パキシルとアルコール(お酒)は大丈夫?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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「薬を飲んでいるとお酒は飲めない」と、何となく知っている方は多いかと思います。そうはいっても、「大好きなお酒はやめられない」「付き合いで飲まないといけない」など、いろいろな事情があると思います。

ここでは、お酒がパキシルに及ぼす影響をみていきながら、何が問題なのかを考えていきましょう。その中で、現実的なお酒との付き合い方を考えていきましょう。

 

1.パキシルの添付文章では?

「できれば避けてほしい」という記載になっています。飲酒習慣はやめた方がよいですが、機会飲酒は注意点を守りましょう。どうしてもお酒をやめられない方は、主治医にちゃんと伝えてください。

市販薬を購入すると、お薬の説明書がついてくるかと思います。パキシルにも説明書(添付文章)がちゃんとあります。要点を簡潔にまとめた添付文章というものと、より詳しく専門家に向けたインタユーフォームというものがあります。

その中では、「本剤投与中は、飲酒を避けることが望ましい」と記載されています。絶対にダメというわけではないのですが、できれば止めてほしいという内容ですね。どうしてダメかというと、「他の抗うつ剤で、お酒によって作用が増強してしまったから」と記載されています。

 

この文章だけをみてみると、お酒を飲んでも大丈夫かもしれないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、できればやめた方がよいです。ですが実際のところ、付き合いがある時だけ仕方なく・・・という方でしたら、飲み方に注意していただければ大きな影響はありません。

パキシルとお酒を飲むと、効果としての相互作用はあまりありません。ですが、どちらも肝臓で分解されて身体から抜けていきます。肝臓にとってみると、お薬とアルコールの両方を処理しなければいけません。できる仕事は限られていますので、お薬もアルコールも身体に残りやすくなってしまいます。パキシルが残りやすくなってしまうと薬の血中濃度は上がってしまいますが、効果としては大きな違いはありません。どちらかというと問題はアルコールです。簡単にいってしまえば、「酔いやすくなる」のです。このことは注意しなければいけません。

 

習慣で飲酒するということは、やめた方がよいです。まず、お酒の量によって血中濃度が不安定になります。すると、どの薬の量で効果が出ているのかが分からなくなりますので、効果がハッキリしません。治療をしていてもなかなかよくならず、薬の効果が何だか変だ・・・と感じたら、お酒の問題が隠れていることもよくあります。お酒がどうしてもやめられない・・・そんな方は、必ずそのことを主治医に伝えてください。お酒がやめられないこともひっくるめて、患者さんの生活を丸ごと受け止めていくのが精神科の治療です。正直に言ってくだされば、お酒を意識しながらの治療をすすめていくことができます。

 

2.お酒の薬への影響とは?

お酒と薬を一緒にのんではいけません。様々な要因で、薬とアルコールの血中濃度が不安定になります。

もう少し詳しく、お酒の薬への影響を見ていきましょう。

お酒の薬への影響をまとめました。

お酒の影響を考える時には、すぐに影響のある影響と、少しずつジワジワでてくる影響とに分けて考えると理解しやすいです。

急性の影響からみていきましょう。アルコールは、脂っぽい薬の吸収を促進する働きがあります。ですから、お酒と薬を同時に服用してしまうと、薬の吸収が一気に上がってしまうので危険です。お酒と薬を一緒に飲む「チャンポン」は絶対にやめましょう。上述しましたが、お薬もアルコールも肝臓で分解します。お薬とアルコールが残りやすくなってしまいますので、注意が必要です。パキシルでは少ないですが、精神科の薬ではお酒と薬が相互作用して、効果が強く出てしまうものが多いです。お酒は少量ですと気分が高まりますが、量が増えると眠くなったりしますね。ですから、鎮静や催眠作用があるようなお薬では、相互作用してしまい抑える効果が強く出過ぎてしまうことがあります。

慢性的にお酒を飲まれていると、肝臓が悪くなるとイメージされる方が多いと思います。薬は肝臓に負担になるので、少しずつダメージは蓄積していき肝機能障害となります。そうなると、薬の分解は遅れてしまいますし、肝臓の解毒機能が低下するので有害物質がたまりやすくなってしまいます。そこまでいく前の段階では、むしろ肝臓が頑張ってしまいます。仕事の量が増えてしまうので、身を削って働くのです。このため、肝機能が一時的に上がって、アルコールが血中から抜けている時は薬の分解が早くなってしまいます。このようになると、ますます血中濃度の不安定さが増していきます。パキシルの血中濃度が不安定になると、離脱症状が出やすくなることに注意が必要です。

 

3.付き合いで飲まなければいけない時は・・・

パキシルを飲みながら仕事や家庭生活をしている方はたくさんいらっしゃいます。お酒に誘われる機会は公私にあるかと思います。どうしても断れない・・・そんな時もあるかもしれません。そのような時はどうすればよいでしょうか?

