リスペリドンの副作用(対策と比較)
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
リスペリドンは、1996年に発売された第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)リスパダールのジェネリックです。おもに統合失調症の治療に使われますが、興奮を落ち着かせる鎮静作用があるため、さまざまな場面で使われているお薬です。
リスペリドンは、古くからある定型抗精神病薬を改良してつくられたお薬です。副作用が軽減されて統合失調症の陰性症状にも効果が期待できるので、第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)とよばれています。リスペリドンは、良くも悪くも定型抗精神病薬に近いお薬です。このため、効果はとても安定しているのですが、副作用も比較的多いです。
ここでは、リスペリドンの副作用について詳しくお伝えしていきます。他の抗精神病薬とも比較しながら、対策を考えていきましょう。
1.リスペリドンの副作用とは?
- 第一世代抗精神病薬よりも全体的に副作用が少ないが、第二世代抗精神病薬の中では多い
- 体重増加・糖尿病・脂質異常症など、代謝系の副作用はやや多い
- 錐体外路症状・高プロラクチン血症といったドパミン遮断作用による副作用が多い
- めまい・ふらつき・射精障害などの抗α1作用がやや多い
リスペリドンは、第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)としてはじめて作られたお薬です。このため、良くも悪くも第一世代の定型抗精神病薬に近いお薬といえます。効果がしっかりとしているのですが、副作用も非定型抗精神病薬の中では多いです。
そうはいっても第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)と比較すると、副作用は全体的に軽減されています。
- 錐体外路症状(ソワソワやふるえなど)
- 高プロラクチン血症(生理不順・性機能低下など)
といった副作用は大きく軽減されました。
しかしながら定型抗精神病薬よりも、代謝への悪影響が多くなってしまいました。この原因はよくわかっていませんが、体重増加や糖尿病、脂質異常症などがよく認められます。このため、定期的に採血をして確認していかなければいけません。
第二世代抗精神病薬の中でもリスペリドンは、SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)に分類されます。セロトニン受容体とドパミン受容体をしっかりとブロックします。このため、幻覚や妄想といった都合失調症の陽性症状にしっかりとした効果が期待できますが、ドパミンをブロックしすぎてしまうことでの副作用が避けられません。具体的には、錐体外路症状と高プロラクチン血症がよく認められます。
リスペリドンはそれ以外の受容体にはあまり作用しないので、第一世代抗精神病薬に比べると全体的に副作用は少ないです。しかしながら、体重増加の副作用は比較的多く認められます。また、抗α1作用が目立ちます。抗α1作用は血管の調節に関係しているので、めまいや立ちくらみ(起立性低血圧)、射精障害などがやや多いです。
リスペリドンの効果について知りたい方は、
リスペリドン錠の効果と特徴
をお読みください。
2.リスペリドンと他の抗精神病薬の副作用比較
第二世代抗精神病薬の中では、リスペリドンは副作用が全体的に多いです。
リスペリドンと代表的な抗精神病薬の副作用を比較してみましょう。まずはお薬の作用の特徴を比較してみましょう。
非定型抗精神病薬には、大きく3つのタイプが発売されています。それぞれの副作用の特徴をざっくりとお伝えしたいと思いま す。
- SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬):ドパミンとセロトニン遮断作用が中心
商品名:リスペリドン・インヴェガ・ロナセン・ルーラン
特徴:ドパミン遮断作用による副作用が多め - MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬):いろいろな受容体に適度に作用
