.9%
  2. 月経異常:3.6%
  3. 痤瘡:2.5%
  4. 皮下出血:1.0%
  5. 皮膚萎縮:1.0%
  6. 膿瘍:1.0%
  7. 高血圧:0.5%
  8. 糖尿病:0.5%

があります。特に皮膚委縮は腕に注射すると起きやすく、皮膚が陥没してしまいます。このためケナコルト注射は、お尻(腰)に打つことが多いです。

ケナコルト注射での一番多い副作用は、満月様顔貌です。これは顔が真ん丸になることを言います。一番多くても、軽症を含めて3.9%の頻度となっています。

また高血圧や糖尿病は、お酒をよく飲む人や甘いものが好きな人ではより副作用が起きやすくなります。

ケナコルト注射を打つ前に心配な方は、採血して一度自分の状態が問題ないか確認してから投与する方が良いと思います。ケナコルト注射は一度注射すると2~3週間作用が持続するため、副作用も長く続いてしまうのです。

 

まとめ

  • 花粉症に使われるステロイド注射はケナコルト注射である。
  • ケナコルト注射は1回投与することで2~3週間持続する注射薬です。
  • ケナコルト注射は様々な副作用が起こり得る注射薬です。
  • ケナコルト注射は花粉症内服薬だけではコントロールできない重症例の方には考えても良い治療です。

花粉症のケナコルト注射の是非についてですが、まとめると全ての人にケナコルト注射を打つは非だと思います。

一方で花粉症の症状が治らず苦しんでる方は、状態を見極めながらケナコルト注射を打つのは是だと思います。ただしその場合も、ステロイドがどのようなお薬で、副作用がどのようなものがあるのかしっかり理解することが大切です。

自分自身の花粉症の症状を今一度振り返り、花粉症に対してケナコルト注射を打つべきかどうかよく考えてから使うようにしましょう。

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元住吉 こころみクリニック
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