高血圧の治療ガイドライン(2014年度版)のまとめ

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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高血圧の治療をしていくのに、それぞれの医者の経験にまかせていると治療結果にばらつきが出てしまいます。

このため、複数の専門家でガイドラインが作られており、標準的な高血圧治療が示されています。

高血圧治療ガイドラインは5年ごとに見直されていて、現在最新のものは2014年4月に改訂されました。

このガイドラインは、さまざまな研究結果を踏まえながらも、できる限り日本の実情に沿うように意識して作っています。

ここでは、最新のガイドラインに基づいて、日本の高血圧治療の概要をわかりやすくお伝えしたいと思います。

 

1.日本の高血圧の実情

原因が、食塩過剰から肥満にかわりつつあります。特に、中年以降の男性が要注意です。

2010年に行われた国民健康・栄養調査によると、30歳以上の日本人男性の60%、女性の45%が高血圧と判定されました。年齢が高いほど高血圧がみられて、50歳以上の男性と60歳以上の女性では60%を超えています。

高血圧の有病者は、約4300万人(男性2300万人・女性2000万人)ともいわれています。女性は減少傾向がみられているのに対して、中年以降の男性は上昇傾向がみられているので要注意です。

高血圧の治療薬を飲む方は年々増えていて、60歳以上で50%以上、70歳以上で60%以上となっています。ですが、しっかりと血圧コントロールできているのは半数程度です。

それでも過去50年をみていくと、収縮期血圧の平均値は年々減少しています。このため、脳卒中の死亡率は大きく低下しました。ですが外国と比較すると、日本の脳卒中はまだまだ多いです。

日本はもともと食塩摂取量が多く、高血圧が多い民族でした。ですが、少しずつ減塩が意識されるようになっています。その一方で、肥満による高血圧が少しずつ増加してきていて、徐々に食塩過剰摂取型から肥満型にかわりつつあります。

 

2.ガイドラインでの血圧の評価

診察室血圧と家庭血圧で基準が異なります。できるだけ、血圧は低めにコントロールしたほうがよいとされています。

高血圧の基準値をガイドラインに基づいてまとめました。

世界のガイドラインにおいて、診察室での血圧140/90以上を高血圧とすることは共通しています。

それ以下は正常とされていますが、できるだけ血圧が低い方が心血管病の発症率が低く、血圧が悪化しにくいことが研究で分かっています。できるだけ低めに血圧をコントロールした方がよいということですね。

最近では、家庭血圧を測ることが推奨されています。家庭血圧では、135/85以上を高血圧とします。至適血圧は125/80未満、この間を正常高値血圧としています。

また、血圧は1日の中で変化していて、一般的には昼に高く夜に低くなります。24時間血圧測定を行う場合は、平均値で130/80以上、昼間血圧で140/85以上、夜間血圧で120/70以上を高血圧とします。

 

3.高血圧のリスク分析

低リスク~高リスクの3段階にわけて治療方針を決めていきます。

高血圧のリスク分類をガイドラインをもとに、わかりやすく整理しました。

高血圧を治療するにあたっては、リスクを総合的に考えていきます。

糖尿病は特に強い危険因子なので、糖尿病があると一発で高リスクになります。それ以外にも、慢性腎臓病や血管系の臓器障害などがあると、すでに高血圧のダメージが臓器に出ているということなので、一発で高リスクとなります。重度のメタボがある時も、糖尿病と同様に高リスクになります。

 

4.高血圧の治療方針

まずはリスクで分けて、それによって薬での治療のスピードがかわてきます。

高血圧の治療方針について、ガイドラインに基づいてまとめました。

初診時に血圧が高くても、あまりに高い場合を除いては高血圧と診断はしません。日を改めて複数回血圧を測定して高血圧かどうかを判断します。家庭血圧の測定をしていただき、白衣高血圧や仮面高血圧がないかを確認します。

その結果として高血圧が確認できたら、その原因が他の病気にないかどうかを検討します。何か原因が見つかれば、その病気の治療をすすめていきます。

特に原因が見当たらない場合は、高血圧の治療がはじまります。

まず、治療のスピードを決定するために、リスク評価をします。上述したように、低~高の3段階でリスク評価をします。そして、すべての高血圧症の患者さんに、生活習慣の修正を指導します。

低リスクの方でしたら、生活習慣の指導をしてから3か月経過を見ます。中リスクの方でしたら、1か月の経過をみます。高リスクの方には、すぐに薬物療法を開始します。薬を使う場合でも、その効果を高めてくれるので、結果として薬の量が少なくて済みます。

 