商品名:ジプレキサ・セロクエル・シクレスト
特徴:鎮静作用が強く、代謝への悪影響が大きい - DSS(ドパミン受容体部分作動薬):ドパミンの分泌量を調整
商品名:エビリファイ
特徴:副作用は全体的に少ないが、アカシジア(ソワソワ)が多い
定型抗精神病薬もまだまだ使われています。急性期の激しい症状を抑えるためには、定型抗精神病薬の方が効果が優れています。また、代謝への影響は定型抗精神病薬の方が少ないのです。
定型抗精神病薬は、セレネースの系統とコントミンの系統の2つに分けることができます。
- セレネース系(ブチロフェロン系):ドパミン遮断作用が強い
特徴:ドパミン遮断作用による副作用がとても多い - コントミン系(フェノチアジン系):いろいろな受容体に全体的に作用する
特徴:鎮静作用が強い
リスペリドンは非定型抗精神病薬のSDAに分類され、ドパミン遮断作用による副作用が多いです。それ以外にも、抗α1作用が目立ちます。具体的な症状で副作用を比較すると、以下の表のようになります。
3.リスペリドンの副作用
リスペリドンの特徴をふまえて、具体的な副作用についてみていきましょう。他剤とも比較しながら、それぞれの副作用への対策もお伝えしていきます。
3-1.錐体外路症状
リスペリドンでは、錐体外路症状が多いです。5~6mgを超えると注意が必要です。
統合失調症では、ドパミンの過剰な分泌が幻覚や妄想といった陽性症状を引き起こします。抗精神病薬はドパミンの働きをブロックするお薬ですが、必要な部分でもドパミンをブロックしてしまうと副作用になります。
その症状のひとつが錐体外路症状です。脳の黒質線条体という部分では、身体の運動の細かな調節を勝手にしてくれています。黒質でドパミンが作られて線条体に伝えられています。お薬がこのドパミンの働きを邪魔してしまうと、運動の調節が上手くいかなくなってしまいます。この症状のことを錐体外路症状(EPS)といいます。
パーキンソン病という病気をご存知でしょうか?この病気は、黒質の神経細胞が変性してしまってドパミンが作れなくなってしまう病気です。ちょうどパーキンソン病に似た症状が出現します。その他にもいろいろな運動系の症状が認められることがあります。
- 薬剤性パーキンソニズム(ふるえ・筋肉のこわばり)
- アカシジア(ソワソワして落ち着かない)
- 急性ジストニア(筋肉の異常な収縮)
- ジスキネジア(勝手に身体が動く)
リスペリドンは、非定型抗精神病薬の中では錐体外路症状が多いです。少量ではあまり問題になりませんが、5~6mgより量が増えると注意が必要です。
リスペリドンによる錐体外路症状への対策としては、4つあります。
- リスペリドンの減量
- 抗不安薬やβ遮断薬の追加
- 抗コリン薬の追加
- 他の抗精神病薬へ変更
まずは、リスペリドンの減量を考えます。量が少なくなれば症状も軽減するので、薬の効果をみながら減量していきます。
減量が難しい場合は、症状を緩和するお薬を使います。抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)やβ遮断薬には、錐体外路症状を和らげる働きがあります。それでも効果が不十分なら、抗コリン薬で症状を緩和します。線条体では、アセチルコリンとドパミンがバランスを取り合っています。ドパミンが足りない時はアセチルコリンが過剰になっているので、抗コリン薬がこれを整えることでドパミンの働きを強くします。
このようなお薬としては、アキネトンやアーテンがよく使われます。その他にも、抗ヒスタミン薬に分類されるピレチア/ヒベルナも使われます。これらのお薬には、抗コリン作用があるためです。抗コリン薬にも副作用があり、尿閉・便秘といった身体症状だけでなく、認知機能に影響してせん妄が起こることがあります。必要最小限で使っていきます。
どうしても錐体外路症状がおさまらない時は、他の抗精神病薬への変更を検討します。
非定型抗精神病薬では、エビリファイ・セロクエル・ジプレキサ・ルーランなどが候補になります。それ以外にも、リスペリドンを改良したインヴェガや、リスパダールの持続注射剤のリスペリドンコンスタでは、錐体外路症状も軽減されています。
3-2.高プロラクチン血症
リスペリドンでは、高プロラクチン血症が多いので、注意が必要です。
