抗うつ剤の妊娠と授乳への影響とは?

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抗うつ剤はすぐにやめることもできない薬ですので、女性の方は妊娠や授乳への影響を心配をされる方も多いと思います。予想外の妊娠がわかって慌てている方もいらっしゃるかもしれません。

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飲みながら授乳しても大丈夫でしょうか?

ここでは、そんな抗うつ剤の妊娠や授乳に対する疑問について考えていきたいと思います。

 

1.抗うつ剤の妊娠への影響

奇形が増えるという報告は一部の抗うつ剤だけです。出産後の赤ちゃんに影響がでることがあるので、産科の先生に服薬していることを必ず伝えましょう。

抗うつ剤の薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)をみてみると、投与してはならないとなっているか、投与しないことが望ましいと書いてあることがほとんどです。抗うつ剤は胎盤を通して、赤ちゃんに一部伝わってしまいます。

ですが、抗うつ剤を服用することで奇形が増えるという報告は、一部の薬で報告されているくらいです。ただ、製薬会社としてはリスクが否定できないので、万が一を考えて使ってはいけないとしているのです。ですから、過度に心配しないでください。

 

抗うつ剤が影響するのは、むしろ赤ちゃんが産まれた後です。妊娠の終わりに抗うつ剤を服用していると、赤ちゃんが生まれてきてから離脱症状や中毒症状が起こることがあります。

症状の程度に差がありますが、SSRIやSNRIでは10~30%程度に認められると言われています。よく見られる症状としては、落ち着かない、すぐに泣く、ふるえ、筋肉が緩む、筋肉が硬くなる、呼吸困難になる、哺乳がうまくできないなどです。

ですが、早めに見つけて症状を和らげる治療をおこなっていけば、問題ないことがほとんどです。後遺症が残るたぐいのものではないので、こちらも過度に心配する必要はありません。

大切なことは、抗うつ剤を内服していることを、ちゃんとお産をする病院で伝えてください。事前にしっておけば、離脱症状のリスクも考えて赤ちゃんの状態を注意深く見守ることができます。また、何か症状がみられると、すぐに原因がわかるので早期治療につなげられます。

 

ですから抗うつ剤を飲んでいる方は、計画的に妊娠を考えていただいた方がよいです。ですが、万が一薬を飲んでいる時に妊娠が発覚したとしても、過度に心配しなくて大丈夫です。胎児への影響はほとんどないと考えられますので、主治医と相談して、できる範囲で薬を減らしていくようにしましょう。漢方や心理療法などもうまく利用すると、薬を減らしていくこともできます。

 

2.抗うつ剤の妊娠への影響の比較

抗うつ剤のほとんどは、「絶対に安全とは言えないけど、大きな問題はないだろう」と考えられています。もちろん薬は飲まないに越したことはないですが、お母さんが不安定になってしまったら赤ちゃんにもよくありません。ですから、無理をしてはいけません。抗うつ剤の妊娠への影響を比較してみましょう。

 

2-1.抗うつ剤のガイドラインでの位置づけ

FDA基準をもとに妊娠へのリスクを考えますが、日本の添付文章をもとにした山下分類にそって処方せざるをえません。

抗うつ薬の妊娠への影響を比較しました。FDAと山下分類で比較しています。

アメリカ食品医薬品局(FDA)が出している薬剤胎児危険度分類基準というものがあります。現在のところ、もっとも信頼性が高い基準となっています。この基準では、薬剤の胎児への危険度を「A・B・C・D・×」の5段階に分けられています。

A:ヒト対象試験で、危険性がみいだされない
B:ヒトでの危険性の証拠はない
C:危険性を否定することができない
D:危険性を示す確かな証拠がある
×:妊娠中は禁忌

妊娠での薬の危険性をまとめたものは、日本では公的なものがありません。薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)を参考にした山下の分類というものがあります。この分類では、「A・B・C・E・・E+・F・-」の8段階に分類しています。妊娠と授乳をひっくるめて分類しています。

A:投与禁止
B:投与禁止が望ましい
C:授乳禁止
E:有益性使用
:3か月以内と後期では有益性使用
E+:可能な限り単独使用
F:慎重使用
-:注意なし(≠絶対安全)

 

2-2.抗うつ剤での妊娠へのリスク比較

SSRIのパキシルとアモキサン以外の三環系抗うつ薬は避けた方が無難です。 

SSRIでは、大きな奇形がみられたという報告はなく、ほとんど影響がないといわれてきました。最近になって、パキシルでは心室中隔欠損という心臓奇形が増加する可能性が指摘されています。否定的な報告もあり、まだはっきりとわかっていませんが、妊娠を考える時は避けた方が無難です。他のSSRIはあまり影響がないと考えられています。

SNRIやNaSSAについても、新しい薬なので情報が十分とは言えませんが、明らかに関係している奇形の報告はありません。

昔からある三環系・四環系抗うつ薬では、大量に使った時に奇形の報告もされているので、妊娠中の安全性は劣ります。特にアナフラニールでは、心血管奇形が増えるという報告もあり注意が必要です。

ドグマチールは生理不順になったりすることが多く、母乳へも薬が出ていきやすいので、妊娠出産を考える女性には使いにくいお薬です。

妊娠への薬の影響を詳しく知りたい方は、
妊娠への薬の影響とは?よくある6つの疑問
をお読みください。

 

3.抗うつ剤の授乳への影響

多くの抗うつ剤で、安全性は高いと考えられています。

抗うつ剤の薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)をみてみると、授乳は避けることが望ましいとしているか、授乳をしてはいけないとなっています。

