パキシルの性欲低下・性機能障害と5つの対策

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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薬にはいろいろな副作用がありますが、恥ずかしくて言いづらいものとして、「性」の問題があります。我慢されている方が多いと思いますが、パートナーもあることなので大きな悩みです。

抗うつ剤のほとんどで性機能低下(性欲低下・勃起障害・生理不順など)があります。その中でもパキシルは、性の悩みが必発といってもよいお薬です。

パキシルが性にどのような影響を与えるのでしょうか?ここでは、その対策も含めて考えていきたいと思います。

 

1.パキシルによる性機能障害とは?

性欲低下・勃起障害・オーガズム障害がみられることが多いです。

性機能障害といっても、いろいろな状態があります。性に関係する反応を細かくみると5段階にあります。

①性欲・欲望
②性的興奮
③持続
④絶頂
⑤解消

抗うつ剤の副作用として問題になるの①・②・④が多いです。

性欲そのものがなくなってしまう方も多いです。本人としては性欲があるわけではないので、あまり苦痛ではありません。ですが、パートナーとの関係性などで苦慮される方が多いです。また、性的興奮が起こらないことがあります。性欲をもとにした感情の高まりと、身体の反応がおこりません。男性でいえば「勃たない」状態になります。もう一つは、絶頂の問題です。ようは「イケない」状態です。これも、パートナーとの関係性にも影響しますので、悩まれている方が多いです。

性機能障害で悩まれている方は、自分がどこの問題なのかを考えてみましょう。男性は、①と④が、女性は②の障害がみられる方が多いです。

 

2.パキシルで性機能障害がみられる原因

セロトニン2A作用が関係していると考えられます。

抗うつ剤が性機能障害をもたらすメカニズムは、詳しくはわかっていません。ただ、性機能障害の副作用が多い抗うつ剤では、セロトニン再取り込み阻害作用が強いという共通点があります。ですから、セロトニンが関係していることは間違いがないだろうと言われています。

そのなかでも、セロトニン2A受容体作用が関係していると考えられています。この受容体への働きをブロックするようなお薬では、性機能障害が少ないです。ですが、まったく無くなるわけではないので、セロトニン2Aの影響だけではないのです。パキシルはセロトニンを増やすお薬なので、セロトニン2A受容体を刺激してしまい性機能障害は起こりやすいです。

 

セロトニン以外にも、性機能障害に影響する物質としては、アドレナリンやドパミンがあります。パキシルは、どちらも作用も微々たるものですので、ここでは参考までにお話ししていきたいと思います。

勃起する時には、陰茎に血液が集中する必要があります。そのためには、血管の調整をになうアドレナリンα1受容体の働きが大きく関係しています。抗α1作用があると、勃起障害につながります。また、射精障害への影響が強いといわれています。

また、ドパミンはプロラクチンというホルモンと関係しています。ドパミン2受容体がブロックされると、プロラクチンが増加します。プロラクチンは、女性のおっぱいを出すホルモンです。ですから、プロラクチンが出ているということは、妊娠子育てをしている状態ということになります。そのような状態では、とても次の子供を産める状態ではないですね。このため、生理が乱れて性欲も低下します。男性でもプロラクチンは分泌されていますので、性欲低下の原因になります。

 

パキシルのその他の副作用について知りたい方は、
パキシルの副作用(対策と比較)
をお読みください。

 

3.パキシルと他の抗うつ剤の比較

パキシルは、抗うつ剤の中でも性機能障害が多く7~8割の方にみられます。

性機能障害は抗うつ剤全般でよくみられます。抗うつ剤はどれもセロトニンを増やす効果があるためです。

それでは、日本で発売されている抗うつ剤の中で比較すると、どのような頻度の違いがあるのでしょうか?2009年に発表された、様々な論文を検討した報告(メタアナリシス)をご紹介したいと思います。

抗うつ剤の性機能障害を比較してみましょう。

これを見ていただくと、SSRIでは性機能障害の割合が高いことがわかると思います。その中でも、パキシルはジェイゾロフトに次いで高く、その割合は70%にも達しています。ほぼ必発とも言えます。この2剤よりは低くなり、レクサプロで40%程度、ルボックス/デプロメールではさらに低くて30%程度となっています。

