パキシルの副作用(対策と比較)

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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パキシルは、新しい抗うつ薬であるSSRIに分類されますので、副作用は従来の抗うつ薬に比べると少ないです。ですが、同じSSRIの中で比較するとデメリットが目立ってしまうので、インターネットで検索してみても「パキシルは怖い薬」という噂が書いてあります。ですが、効果はしっかりとしている薬ですし、パキシルが身体に合う方もたくさんいます。

それでは、パキシルのどのようなことに気をつければよいのでしょうか?ここでは、パキシルの副作用に関してお伝えしていきたいと思います。

 

1.「パキシルは怖い」といわれている理由

 いろいろな理由がありますが、ちゃんとした精神科医と相談して服用する分には問題ありません。

インターネットで検索してみると、パキシルの悪い評判がいっぱい出てきます。抗うつ剤に共通していわれていることは、

  • 自殺のリスクが高まる
  • 攻撃的になる
  • 吐き気がひどい

この3つが中心かと思います。パキシルだけはそれに加えて、

  • 一度飲んだらやめられない
  • 太ってしまう

この2つもよくあげられています。

結論から申し上げると、ちゃんとした精神科医の管理のもとで服用している分には問題ありません。火のない所に煙は立たぬということわざの通りで、このように恐れられるにも原因はあります。ですが、どういう時に注意が必要なのか?どうなったら危険なのか?を考えれば、過度に心配しなくても大丈夫なのです。

 

まずは、抗うつ剤に共通する3つから見ていきましょう。

自殺のリスクが高くなることに関しては、「薬を飲んだから自殺する人が増えた」という明確な結果がでているわけではありません。ただ、若い方では自殺のリスクが高まることが統計的にわかっているのでより注意が必要です。自殺を注意しなければいけないのは、本当に調子が悪いときではありません。そんな時は、自殺をしようとする気力すら起こらないことが多いです。一番注意をしなくてはいけないのは、治療をはじめて少し良くなってきたときなのです。パキシルに限らず、良くなっている時には注意をしなくてはいけないのです。

また、パキシルは気持ちを高めていく薬です。元々気分の波がある方や、脳にダメージがある方、衝動的になりやすい方に薬を使ってしまうと、「あおって」しまうことがあります。刺激を受けやすくなってしまって、攻撃的になってしまうことがあるのです。薬を使う段階で医者が判断していますし、急になってしまう類のものではありませんし、過度に心配しないでください。

吐き気がひどいのは、SSRIの副作用としてよくみられます。抗うつ剤の中でも多く、セロトニンが胃腸に働いてしまうことが原因です。ですが、少しずつ身体が慣れていって治まっていく副作用です。心配な方は、パキシルを使うときに胃薬を併用していけば軽くすることができます。

 

次に、パキシル特有の怖さとして2つをみていきましょう。

一度飲んだらやめられないというのは、パキシルの離脱症状の多さからきています。パキシルは、薬を減らしていく時に血液の濃度が一気にガクンと減ってしまいます。また、薬の効果の持続も長いほうではないので、離脱症状が強くでてしまいます。様々な抗うつ剤を比較しても、もっとも離脱症状が起こりやすい薬といえます。ですから、結果としてやめにくいとなってしまうのだと思います。ですが、工夫をすればちゃんとやめられる薬です。

また、パキシルは太りやすいという評判がたっています。確かに、他のSSRIと比較すると多少太りやすいかと思います。ですが、SSRI自体がそこまで太りやすい薬ではないのです。パキシルでは、なぜか発作的な過食になってしまう方がいらっしゃいます。このためSSRIの中では体重増加につながりやすい薬とはいえます。

 

2.パキシルの副作用の特徴

新しい抗うつ薬の中でも副作用が少ないですが、眠気・体重増加・吐き気・下痢・不眠・性機能障害などがみられます。

パキシルは、セロトニンを増やすように意識したお薬です。SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)に分類されています。ですから、パキシルでみられる副作用の中心は「セロトニン」によるものです。セロトニンを増やすことでお薬の効果を期待しているのですが、セロトニンは他にもいろいろな働きをしています。脳だけでなく、胃腸にも作用しています。ですから、セロトニンが過剰に作用してしまって、副作用となるのです。

