熱中症予防に塩分補給は必要?熱中症の原因・症状から対策と対処法を考えよう

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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夏になって暑くなってくると、熱中症に気をつけることが必要です。

熱中症は、暑い環境で生じる体の障害です。軽症では脱水による症状が主体ですが、重度になると体温調節機能が障害されて、異常な体温上昇から意識障害まで来たします。

普通に生活している人が熱中症になることは少ないですが、真夏の炎天下や高温環境で仕事をしなければいけない方はもちろんのこと、趣味のスポーツで大量に汗をかく方、「かくれ脱水」がすすみやすい高齢者では注意が必要です。

ここでは、熱中症の原因と予防対策について詳しくお伝えしていきたいと思います。

 

1.熱中症を発症するメカニズムとは?

塩分の喪失と脱水が原因となります。

熱中症は、かつては日射病とも呼ばれていた病気です。熱中症は暑い環境で生じる体の障害ですが、その症状の進み方によって3段階に分けられています。

  1. 熱失神・熱けいれん
  2. 熱疲労
  3. 熱射病

暑さが原因で脱水が進んでいき、そして次第に体温調節メカニズムが上手く機能しなくなってしまいます。そうなると体温が異常に高温となってしまい、全身の臓器に大きなダメージを与える病気です。

最重症の熱射病では対応が遅れると亡くなることも少なくなく、その死亡率は10%~30%ともいわれています。毎年、熱射病でなくなってしまった痛ましいニュースを耳にします。

熱中症が発症するには、2つの原因があります。

  • 脱水
  • 塩分の喪失

大量に汗をかくことで塩分が失われていきます。このときにまず起こるのが、筋肉のけいれんです。ナトリウムが足りなくなると神経が興奮しやすくなり、そのために痛みのある筋肉のけいれんが引き起こされます。内臓にある平滑筋も痙攣するため、腹痛や嘔吐がみられることもあります。

そして体温が高くなると、体の表面の血管は拡張して熱を放散させようとしますが、脱水のために血液がうまく頭に回らなくなります。このために、めまいや数秒の失神がみられることがあります。これらが熱痙攣や熱失神です。

さらに熱中症がひどくなると、脱水がさらにすすんで体温も高くなっていきます。血液のめぐりも悪くなり、動悸がして頭痛や嘔吐、めまいや立ちくらみがみられます。このような状態が熱疲労です。

この状態が限界を超えて体温の調節メカニズムが破綻してしまうと、体温はどんどんと高くなってしまいます。発汗しなくなっていることも多いです。全身の臓器が障害され、中枢神経にもダメージを与えます。

 

2.暑い時だけ気を付ければ大丈夫?熱中症の原因

熱中症は屋外だけでなく、汗をかけない高温多湿の室内で過ごしている時にもみられます。高齢になると体温調節が鈍くなり、「かくれ脱水」が進むこともあるので注意が必要です。

熱中症というと、真夏の炎天下でかかる病気というイメージが皆さんにもあるかと思います。そのような状況で注意するのはもちろんですが、「かくれ脱水」といわれるように、高齢者などで気づかないうちに脱水がすすみ、熱中症になってしまうことがあります。

熱中症は、「環境」と「身体」と「行動」の3つの要因が重なることで発症します。一つずつみていきましょう。

みなさんが一番イメージしやすいのは、環境要因でしょう。気温が高い、湿度が高い、風が弱い、日差しが強い、閉め切った室内、エアコンのない部屋、急に熱くなった日などは注意が必要です。2016年の夏は熱波の襲来が予想されており、十分な注意が必要です。

人間の体は汗をかくことで体温を下げていきますが、湿度が異常に高いと汗をかけなくなります。その結果として、熱が体内にこもってしまいます。これに脱水が加わり、熱中症を引き起こします。

次に、身体の要因をみていきましょう。年齢を重ねてくると、体温調節が苦手になっていきます。高齢者は寒さには弱いのですが、暑さにはむしろ鈍感になります。汗をあまりかかないのに水分は失われていきますから、「かくれ脱水」の状態になりやすいのです。

高齢者でなくても、何らかの基礎疾患がある患者さんは注意が必要です。肥満や糖尿病の患者さん、低栄養の方、アルコール依存症の患者さんは、熱中症になりやすいですし、体力も落ちているので注意が必要です。