サインバルタなどのSNRIや、古くからあるトフラニールなどの三環系抗うつ剤は、この2つのグループの間に位置して、40%程度となっています。

新しい抗うつ剤のうちリフレック/レメロンは、性機能障害が少ないといわれていますが、20%程度で認められます。他の抗うつ剤よりも少ない理由としては、セロトニン2・3受容体をブロックする作用があるためです。同じような働きをもつ鎮静系抗うつ薬のテトラミド・デジレル/レスリンでも、性機能障害のリスクは比較的少ないです。デジレル/レスリンでは、ごくまれに持続性勃起障害という副作用がおこることもあります。

代表的な抗うつ薬の副作用のうち、性機能障害を比較して表にしまとめました。

4.SSRIでの性機能障害の内容の違い

パキシルでは、様々な性機能障害がみられます。

性機能障害がおきるといっても、同じSSRIで比べても症状の出方は異なります。①性欲②興奮③絶頂のどこで問題になるのか、SSRIごとに特徴があります。

性機能障害全体の割合でみると、ジェイゾロフト>パキシル>>レクサプロ>ルボックス/デプロメールとなります。

ジェイゾロフト:①6割②5割③5割
パキシル:①6割②6割③6割
レクサプロ:①0.5割②0.5割③3割
ルボックス/デプロメール:①2割②1割③1割

と報告されています。ジェイゾロフトとパキシルは、すべての面で性機能障害が大きいことがわかるかと思います。レクサプロとルボックス/デプロメールは特徴が出てきます。レクサプロは、オーガズム障害が中心で、性欲には問題がないことが多いという点です。ルボックス/デプロメールの方が全体的には性機能障害が少ないですが、この点は考慮する必要があります。性欲低下で困っている方には、レクサプロの方がよいといえます。

 

5.性機能障害(性欲低下)の対策

「性」の悩みは、診察の中で相談していただける方はとても少ないです。私の勤務していた病院では、話題にしにくい副作用を問診票にして確認していましたが、実に多くの方が悩まれていることに気づかされました。

抗うつ剤は長い付き合いになることが多いので、ちゃんと主治医に打ち明けてください。治療方針にも影響がありますし、何より納得してお薬を続けていただきたいのです。その上で、どのような対策があるのか、お伝えしたいと思います。

 

5-1.様子を見る

自然と改善することもあるので、何とかなる方は様子を見ましょう。

性機能障害に対する感じ方は人それぞれです。今の状態では仕方がないと思える方もいれば、死活問題と感じる方もいます。本当のところを話していただきたいです。それが個人的な不快感であってもかまいません。パートナーとの関係性という方もいらっしゃいます。性の問題は、本能であるがゆえに、おろそかにしてはいけません。

その上で、許容できるのでしたら様子をみていくのも方法です。様子を見ていく中で、少しずつ改善していく方もいらっしゃいます。半年ほどすると30~45%の方で、改善がみられたという報告もあります。

性機能障害は後遺症が残るようなものではありません。お薬のせいで起きているだけで、中止することで回復します。治るまでは仕方がないと思える方は、そのまま様子を見ていきましょう。

 

5-2.減薬する

問題ない状態でしたら、減量するのも方法です。

パキシルの量を減らすことで、副作用が軽減する可能性はあります。ですが、減量したらよくなるという明確な根拠はありません。少し減らすくらいでは、性欲低下は大きく変わらないことが多い印象です。勃起障害や射精障害の方に関しては、改善することがあります。

症状が安定していて、パキシルを減量しても問題ない状態でしたら、少しずつ減量していくのも一つの方法です。

 

5-3.飲み方を工夫する

できるだけ、性交時にお薬の影響がないようにするのも方法です。

できるだけ薬の影響を少なくするという意味では、「性交後に服用する」「朝食後に服用する」など、飲み方を工夫することは一つの方法です。お薬は飲んでから暫くして血中濃度のピークがやってきて、副作用が一番強くなります。そして少しずつ減っていきます。ですから、性交のタイミングに血中濃度が少なくなるように工夫するのも方法です。

