トリプタノールの眠気と6つの対策

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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抗うつ薬を服用していると、副作用として眠気が強く出てしまうことがあります。生活に支障がでなければよいのですが、仕事や家事に影響が出てしまうと困ります。ですがこの眠気をうまく使うと、睡眠薬を使わずに不眠を改善できることもあります。

ここでは、トリプタノールの副作用としてみられる眠気について考えてみましょう。

 

1.睡眠と覚醒に関係する物質

睡眠にはGABA、覚醒にはセロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン・ヒスタミン・アセチルコリンが関係しています。

ちゃんと理解していただきたいので、最初は堅苦しい話から始めさせていただきます。まずは、睡眠と覚醒に関係している物質にはどのようなものがあるのかを整理してみましょう。

抗うつ薬は、セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミンといった脳内の物質を増やすことで効果がでてきます。ですが、薬は目的通りには作用してくれません。いろいろな物質に影響を与えます。これが副作用としてでてくるのです。

睡眠と覚醒に関係する物質には、GABA・セロトニン・ノルアドレナリン・ヒスタミン・アセチルコリン・メラトニン・オレキシンなどがあります。

眠気にはいろいろな脳内物質が関係しています。

  • 睡眠に働く物質:GABA
  • 覚醒に働く物質:セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン・ヒスタミン・アセチルコリン

これらの物質にどのように薬が影響するかを考えると、副作用として眠気が出やすいかがわかります。

 

2.トリプタノールでなぜ眠気があるのか

トリプタノールの眠くなる原因の一番は、抗ヒスタミン作用です。その他には、眠くなる方向に抗α1作用・抗5HT作用・抗コリン作用が関係しています。

トリプタノールの眠気は大きく4つの作用が関係しています。

  1. 抗ヒスタミン作用
  2. 抗α1作用
  3. 抗セロトニン5HT2作用
  4. 抗コリン作用

この中でも、抗ヒスタミン作用の影響が大きいです。ヒスタミンは覚醒させる物質です。トリプタノールは、このヒスタミンをブロックする効果が強いので、眠気も強く認められます。

みなさんは、花粉症の薬や風邪薬をのんで眠くなったことはありませんでしょうか?この眠気は抗ヒスタミン作用によるものです。ですから、これらの薬を飲んで眠くなったことがあるかをお聞きすると、抗ヒスタミン作用による眠気が出やすいかどうかが少し予想できます。

 

抗α1作用でも眠気が生じます。α1とは、アドレナリンの受容体のひとつです。アドレナリンは交感神経の物質です。ですから、これがブロックされると眠気に繋がります。トリプタノールでは抗α1作用が認められます。

抗5HT2受容体作用も眠気に大きく関係します。5HT2とは、セロトニンの受容体のひとつです。この受容体がブロックされると睡眠が深くなり眠気が強くなります。トリプタノールは、これをブロックする作用が認められます。

抗コリン作用も眠気につながります。アセチルコリンは副交感神経の物質ですから、これがブロックされると覚醒につながりそうなものです。ですがこれは身体の話で、脳の中ではアセチルコリンは反対に覚醒方向に働いています。トリプタノールは抗コリン作用が強いので、眠気につながります。

 

これらが合わさって、トリプタノールでは眠気の副作用はよく見られます。

 

トリプタノールのその他の副作用について知りたい方は、
トリプタノールの副作用(対策と比較)
をお読みください。

 

3.トリプタノールだけでない眠気が起きる理由

薬以外の眠気の原因としては、精神症状・不十分な睡眠・生活リズムの乱れ・女性ホルモンが考えられます。

眠気がでてくる原因は薬以外にも4つほど考える必要があります。

  • 精神症状
  • 睡眠
  • 生活リズム
  • 女性ホルモン

薬によって変化が明らかでしたら、薬が原因といえます。ですがそれ以外のことが原因となることもあるので、注意が必要です。

精神症状で眠気や倦怠感がでてくる場合もあります。症状としての眠気の場合は、これまでの経緯や症状の変化などから総合的に判断していきます。症状として眠気や倦怠感が強くなる方は、何らかのきっかけがあることが多いです。このため、日常生活を過ごす中での変化を意識して確認していきます。

夜間の睡眠を十分にとれていなくて、日中に眠気が出てきている場合もあります。睡眠時間はとれていますか?朝に眠気はないですか?夜間にイビキなどはないですか?

また、生活リズムが崩れてしまっていることが原因のこともあります。体内時計のリズムが崩れると、睡眠時間は十分であっても睡眠の質が低下し、日中の眠気や倦怠感となることがあります。いわゆる時差ぼけは、この状態です。昼過ぎまで寝てしまって、身体がだるい経験をされた方は多いと思います。起きる時間は大きくずれていませんか?

女性の場合は、女性ホルモンが自律神経に影響します。生理周期と関係して眠気が認められる場合や、女性ホルモンが減少していく更年期にあたる場合は、女性ホルモンの影響も考慮する必要があります。

 

4.トリプタノールと他剤での眠気の比較

トリプタノールは三環系抗うつ薬の中でも、眠気が強くみられます。睡眠薬として使われることもあります。

代表的な抗うつ薬の副作用のうち、眠気を比較して表にしまとめました。

抗うつ薬の中には、眠気が強いものがあります。これらを鎮静系抗うつ薬と呼びます。これらの薬の特徴としては、抗ヒスタミン作用と抗5HT2作用が強いです。リフレックス/レメロンといったNaSSA・テトラミドやルジオミールといった四環系抗うつ薬・デジレル/レスリンなどがあげられます。