セロトニンは嘔吐中枢に作用して吐き気をひきおこします。また、胃腸にも働いて腸の動きを活発にして下痢になることがあります。SSRIの中ではパキシルはましですが、よくある副作用ですので心づもりしておいてください。胃腸の副作用は薬が身体になれてくると落ち着いていきます。一時的に薬で胃腸薬でサポートしていくのもありです。

また、セロトニンの刺激が強くなりすぎると睡眠が浅くなることがわかっています。このため途中で目が覚めてしまったりと、不眠の原因となることがあります。反対に眠気を感じる方もいらっしゃいます。抗コリン作用や夜の睡眠が浅くなってしまうことなどが原因と考えられます。10%くらいの方で認められるでしょうか。不眠や眠気がみられた場合は、飲み方の工夫や薬の調整を行っていきます。

性機能障害はSSRIに多いですが、パキシルはジェイゾロフトと並んで、特に多いです。およそ70~80%の方に認められるといわれています。なかなかいいづらい副作用なので、悩んでいても口に出せない患者さんも多いと思います。性欲自体が低下する方も多いです。これもセロトニンが関係しているといわれていて、気分が落ち着くことで性的な興奮も起こりづらくなるのかもしれません。性機能低下が問題になる場合は、薬の変更なども考慮していきます。また、上でも述べましたが、パキシルは過食が発作的にとまらなくなることがあるので、SSRIの中では太りやすい薬といえます。

以下の表では、代表的な抗うつ薬の副作用を比較しました。パキシルは副作用が少ない薬ということがお分かりいただけるかと思います。

抗うつ剤の副作用を比較しました。

 

パキシルの効果について知りたい方は、
パキシル錠の効果と特徴
をお読みください。

 

3.パキシルの副作用―症状ごとの比較

パキシルの副作用に関して、代表的な抗うつ薬と比較しながら、それぞれ見ていきたいと思います。
全部は大変ですので、ご自身の気になる症状をつまみ読みしてください。

 

3-1.便秘・口渇

パキシルでは、あまり認めません。

抗コリン系の副作用として、便秘や口渇があります。抗コリン作用が働くと、一般的に消化活動が抑えられます。このため、唾液の分泌が低下し、腸の動きも悪くなります。

パキシルでは抗コリン作用があるものの、そこまで強くありません。ですから、あまり便秘や口渇はみられることはなく、むしろSSRIは下痢になりやすいので、それを緩和してくれるような印象です。SSRIの中でみれば、パキシルは抗コリン作用が強いので、時おりこの便秘や口渇がみられます。ルボックス/デプロメールでも多少あるでしょうか。この副作用が強くみられるのは、昔からある三環系抗うつ薬です。三環系抗うつ薬の中ではアモキサンが少ないです。

抗うつ剤の便秘・口渇の副作用を比較しました。

3-2.ふらつき

パキシルでは、あまり認めません。

抗α1作用の副作用として、立ちくらみやふらつきがよくみられます。これには血管の調整が関係しています。アドレナリンがα1受容体に作用すると、血管が収縮します。その結果として血圧を上げ、血のめぐりをよくします。抗α1作用とはこの作用をブロックしますので、結果として血圧が十分にあがらず、頭に血がまわらなくなります。このようになると、立ちくらみをしたり、ふらつくといった症状が現れてきます。

このような症状を起立性低血圧といいます。パキシルは抗α1作用がほとんどないので、ほとんど認められません。

三環系の抗うつ剤ではよく認められる副作用です。新しい抗うつ薬ですと、リフレックス/レメロンのNaSSAでは眠気が強く、ふらつきがみられることがあります。

抗うつ剤のふらつきの副作用について比較しました。

3-3.眠気

パキシルでは、多少認められます

詳しく知りたい方は、「パキシルの不眠と7つの対策」をお読みください。

眠気に関しては、複数の要素が関係するので複雑です。大きくは3つの働きが関係しています。抗ヒスタミン作用、抗α1作用、セロトニン5HT2受容体阻害作用です。これらのバランスで眠気が決まります。

眠気が強い効果をもつ抗うつ薬を鎮静系抗うつ薬と呼びます。NaSSAや四環系抗うつ薬、デジレルなどが分類されます。この次に位置づけられるのが三環系抗うつ薬です。三環系抗うつ薬よりもSSRIは眠気が少ないです。

SSRIの中では、パキシル・ルボックス/デプロメールがやや多い印象です。SNRIは、ノルアドレナリンに覚醒作用があるため、SSRIよりもさらに眠気が少ないです。

パキシルで昼の眠気が強くなる方の中には、夜の睡眠が浅くなっていることが原因であることもあります。このような時は、睡眠が深くなるような抗うつ薬を追加すると改善することもあります。