リスペリドンが下垂体に作用してドパミンを遮断してしまうと、プロラクチンというホルモンを増やしてしまいます。プロラクチンは本来、子供が産まれてから授乳中の女性に分泌されるホルモンです。ですから、乳汁の分泌を促す作用があります。また、子育てをしている時には次の出産をする余裕もないですから、排卵を抑制して妊娠しないようにする作用もあります。
このため高プロラクチン血症になってしまうと、
- 急に母乳がでてくる(乳汁分泌)
- 生理が遅れてしまう(生理不順)
- 不妊になってしまう(無排卵・無月経)
などの副作用がみられます。女性だけでなく、男性でも症状がみられます。
- 胸がふくらんでくる(女性化乳房)
- 性欲が落ちる(性機能低下)
などの副作用がみられます。それ以外にも、骨粗鬆症や乳がんなどへのリスクも報告されているので注意が必要です。
このような症状がみられたときは、正確に診断するためにプロラクチン濃度を測る血液検査をします。プロラクチン濃度の理想は15くらいといわれていますが、30を超えたら高プロラクチン血症と診断します。
リスペリドンによって高プロラクチン血症の症状がみられたら、薬を中止して他の抗精神病薬にすることがほとんどです。リスペリドンは脂に溶けにくく、下垂体への影響が大きいために高プロラクチン血症が多いです。プロラクチンへの影響が少ないエビリファイ・セロクエル・ジプレキサ・ルーラン・ロナセンなどが候補になります。
3-3.便秘・口渇(抗コリン作用)
リスペリドンでは、ほとんど認められません。
抗精神病薬はアセチルコリンの働きをブロックしてしまうことがあります。アセチルコリンは副交感神経を刺激する作用があります。このため抗コリン作用とは、「リラックできない時はどういう身体の状態か?」をイメージすると理解しやすいです。
リラックしている時に食べ物の消化はすすみます。このため、唾液が分泌され、胃腸は動き、尿や便は排泄されやすくなります。抗コリン作用によってこれらの活動が抑えられると、口がかわいたり、便秘になったり、尿が出にくくなります。
リスペリドンには抗コリン作用がごくわずかであり、副作用として認められることは少ないです。
リスペリドンによる便秘や口渇への対策としては、3つあります。
- リスペリドンの減量
- 生活習慣の改善
- 下剤や漢方などの追加
まずはできる限り、リスペリドンを減薬していきます。それでも改善しない場合は、お薬以外で改善できることは試してみます。下剤や漢方薬などを追加していくこともあります。リスペリドンは抗コリン作用が少ないので、あまり他のお薬に変更することはありません。
詳しくは、「抗コリン作用とは?」をお読みください。
3-4.ふらつき
リスペリドンでは、非定型抗精神病薬の中ではふらつきが多いです。
ふらつきは、いろいろな作用が重なって認められる副作用です。眠気が強かったらフラフラしますよね?抗ヒスタミン作用が強いお薬では眠気が強く認められます。また、アドレナリンα1受容体は血管の調整を行っています。抗α1作用によって脳に血液が上手くいかなければ、クラクラしてしまいます。
リスペリドンでは抗ヒスタミン作用は少ないのですが、抗α1作用は強いです。このため、めまいやふらつき(起立性低血圧)は比較的多いです。
リスペリドンによるふらつきの対策としては、4つあります。
- リスペリドンの減量
- 生活習慣の改善
- 昇圧剤の追加
- 他の抗精神病薬への変更
まずはできる限り、リスペリドンを減量していきます。また、生活習慣でできることは改善していきます。
- 朝食を抜いている方は、しっかりととるようにする
- 立ち上がる時はゆっくりと身体を動かす
これでも日常生活に支障がある場合は、メトリジンやリズミックといった血圧を上げるお薬を使うことがあります。副作用を軽減するためにお薬を使うのはあまり好ましいことではないので、昇圧剤の量が増えてしまうのでしたら他の抗精神病薬に変更します。エビリファイ・ロナセン・ルーランなどが候補になります。リスペリドンを改良したインヴェガでも、ふらつきが軽減されています。
3-5.眠気
リスペリドンでは、多少の眠気の副作用が認められます。
眠気は、抗ヒスタミン作用の影響が大きいです。抗ヒスタミン作用成分は、花粉症のお薬や風邪薬にも含まれています。これらの薬を飲んで眠くなる経験をされたことはありませんか?