最後に行動の要因ですが、激しい労働や運動があげられます。活動することで体内では熱が作られますが、暑い環境で上手く体温調整ができなくなってしまうことがあります。灼熱環境下での運動や作業を無理に続けた時や、激しい筋肉運動、慣れない運動をする時などは注意をしましょう。

 

このように熱中症は屋外だけでなく、高温多湿の室内で過ごしている時にもみられます。室内だからといって安心はしないようにしましょう。最近では「かくれ脱水」での熱中症の患者さんも増えてきています。ご高齢になると体温調節が難しくなってきますので、ご注意ください。

 

3.熱中症を予防する対策は?

水分補給と避暑、疲労を避けることが大切です。

熱中症予防には、

  • 水分補給をしっかり行うこと
  • 暑さを避けること
  • 疲れないこと

以上の3点が重要です。具体的なポイントをまとめてみます。

<水分補給>

  • 水分補給は時間を決めて、のどが渇いてなくてもこまめに行うこと。
  • あまりに汗をかくときは塩分を一緒に取ること。(スポーツドリンクは水分・塩分の両方がとれる点で優れています)

<暑さを避ける>

  • 服装に注意し、通気性の良いものを着ること。(麻や綿など通気性のよい生地を選び、下着には吸水性や速乾性にすぐれた素材を選ぶとGOOD!)
  • 外では日よけをして、直射日光を避けること。
  • 暑さや日差しにさらされる環境で活動をするときは休憩をこまめにとり、無理をしないこと。
  • 扇風機やエアコンで室温を適度に下げること。(過度に節電しない)
  • 冷却シートやスカーフ、氷枕などの冷却グッズを利用する。(太い血管が体の表面近くを通っている首元や脇を冷やすと、効率よく体を冷やせてGOOD!)

<疲れないこと>

  • 体調管理をすることで、熱中症にかかりにくい体づくりをし、丈夫な体にすること。
  • 適度な睡眠をとること。

 

4.熱中症予防に塩分補給は必要?

汗ばむ程度の生活の方では、水分補給が大切です。滝のように汗が出る時には、塩分と水分を意識した補給をしましょう。

みなさんがよく疑問に思われるのが、「熱中症予防に塩分はどれくらいとったらよいのか?」ということです。

結論から申し上げると、滝のように汗をたくさんかく状況なら塩分摂取が大切ですが、普通に過ごしていて汗ばむ程度であれば、塩分を気にする必要はありません。

これには大きく2つの理由があります。

  • 日本人は塩分摂取量が多いこと
  • 塩分を過剰にとっても排泄されるだけであること

日本人はもともと、塩分が多い食生活をしてきています。最近では減塩の意識が広まってきて、塩分量は減ってきてはいます。しかしながら今なお、平均塩分摂取量は1日10gほどとなっていて、高血圧のガイドラインなどの目標である6gと比べると多い数値となっています。

また塩分は、身体の調節機構が働きます。塩分が足りなくなってくると、汗をかいても汗の塩分濃度が低下していきます。そして尿から排泄される塩分の量も少なくなります。過剰に塩分をとっても余計な分は排泄されるだけではあるのですが、よほど汗をかかない限りは問題ないのです。

ですから、滝のように汗をかくような現場作業員、激しい運動をした時などは塩分を意識した補給をした方がよいかと思います。最近は熱中症対策としてOS-1などが発売されていますが、普通のスポーツドリンクでも十分です。塩飴をなめて水分を補給する形でも大丈夫です。

それに対して汗ばむ程度の生活の方では、塩分の摂取を意識する必要は特にありません。それよりもむしろ水分をこまめにとることが大切です。水分の絶対量が足りなければ、いくら塩分が足りていても脱水になってしまいます。そこから熱中症を発症してしまうのです。

そのような方は、せいぜい夏は料理の味を少し濃い目にする程度でもよいかもしれません。夏ばてで食欲も落ちがちになりますので、味が濃いと食欲もでてきます。その程度の意識で大丈夫です。