抗うつ剤の眠気の副作用を比較しました。

3-4.体重増加

パキシルでは、過食が発作的に出てしまう方がいるので、太りやすい傾向にはあります。

詳しく知りたい方は、「パキシルは太るの?体重増加と6つの対策」「パキシルで痩せることはあるの?」をお読みください。

体重増加には、2つの作用が関係しています。抗ヒスタミン作用による食欲増加と、セロトニンによる代謝抑制作用です。

ヒスタミンは視床下部という部分にある満腹中枢を刺激する物質です。ですから、ヒスタミンは食欲を抑える働きがあります。これをブロックする効果が強いと食欲が増加します。また、ヒスタミンがブロックされると、グレリンというホルモン増加をひきおこします。これが摂食中枢を刺激して、食欲を増進させるともいわれています。ですから、抗ヒスタミン作用は食欲増加につながります。

セロトニンは精神を安定させ、リラックス状態をつくっていきます。すると、身体のエネルギーとしては、消費が抑えられるようになります。このように、セロトニンには代謝抑制効果があります。

パキシルは抗ヒスタミン作用は少ししかありません。ですがセロトニン作用が強いため、少し太る傾向にはあります。パキシルは発作的に過食になる方が多いので、SSRIの中では太りやすいといえるかもしれません。

三環系抗うつ薬は、抗ヒスタミン作用もセロトニン作用も強いものが多いです。このため太りやすい薬が多いです。新しい抗うつ薬のリフレックス/レメロンも抗ヒスタミン作用が強いので太りやすいです。反対にSNRIは、ノルアドレナリンにより活動的にする効果もあるので太りにくいです。

抗うつ剤の太りやすさを比較しました。

3-5.吐き気・下痢

パキシルではよく認められますが、SSRIの中で比較すると少ない方です。

詳しく知りたい方は、「パキシルの吐き気・下痢と5つの対策」をお読みください。

抗うつ薬は脳内のセロトニンに作用します。抗うつ薬で吐き気がでてきしてしまうのには、このセロトニンが大きく関係しています。

セロトニンの受容体は脳には10%もありません。90%以上の大部分は胃腸に存在していて胃腸の働きの調節をしています。セロトニンが分泌されると きは、胃腸が中身を出したいときです。ですから、吐き気や下痢といった形で、中身を外に出そうとする働きをします。もう少し詳しくみてみましょう。

胃腸にはセロトニン5HT受容体が分布していて、これが刺激されると迷走神経という神経が刺激されます。この神経が脳の延髄にある嘔吐中枢を刺激してしまいます。同時に、このセロトニン5HT受容体は腸の動きを活性化する働きがあります。このため、腸の動きが活発となり下痢が生じるのです。

しかしながら、徐々に体が慣れてきますので、徐々に副作用が薄れていく方がほとんどです。このため、一時的に胃腸薬を使うことでしのげることが多いです。

抗うつ薬の中では、SSRIやSNRIに多くみられます。SSRIの中では、ルボックス/デプロメールに多い印象で、パキシルは他のSSRIよりは多少少ないです。抗コリン作用があるので、胃腸の動きがおさえられるからでしょうか。

また、新しい抗うつ薬のうちリフレックス・レメロンは、ほとんど吐き気などは認められません。これはセロトニン5HT受容体をブロックする作用があるためです。三環系抗うつ薬は、新しい薬と比較して少ないです。

抗うつ剤の吐き気・下痢の副作用について比較しました。

3-6.性機能障害

パキシルでは、とてもよく認められます。

詳しく知りたい方は、「パキシルの性欲低下・性機能障害と5つの対策」をお読みください。

性機能障害は、抗うつ薬全般でよくみられます。性欲自体が低下する形になることが多いです。これにはセロトニンが関係しています。セロトニンは、気分を落ち着かせリラックスさせる薬になります。このため、性欲も必然的におちてしまいます。

さらに、抗α1作用は性機能にも影響があります。勃起をする時には、血液が陰茎に集中することが大事ですが、この時に、血管の調整をになうα1作用が必要になります。これがブロックされますので、勃起不全や射精障害になることがあります。