ですが、海外のガイドラインなどをみてみると、抗うつ剤による授乳への安全性は高いといわれています。抗うつ剤は母乳に出ていってしまうことは避けられません。ですが、これによる赤ちゃんへの影響はほとんどないと考えられています。

ですから、医師の立場としては、「安全性は高いといわれているけど、リスクも踏まえて自己判断してください」と患者さんに説明せざるを得なくなってしまいます。母乳保育のメリットは、単に栄養補給だけでなく様々なメリットがあることがわかってきているので、止めてくださいとも言いにくいのです。

 

抗うつ剤は服用しながら授乳をしても大きな問題はおきないと考えられていますが、用心するならば生後2か月は気を付けた方がよいかも知れません。この頃は、肝臓や腎臓の機能が未熟なので薬が分解されにくく、また脳のバリア(脳血液関門)も十分に出来上がっていません。少量の薬も、大きく影響してしまうことがあります。メリットの大きい初乳だけは赤ちゃんに与えて、生後2か月までは人工乳保育をするのも方法です。

抗うつ剤を飲みながら母乳保育をしていく決断をされた方は、できるだけ赤ちゃんに影響が出ない工夫をしましょう。抗うつ剤は安全性が高いものが多いので、薬を変更する必要はありません。授乳した直後に内服をするなど、飲み方の工夫をしましょう。一般的に母乳中の薬の濃度が最高になるのは、服用してから2~3時間後です。できるだけ、そのピークをずらしましょう。

 

赤ちゃんの影響を心配して、薬を中止しようと思われる方もいらっしゃるかと思います。ですが、無理をしてはいけません。お母さんが健康で元気でなければ、お子さんの成長にも影響しますので、ご自身のことを大事にしてください。

ただでさえ、人生でも数えるほどの大イベントを乗り越え、生活も一変したかと思います。夜泣きで赤ちゃんに起こされることもしばしば、ホルモンのバランスも崩れていますし、妊娠出産のダメージの回復もあります。ですから、必要なお薬はしっかりと続けていく必要があります。

抗うつ剤は比較的安全といわれていますし、わずかな抗うつ剤が母乳に含まれていたとしても、赤ちゃんにとってもメリットも大きいこともあります。主治医の先生に相談して、気持ちを整理しましょう。

 

4.抗うつ剤の授乳への影響の比較

抗うつ剤のほとんどは、比較的安全といわれています。ですが、薬の説明書には「服用する場合は授乳を避けること」とされています。それでは、どの抗うつ剤で安全性が高いでしょうか?抗うつ剤の授乳への影響を比較してみてみましょう。

 

4-1.ガイドラインでの位置づけ

Haleの分類からは安全性が高いと考えられますが、日本の添付文章をもとにした山下分類にそって処方せざるを得ません。

抗うつ剤の授乳への影響を、Hale分類と山下分類で比較しました。

薬の授乳に与える影響に関しては、Hale授乳危険度分類がよく使われます。Medication and Mothers’ Milkというベストセラーの中で紹介されている分類です。

この分類では「L1~L5」の5段階に薬剤を分類しています。新薬は情報がないのでL3に分類されます。

L1:最も安全
L2:比較的安全
L3:おそらく安全・新薬・情報不足
L4:おそらく危険
L5:危険

授乳での危険度を分類したものも妊娠と同様、日本にはありません。薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)を参考にした山下の分類があります。上述しました通り、「A・B・C・E・・E+・F・-」の8段階に分類しています。

A:投与禁止
B:投与禁止が望ましい
C:授乳禁止
E:有益性使用
:3か月以内と後期では有益性使用
E+:可能な限り単独使用
F:慎重使用
-:注意なし(≠絶対安全)

 

4-2.抗うつ剤での授乳へのリスク比較

ほとんどの抗うつ剤が安全と考えられています。特にジェイゾロフトでは、安全性が高いと考えられています。

SSRIは、どれも比較的安全といわれています。4剤で比較すると、パキシルとジェイゾロフトで母乳に出てしまう薬の量が少ないことがわかっています。ジェイゾロフトの方が全体的に副作用も少ないので、Haleの分類ではL1となっています。レクサプロでは、薬が母乳に出ていきやすいことがわかっています。それでもL2となっているのは、レクサプロが副作用の少ない抗うつ剤だからです。

その他の抗うつ剤でも、比較的安全性は高いといわれています。ですが、日本の添付文章を参考にした山下分類では、ほとんどが授乳を避けた方がよいor授乳禁止となっています。古くからある三環系抗うつ薬のアモキサンだけが、有益使用となっています。

これは、古い薬なので添付文章が厳しくないためです。確かにアモキサンは、三環系抗うつ薬の中では副作用が少ないです。ですが、より副作用の少ない新しい抗うつ剤が軒並み禁止とされているのでとても不思議です。おそらく時代の変化を反映しているのでしょう。

薬の授乳への影響に関して詳しく知りたい方は、
授乳への薬の影響
をお読みください。

 

まとめ

奇形が増えるという報告は一部の抗うつ剤だけです。出産後の赤ちゃんに影響がでることがあるので、産科の先生に服薬していることを必ず伝えましょう。

妊娠の際は、SSRIのパキシルとアモキサン以外の三環系抗うつ薬は避けた方が無難です。

授乳に関しては、多くの抗うつ剤で安全性は高いと考えられています。特にジェイゾロフトでは、安全性が高いと考えられています。

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