過呼吸・過換気症候群の正しい対処法とは?袋は使うべき?
不安が強まってくると、「なんだか息苦しい」と感じることがあります。
このような経験は多かれ少なかれ、みなさんあるかと思います。ですが不安や恐怖があまりに強いと、息苦しさがさらに不安を強めて過呼吸に発展してしまうことがあります。過呼吸になると、身体に様々な症状がみられます。
このように過呼吸になってしまう病気を過換気症候群といいます。世間では、過呼吸症候群ともよばれています。
過呼吸では様々な症状に襲われて、「このまま死んでしまうのではないか」とまでの恐怖に襲われます。周りの人も慌てふためいて、救急車を呼ぶことも少なくありません。
ですが過呼吸は、時間がたつと自然と落ち着いてきます。救急車にのって病院につく頃には落ち着いていることもあります。そして後遺症になることもありません。
過呼吸になってしまったら、どうすればよいのでしょうか?かつてはペーパーバック法とよばれる袋を使った対処法が一般的に行われていましたが、現在ではむしろリスクが高いとされています。
ここでは、過呼吸(過換気症候群)の正しい対処法についてお伝えしていきたいと思います。
1.過呼吸を正しく理解して対処法を考えよう
過呼吸は、精神的ストレスが原因で症状がでています。あくまで症状は一時的で、気持ちを落ち着かせて呼吸を整えられたら、自然と落ち着いていきます。
過呼吸の正しい対処法を知るためには、過呼吸に関して正しく理解することが大切です。過呼吸がどのようにして発展してしまうのかをお伝えしていきます。
過呼吸発作は、ほとんどの場合が身体の異常はありません。高齢者で持病などがなければ、原因は精神的なストレスになります。急激な恐怖に突然襲われるパニック発作で過呼吸がみられることが多いですが、過呼吸はパニック障害に限ったものではありません。
息苦しさから「もっとたくさん空気を吸わなければ」という気持ちが働きます。こうして息が浅くなり、呼吸数が増えていきますが、息苦しさは酸素が足りないわけではないので改善されません。こうしてどんどん呼吸が早くなっていきます。
呼吸が早くなってくると、肺では過換気状態になります。身体から二酸化炭素が空気に逃げていってしまい、血液から酸がぬけていってアルカリにバランスが傾いてしまいます。
身体は酸素がたくさんある状態とうけとるため、血管を収縮して血流を低下させます。脳血流が低下すれば、めまいやふらつきとなります。心臓の血流が低下すれば、動悸や胸痛が生じます。さらには、神経の働きに重要な役割のあるカルシウムイオン(Ca2+)のバランスが崩れて、手足がしびれて筋肉が痙攣してしまったりします。
これらはすべて、恐怖で呼吸が早くなっていることが原因です。呼吸が整ってくれば、落ち着いてくるのです。ですから過換気症候群での過呼吸の対処法として大切なのは、
- 気持ちを落ち着かせること
- 呼吸を整えること
この2つになります。
2.はじめて過呼吸になった時は、しっかりと診断が必要
はじめて過呼吸がみられたり、何らかの持病がある方では、本当に過換気症候群なのか検査して診断することが必要です。
過呼吸が明らかに精神的ストレスが原因であれば、後ほどご説明するように冷静に対処することが求められます。呼吸を整えさせて、気持ちを落ち着かせることが大切です。
はじめて過呼吸がみられたり、何らかの持病がある方では、それが本当に過換気症候群が原因なのかを見極める必要があります。何かの病気が原因になって呼吸が苦しくなり、その結果として過呼吸発作が起きることもあるのです。
- 呼吸器疾患(肺炎・喘息・COPD・気胸・肺血栓塞栓症・肺水腫など)
- 心疾患(心不全)
- 糖尿病(糖尿病ケトアシドーシス)
- 甲状腺機能亢進症
- 脳腫瘍
などです。このためはじめは内科や救急科で診察をうけて、しっかりと検査をする必要があります。このような身体の異常が認められなければ、過換気症候群と診断されます。
過換気症候群と診断されれば、その後はむしろ冷静な対処が望まれます。救急車を呼んだりして周りも慌てふためくと、心配になってますます過呼吸が強くなります。これからお伝えしていく正しい対処法を行っていきましょう。
3.過呼吸(過換気症候群)の間違った対処法
ペーパーバック法は、現在ではむしろ間違った対処法とされています。本人の呼吸困難感をあおってしまうこともありますし、酸素がいかなくなるなどのリスクもあります。
過呼吸のときの対処法として、かつてはペーパーバック法が一般的に知られていました。