これに関しても、明確な根拠はありません。勃起障害や射精障害の方には効果があることがありますが、性欲低下はかわらないことが多いです。

 

5-4.改善の可能性のある薬を追加する

デジレル/レスリンをはじめとした鎮静系抗うつ薬、勃起障害にはバイアグラなどのED治療薬を追加することもあります。

抗うつ剤の中でもセロトニン2A受容体をブロックするものは、性機能障害が少ないです。ですから、リフレックス/レメロン・テトラミド・レスリン/デジレルといった鎮静系抗うつ薬を追加すると、まれに改善することがあります。この方法は、追加することで他にもメリットがある時に検討します。例えば、睡眠が不安定な場合には、これらの薬は眠りが深くなるので有用です。デジレル/レスリンでは、まれにみられる副作用として持続性勃起障害があります。勃起障害の方には、意識的に使ってみてもよいかもしれません。

勃起障害の方には、ED治療薬も有効といわれています。バイアグラ、シアリス、レビトラといった薬です。様々な研究をまとめた報告(メタアナリシス)では、「抗うつ剤に対する男性の勃起障害に有効」としています。本当に困っている方には、処方も検討します。女性に対しては、日本では発売されていないブプロピオンという抗うつ剤が有効と考えられています。

 

5-5.他の抗うつ剤に変更する

SSRIでは、ルボックス/デプロメールやレクサプロ、NaSSAのリフレクス/レメロンに変更することもあります。

以上の方法が取れない時は、性機能障害が少ない抗うつ剤に切り替えていくことで改善を目指します。実際に薬を切り替えることでよくなる方はいらっしゃいます。

SSRIの中では、ルボックス/デプロメールやレクサプロは選択肢に入ります。性欲低下や勃起障害がみられる方ではレクサプロ、オーガズム障害がみられる方はルボックス/デプロメールがよいと思われます。

NaSSA(リフレックス/レメロン)も性機能障害の副作用が少ないです。ですが、SSRIと比べると眠気や体重増加といった副作用が強く、デメリットもしっかりと考慮しなければいけません。

 

6.薬のせいだけでない性機能障害

薬の要因がなくなっても改善がないときは、後遺症ではありません。他の原因を考えましょう。

性機能障害がおこる原因は薬のせいだけではありません。そもそも、調子が悪いときには性欲がなくなっていくことが多いです。典型的なうつ病の方ですと、物事に対する興味が薄れていき、食欲などとともに性欲も落ちていきます。確かに抗うつ剤は性機能障害の副作用が多いですが、このような症状としての性欲低下と重なってしまうこともあります。

それ以外にも、パートナーとの人間関係も上手くいかなくなることがあります。性の問題はなかなかパートナー間でもオープンにできないことも多いので、お互いが気を遣ってしまいます。その他、生活上のことから、心理的なこと、体調のことなど、いろいろな原因で性機能障害は認められます。睡眠も性機能と密接に関係しているといわれています。ですから、睡眠状態が安定していることも重要です。

ホルモンが影響することもあります。上で述べたように、プロラクチンが高いと性機能障害につながります。男性ホルモンのテストステロン、女性ホルモンのエストロゲンが低下していると、性機能低下がみられます。また、甲状腺ホルモンが減るとプロラクチンが増えてしまいますので、これも性機能障害の原因となります。

パキシルは性機能障害の副作用が多い薬ですが、薬を中止しても改善しない時は、後遺症というわけではありません。他の原因を考えていくようにしましょう。

 

まとめ

パキシルの性機能障害では、性欲低下・勃起障害・オーガズム障害がみられることが多いです。

セロトニン2A作用が関係していると考えられます。

パキシルは、抗うつ剤の中でもジェイゾロフトに次いで性機能障害が多く、7~8割の方にみられます。

性機能障害(性欲低下)の対策としては、

  • 様子をみる
  • 減薬する
  • 飲み方を工夫する
  • 改善の可能性のある薬を追加する
  • 他の抗うつ剤に変更する

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