三環系抗うつ薬は、この次に位置付けられます。その中でも、トリプタノールは抗ヒスタミン作用が強く、眠気は非常に強いです。ですから、睡眠薬として使われることもあります。また、三環系抗うつ薬にはレム睡眠を減少させる効果がありますので、夢が減ります。このため、悪夢が生活に影を落としているときに使われることもあります。

SSRIは三環系に比べて眠気が少ないです。SSRIの中では、パキシル・ルボックス/デプロメールがやや多い印象です。SNRIはノルアドレナリンによる覚醒作用があるため、SSRIより眠気が少ないです。

 

5.眠気が治療につながることも

鎮静系抗うつ薬は、不眠の改善にも使います。

眠気は必ずしもデメリットだけではありません。副作用の眠気を上手く使うと、睡眠薬を使わずに不眠治療できることがあります。ですから、鎮静系抗うつ薬は睡眠薬のかわりに使うことも多いです。トリプタノールも睡眠薬として使われます。

ある抗うつ剤で不眠の副作用がみられたときには、鎮静系抗うつ薬を併用することで、効果の増強と同時に不眠の改善ができることもあります。

また、休養が必要な患者さんであっても、焦りが強くて落ち着かない方もいます。このような方の場合、薬を使ってしっかりと休養をとっていただくことが回復の近道です。ですから、鎮静系抗うつ薬を用います。

このように副作用も、上手く使うと作用になることがお分かりいただけたと思います。

 

6.トリプタノールの眠気での対処法

それでは、眠気が見られたときにどのように対処すればよいのでしょうか?
みていきましょう。

 

6-1.様子をみる

生活に支障がでなければ、少しがまんしてみてください。

薬の副作用は飲みはじめに強くなる傾向があります。トリプタノールは抗ヒスタミン作用が強いですが、この作用は少しずつ慣れていく方が多いです。花粉症の薬や風邪薬も、慣れると眠気が落ち着いてくることはありませんか?

少し様子をみていくことで、眠気がおさまっていくことも多いです。日常生活に支障がない範囲でしたら少し様子をみてください。

 

6-2.薬を分割して飲む回数を増やす

薬を飲んで暫くすると眠気が強くなる方は試してみてください。

薬の服薬回数を増やすのも方法のひとつです。薬の副作用は、血中濃度のピークで一番強くでます。ですから、薬を分割して飲む回数を増やすと血中濃度は安定します。すると眠気の副作用も軽減します。

この方法は、薬を飲んで暫くすると眠気が強くなる方にはおすすめです。ただ、飲み忘れてしまうリスクが高まります。薬を飲み忘れてしまった場合、多少ずれても結構ですので服用しましょう。

 

6-3.寝る前に服用する

トリプタノールは効きが長いので、この方法は有効です。

トリプタノールの半減期は31時間ですので、1日1回の服用でも、薬の効果はしっかりと持続します。このため、就寝前1回にまとめて服用することも可能です。

ですが、1回にまとめることで血中濃度の波が大きくなります。副作用は血中濃度のピークで一番強く出てきます。このため、副作用と相談しながら飲み方を決めていきます。たとえば2回に分けていても、夜に飲む量を増やすことで日中の眠気が軽減される方もいらっしゃいます。

 

6-4.トリプタノールを増やすペースを落とす

身体が慣れる時間をかせぎます。

トリプタノールは通常25mgずつ増量していくことが多いです。このペースで眠気が出てくる場合、増やすペースを遅らせるのもひとつの方法です。身体が慣れていく時間を作っていきます。

トリプタノールには、25mg錠剤より小さい錠剤として10mg錠剤があります。ですから、10mg錠剤で増やしていくのか、25mg錠剤を半分に割って12.5mgずつ増やしていくことができます。

 

6-5.減量する

必ず主治医に相談してください。

トリプタノールの効果がしっかりと出ているならば、少し減らして様子をみるのもひとつの方法です。ですが、必ず主治医に相談してください。薬を減量しても大丈夫かどうかは、これまでの経過をみて判断しなくてはいけません。確かに、眠気がとれて活動的になる方もいらっしゃいます。ですが眠気がなくなった途端、症状が悪化する場合もあります。

 

6-6.他の抗うつ剤に変える

できるならば新しい抗うつ剤に切り替えていきます。

トリプタノールの眠気が強くて服薬が続けられない場合、減薬して他の抗うつ剤に切り替えます。

トリプタノールは、他の抗うつ薬と比較しても眠気が強いです。その分効果も強いので、このバランスをしっかりみて切り替えるべきかを考えていきます。

できることなら新しい抗うつ剤に切り替えていきましょう。SSRIは眠気が少ないですし、SNRIはさらに少ないです。これらの薬に切り替えられない場合、同じ三環系抗うつ薬の中では、アモキサンやノリトレンが副作用が少ないです。ですが、これらの薬の効果は、トリプタノールと比べると劣ってしまいます。

 

まとめ

トリプタノールの眠くなる原因の一番は、抗ヒスタミン作用です。それ以外として、眠くなる方向に抗α1作用・抗5HT2作用・抗コリン作用があります。

薬以外の眠気の原因としては、精神症状・不十分な睡眠・生活リズムの乱れ・女性ホルモンが考えられます。

トリプタノールは三環系抗うつ薬の中でも眠気が強いです。睡眠薬として使われることもあり、悪夢にも使われることがあります。

このような鎮静系抗うつ薬は不眠の改善になるなど、治療につながることもあります。

眠気の対処法としては、

  • 様子を見る
  • 薬を分割して飲む回数を増やす
  • 寝る前に服用する
  • トリプタノールを増やすペースを落とす
  • 減量する
  • 他の抗うつ剤(SSRI・SNRI)に変える

などがあります。

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