麻酔薬ケタミンのうつ病・うつ状態への効果

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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麻酔薬として古くから使われているケタミン(商品名:ケタラール)、その抗うつ効果に注目が集まっています。

これまでのうつ病の治療薬は、うつ病で不足していると考えられているモノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン)を補充することで効果を期待していました。しかしながら、効果が認められるまでに2~3週間は少なくともかかってしまうのが難点でした。

ケタミンは、おもにグルタミン酸受容体のNMDA受容体に作用するお薬です。抗うつ効果が期待できることが判明し、その効果は早くて持続することがわかってきました。これをうけて、新しいうつ病の治療薬として、NMDA受容体をターゲットとした新薬の開発がすすめられています。

ここでは、麻酔薬ケタミンのうつ病・うつ状態への効果についてまとめていきます。

 

1.ケタミンの抗うつ効果

ケタミンには即効性があり、その効果も持続することが確認されています。

ケタミンは、1963年に静脈麻酔薬として開発されてお薬です。一般的な麻酔薬は脳の機能を全体的に抑えることで麻酔作用が発揮されます。これに対してケタミンは、大脳皮質と呼ばれる脳の表面に近い部分の働きを抑えますが、大脳辺縁系と呼ばれる脳の深い部分には活性化させる作用があります。このようなバラバラの働きをするので、解離性麻酔薬と呼ばれています。

ケタミンは日本では麻薬に指定されていて、医師の管理の下で全身麻酔のためだけに使われています。ケタミンの副作用として、統合失調症のような幻覚症状と、周りの世界と自分の中に少しへだたりがあるような解離症状と呼ばれるものがあります。このため、乱用されることもあるお薬なのです。

ケタミンはグルタミン酸受容体であるNMDA受容体遮断作用があります。幻覚を引き起こすことがあるため、統合失調症とNMDA受容体との関係について広く研究されてきました。その過程で、ケタミンの抗うつ作用が偶然発見されました。

ケタミンの抗うつ作用で注目されたのは、「即効性」です。これまでの抗うつ剤では、効果が発現するまでに2~3週間かかってしまいました。しかしながらケタミンでは、うつ症状が数時間でよくなって、その効果がしばらく持続することが確認されたのです。

ケタミンには後述する問題点もあるのですが、ケタミンのうつへの適応拡大と、NMDA受容体をターゲットにした薬の開発が期待されています。

 

2.ケタミンの作用の仕組み(作用機序)

NMDA受容体が遮断されることでAMPA受容体が活性化され、BDNFやmTORと呼ばれる神経再生に重要な物質の働きが強まることで抗うつ効果が発揮されます。

ケタミンのおもな作用は、グルタミン酸受容体であるNMDA受容体遮断作用にあると考えられています。

グルタミン酸は、脳の中では最も多い興奮性の神経伝達物質になります。グルタミン酸の受容体としてはAMPA受容体が一般的で、グルタミン酸がくっつくと細胞を刺激します。NMDA受容体は普段はほとんど作用しておらず、学習や記憶のときに神経のネットワークを変化させるために働く受容体です。

ケタミンは、このNMDA受容体を遮断します。そうすると、もうひとつのグルタミン酸受容体であるAMPA受容体が活性化されます。この2つの作用が合わさることで、抗うつ効果が発揮されると考えられています。

この2つの作用によって、BDNF(脳由来神経栄養因子)とmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)という2つの重要な物質の働きが強まります。これらの物質は、神経シナプスを形成したり、神経再生作用があります。このことが抗うつ効果につながると考えられています。

 

3.ケタミンの有効性

難治性うつ病を中心に、自殺念慮の強いケースやECTの増強療法、双極性障害のうつ状態などでの有効性が報告されています。

意識がなくならないように、ケタミンは麻酔で使う1/4程度の0.5mg/kgで使っていきます。これを40分ほどかけて静脈注射することで、うつ症状の改善が2時間ほどで認められ、その効果がしばらく持続することが確認されています。

現在考えられているケタミンに有効なケースとしては以下が検討されていて、さまざまな研究がなされています。しかしながらケタミンの研究では、解離症状によってケタミンなのかプラセボ(比較のための偽薬)かが判明してしまいます。このため、精度がどうしても低くなってしまいます。

  • 難治性のうつ病
  • 自殺念慮が強いうつ病
  • 電気けいれん療法(ECT)の効果増強
  • 双極性障害の難治性うつ状態(興味の喪失が強いケース)