抗うつ薬としては、パキシルはジェイゾロフトと並んで多いです。なかなか恥ずかしくて表にでてこない副作用ですが、およそ70~80%の方に副作用としてあらわれるといわれています。新しい抗うつ薬のうちリフレック/レメロンは、性機能障害が少ないといわれていますが、20%程度で認められます。

他の新しい抗うつ薬より少ない理由としては、セロトニン5HT受容体をブロックする作用があるためと考えられています。レクサプロはその間くらいといわれていて、40%程度の方に認められます。SSRIの中では、ルボックス/デプロメールが少ないといわれていますが、30%程度に認められます。

三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬では、パキシルやジェイゾロフトよりは性機能障害が少ないですが、比較的よくみられる副作用です。

抗うつ剤の性機能障害の副作用を比較しました。

3-7.不眠

パキシルでは、比較的よく認められます。

詳しく知りたい方は、「パキシルの不眠と7つの対策」をお読みください。

不眠になる原因としては、セロトニンとノルアドレナリンが関係しています。セロトニン5HT受容体が刺激されると、深い睡眠が妨げられ、睡眠が浅くなります。また、ノルアドレナリンは交感神経に働く物質ですので、覚醒作用があります。このため、セロトニンとノルアドレナリンに働く薬は、睡眠が浅くなるという形で不眠につながります。

昔からある三環系抗うつ薬では、SSRIやSNRIと比べると不眠の副作用は少ないです。いろいろな受容体に作用するために、抗ヒスタミン作用や抗α1作用などによって眠気が強くなります。ですが、SSRIやSNRIといった新しい薬は、セロトニンやノルアドレナリンだけに作用するようにできています。ですから、不眠の副作用は出やすいのです。パキシルでも不眠は比較的認められます。

鎮静系の抗うつ薬といわれているテトラミド・リフレックス/レメロン・デジレン/レスリンでは、セロトニン5HT受容体をブロックする作用があります。このため、睡眠が深くなり不眠となることは基本的にありません。

抗うつ剤の不眠の副作用を比較しました。

 

4.副作用への対応の原則

慣れていきますので、まずはがまんしてください。生活上での支障が大きくなるようなら対策を考えます。
①薬を減薬する②他の薬にかえる③副作用を和らげる薬を使う

抗うつ薬にはさまざまな副作用があります。多くの副作用が多少なりとも「慣れる」ことが多く、なんとかなる範囲でしたら我慢してください。生活習慣などの薬を使わない対策がある場合は、積極的にためしてください。
薬の服用方法を工夫することで副作用が軽減することもあるので、主治医に相談してみましょう。

これらを踏まえても生活上での支障が大きくなるようでしたら、対策を考えていきます。対策としては、

①減薬する
②他の薬にかえる
③副作用を和らげる薬を使う

の3つがあります。①~③は、効果と副作用の兼ね合いで考えていきます。効果が十分ならば①、増やしても効果の期待が少ない時は②、薬を続けるメリットがあるならば③になります。

さて、③としてよく用いるものや生活習慣を簡単にまとめたいと思います。

副作用 薬を使わない対策 副作用を和らげる薬
便秘 排便習慣・食物繊維・水分・運動習慣 センノサイド・マグミット・大黄甘草湯など
口渇 唾液腺マッサージ・口呼吸 白虎加人参湯
ふらつき 朝食をしっかり・ゆっくり立つ メトリジン・リズミックなど
眠気 睡眠をしっかり・昼寝習慣
体重増加 食事管理・運動習慣
吐き気 食事を控えめにする 胃薬・ガスモチン・ナウゼリン・プリンペランなど
下痢 セレキノン
性機能障害
不眠 睡眠に良い生活習慣・自律訓練法 鎮静系の抗うつ薬・睡眠導入剤など
不整脈

 

まとめ

パキシルが怖いと評判がたつのには、いろいろな理由があります。ですが、ちゃんとした精神科医と相談して服用する分には問題ありません。

新しい抗うつ薬なので副作用は少ないですが、眠気・体重増加・嘔吐・下痢・不眠・性機能障害が認められます。特に性機能障害は、すべての抗うつ薬の中でも多いです。

パキシルは、セロトニン過剰が原因の副作用が中心です。

これらの副作用が見られた場合、まずはがまんしてください。生活上での支障が大きくなるようなら対策を考えます。

①薬を減薬する②他の薬にかえる③副作用を和らげる薬を使う

から考えていきます。

投稿者プロフィール

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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