5.高血圧ガイドラインでの降圧目標

降圧目標は年齢や合併症の有無によって違います。

高血圧の降圧目標について、ガイドラインに基づいてまとめました。

できるだけ低い血圧にした方が、心血管病のリスクが下がるといわれています。正常血圧の中でも、より低い血圧を目指した方が、心血管系のリスクを減らすといわれています。

ですが、薬を使ってどこまで下げるべきかと考えると、ある程度の目安が必要です。

若・中年者では、140/90まで降圧できれば、心血管病のリスクが十分に低下することが示されています。糖尿病や慢性腎臓病(CKD)の方では、心血管系のリスクが高いので、より厳格な130/80を降圧目標とします。

後期高齢者では、臓器障害を伴うことが多いので、血流が臓器に行かなくなってしまうのを防ぐために、緩めの150/90を降圧目標として、可能ならば140/90を目指すことになっています。

 

6.高血圧の治療―生活習慣の修正

生活習慣の修正を基本にして、降圧薬を使っていきます。

生活習慣の修正は、薬を使うにしても必ず行います。減塩や運動などの生活習慣のアプローチでは降圧効果に限界はあります。

ですが、お金もかからず安全性も高く、また生活習慣病全体に効果があるので、心血管系のリスクが減っていきます。薬を使うにしても、その効果を高めてくれるので、結果として薬の量が少なくて済みます。

高血圧によい生活習慣を、ガイドラインに基づいてまとめました。

7.高血圧の治療―降圧薬

積極的な適応のあるものはその薬を使います。特になければ、Ca拮抗薬やARBから使うことが多いです。

最初に選択すべき降圧薬は、ARB、ACE阻害薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、利尿薬の5種類があります。これらのうち、患者さんの持病や状態にあわせて適切な薬を選択します。

まずは、「この薬を使うべきだ!」という積極的な適応があるときは、その薬を使います。

高血圧の治療薬のうち、積極的に特定の薬をつかう条件を、ガイドラインに基づいてまとめました。

積極的に使う薬がないときは、まずはARBや長時間作用型のCa拮抗薬を使うことが多いです。確実な降圧効果が期待できて、副作用も少ないためです。

利尿薬は、多くの他の降圧薬の効果を増強します。このため併用薬としてよく使われて、食塩摂取が多い方には効果的です。

βブロッカーは、心不全の予後がよくなることが示されていますが、他の薬に比べると、脳卒中の抑制効果が劣ってしまいます。

高血圧の治療薬の使い方をガイドラインに基づいてまとめました。

まずは長時間作用するものから、単剤で少しずつ増量していきます。副作用がでれば薬を変更します。単剤で治療していても降圧目標まで20/10以上高い時は、薬を組み合わせます。

組み合わせを変えながら治療をしてもコントロールがつかない場合、3剤で治療します。それでもだめならば、さらに1剤追加します。

単剤をどんどん増やしていくよりも、異なる作用の降圧薬を併用していく方が、降圧効果が大きいことが示されています。併用して血圧を厳格にコントロールすると、心血管病のリスクが軽減することもわかっています。

 

8.降圧薬はどのように併用していくのか

単剤で効果が乏しいときは、相性のよい組み合わせを選んで併用していきます。

高血圧の薬の併用に関して、表まとめました。

高血圧治療ガイドライン2014では、2剤の併用として3パターンがすすめられています。

  1. ARBorACE阻害薬+Ca拮抗薬
  2. ARBorACE阻害薬+利尿薬
  3. Ca拮抗薬+利尿薬

この3パターンよりは劣りますが、以下の2つも併用されます。

  1. Ca拮抗薬+βブロッカー
  2. 利尿薬+βブロッカー

βブロッカーは糖や脂質代謝に悪影響があるため、高齢者や糖尿病の方には積極的には用いられません。併用にあたっても同じことが言えます。 

 

まとめ

日本の高血圧の原因は、食塩過剰から肥満にかわりつつあります。特に、中年以降の男性が要注意です。

診察室血圧と家庭血圧で基準が異なります。できるだけ、血圧は低めにコントロールしたほうがよいとされています。

低リスク~高リスクの3段階にわけて治療方針を決めていきます。

リスクに分けて、薬での治療のスピードが変わります。

降圧目標は年齢や合併症の有無によって違います。

生活習慣の修正を基本にして、降圧薬を使っていきます。

積極的な適応のあるものはその薬を使います。特になければ、Ca拮抗薬やARBから使うことが多いです。

単剤で効果が乏しいときは、相性のよい組み合わせを選んで併用していきます。

日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」

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