 

3-1.お酒を飲めない口実を作る

ドクターストップと伝えて、最終的には妻や夫のせいにしましょう。

お酒を飲まなくてすむならば、それに越したことはありません。お酒を誘われたら断る口実をあらかじめ考えておくと、上手く断れることもあるかと思います。

ありのままにパキシルを飲んでいることや、病気のことなどを伝えられるならば、相手も無理に誘ってこないかと思います。ですが、なかなかカミングアウトしづらいので、隠しながら生活している方も多いかと思います。事情を知らない方に飲みに誘われると困ってしまいますね。うまく逃れている患者さんからお聞きすると、みなさん身体の病気のせいにしていました。

「肝臓が悪いから医者に絶対ダメと言われた」でも、「血圧やコレステロールの薬をのみはじめて医者から酒はダメと言われた」でも大丈夫です。すべては医者のせいにしてしまって、薬を飲めないことを伝えてみましょう。中にはそれでも引き下がらない相手もいるかもしれません。そんな時は、「奥さんから怒られる」の一言で撃退できます。もちろん女性の方は、「夫に怒られる」でも大丈夫ですが、奥さんに比べるとパワーは弱くなってしまいます・・・身体の心配をするのは家族として当たり前のことですから、ウソも方便です。

 

3-2.お酒の飲み方を注意する

薬を飲む時間を少しずらしましょう。お酒はゆっくり、いつもの半分くらいの量にしておきましょう。

どうしても付き合いで飲まなければいけない時、パキシルでしたら相互作用も少ないので、飲み方の工夫をすれば影響は小さいです。どのようなことに注意すればよいのかを考えていきましょう。

まず、お酒と一緒に薬を飲んでしまうと、薬の吸収が一気にあがってしまうので注意しなければいけません。薬とお酒が胃腸で同時に吸収されないように、少しだけ時間をあけるようにしましょう。後でお伝えしますが、薬のピークをずらしてもほとんど意味はありません。ですから、大きくずらす必要はありません。夕食後に服用する予定でしたら、夕方ごろとかでも構いません。昼食後にしても大丈夫です。

そして注意していただきたいのが、お酒の飲み方です。一言で言ってしまえば、お酒に酔いやすくなるのです。アルコールが身体に残りやすくなってしまっているので、いつもより酔いが早くなってしまいます。ですから、ゆっくり飲むことを心がけてください。そして、お酒の量もいつもの半分程度にしておきましょう。

 

3-3.これはNG

酒と薬を一緒に飲んだり、薬の服用をとばさないでください。

パキシルは、1日に1回の服用で効果が持続するお薬です。濃度が半分になるまで14時間かかります。ピークになるまで4~5時間かかるので、服用を続けていくうちに少しずつ薬が身体にたまっていきます。グラフにしてみましょう。

薬を飲み続けると、定常状態となります。その様子を図であらわしました。

このように、波をうつようにして薬が身体にたまっていき、ある程度の量で一定になります。この状態を定常状態といいますが、この状態になることで薬の効果が安定していきます。それでは、薬をスキップした時はどのように薬の血中濃度が変化するかみてみましょう。

薬をスキップしたらどのようになるのか、グラフでイメージしてみましょう。

薬をスキップしてしまうと、この青いグラフのようになってしまいます。定常状態まで戻るのに時間がかかってしまうのです。例えば、飲酒した日は薬を飲まずに翌朝に薬を服用して、その日の夕方は予定通り服用したとしましょう。オレンジのグラフのように、血中濃度のピークが一時的に大きくなってしまいますが、定常状態が維持できます。

このように見ていただくと、薬の服用を飛ばすと効果が安定しなくなってしまうことがわかると思います。多少ずれても、薬を服用するようにしましょう。

また、お酒とパキシルを同時に服用すると、一気に吸収されてしまいますので、多少は間隔をあけなくてはいけません。ですが、薬のピークを厳密に考える必要まではありません。定常状態になっていれば、1回の薬の量の変化は大きな影響がないためです。