なお、腎不全の患者さんは水分・塩分の過剰摂取に繋がってしまいます。このため水分はこまめに少量ずつ、塩分は指定されている1日摂取量を守ってください。暑さを避け、暑い中での運動を控えることを主体とした熱中症対策を行ってください。

 

5.熱中症でできる環境面での対策

室内環境では、環境面で出来る対策もあります。

炎天下や高温多湿の室内で仕事や作業をすることが分かっている場合は、環境を常に注意することが大切です。とくに現場監督をする方は、熱中症を予防するために環境の気温や湿度に注意することが大切です。

熱中症危険度を常に意識して、水分や塩分の補給を促すことはもちろんのこと、できる限りのことをして気温や湿度が高くなるのを防ぐ必要があります。

どうにも対策のしようがない暑熱環境もあるかと思いますが、建物や敷地などではできることもあります。夏の暑さをしのぐために、環境面でできる対策もみていきましょう。

  • 日射を防ぐ(すだれ・よしず・シェード)

室内に入る熱の主たる経路は「窓」です。窓からの日射の侵入を防ぎ、室温の上昇を抑制して冷房用エネルギーを削減します。すだれ・よしずが吸収した熱を屋内に持ち込まないよう、屋外に設置することが重要になります。

  • 壁や窓を緑で覆う(壁面緑化)

緑のカーテンは、簡単にできる対策です。外壁の高温化、蓄熱を防ぎ、窓から入る日射を減らします。植物の蒸散作用などにより葉っぱの温度が上昇しないので、緑のカーテンはより快適です。虫が多くなるのが難点ですが…

  • 窓の断熱を強化する(日射遮蔽フィルム)

窓に特殊なフィルムを貼ることで、室内に入る日射を減らすことができます。室温の上昇を抑制することができます。

  • 水で路面を冷やす(打ち水)

日中に打ち水することで、路面温度が10℃程度低下し、人が路面から受ける放射熱を減らすことができます。手軽に実施できるメリットがあります。早朝や夕暮れ時に打ち水するとその効果が持続し、特に夕方に行うと、夜間まで路面温度の低下効果が持続します。雨水や風呂の残り水などで行ってみるのもよいかも知れません。

  • 建物の中の風通し(窓や扉を解放する)

外気が涼しい朝や夜には室内の空気がこもらないように、外気を積極的に取り入れて建物の中を風が通り抜けるようにしましょう。特に建物の両側の窓(例えば、建物の南側と北側)を開放すると効果的です。熱い空気は上昇するため、できるだけ高い位置の窓から熱い空気を外に逃がすとより効果的です。冷房中も扇風機を併用することで、快適&省エネにつながります。

  • 室内で発生する熱を減らす(発熱源を減らす)

室内には様々な家電製品やパソコンなどのIT機器があり、それぞれの機器は発熱しています。夏季にはできるだけ熱の発生を抑えるため、使用頻度の低い電気ポットやコピー機などがあれば、電源をオフに。照明やパソコンなどは、消費電力の少ない機種を選ぶことで、快適&省エネに繋がります。

 

6.熱中症の症状と対処法、救急車をよぶタイミングは?

呼びかけに反応しなかったり、自分で水分補給できない時は、救急車を呼びましょう。乳幼児や高齢者は見かけ以上に重症のことがあるので、体調が悪ければ病院に受診するようにしましょう。

熱中症についてみてきましたが、症状に応じてどのような対処法が必要になるのでしょうか?また、救急車をよぶほどの緊急事態は、どのようなときでしょうか?順番にみていきましょう。

  • めまいや立ちくらみ、顔のほてり

めまいや立ちくらみ、顔がほてるなどの症状が出たら、熱中症のサインです。一時的に意識が遠のいたり、腹痛などの症状が出る場合もあります。熱失神や熱疲労になります。

脳に血液が回りにくい状態であり、足を頭より高くして涼しい場所で休ませてください。

  • 筋肉痛や筋肉のけいれん

「こむら返り」と呼ばれる、手足の筋肉がつるなどの症状が出る場合があります。筋肉がピクピクとけいれんしたり、硬くなることもあります。熱痙攣になります。

大量に汗をかいたあと、水だけ飲んで塩分を取らなかった場合に起こることが多いです。応急処置として、塩分の補給をしましょう。手っ取り早いのはスポーツドリンクです。梅干しや塩飴などをなめてもいいです。

