ルボックスの眠気と7つの対策

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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精神科のお薬は眠くなるものが多いです。抗うつ剤も例外ではなく、眠気が強いものが多いです。日常生活を過ごしていかなければならない中で、眠気が強く出てしまうと困ってしまいますね。

ルボックスは、抗うつ剤の中では眠気は少ない方ですが、時に眠気が強くなることがあります。

ここでは、ルボックスの副作用としてみられる眠気について考えてみましょう。

 

1.睡眠と覚醒に関係する物質

睡眠にはGABA、覚醒にはセロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン・ヒスタミン・アセチルコリンが関係しています。

ちゃんと理解していただきたいので、最初は堅苦しい話から始めさせていただきます。まずは、睡眠と覚醒に関係している物質にはどのようなものがあるのかを整理してみましょう。

抗うつ薬は、セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンといった脳内の物質を増やすことで効果がでてきます。ですが、お薬はさまざまな物質に作用し、眠気に関係する物質にも影響をあたえます。ここではまず、睡眠と覚醒に影響を及ぼす脳内物質に関してみていきましょう。

睡眠と覚醒に関係する物質には、GABA・セロトニン・ノルアドレナリン・ヒスタミン・アセチルコリン・メラトニン・オレキシンなどがあります。

眠気にはいろいろな脳内物質が関係しています。

  • 睡眠に働く物質:GABA
  • 覚醒に働く物質:セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン・ヒスタミン・アセチルコリン

これらの物質にどのように薬が影響するかを考えると、副作用として眠気が出やすいかがわかります。他のSSRIに比べると、ルボックスはセロトニン作用がマイルドです。そして、抗コリン作用や抗α1作用はほとんどなく、抗ヒスタミン作用が多少みられるくらいです。トータルで見ると眠気と覚醒の「ニュートラル」には働くイメージです。

 

2.ルボックスでなぜ眠気があるのか

ルボックスが眠くなるのには、セロトニン作用による不眠の裏返しとしての日中の眠気や、抗ヒスタミン作用などが影響していると考えられます。

ルボックスの承認時の副作用としては、9.7%の方で眠気が認められていました。ルボックスが日本で発売されてからの調査では、眠気の副作用は3.5%と大幅に下がっています。眠気にも程度がありますので、そのためにデータが大きく変わっているのだと思います。多少の眠気でしたら、薬に慣れると薄れていくことがほとんどです。

 

ルボックスで眠気が生じるには、3つの要素があると思われます。

  1. 抗ヒスタミン作用・抗α1作用・抗コリン作用による眠気
  2. 5HT2作用による夜間睡眠の質低下
  3. 薬に慣れるまでの理論では説明できない眠気

 

ヒスタミンやアドレナリン、アセチルコリンは覚醒させる物質です。これらをブロックする力が強いと、眠気も強く認められます。ルボックスは抗コリン作用と抗α1作用はほとんどなく、抗ヒスタミン作用もわずかです。しかしながらこれらの作用が合わさって、眠気を生じさせる可能性はあります。

また、5HT2とは、セロトニンの受容体のひとつです。この受容体がブロックされると睡眠が深くなり眠気が強くなります。ルボックスはセロトニンを増加させる力が強く、この受容体を刺激してしまいます。その結果として、睡眠が浅くなってしまい、夜間の睡眠の質が低下してしまいます。すると、生活のメリハリがつかなくなってしまい、日中の眠気に繋がってしまいます。

理屈で考えられない眠気もあります。薬の飲みはじめがほとんどですが、理論的には眠気が出にくいお薬でも、はじめて使ったお薬は予測ができない部分があります。身体になれてくるまで眠気が出てきてしまうことがあります。

 

ルボックスのその他の副作用について知りたい方は、
ルボックスの副作用(対策と比較)
をお読みください。

 

3.ルボックスだけでない眠気が起きる理由

薬以外の眠気の原因としては、精神症状・不十分な睡眠・生活リズムの乱れ・女性ホルモンが考えられます。

眠気がでてくる原因は薬以外にも4つほど考える必要があります。

  • 精神症状
  • 睡眠
  • 生活リズム
  • 女性ホルモン

薬によって変化が明らかでしたら、薬が原因といえます。ですがそれ以外のことが原因となることもあるので、注意が必要です。

精神症状で眠気や倦怠感がでてくる場合もあります。症状としての眠気の場合は、これまでの経緯や症状の変化などから総合的に判断していきます。症状として眠気や倦怠感が強くなる方は、何らかのきっかけがあることが多いです。このため、日常生活を過ごす中での変化を意識して確認していきます。

夜間の睡眠を十分にとれていなくて、日中に眠気が出てきている場合もあります。睡眠時間はとれていますか?朝に眠気はないですか?夜間にイビキなどはないですか?