お酒に酔いにくくなるとして市販もされているウコンドリンクを飲んでもよいのでしょうか?ウコンは、クルクミンというポリフェノールが、胆汁酸の分泌を促して肝機能を高める作用があります。アルコールの分解もすすみますが、パキシルの分解も早くなってしまうので、やめておいた方がよいと思います。

 

4.お酒の習慣がなかなかやめられない方は・・・

お酒が好きで、なかなかやめられない方もいらっしゃるかと思います。飲酒が習慣になってしまっている方は、どのようにしたらお酒をやめていけるでしょうか?

 

4-1.断酒をしていく

まずは断酒の意志を固めましょう。嫌酒薬のシアナマイドやノックビンを使います。

お酒の量を自分でコントロールできない方は、断酒をした方がいいです。ほっておくとアルコール依存症になりかねません。精神科の病気を抱えている方は、アルコール依存症になりやすいといわれていますので注意が必要です。

「日によってお酒の量が変わってしまう」「もうやめなきゃと思ってもやめられない」、そんな方は断酒を考えましょう。断酒は生半可な気持ちではできません。これまで、お酒のコントロールを失って損をしていることはたくさんあるはずです。それをしっかりと思い出してください。そして、周囲に断酒を宣言して背水の陣をしきましょう。ここまですると、家族や友人がサポートしてくれると思います。

その上で、嫌酒薬を病院で処方してもらいます。嫌酒薬とは、お酒が嫌いになる薬ではありません。簡単に言ってしまうと、お酒に極端に弱くなってしまう薬です。お酒を少し飲んだだけで、頭痛、吐き気、顔面紅潮、動悸、めまいなどが起こりやすくなります。嫌酒薬は、アルコールを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素を邪魔します。すると、アセトアルデヒドがたまってしまって、お酒が弱い方の症状が出てしまうのです。嫌酒薬は、断酒の意志を固めてから、さらに覚悟を決めるために使います。

嫌酒薬としては、2種類があります。シアナマイドとノックビンです。前者は、即効性があって効果が持続しますが、肝障害のリスクがあります。効果の持続は、体内の酵素が入れ替わるまでの1~2週間ほどあります。後者は、液剤で冷凍保存が必要という不便さがありますが、薬効が短いために安全性が高いです。

 

4-2.節酒をしていく

レグテクトを使いながら、少しずつ飲酒量を減らしていきましょう。

自分である程度の量に抑えることができる方は、節酒からはじめていくこともできます。まずは休肝日を作って、少しずつ一日のお酒の量を減らしていきます。そのサポートになる薬として、レグテクとが2013年に発売されました。

アルコールを慢性的に取り続けると、グルタミン酸が上昇するといわれています。グルタミン酸は興奮に働く脳内伝達物質です。このグルタミン酸を抑えることで、飲酒欲求が抑えられるといわれています。お酒を飲まないとイライラしたり、何だか落ち着かなくなるような方には、よく効く印象があります。実際に処方してみたところ、飲酒習慣がきれいになくなる方もいます。副作用としては、腎臓での排泄が中心になりますので、腎機能に影響があると考えられています。また、吐き気を訴える方も多いですが、全体的にみて安全性は高いです。

日本ではまだ発売されていませんが、飲酒欲求を抑える薬としてナルトレキソンも使われています。この薬は、脳内麻薬の受容体とくっつくことで作用を低下させます。その結果、多幸感が薄れるためアルコールによる快感を少なくします。日本でも、類似薬の治験もはじまっているので、いずれ使うことができるようになると思います。

 

まとめ

添付文章では、「できれば避けてほしい」という記載になっています。飲酒習慣はやめた方がよいですが、機会飲酒は注意点をしっかり守りましょう。どうしてもお酒をやめられない方は、主治医にちゃんと伝えてください。

お酒と薬を一緒にのんではいけません。様々な要因で、薬とアルコールの血中濃度が不安定になります。

付き合いで飲まなければいけない方は、飲まない口実を作れればそれに越したことはありません。難しければ、薬を飲む時間を少しずらしてください。お酒はゆっくり、いつもの半分くらいの量にしておきましょう。薬の服用をとばすことはやめてください。

お酒を飲むのが習慣になっている方は、量をコントロールできていない方は断酒、できている方は節酒をしましょう。

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