これは、過呼吸になっている患者さんを紙袋の中で呼吸をさせる方法です。自分が吐いた呼吸を再びすうことになるので、二酸化炭素の多い空気が吸えることで呼吸が落ち着くといわれてきました。
確かにこの方法をすることで、血液のバランスは整って症状は多少軽減されるかもしれません。患者さんの中には呼吸が落ち着いて、それによって気持ちも落ち着いてくる方もいるかと思います。
しかし患者さんの中には、ますます不安が高まってしまう方もいます。考えてみれば当たり前ですが、紙袋で呼吸しろといわれたら息苦しく感じるかと思います。こうして過呼吸が続いてしまう方もいます。
それだけだとよいのですが、このペーパーバック法にはデメリットもあります。大きくは2つのデメリットがあります。
- 酸素がうまく脳にいかなくなってしまうリスクがある
- 身体の病気が原因の時に、致命的になることがある
紙袋で呼吸をしていれば、少しずつ紙袋内での酸素濃度が低下してしまいます。過呼吸が続いていると、本当に酸素が足りなくなってしまうリスクもあるのです。死亡例も報告されています。
また、身体の病気が原因で過呼吸が起こっている時は、過呼吸によってバランスをとっていることもあります。それが崩れてしまうと致命的になってしまうこともあるのです。
過換気症候群による過呼吸は、しばらく時間がたてば落ち着いていきます。このようなリスクをとってまで、ペーパバック法は行うべきではないとされています。
4.過呼吸(過換気症候群)の正しい対処法
息苦しさが出てきたら、何かで注意をそらしましょう。胸ではなくお腹で息を吸う意識をし、吐くことを意識します。頓服薬がある方は服用しましょう。もし過呼吸になってしまっても、しばらくすれば必ず落ち着きます。
それでは、過呼吸発作のときにはどのような対処法が正しいのでしょうか。過換気症候群での過呼吸の対処法のポイントは、以下の2つになります。
- 気持ちを落ち着かせること
- 呼吸を整えること
これをもとに、具体的な対処法をみていきましょう。
①会話する・アメをなめる(注意をそらす)
ストレスを大きく感じたり、過呼吸になりそうな予感がした時に、意識的に代わりの行動を行うことでしのげることがあります。
精神的ストレスの原因や息苦しさから注意をそらすのです。会話をしたり、アメをなめたりしてみましょう。息を何回も吸うことができませんから、過呼吸に発展しなくてもすむことがあります。
ただし、呼吸がコントロールできなくなってきたら、アメはすぐに口から吐き出しましょう。
②うつぶせに寝る・座って前かがみになる
過呼吸発作のときは、胸式呼吸をしていることが多いです。息を吐き切らずにすぐに吸ってしまうので、十分に息を吸えていないという呼吸困難感を感じやすくなっています。
腹式呼吸にしてお腹で息を吸うようにすれば、息がしっかりと吐けるので呼吸困難感は薄れていきます。うつぶせで寝たり、前かがみに座ると、胸で息を吸うことがしづらくなります。このため、自然と腹式呼吸をしやすくなります。
③ゆっくり息を吐く
過呼吸発作が発展してしまうのは、呼吸の回数が増えているためでした。呼吸が落ちつけば、自然とよくなっています。呼吸を落ちつかせるためには、吐くことを意識することが大切です。
みなさん息を吸って吐いてみてください。息を吸うのは一瞬ではありませんか?一方で、吐くのは時間がかかります。過呼吸の時は「息を吸わなきゃ」という気持ちが強くなってしまい、息を吸うのは一瞬なのでどんどんと早くなってしまいます。
このような時は、息を吐くことで時間をかけて呼吸することが大切です。まだ余裕がある段階では、口をすぼめて息を吐くようにしましょう。ひどくなってしまったら、吸う:吐く=1:2となるように「吸って・吐いて・吐いて」のリズムで呼吸を意識させてください。
④頓服薬をのむ
過換気症候群による過呼吸は、精神的ストレスが原因となって生じています。ですから、気持ちを落ち着ける抗不安薬を頓服として服用するのも方法です。
頓服薬は即効性のあるお薬で、過呼吸発作が起こりそうな時に服用すればすぐに効いてくれます。あくまで予防的に使うもので、過呼吸になってからでは無理にお薬を飲まなくて大丈夫です。
頓服として使われるお薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が中心です。
- ワイパックス(一般名:ロラゼパム)
- ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)