難治性うつ病に対しても、効果は24時間以内と即効性が認められています。これまでの研究をまとめたメタアナリシスでは、ケタミンをはじめて1週間以内で、プラセボよりも2~3割多くの患者さんを寛解(元の状態に戻す)させられるという結果がでています。抗うつ剤では、8週間で1~2割程度の差が関の山です。難治性のうつ病であることも考えると、ケタミンの効果が際立ちます。

自殺念慮が強い患者さんでも、ケタミンを使って40分以内に落ち着いて、その効果は4時間は持続したという報告があります。まだ報告は少ないですが、自殺未遂や自殺念慮が強い患者さんへの有効な治療となる可能性があります。

電気けいれん療法(ECT)の麻酔に使用することで、その効果が増強される可能性も示唆されています。現時点では他の麻酔薬との差がハッキリとしておらず、今後の研究が待たれます。

双極性障害については、難治性うつ状態の改善効果が報告されています。しかしながらうつ病と比べると改善効果は落ちてしまい、効果の持続も短いです。まだはっきりとはわかっていませんが、躁転に関しては今のところ明らかに増加させるという報告はありません。双極性障害での効果に対して興味深い報告としては、アンヘドニア(興味が減退すること)の改善効果が大きいというものがあります。

 

ケタミンという薬が乱用薬でもあるので、難治性であったり重症例での検討が中心になっています。ケタミンの副作用や問題点については以下に述べていきますが、安全性が確認されたらより一般的なうつ状態での効果も検討されることでしょう。

 

4.ケタミンの副作用と問題点

副作用としては、解離などの認知機能障害の頻度が多いです。依存性や耐性などの安全性をはじめ、まだまだ効果が分かっていない部分も多いです。

ケタミンの副作用として頻度が高いのが、解離などの認知機能障害です。多くの報告では、2時間以内に解離症状は消失するとされています。

ケタミンはもともと麻酔薬として使われているので、麻酔の時にだけしか使われません。このため、繰り返し投与した時の副作用や安全性がはっきりとわかっていないのです。乱用されることもあるお薬ですので、依存性や耐性などはあると思われます。しかしながらどの程度なのかは、はっきりとはわかっていません。

ケタミンの乱用者では、認知機能低下が認められます。ケタミンを使うと軽度の認知機能障害は認めますが、あくまで一時的です。しかしながら治療として繰り返し使ったときに、長期的に認知機能低下するのかは未知数です。

ケタミンの安全性以外の問題点としては、以下があげられます。

  • 臨床試験が正確に行えない
  • ケタミンの適切な用量が定まっていない
  • 効果の持続がどこまであるのかがわかっていない

 

5.ケタミンを応用した治療薬の開発

ケタミンの内服薬や点鼻薬などの開発がすすめられています。また、NMDA受容体をターゲットに、精神症状のない薬の開発も模索されています。

ケタミンは、静脈注射によって使われています。内服すると胆汁で分解されてしまい、ほとんど体内に取り込まれません。ですから現在は、ケタミンで治療するには何度も注射をしなければいけません。

このため、内服できたり点鼻できるケタミン製剤の開発がすすめられています。エスケタミンとよばれる点鼻薬は、アメリカFDAから「画期的な治療薬」の指定をうけて開発がすすめられています。

すでにアメリカをはじめとした海外では、適応外という形で治療が行われています。しかしながらビジネスに走った麻酔科医が中心で、安全性が確定していないので警鐘がならされています。ビジネスイギリスでは、専門診療所での難治性うつ病へのケタミンの使用を認めています。

 

NMDA受容体をターゲットに、抗うつ剤の研究開発もすすめられています。解離や幻覚などの精神症状がなければ、安全な抗うつ剤として画期的な薬剤が見つかるかもしれません。ケタミンと組み合わせて、治療効果を維持していく薬なども模索されています。

日本は安全性が第一の方針なので、麻薬に指定されているケタミンの適応拡大は現実的ではないでしょう。適応外に踏みだすクリニックもないと思います。安全性の高いNMDA受容体遮断薬が開発されれば、日本での臨床試験が進む可能性はあります。

 

まとめ

ケタミンには即効性があり、その効果も持続することが確認されています。

難治性うつ病を中心に、自殺念慮の強いケースやECTの増強療法、双極性障害のうつ状態などでの有効性が報告されています。

副作用としては、解離などの認知機能障害の頻度が多いです。依存性や耐性などの安全性をはじめ、まだまだ効果が分かっていない部分も多いです。

ケタミンの内服薬や点鼻薬などの開発がすすめられています。また、NMDA受容体をターゲットに、精神症状のない薬の開発も模索されています。

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