また、生活リズムが崩れてしまっていることが原因のこともあります。体内時計のリズムが崩れると、睡眠時間は十分であっても睡眠の質が低下し、日中の眠気や倦怠感となることがあります。いわゆる時差ぼけは、この状態です。昼過ぎまで寝てしまって身体がだるい経験をされた方も多いと思います。起きる時間は大きくずれていませんか?

女性の場合は、女性ホルモンが自律神経に影響します。生理周期と関係して眠気が認められる場合や、女性ホルモンが減少していく更年期にあたる場合は、女性ホルモンの影響も考慮する必要があります。

 

4.ルボックスと他剤での眠気の比較

ルボックスは、様々な抗うつ薬の中では眠気は少ない方ですが、SSRIの中では多いほうといえます。

代表的な抗うつ薬の副作用のうち、眠気を比較して表にしまとめました。

SSRIは眠気が少ないです。SSRIの中では、ルボックスとパキシルは眠気が出てくる方が多いです。SSRIは、どちらかというと覚醒作用に働くことが多い薬です。ルボックスは効果がマイルドですので覚醒作用も弱いです。このため、人によっては眠気の副作用が強く出てしまう方もいらっしゃいます。

パキシルは、他のSSRIよりも抗コリン作用が強いので眠気につながるのでしょう。レクサプロは眠気が続くことは少ないですが、時に眠気がずっと続く方がいらっしゃいます。ジェイゾロフトは、飲み始めに眠気が強い方はいらっしゃいますが、次第になれていくことがほとんどです。

SNRIはノルアドレナリンによる覚醒作用があるため、SSRIより眠気が少ないです。

 

抗うつ剤の中には、明らかに眠気が強いものがあります。これらを鎮静系抗うつ薬と呼びます。これらの薬の特徴としては、抗ヒスタミン作用と抗5HT2作用が強いです。リフレックス/レメロンといったNaSSA・テトラミドやルジオミールといった四環系抗うつ薬・デジレル/レスリンなどがあげられます。

三環系抗うつ薬は、この次に位置付けられます。三環系抗うつ薬は抗ヒスタミン作用が強いものが多く、眠気は非常に強いです。また、レム睡眠を減少させる効果がありますので、夢が減ります。このため、悪夢が生活に影を落としているときに使われることもあります。

 

5.眠気が治療につながることも

鎮静系抗うつ薬は、不眠の改善にも使います。

眠気は必ずしもデメリットだけではありません。副作用の眠気を上手く使うと、睡眠薬を使わずに不眠治療できることがあります。ですから、鎮静系抗うつ薬は睡眠薬のかわりに使うことも多いです。

ある抗うつ薬で不眠の副作用がみられたときには、鎮静系抗うつ薬を併用することで、効果の増強と同時に不眠の改善ができることもあります。

また、休養が必要な患者さんであっても、焦りが強くて落ち着かない方もいます。このような方の場合、薬を使ってしっかりと休養をとっていただくことが回復の近道です。ですから、鎮静系抗うつ薬を用います。

このように副作用も、上手く使うと作用になることがお分かりいただけたと思います。

 

6.ルボックスの眠気の対処法

それでは、眠気が見られたときにどのように対処すればよいのでしょうか?
みていきましょう。

 

6-1.様子をみる

生活に支障がでなければ、少しがまんしてみてください。

薬の副作用は飲みはじめに強くなる傾向があります。ルボックスの眠気も、時間とともに慣れていくことが多いです。少し様子をみていくことで、眠気がおさまっていくことがほとんどです。日常生活に支障がない範囲でしたら少し様子をみてください。

 