- デパス(一般名:エチゾラム)
- レキソタン(一般名:ブロマゼパム)
- リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)
- リーゼ(一般名:クロチアゼパム)
このようなお薬を使っていきます。ベンゾジアゼピン抗不安薬の中で、効果の実感のあるお薬を使っていきます。
これらの頓服薬は、お守りとしてもっているだけでも安心感につながります。急に不安におそわれた場合は、お薬は噛んで服用しても問題ありません。少し苦いですが、むしろそちらの方が早く効きます。
ワイパックスでは噛んでも甘みがありますし、噛んだ時(舌下)の吸収効率もよいといわれています。このため私は、ワイパックスを処方することが多いです。
⑤焦らずに落ち着くのを待つ
過呼吸は、しばらくすると自然と落ち着いていきます。特に後遺症などもないので、焦らずに落ち着いて待ちましょう。およそ15分~30分くらいで落ち着くことがほとんどです。
このような時に、無理にお薬を使う必要もありません。お薬が効き始めるよりも前に、自然と過呼吸が落ち着くことも多いです。
5.過呼吸(過換気症候群)での家族や友人の接し方
身近な人が過呼吸になってしまうと、とても慌ててしまうと思います。そんな時、周囲の家族や友人はどのように対応したらよいでしょうか?
過換気症候群による過呼吸ということがハッキリわかっている場合、家族や友人はどのように接したらよいのかをお伝えしていきます。
①冷静に対応する
過呼吸は、恐怖がどんどんとエスカレートしてしまうことで発展していきます。もし周りの家族や友人が慌ててしまったら、患者さんは「大変なことが起きているに違いない」という思いをますます強くしてしまいます。
慌てふためいて救急車を呼んでしまうこともありますが、多くの方が救急車の中で落ち着いてきて、病院につく頃は症状がなくなっていることも少なくありません。
ですから、家族や友人は冷静に対応することが求められます。過呼吸は自然とおさまるものということを理解して、慌てずに対応しましょう。本人に安心感を与えることを意識してください。
そういう意味では、人をたくさん集める必要はありません。あまりに大人数ですと余計に混乱してしまいます。落ち着かせる人を決めて、その人が落ち着かせるようにしましょう。
②話しかけて安心させる
過呼吸の時は、安心させることがとても大切です。ですからそばに寄り添って、背中をさすりながら話しかけてください。
「何かあっても私がついているから大丈夫だよ」「落ち着いて呼吸をしたら必ずよくなるから大丈夫」などと、低いトーンでゆっくりと声をかけてあげましょう。
このように安心感を与えることがとても大切です。まだ過呼吸発作になる前で会話をする余裕があれば、話しかけてみましょう。過呼吸の正しい対処法でもお伝えしましたが、会話をすることで呼吸の回数が抑えられます。
③落ち着いたところに移動する
過換気症候群による過呼吸は、苦手な状況がきっかけになっていることがあります。たとえばパニック障害では、「逃げ場がない状況」「助けが得られない状況」などを苦手とします。
例えば電車やバスなどの公共機関、歯医者や美容院、人込みなどで不安が高まります。閉塞感のない落ち着いたところに移動してあげることで、不安が落ち着くこともあります。
過呼吸発作がひどいときには無理をすることはありませんが、できるならば落ち着いた場所に移動させてあげましょう。
まとめ
過呼吸は、精神的ストレスが原因で症状がでています。あくまで症状は一時的で、気持ちを落ち着かせて呼吸を整えられたら、自然と落ち着いていきます。
はじめて過呼吸がみられたり、何らかの持病がある方では、本当に過換気症候群なのか検査して診断することが必要です。
ペーパーバック法は、現在ではむしろ間違った対処法とされています。本人の呼吸困難感をあおってしまうこともありますし、酸素がいかなくなるなどのリスクもあります。
過換気症候群での過呼吸の正しい対処法は、以下の5つになります。
- 会話する・アメをなめる
- うつぶせに寝る・座って前かがみになる
- ゆっくりと息を吐く
- 頓服薬を飲む
- 焦らずに落ち着くのを待つ
過換気症候群での過呼吸をみたら、友人や家族は以下のように対応しましょう。
- 冷静に対応する
- 話しかけて安心させる
- 落ち着いたところに移動する
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