ヒスタミンは覚醒状態に大切な脳内物質なので、これがブロックされると眠気が出てきてしまいます。他にも、セロトニン2受容体遮断作用やアドレナリンα1受容体遮断作用も眠気につながります。
リスペリドンは、抗ヒスタミン作用はそこまで強くありません。ですが、セロトニン2受容体遮断作用やアドレナリンα1受容体遮断作用は強いです。このため総合的にみると、リスペリドンでは多少の眠気が認められます。
リスペリドンによる眠気の対策としては、大きく分けると4つあります。
- 睡眠環境や習慣を見直す
- リスペリドンの減量
- リスペリドンの飲み方を工夫する
- 他の抗精神病薬に変更
まずはリスペリドンをできる限り減量します。また、睡眠環境や習慣に関して、改善できることは見直していきます。詳しくは、「不眠を解消する9つの方法」「アルコール・タバコ・コーヒーと睡眠の関係」をお読みください。
効果を見ながら、就寝前や夕食後などにお薬を服用するなど、飲み方を工夫していくとうまくいくこともあります。お薬を変更するならば、インヴェガ・ロナセン・ルーラン・エビリファイなどに変更することもあります。特にインヴェガは、リスペリドンを改良したお薬ですので、リスペリドンで効果がある方は、インヴェガから試すとよいでしょう。
3-6.体重増加
リスペリドンでは、体重増加の副作用はある程度認められます。
詳しく知りたい方は、「リスペリドンは太るの?体重増加と5つの対策」をお読みください。
抗精神病薬では、ヒスタミン1受容体遮断作用やセロトニン2C受容体遮断作用によって食欲が増加します。食べてしまった分だけ太るのかというと、それだけではないのです。何らかの代謝への悪影響があることが分かっていて、実際に食べている以上に体重が増加してしまいます。糖尿病や脂質異常症などのリスクも、明らかに上がります。
特に、MARTAと呼ばれる非定型抗精神病薬で多いです。ジプレキサやセロクエルでは、糖尿病の患者さんには使うことができないお薬となっています。
リスペリドンはMARTAほどには体重増加は少ないですが、ある程度の体重増加が認められます。抗ヒスタミン作用は少なく、セロトニン2C受容体遮断作用もそこまで強くないのですが、代謝抑制作用と合わさって体重は少しずつ増加していく傾向があります。
リスペリドンによる体重増加の対策としては、4つあります。
- 体重測定・食事管理
- 運動
- リスペリドンの減量
- 他の抗精神病薬に変更
リスペリドンは用量が増えるほど、体重増加が認められやすくなります。食生活を整えれば、少しずつ体重は落ち着いていきます。ジプレキサのように、少量でも問答無用で体重増加をきたすのとは異なります。
ですから、まずは食生活を整えましょう。カロリーを意識しながら食事をとるようにして、3食をバランスよくとることが必要です。そして、定期的に体重を測るようにしましょう。ちゃんと自分の体重を管理する習慣をつけましょう。また、運動習慣をつくりましょう。消費カロリーが増えれば体重が減少しますし、運動自体が精神的によい効果をもたらします。
体重増加傾向が改善できない場合は、リスペリドンの減量を検討します。効果をみながら、できる限り減量していきます。他の抗精神病薬に変更するとしたら、インヴェガ・ロナセン・ルーラン・エビリファイが候補になります。
まとめ
- 第一世代抗精神病薬よりも全体的に副作用が少ないが、第二世代抗精神病薬の中では多い
- 体重増加・糖尿病・脂質異常症など、代謝系の副作用はやや多い
- 錐体外路症状・高プロラクチン血症といったドパミン遮断作用による副作用が多い
- めまい・ふらつき・射精障害などの抗α1作用がやや多い
第二世代抗精神病薬の中では、リスペリドンは副作用が全体的に多いです。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
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