6-2.薬を分割して飲む回数を増やす

薬を飲んで暫くすると眠気が強くなる方は試してみてください。

薬の服薬回数を増やすのも方法のひとつです。薬の副作用は、血中濃度のピークで一番強くでます。ですから、薬を分割して飲む回数を増やすと血中濃度は安定します。すると眠気の副作用も軽減します。ルボックスは半減期が8.9時間と短いので、この効果が期待できます。

この方法は、薬を飲んで暫くすると眠気が強くなる方にはおすすめです。ただ、飲み忘れてしまうリスクが高まります。薬を飲み忘れてしまった場合、多少ずれても結構ですので服用しましょう。

 

6-3.寝る前に服用する量を増やす

寝る前に服用する薬の量を増やしてみましょう。

ルボックスの半減期は8.9時間です。抗うつ剤としては効果の持続が短いので、1日に2~3回服用する必要があります。もし、ルボックスを服用してしばらくしてから眠気を感じてしまう場合、薬の服用を工夫して解決できることもあります。寝る前に服用するようにして、量を調整していきます。

眠る時に一緒に薬を飲んでしまえば睡眠もとりやすくなって、朝起きるとスッキリしていることもあります。

 

6-4.鎮静系の抗うつ薬を追加する

夜間の睡眠の質が落ちているときは、鎮静系の抗うつ薬で生活のメリハリがつくことがあります。

ルボックスは、強いセロトニン作用があります。セロトニンの受容体のひとつである5HT2は、刺激すると睡眠が浅くなってしまい、夜間の睡眠の質が低下してしまいます。このため、生活のメリハリがつかなくなってしまい、日中の眠気に繋がってしまうことがあります。

このように夜間に不眠がある場合は、鎮静系の抗うつ薬を就寝前に追加するのも一つの方法です。鎮静系の抗うつ薬は、抗5HT2作用があります。ルボックスは、5HT2受容体を刺激してしまいますので、これをブロックすることで原因が解消できます。睡眠が深くなり、生活のメリハリがついて日中の眠気が改善することがあります。

 

6-5.ルボックスを増やすペースを落とす

身体が慣れる時間をかせぎます。

ルボックスは通常25~50mgずつ増量していくことが多いです。このペースで眠気が出てくる場合、増やすペースを遅らせるのもひとつの方法です。身体が慣れていく時間を作っていきます。

ルボックスには、25mg錠剤があります。25mgペースでも眠気が強い時は、半分に割って12.5mgずつ増やしていきます。このようにして、薬に身体が慣れる時間をかせいでいきます。

 

6-6.減量する

必ず主治医に相談してください。

ルボックスの効果がしっかりと出ているならば、少し減らして様子をみるのもひとつの方法です。ですが、必ず主治医に相談してください。薬を減量しても大丈夫かどうかは、これまでの経過をみて判断しなくてはいけません。

確かに、眠気がとれて活動的になる方もいらっしゃいます。ですが眠気がなくなった途端、症状が悪化する場合もあります。まだ症状が十分と落ち着いていない時期に急にやめてしまうと、余計に症状が長引いて、結果として薬を飲む期間が増えてしまうことがあります。

 

6-7.他の抗うつ剤に変える

ジェイゾロフトやレクサプロ、SNRIに切り替えていきます。

ルボックスの眠気が強くて服薬が続けられない場合、減薬して他の抗うつ剤に切り替えます。

同じSSRIとしては、副作用が少ないジェイゾロフトやレクサプロに切り替えるのは検討してもよいかと思います。しっかりと効果も考えた上で、SNRIのサインバルタやイフェクサー、トレドミンに切り替えていくのも方法です。SNRIではノルアドレナリンを増加させる作用もあるので、SSRIより眠気が少ないです。

 

まとめ

ルボックスの眠くなるのには、セロトニン作用による不眠の裏返しとしての日中の眠気や、抗コリン作用・抗ヒスタミン作用などが影響していると考えられます。

薬以外の眠気の原因としては、精神症状・不十分な睡眠・生活リズムの乱れ・女性ホルモンが考えられます。

ルボックスは、様々な抗うつ薬の中では眠気が少ない方です。同じSSRIの中では多い方です。

眠気の対処法としては、

  • 様子を見る
  • 薬を分割して飲む回数を増やす
  • 寝る前に服用する
  • 鎮静系の抗うつ薬を加える
  • ルボックスを増やすペースを落とす
  • 減量する
  • 他の抗うつ剤(SSRI・SNRI)に変える

などがあります。

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