  • 体温が高い、皮膚の異常

体温が高くて皮膚を触るととても熱い、皮膚が赤く乾いているなどの症状も熱中症のサインです。

これだけで重症度は判断できませんが、涼しい所に異動して水分を補給するようにしましょう。

  • 体のだるさや吐き気

体がぐったりして力が入らなくなり、吐き気やおう吐、頭痛などを伴う場合もあります。このような症状がある時は、熱疲労になります。

大量に汗をかいたことにより重症の脱水症状を起こしているため、塩分を含んだ水分を補給します。スポーツドリンクやOS1(経口補水液)があれば理想です。また、熱失神と同様に脳に血液が回りにくくなっているため、同じように足を頭より高く上げて休ませます。涼しいところに必ず移動させてください。

  • 呼びかけに反応しない、まっすぐ歩けない

声をかけても反応がなかったり、おかしな返答をする、体がガクガクとひきつけを起こしたり、まっすぐ歩けないなどの異常があるときは、熱射病にかかっている可能性が高いです。

このような時は、すぐに救急車で搬送してください。

  • 水分補給ができない

呼びかけに反応しないなど、自分で上手に水分補給ができない場合は大変危険な状態です。

この場合は、むりやり水分を口から飲ませることは控えます。すぐ病院を受診してください。こちらも救急車での搬送が望ましいです。直ちに要請してください。

 

体温が高く、不自然な言動や意識障害がみられる熱射病は、命の危険がある重症の熱中症です。体温が異常に高くなってしまっているため、できるだけ早く体温を下げる必要があります。

救急車が到着するまでの間、首や腋窩部、鼠径部に氷や保冷剤などを当て、体温を下げます。乳幼児や高齢者の場合、脱水症状になっていても身体が反応していない場合があります。思っているよりも重症なことがあるので、もし乳幼児や高齢者が炎天下で体調が悪いようであれば、自己判断はせずに病院に必ず受診しましょう。

高齢者でも若年者でも、早期発見・早期治療がカギになります。とにかく周りが気付いてあげること、無理をさせないことが大切です。万が一熱中症になってしまった場合は、適切な対応を実践することが重症化を防ぐことにつながります。

 

7.熱中症で救急車で運ばれてくる患者さんとは?

高齢者の方は脱水が進みやすいです。また、学生の部活動など長時間の運動でも注意してください。

それでは、熱中症になるのはどのような方でしょうか?最後に、病院に運ばれてくる熱中症の患者さんの実際をお伝えしていきたいと思います。

ご高齢の方は暑さに鈍くなっているとお伝えしましたが、我慢強い方も多いです。真夏にエアコンを使われずに自宅内で熱中症になられ、救急車で搬送されてしまう方をよくお見かけします。

また炎天下の中、日課の散歩を欠かさずされていて、熱中症になり搬送されることもあります。体温調節機能は若い頃より格段に落ちてきておりますし、ご無理はなさらずに室内の適切な温度と湿度を保つよう心がけてください。28℃前後で十分ですので、気を付けてください。

また、中学生や高校生のクラブ活動中の熱中症もしばしば見かけます。熱中症は、根性や気合でどうにかなる問題ではありません。周りの先生方や友人が注意して見てあげるようにしてください。練習時は必ず水分補給をこまめに行いましょう。長時間の練習は禁物です。適宜、日陰や屋内で休憩をとれるように心がけてください。

 

まとめ

熱中症について、原因と症状から予防と対処法を考えてきました。熱中症は予防と早期発見がとても大切です。そのためにも、夏場は注意するようにしましょう。

塩分は汗の量を目安にして、あまりに汗をかくようなら補給をするようにしてください。それよりも、こまめに水分補給をすることが大切です。気になる方は、食事で少し味の濃いものを食べるくらいでも十分です。

昔はスポーツドリンクやエアコンのような便利なものはありませんでした。

多くの家庭ではお母さん、おばあちゃんが自宅で漬物を作り、食卓に並べ、またお茶を飲むときなどに一緒につまんだりしていたようです。これが適度な塩分摂取に繋がっていたのですね。先人の知恵は本当に素晴らしいものがありますね。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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